時がたつのは早いものだ……。
走れるようになったのがつい昨日のように感じるがすでに相当な日数がたっていた。
今日は私が避けたかったマスコミへの会見がある。
憂鬱な気分だがウィンタードリームトロフィーを走るなら避けては通れない……なんて質問が来るか。
トレーナー関係の質問は本心で答える気ではいる、めんどうな受け取り方をされるのがオチだが変に答えてしまえば悪化してしまう可能性もある。
……いっそ熱愛報道にでもなってしまうような発言をしてやろうか?
いや、確実に後悔するし、そんなやり方で思いを伝える気などない……やるなら記憶が戻ってからだ。
今回のマスコミからの取材はウマ娘に対してだ、トレーナーはいない。
レースで注目されているのはマルゼン、ルドルフだろう……私への注目はトレーナーへのバッシングと復帰直後に走ることの二つだろう。
正直元からあまりマスコミは好きではない、あることないこと書きたがるし……マルゼンやルドルフが笑顔で対応できてるのが素直にすごいと思う。
会見はウィンタードリームトロフィーに出場するウマ娘達にまとめて質問するものと、そのあと個人に別れて質問する二回分がある。
前者で変な質問は来ないだろうから気にもしないが、問題は後者だ。
まともな受け答えができるだろうか……っとそろそろ時間だ。
……
ウィンタードリームトロフィー出場をするウマ娘達が並んでいる。
見たことある顔もない顔もいる……そしてルドルフとマルゼン……。
圧巻としか言いようのない貫禄、雰囲気だけで並のウマ娘なら飲まれるだろう。
……あいにく私は並のつもりはさらさらないが。
ピリピリとプレッシャーを肌に感じながら会見が始まる。
質問される内容は全員に向けてだ。
「ウィンタードリームトロフィーに向けての意気込みを教えてください」
出場者たちが答えていき、ルドルフの番が来る。
「『皇帝』の名に恥じない、堂々たるレースをすると約束しよう」
マルゼンの番が来る。
「まだ後輩達に先頭を譲るわけにはいかないからね、勝つわよ」
私の番が来る。
「私はウィンタードリームトロフィー初挑戦ですから、自分の走りをしっかりとこなしていきたいと思っています」
ありきたりだが、変に力むよりもいいだろう。
あぁ、周りからのプレッシャーがより一層強くなる、ありきたりな考えで勝てると思っているのかなんて考えているんだろうか。
「共に走るライバルたちに向けて一言」
「最高のレースにしよう」
「背中だけは見せてあげるわ」
みながみな三者三葉の答えだ。
ルドルフやマルゼンへの挑戦という者、夢の大舞台で結果を残すつもりだという者。
いい、とてもいい気分だ。
誰も私を見ていない。
だから少し、強気で行こう、あの時のマルゼンのように。
「怪我したばかりでドリームトロフィー初挑戦の小娘が粋がるななんて言われそうですが……」
舐めるなよ、私だって負けられないんだ、最後のチャンスを逃す気なんてない。
プレッシャーがかかる、その程度の気迫で私が負けると思うなよ。
「あまり私のことを注目しないなら、足元をすくいますよ?」
喉元にかみついて食い殺してやる、私を見ろ。
その場の雰囲気がずっしりと重くなる。
「……なーんて」
緊張の糸が切れるようにかかるプレッシャーが軽くなる。
誤魔化しは入れよう、あくまでそういう演出だと思わせるように……ただ、二人の強者は私から目を離してはくれないようだが。
全員での会見が終わり、これから一人一人別れての会見が始まる。
私は順番で言えば真ん中だ。
一度トレーナーのところにいこう。
……
「とんでもないことしたなステラ」
「そう?結構軽い雰囲気だったと思うけど?」
ふざけたようにニコっと笑う。
トレーナーもくすりと笑うと、こういった。
「まぁ言ったのは仕方ない……有言実行ってさ、出来たらかっこいいよな」
「じゃあ……勝たなきゃね?」
やってやろうぜ、そうトレーナーは言って大笑いした。
怪我して復活したばかりのウマ娘がルドルフやマルゼンの出るウィンタードリームトロフィーを勝ち取ったらそれはそれは痛快だろう。
そんな考え方をしていたら大分落ち着いてきた……。
トレーナー関係は私にとってすでに地雷だ、慎重にせねばならない。
「さて、そろそろ時間だ、行ってこい……俺のことは気にするんじゃないぞ」
頭が撫でられて、トレーナーの手の感触が頭から伝わってくる、されたことはなかったがしっくりというか温かさを感じる。
「うん……行ってきます」
深呼吸をして会場へむかった。
……
インタビューを受けるために中央に立つと、一気に場の空気に緊張が走る。
……お願いだからトレーナーの侮辱はしてくれるなよ。
「怪我からの復帰ですが、多くの不安があると思われます、それでも走るんですか?」
「怪我をする前ほどではありませんが周りをがっかりさせる気はさらさらありません、堂々たる走りをみせるつもりです」
私の足は怪我する前には戻らない、でも今できる100%で走るだけだ。
「シンボリルドルフやマルゼンスキーは今回出場するウマ娘達の中でもそうとうな実力があると思いますが、本当に勝てると思いますか」
「……ウィンタードリームトロフィーにでるという時点ですべてのウマ娘が強者です、みな生半可な実力の人はいないといっても過言ではないでしょう、でも戦う前から負けの考えをする気なんてありません、勝つためにこのウィンタードリームトロフィーの舞台に上がりました」
意外とありきたりな質問ばかりで安心した、さすがにいまだに解除していないのにトレーナー関係に首を突っ込んでくるやつはいないみたいだ……。
誰かが言ったら急に増えそうだな。
「現在涙トレーナーとはそのまま契約を続行しているようですが、今後も継続するつもりなのでしょうか」
来てしまったか……ここからはおそらくボロがでるのを期待してトレーナー関係の質問をするつもりだろうな。
「……はい、トレーナーは私のことを第一に考え、怪我のさいも何度も気遣ってくれました、私自身が涙トレーナーに支えられてこの場に立っています……契約を解除する気はありません」
はっきりと言ってやる、私はすでにトレーナー以外に付き従うつもりはない。
「普段のトレーニングはスパルタだと聞きますが、ロンリーステラさんは文句はないのですか?」
「ありません、トレーナーのトレーニングは完璧といって差し支えないと思っています、確かにスパルタですが、後日に支障がないように調整はしてくれています」
「怪我をさせてしまったトレーナーに何か思うことはありませんか?」
……は?こいつ今なんて言いやがった?
足を搔きそうになるのを必死に抑え、笑顔をキープする……おそらく多少は引きつっているだろうな。
「ありません、あれは私のミスであってトレーニングや指示のせいではないです……これ以上このような質問をするようであればこれで終わりにさせていただきます」
会場がざわつく……記者の多くは不安な顔で、おそらくこれ以上私を怒らせたくないとも思っているのだろう。
だが、やはりというか明らかに深入りしようとしているやつもいる。
「ベテランのトレーナーから引き抜きの話がでていますが、応える気はないんですか?」
限界だ、これ以上はここにいたくない。
足で床を叩く……ガンッ!っという音がなって静寂が訪れる。
「これで私への質問は終わりにします、あとは走りで語らせていただきます」
踵を返して控室に向かう、怒りは不安に変わり、涙が出てきている。
「ステラ!」
「っ!トレーナー!」
泣きながらトレーナーの胸に飛び込む……怖くて、耐えらない。
もしトレーナーが私の前から消えたら?もしトレーナーが私を軽蔑したら?
抱き着いて……離れたくなかった。
そっと頭に手が乗せられて、やさしくなでられる。
「ステラ……「しばらくこのままがいい」
子供みたいだろうな、今の私は。
「……大丈夫だよステラ、俺はどこにもいかないから」
「……ん」
……
気が付くと眠っていたようで、トレーナーが運転する車の中だった。
「戻ったらトレーニングだ、あそこまで言ったんだろ?俺もさらに頑張るぞ……記憶も取り戻してみせるさ」
「……うん」
短い会話だが、声色はやさしくて……安心した
もはや間もないレベルまで来ている、仕上げをして……あとは走って勝つだけだ。