星は暗闇で輝く【完結】   作:一口さん

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T5、覚悟

 彼女がターフの上に立つ……。

 どこか落ち着きがないのが見て取れる、久々にターフの上に来れたのがそうさせているのかもしれない。

 ゆっくりと深呼吸をしてスタートの姿勢になる……。

 いや、明らかに様子がおかしい。

 呼吸も整っていない、足が見るからに震えている。

 

「ステラ!!!!!!」

 

 名前を呼ぶ、ゆっくりとこっちを向いた後、その場に座り込んでしまった。

 

「大丈夫か!?」

 

 メンタルケアを怠った、彼女を勝たせようと優先しすぎた……完全な失態だ。

 

「うん……大丈夫な、はずなんだけど」

 

 一生懸命に作り笑いをしようとする彼女に胸が苦しくなる。

 ともかく一度ターフを離れるべきだ。

 

「足、触るぞ」

 

 彼女が応えるよりも早く抱える、いわゆるお姫様だっこだ。

 ターフから連れ出すと呼吸と顔色が落ち着いた。

 

「すまない、おもっていたよりも深刻だった」

 

 完全にやってしまった、これ以上のトラウマになれば最悪だ。

 冷静でいられない、彼女を勝たせなければならないという感情が焦りを生んでいる。

 ふと彼女が小さく呟いた。

 

「私、もう走れないのかな」

 

 不安と恐怖で掠れた声。

 ……そんなことはさせない。

 例え1%の確率であっても彼女が望むなら絶対に走らせる。

 呟きに力強く返す。

 

「違う、君は走れるさ」

 

「私は怖い、頭で走ろうと思っても体が動いてくれない、どうスタートを切ればいいかわかってるのに」

 

 ……本当に深刻だ。

 彼女が走りたいのに、走ろうとするのに走れないなら、本能のブロックを外すきっかけがなければ。

 考えるより体が先に動いた。

 

「なら、俺が走らせよう」

 

「え?ってちょっと!?」

 

 止めるのを無視して再びお姫様だっこをしてターフに連れて行く。

 動けよ体。

 

「よいっしょぉ!」

 

「まってまって!キャアアア!!!」

 

 全力で走り出す!

 ヒトのスピードなんてウマ娘の足元にも及ばないが、変わりに走ることも少しならできる。

 彼女の顔は流れる景色をみて少し明るい顔になる。

 ……やっぱり走りたいんだな。

 やばい、体中疲れてきた、不健康になっている俺の体はここが限界かもしれない。

 

「トレーナー!もっとはやく!」

 

 !?腕の中のお姫様からとんでもない要望が来た。

 さ、さすがにもう無理だ……。

 

「えぇ?ちょ……っとまって……」

 

 息も絶え絶えになりながら、お姫様を降ろして座り込む。

 呼吸を……整えなくては。

 

「楽しい……だろ?」

 

「うん!……ありがとうトレーナー!」

 

 彼女の顔はさっきまでと変わって、晴れやかで……迷いがないように見えた。

 立ち上がると、再びステラトの姿勢になる。

 視線は高く、胸ははって、顔は笑顔のままだった。

 ゆっくりと深呼吸を挟んでから……彼女が走り出す。

 ストップウォッチを抱え時間を計測していく。

 ボタンを押して、ストップウォッチのタイムと昔のタイムを比較する。

 軽く走れと指示したのもあるが、タイムは格段に落ちている。

 ……やっぱりもう……。

 楽しそうに笑う彼女とを見ながら、少し考えを整理する。

 ウィンタードリームトロフィーに向かうのは必須だ。

 トレーニングメニューをさらに効率化する必要があるのだけはわかる。

 何が必要で何が不要かを厳選しなければ。

 

 ……

 

 グルグルと思考を回しているうちに、夕暮れが近づいてくる。

 ふと後ろに二人分の影がいることに気が付いた。

 ルドルフとマルゼン……なんでここに。

 

「涙トレーナー、君は集中しているとはいえ周りが見えなくなりすぎではないか?」

 

 頭を掻きながら沈黙で答える。

 

「……ところで二人は何しにここへ?」

 

 二人ともウィンタードリームトロフィーを走る最強格だ。

 正直油断ならない。

 

「ほんとは見に来ただけだけど……お話したくなっちゃった」

 

「私は涙トレーナーに用があったのでな」

 

 マルゼンはステラの方を一度みてから、笑いもせずに。

 

「なら私はステラちゃんとお話ね」

 

 時間的にもいいころ合いだろう、そろそろ終わらせるか。

 

「そろそろ終わりにするぞー!」

 

「わかったー!」

 

 彼女が歩いてこっちに向かってくる。

 

「あれ?二人はなんでここに?」

 

「私はステラちゃんにお話、ルドルフは涙トレーナーにね」

 

「とりあえずシャワーを浴びに行くといい、汗を落とさないと気持ち悪いだろうしな」

 

 ステラにタオルを渡しながらいう。

 風邪をひかれたら大変だしな。

 

「ルドルフはなんの用で俺に?」

 

「ステラのことだ」

 

 少し雰囲気からピリついたのが感じられる。

 俺もそこまでバカじゃない、どう答えるかは考えておくべきだな。

 っと、忘れるところだった。

 

「シャワーが終わったら寮に帰ってゆっくり休むこと!まだ調整してるようなレベルだからな!」

 

 言っておかないと無理をしかねない。

 休んでしっかり疲れを取ってもらわねばこれからやっていくスパルタな訓練に耐えられない。

 

「今のところは大丈夫、ゆっくり休むね」

 

 さて……皇帝様のお話ね。

 

 ……

 

「あまりまどろっこしいのはやめておこう」

 

 こちらとしても、なんとなく質問される内容が察せるのでその方がありがたい。

 ……ため息を飲み込む。

 

「ステラは、全盛期には戻れない可能性がある……そうだな?」

 

「ご明察、俺が気が付いたのはマッサージの時だな」

 

 骨折した後の骨は次がないように丈夫になろうとして、結果的に形が変わってしまう。

 ……彼女の足は、二度の骨折で全盛期とは変わってしまっている。

 

「俺はプロじゃないから確信を持って言えないが……成長が決まってしまったようなもの、だな」

 

「そうか……だから時間をかけるわけにもいかず、目標をサマードリームトロフィーではなくウィンタードリームトロフィーにしたのか」

 

 静かに頷く。

 期間ははっきりいって短い、無理だと言われるのがオチだろう。

 

「ステラは勝つさ」

 

「……本気で私やマルゼンに勝つつもりか」

 

 普段は見せない皇帝としての圧、とんでもないな。

 

「手厳しいな、そうするしかないというのもあるけど、負ける気なんてさらさらない」

 

 息を吸い込む、睨み返すように、ゆっくりと返す。

 

「俺は彼女を勝たせる、俺たちを舐めるな」

 

「……安心したよ、生半可な相手ではないと確信が持てた」

 

 ウィンタードリームトロフィーを楽しみにしている……そう言ってルドルフは行ってしまった。

 勝たせる、か。

 記憶もないくせによく言えたものだ。

 ……自分に言い聞かしていたのかもしれないな。

 自室に戻りソファの上に横になる。

 覚悟というのは、とてつもなく重くなることを改めて思った。

 重圧になる……だけど力にもなる。




ちなみにスターちゃんの体重は秘密ですが、微増していることだけおつたえs
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