ファンタジーな世界をご当地ヒーローが救います。 作:yosshy3304
「て、哲多君かい?」
「ええ、大丈夫っすか涼貴さん。」
見慣れた後姿に確認を込めて哲多の名前を呼んだ。
リュウレンレッド姿の哲多は、巨大な甲虫の方を油断無く見ながら涼貴の問いに答えた。
「痛ってぇな。ってテメェは誰だ?」
「なっ!?」
涼貴は驚く。巨大な甲虫の体に、フレイムハンマーで殴られた痕が無かったのだ。
リュウレンジャーは元々子供用の玩具として開発されており、威力が大したことが無かったと言われればそれまでだが、少なくとも木々を圧し折り遥か後方へと吹き飛ばすだけの威力はあった筈なのだ。
巨大な甲虫は悪態を吐きながら起き上る。見慣れない哲多に向かって誰何するが、哲多も甲虫にダメージがない事に驚き黙っていた。
「まぁ、誰でもいいか。とっとと死にな。」
「くっ、涼貴さんは隠れてて!!」
甲虫は哲多に狙いを変えたのか、一直線に哲多に向かって飛んできた。
哲多は甲虫を向かい打つため、フレイムハンマーを構えながら甲虫の方へと跳んだ。
急激に縮まる距離。哲多が振り上げたハンマーを振り下ろそうとするも、甲虫は体を斜めに傾げてハンマーをやり過ごすと、真横から哲多に向かって飛んだ。
威力を高める為、思いっきり振り下ろしていたハンマーが目標を失った為地面に向かって振り下ろされた。
余りの威力に地面が陥没し、大地を揺らす。威力はすごいが、勢いが付きすぎて、途中で止められなかった為、哲多は甲虫の体当たりをモロに受けてしまった。
「ぐっ!!」
甲虫も飛行距離が無かった為大した威力になっておらず、だが、質量があった為、ヒーロースーツが受け流せる衝撃を超えており、スーツを抜けてきた衝撃に哲多は呻いた。
「哲多君!!」
そんな哲多の様子に思わず叫び声を上げてしまう。
涼貴は視線を自身の嵌めるバックルに移す。
バックルは正面のパーツが破損しており、龍玉を曝け出していた。その龍玉の一部が壊れている。
ナノマシンを制御する場所であり、あくまでギミックの一つでしかない正面パーツよりもより深刻であった。この部分が壊れてしまっていることでリュウレングリーンに変身できないのだから。
少なくともリュウレングリーンに変身できていればオオカミが身代わりになることも無かったのに。
「がんばれ、リュウレンレッド。」
小さく呟く様に言葉を出した涼貴はただ応援することしかできない自分に愕然としていた。
「おう、任せてくれ!!」
だが、呟くような小さな声援だったが、聞こえていたのか苦戦している哲多は涼貴の方を向いて答えてきた。
思わず顔を上げる涼貴。思いっきり振り下ろせば避けられ、小さく振るえばその頑丈な鎧に阻まれる。打つ手がない状態にも係わらず、哲多は涼貴の言葉に反応して、未だに諦めずに戦っているのだ。
ああ、まるでヒーローのようだ。
涼貴は哲多の事を嫌っていた。いや、嫌いは言い過ぎか。だが苦手としていたのは確かであった。
年が下であることを除いても、やや中二病のきらいというか、出来ない事でも挑戦しようとする精神に諦めない心。
ヒーローに憧れ、リュウレンジャーに選ばれた時も大喜びしていた哲多は眩しかったのだ。
困っている人がいれば真っ先に飛び出していくし、誰かが落ち込んでいたら励ましに行く。
世間にというか、現実に染まったというか。涼貴にはできない事であった。
そんな哲多がリーダ色に選ばれるのも当然で。今異世界で異形の怪物と戦っている哲多を本物のヒーローの様に思えてきたのだ。
「俺も、戦えたらなぁ。」
「…その腕輪を直せばいいのか?」
「っ!?」
思わず呟いた願望に言葉が返され驚く。
言葉が発せられた方を向くと、瀕死のオオカミが片目を涼貴に向けていた。
ヒューヒューと荒い息を吐きながら涼貴を真っ直ぐ見てくる。
「ああ、だが、直せるのか?」
「あ奴の腕輪も魔力で直されているようだぞ。」
オオカミの様子に痛ましくなる。だが、助けられた自分がそんな顔をしていればオオカミも浮かばれないだろうと思い、出来るだけ普通に返事をしようとするも、鼻の奥に痛みが走り、途切れ途切れになってしまった。
異世界の玩具をオオカミが直せるとは思わないが、一応問いかけると、哲多の腕輪も誰かに直されたという驚愕の言葉が返ってきた。
「直してやる。」
「本当か!?」
「ああ、だから息子を頼んだぞ。」
どう言う意味だと続けようとした言葉を飲み込んだ。
オオカミの体が光に包まれ、変身バックルに吸い込まれていくではないか。そして光が吸い込まれて行く度にオオカミの体も薄くなっていく。
「クーン…。」
「っ!?」
涼貴に抱かれている子犬が悲しげに鳴いた。その鳴き声に思わず茫然となっていた意識が戻る。すでにオオカミは何処にもその姿が無く。
ただ、元通りになったバックルだけが涼貴の腕に嵌っていた。
「ぐわっ…!!」
甲虫の攻撃を喰らってしまったのかリュウレンレッドが、涼貴の足元まで滑り込んでくる。
「あ~あ、そんなもん庇う価値なんか無ぇだろ。」
「おい。」
「あん?」
「お前は許さん。」
甲虫の言葉に涼貴は立ち上がる。
猟師として日々命と向き合う仕事をしている涼貴は、ましてや庇ってくれたオオカミを愚弄する魔族を涼貴は許すことが出来なかった。
左腕を肘から曲げて、顔の前に真直ぐ立てる。拳は顔の方へと向けて、手首に巻いたバックルが甲虫へと良く見える様に掲げた。甲虫側に向けた龍玉を右斜め上から隠す真っ白な羽を正面に来るようにして右手で内側の摘みを掴んだ。
「流水っ!!」
倒された木々の下、ちょっとした広場になっている所で張りの良い声が響いた。
掛け声と共に、摘みを押しこんだことでギミックが作動する。
右斜め上に開かれた羽の中から虹色に輝く龍玉が姿を現す。
龍玉から溢れた光が涼貴の体を包み込む。医療用のナノマシンを使用し、組み込まれたギミックを作動させると、収納されていたナノマシンが体の周りに放出され、それがゴム質な何かに変質する。
ナノマシン自体には複雑なプログラムを組む事は出来なくとも、磁力の影響を受けることは出来る為、ギミックを作動させた時にバックル側で操作することが出来るのだ。
電気の代わりに魔力によって動かされたナノマシンは涼貴の鋭いと表現する肉体を緑色のゴム質な何かで覆った。肩、胸、腕、足と焦茶色で覆われていき、髭は短く頭頂部に向かって伸びる一本の角が特徴の深緑の龍の顔を模したヘルメットが涼貴の頭を覆った。
「な、何もんだお前ら!?」
いきなり涼貴の姿が変わったことに驚いて、再び誰何してくる甲虫に向かって涼貴は決められた動きをする。
それは変身後の決めポーズであり、荒ぶる心を収めようと咄嗟に取った行動であった。
「木々と命の伝説、リュウレングリーン。」
思わずクールに名乗った涼貴に哲多が追随してくる。
変身後の決めポーズを涼貴の隣でして。
「鉄と火の伝説、リュウレンレッド。」
高らかに名乗った。
『伝説が重なり今此処に。連楽戦隊リュウレンジャー』
二人の声が重なり、ビリビリと空気が震える。
「さぁ、伝説の物語の第二章だ。」
リュウレングリーンは甲虫に指を突き付け、開幕の合図を出したのだった。