星は暗闇で輝く【完結】   作:一口さん

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T8、信頼

 とうとうこの日が来てしまった……。

 ウィンタードリームトロフィーの会見、出場するウマ娘達が一挙に揃う……。

 トレーナーの集まりはまちまちという感じだ、この会見はウマ娘達に向けたものでトレーナーはあまり関係がない。

 ……一部を除いてだが。

 おそらくステラには俺関係の質問が来るだろう。

 二回に別れた会見は一回目が全員に対する質問、二回目が個別に別れての質問だ。

 二回目の質問ではおそらくステラに俺関係の質問が投げられるだろう……レースに関係はないが、答えなければ間違いなくあることないこと好き勝手に書くだろう。

 ……ステラには無理をさせてしまうな。

 不甲斐ないと自責の念が募る。

 いけないな、こんなことじゃステラを支えるなんてできないだろう。

 ステラは会場の方に向かったし、俺はトレーナー専用の会見の様子が見られる場所に向かおう。

 トレーナー用の部屋には何人かトレーナーがいるが……なんというか数はまちまちだった。

 リギルのトレーナーは……いるな、さすがにマルゼンスキーにシンボリルドルフと二人も出てれば普通に来るか。

 来れていないのはおそらくチームのトレーナーだろう。

 疑問なのは出てるメンバーがいないスピカのトレーナーがいることだが。

 

「なぜここに?スピカからは誰も出ていなかった気がするのですが」

 

「いや~、担当してたやつがみんな逃げちまってな……今誰もいないし、暇だからついてきちまった」

 

「呆れた、放任主義と放置は違うのよ?」

 

 いつも通りリギルのトレーナーとスピカのトレーナーが言い合いをし始めている……もはや見慣れた光景だろう。

 そろそろ会見が始まるようだ……まだ一回目の会見だから大丈夫だとは思うが、変な質問はしてくれるなよ……?

 テレビの画面越しに会見の様子を見ていく……。

 

『ウィンタードリームトロフィーに向けての意気込みを教えてください』

 

「ルドルフ、いい仕上がりですね」

 

「えぇ、ステラが本気で勝ちに行くってわかったらより一層練習し始めてね……ちゃんと調整はしてるけど、オーバーワークギリギリで困っちゃうわ」

 

「いいトモだ、気合もしっかり入ってる、並のウマ娘ならあの気迫だけで委縮してしまうだろうな」

 

 スピカのトレーナーの言う通りだ……間違いなく仕上がっている、テレビ越しだというのにこの気迫……まさに『皇帝』という二つ名にふさわしい、といったところか。

 

「……マルゼンも恐ろしいな」

 

 ルドルフの気迫が強く他のウマ娘達が圧倒されているのに対してマルゼンは全く負けていない。

 ……ウィンタードリームトロフィーを取りに行く、か。

 ルドルフもそうだが、独壇場を許せば逃げ切られるだろうな。

 もう一人……その中で圧倒的な存在感を放っている、ステラだ。

 二人に全く臆していない、それどころか瞳の奥にはどう猛さすら感じる。

 

「まだただの会見なんだがなぁ」

 

「二人とも、最近ステラに会ってなかったでしょ?ずいぶん楽しみにしてたみたいよ?」

 

「はは……期待されてますねぇ」

 

 っとステラの番だ。

 控えめに……目立たないつもりなのだろうか、あの二人の気迫に負けてない時点で相当だと思うが。

 

『共に走るライバルたちに向けて一言』

 

 他のウマ娘達はみな結果を残すこと、ルドルフやマルゼンに勝つことを言っている……。

 ステラは警戒する必要がないってか?

 ステラは……目つきが変わった、何かするつもりか?

 

『怪我したばかりでドリームトロフィー初挑戦の小娘が粋がるななんて言われそうですが……あまり私のことを注目しないなら、足元をすくいますよ?』

 

 ピリっとした感覚が肌を襲う、この場にいるトレーナー全員がこちらをみている……。

 冷汗が落ちる……いや、堂々としろ、ここで逃げ隠れなどしていられない。

 

『……なーんて』

 

 ピンと張り詰めていた緊張の糸が外れる、会場も同じように安堵している。

 まったく、なんてことをするんだ……。

 これじゃあ、勝たなきゃ失礼になってしまうな。

 ……勝つつもりしかないが。

 とはいっても居心地は悪いのでステラを迎えに控室の方に戻る。

 お、いたな。

 

「とんでもないことしたなステラ」

 

「そう?結構軽い雰囲気だったと思うけど?」

 

 軽口を叩いてステラは微笑む。

 

「まぁ言ったのは仕方ない……有言実行ってさ、出来たらかっこいいよな」

 

 わざとらしく、軽口をかさねて言う。

 

「じゃあ……勝たなきゃね?」

 

 あぁ、やってやろうぜ……そう呟いてから、笑う。

 不安や恐怖を追い払い、勇気や安心を掴むために。

 ……ただ笑ってもいられない、次は個人の会見だ。

 おそらく……というか100%俺関係の質問もされるだろうな。

 ステラの笑顔は少し不安が混じっていたようで、暗い感じがした。

 頭に手をのせて撫でてやる、大丈夫だ。

 

「さて、そろそろ時間だ、行ってこい……俺のことは気にするんじゃないぞ」

 

「うん……行ってきます」

 

 深呼吸をして会場に向かうステラの背中は……普段よりほんの少し小さく見えた。

 流石に個別のやつもトレーナー用の場所で見る気はなかったので、ステラ用の控室でノートパソコンを開いて放送を見る。

 

『怪我からの復帰ですが、多くの不安があると思われます、それでも走るんですか?』

 

『怪我をする前ほどではありませんが周りをがっかりさせる気はさらさらありません、堂々たる走りをみせるつもりです』

 

 はっきりと、淀みなくそう言い放つ。

 あぁ、なんてはっきりと言ってくれるのか。

 ……それだけ俺が信頼されているのだろうか。

 

『シンボリルドルフやマルゼンスキーは今回出場するウマ娘達の中でもそうとうな実力があると思いますが、本当に勝てると思いますか』

 

『……ウィンタードリームトロフィーにでるという時点ですべてのウマ娘が強者です、みな生半可な実力の人はいないといっても過言ではないでしょう、でも戦う前から負けの考えをする気なんてありません、勝つためにこのウィンタードリームトロフィーの舞台に上がりました』

 

 この記者なんて質問を……。

 トレーナー達がいるところで見なくてよかった。

 というかもしかしてこの質問他のウマ娘にもやってるのか?

 もしそうならとんでもないな。

 

『現在涙トレーナーとはそのまま契約を続行しているようですが、今後も継続するつもりなのでしょうか』

 

 ……クソが。

 何故こうも簡単にそういう質問を投げれるのだろうか?意味が分からない。

 

『……はい、トレーナーは私のことを第一に考え、怪我のさいも何度も気遣ってくれました、私自身が涙トレーナーに支えられてこの場に立っています……契約を解除する気はありません』

 

 力強く……そう言ってくれた。

 泣きそうだ、記憶を失ってもやっぱりどこかでステラを大切に思っているのか自然と涙がこぼれてくる。

 それと同時に自分への怒りがあふれてくる。

 

『普段のトレーニングはスパルタだと聞きますが、ロンリーステラさんは文句はないのですか?』

 

『ありません、トレーナーのトレーニングは完璧といって差し支えないと思っています、確かにスパルタですが、後日に支障がないように調整はしてくれています』

 

 これ以上踏み込んだ質問がこないことを望むしかないのが苦しくて仕方ない。

 どうしてこんなにも不甲斐ないのだ。

 

『怪我をさせてしまったトレーナーに何か思うことはありませんか?』

 

 やめてくれ、もしそれをステラが答えてしまったら俺は。

 俺を信じてくれていると思っていた彼女が答えられてしまったら。

 

『ありません、あれは私のミスであってトレーニングや指示のせいではないです……これ以上このような質問をするようであればこれで終わりにさせていただきます』

 

 表情にこそでなかったが明らかな、怒りの感情。

 ……救われたような気がしてならなかった。

 

『ベテランのトレーナーから引き抜きの話がでていますが、応える気はないんですか?』

 

 ガンッ!という音がしてステラが無表情に変わる。

 

『これで私への質問は終わりにします、あとは走りで語らせていただきます』

 

 そそくさと会場を後にしたのを確認すると控室を出る、ステラはすでに控室の近くまで来ていた。

 

「ステラ!」

 

「っ!トレーナー!」

 

 ステラの目には涙が溜まっている。

 そのまままっすぐ胸に飛び込んでくるのを受け止める。

 背中に腕を回されてしっかりと抑え込まれる……。

 俯いて肩を震わせるステラはいつもより幼く見えた。

 

「ステラ……「しばらくこのままがいい」

 

「……大丈夫だよステラ、俺はどこにもいかないから」

 

「……ん」

 

 ……やはりステラには大きな不安があったままだったのだろう。

 怪我のことも、俺の記憶のことも、マスコミのことも……彼女達の年齢を考えれば明らかに不相応な重荷だ。

 しばらく頭に手を当てていると、徐々に力が抜けていき、ゆっくりとほどかれる。

 どうやら安心しきったのか眠ってしまっている。

 起こさないようにお姫様抱っこでそっと運ぶ。

 

 ……

 

 車に乗せて運転をしている途中で目が覚めたようで寝ぼけたまま状況を確認しているステラに一声かける。

 

「戻ったらトレーニングだ、あそこまで言ったんだろ?俺もさらに頑張るぞ……記憶も取り戻してみせるさ」

 

「……うん」

 

 ただ一言の相槌。

 だがその相槌には決意と信念が感じられた。

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