ファンタジーな世界をご当地ヒーローが救います。 作:yosshy3304
深森 涼貴(ふかもり りょうき)は今木々の中を走っている。その隣には黒い巨大なオオカミの様な生き物が並走していた。様なと付けたのは、頭の部分に金色の角が生えており、人語を解したからだ。
竜巻に巻き上げられ、ヒーロースーツのお蔭で怪我一つなかったが、気絶していたらしく。気が付いた時に目の前に、巨大なオオカミのドアップが映り込んだときは食われるのを覚悟したし、その涼貴に向かって涼貴の知っている日本語で話しかけられた時は、本当にショック死してしまうのではと思える程驚いた。
涼貴は都市部の大学を出たのはいいが、就職に失敗し、故郷でもある流連市に帰ってきていた。涼貴の住んでいた場所は、元々山裾を開拓した場所であり、害獣もよく出たのだ。人里に下りてくる熊や猪を退治するために猟師が多く、涼貴もまた狩猟免許を取ったのだった。
まだまだ新米と呼ばれるのが当たり前の涼貴であったが、喋る顔に角のあるオオカミ等知らず、混乱しそうになるも、現実を見なければ下手をすれば命に係わる仕事に就いていた為、現実を受け入れていた。
「それで、あれは魔族と考えていいのだな。」
「うむ、曲がりなりにも竜種の我を此処まで追い詰められんだろう。」
何故精霊種の皮を被っているのかは知らないがな。と続けられた言葉に、涼貴はそうかとだけ答えた。
内心ではオオカミではなく竜だったのかと関係ない事を考えた涼貴ではあったが、直ぐに関係ない事は放置することにした。
山歩きに慣れている涼貴は、幾ら異世界の木々の中とはいえそれなりの速度を出して走れる。とはいえオオカミと同じ速度等出せる訳がなく、それでもオオカミに並走できているのはオオカミが怪我をしているからであった。
オオカミの後ろ足の一本が膝から下がなく、今だ赤い血液が滴り落ちている状況だが、足を止めて治療等と悠長なことをしていられない。
不意を打って足止めに成功したため、距離を稼ぐことが出来たとはいえ、後方から宙に浮いた魔族の男が迫ってきているのだ。
「…すまんが息子を頼むぞ。」
「おい、何をする気だ!!」
チラリと後方を見たオオカミは、オオカミの背に隠れていたまだ幼い、オオカミと言うより子犬だろう。を涼貴に渡してくる。子犬は大人しく涼貴に抱かれ、子犬を抱いたまま涼貴はオオカミのやろうとしていることを正しく予想してしまった。
だが、その予想は外れてほしい涼貴はオオカミを止める為にも問いかけた。
「うむ、当然、こうするのさ!!」
「あっ、おい!?」
涼貴の中で子犬がクーンと鳴いた。
オオカミは勢いを前足だけで止めると、急速に反転。一本しかない後ろ足に力を込めて、魔族の男の方に向かって跳ぶ様に駆けて行った。
「なっ、何だと!?」
巨漢であり、全身が筋肉の鎧を付けているのではないかと思わせられるほど隆起した肉体を持つ男は、見た目通りに頭が空っぽなのか、最初に不意を打たれた事等忘れたのか、オオカミの突然の行動に驚き、オオカミの体当たりをモロに受けて吹き飛んで行った。
数本の木々を薙ぎ倒し、後方へと吹き飛んでいく男の姿に思わず足を止める涼貴。
「馬鹿者、足を止めるなっ!!」
「っ!?」
だが、直ぐにオオカミからの叱咤が飛び、涼貴は又も足を動かし始めたのだった。オオカミも直ぐに涼貴に追いついてきて、真横を並走する。
「あれで倒せないのか?」
「…無理であろうな。」
走りながらチラリと後方を見る。モクモクと土埃が舞っている状況に、倒せてはいないと涼貴自身の心に嘘を吐き、オオカミに尋ねるもオオカミの返答は涼貴自身が想像したものであった。
「てめぇら、もう許さねえぞ。」
「っ!!」
遥か後方へと吹き飛んでいった男の声がすぐ後ろでした気がした。思わず足を止めてしまう涼貴。だが、今度はオオカミからの叱咤の声は無かった。何故ならオオカミも足を止めてしまっており、後方やや斜め上を怯えた表情で睨んでいた。
涼貴もそちらに視線をやると、男は丸太の様な腕をダランと垂らし、背中に亀裂が走っていた。
「俺様のかっけぇ姿を拝んで死にやがれ!!」
汚い言葉を投げかけながら、男の背中から巨大な甲虫が出てきた。
その甲虫は、少しの間旋回するように飛んだ後、涼貴達の方へと角を先頭にして向かってきたのだ。
「うわっ!!」
思わず空気を押し出したかのような悲鳴を上げてしまう。オオカミが焦った顔で、涼貴の方へと向かってくるのが見えた。
「ちっ、仕留められたのは犬っころだけか。」
轟音と共に、強烈な衝撃によって巻き上げられた土埃から出てきた甲虫は悔しそうに呟く。その角は中程まで赤く染まっていた。
「おい、おいっ!!」
「…ガフッ、グッ……。」
涼貴がオオカミに声を掛けるも、オオカミは声にならない。何かを喋ろうとする度に赤黒い血を吐きだしていた。
前足で地面を掻き毟り、立ち上がろうとするも、胴体の中程に大穴が空き、其処よりしたは薄く潰されてしまっている。
巨大な甲虫は舞い上がる土埃で、涼貴達を見失っているのか空中を無意味に回っていた。
「す、すまん。俺を助けてくれたせいで…。」
「グフ、勘違いするな。我は息子を助けたのだ。」
後悔するかのように落ち込む涼貴を見て、オオカミは無理やり言葉を絞り出す。それは涼貴を思いやるものであり、実際巨大な甲虫が降ってきた先は涼貴に対してであった。
涼貴は、自身に向かって降ってくる視界一杯の巨大な黒光りする角とに恐怖してしまい動けなくなった。
その涼貴を守る為、オオカミは涼貴を突き飛ばし、代わりに自身が地面に縫い付けられたのだ。甲虫の体側にあった下半身は甲虫の重さと、衝撃で潰れてしまったというわけだ。
もしオオカミに助けられなかった場合、目の前の状況になっていたのは涼貴であった。
「クーン…。」
「っ!!」
腕の中の子犬が涼貴の顔を舐める。その感触に涼貴は茫然としていた状況から抜け出した。
「ああ、其処に居たのか。」
「あ、ああ…。」
だが時すでに遅く、空に舞っていた巨大な甲虫は涼貴の姿を見つけていた。
何かを言おうとするも、言葉にならず。逃げようにも足は石になったかのように動かない。
「動くなよ。今度は外さないから。」
巨大な甲虫は、角を地面に向けて落ちてきた。いや、そう表現するのが正しいかのような錯覚に陥らせる速度で飛んできたのだ。
再び涼貴の目の前に、巨大な角が迫る。
「ひっ!?」
オオカミが焦ったかのように前足を動かすも、できたのはそれだけであった。
「フレイムハンマーっ!!」
悲鳴を上げ思わず目を瞑ってしまった涼貴の耳に聞きなれた声が入ってくる。
その瞬間、轟音が響き、何かがへし折れる音が連続で聞こえてきた。
状況を確認しようと目を開けると、赤い背中が見えた。その先には、木々がへし折れた空間が存在し、その先に巨大な甲虫が仰向けに倒れていたのだった。