年が明ける、朝に白い息を吐きながらトレーナーを待つ。
外の空気は寒く、ほんの少し薄めの上着だけで来たのを後悔する。
帽子とマフラーで顔はそこそこあったかいが上着の選択を間違えた。
「ステラ!悪いな、遅れたか?」
コートと深めの帽子を被ったトレーナーが声をかけてくる。
二人とも顔が知れ渡っているので苦肉の策といったところだ。
「ううん、今来たところだから大丈夫!」
「……大分待っただろ?そんな薄着で」
トレーナーの上着が背中にかけられる。
大きくて……あったかい。
優しいトレーナーのにおいがする。
「ありがとう……トレーナーはいいの?大丈夫?」
「俺は元から厚着してるからな、一枚ない程度じゃどうってことはない」
マッスルポーズを取りながら自身満々に笑う。
鼻先は真っ赤で強がりを言ってるのがわかる。
……ちょっとぐらいならいいかな。
「……えい!」
トレーナーの腕に抱き着く。
ぐっと力を込めて逃げられないように……。
「おわっ!……歩きにくくないか?別に構わないが」
「嘘ついてまで我慢する人には歩きにくいぐらいがいいんじゃないかなって」
トレーナーの体はやっぱり私から見ると大きくて……頼りになる、そう思えた。
「せめて手にしないか?これじゃ目立つぞ」
「いーの!」
まったく……といったような表情をしたけど、トレーナーは抵抗しなくなった。
よし!
転ばないように一段ずつ階段を上っていく……かなりの人やウマ娘がいて、迷わないようにするのが大変そうだ。
上りきるころには並んでいる屋台からいい香りがしてくる。
「おいしそうなにおい……」
「先に参拝してからな」
むぅ……なにか食べたいとも思うが、荷物になってしまう。
言う通りにして先に参拝をすましてしまおう。
ささっと列に並んで五円玉を用意しておく。
「トレーナーはどんな願いごとするの?」
「こういうのは言わない方が叶ったりするもんだから俺は秘密だ」
「そういうのなのかな、それなら私も言わないでおくね」
列は静かに進んでいく……。
流石に恥ずかしくなってきていてトレーナーの服のすそを掴んではぐれないようにしている。
周りの視線が気になるのもあるが、視線に種類があるように感じたからだ。
……私とトレーナーじゃないかと疑う視線だ。
変な尾ひれがつく目立ち方は避けたい……手遅れな気もするが。
「二礼二拍手一礼、だぞ」
「わかってる」
自分達の番が来たので二礼二拍手一礼をしてお願いをする。
ウィンタードリームトロフィーで勝てますように……願わくばもっと走れますように。
ゆっくりと目を開けてトレーナーの方を見る。
強く、真剣な目で願い事をしているようだった。
「……いこうか」
「屋台にはよるからね!」
「はいはい」
ベビーカステラにりんご飴、わたあめもあるし、焼きそば!
「ってゴルシちゃん!?」
「おーステラじゃねぇか!」
ゴルシちゃんが焼きそばを焼いている……というか雰囲気似合いすぎじゃないか?完全にその場に馴染んでる気がする。
「ゴルシちゃん、焼きそば二つ頂戴!」
「あいよっ!」
手慣れてるなぁ……手際よく調理をしていってソースのいい香りがしてくる。
おいしそうだ。
ほとんど待たされることなく、二つの焼きそばが手渡された。
「はい、トレーナー」
「おう、ありがとうな」
ゴルシちゃん焼きそばを食べながら次に食べる物を考える、食欲しか勝たん勝たん。
甘い物にはまだ早いな……焼き鳥とたこ焼きも食べるか。
「トレーナー、焼き鳥並んでくれない?私たこ焼き並ぶから」
「はいはい、はぐれるなよ、迷ったら連絡してくれ」
トレーナーと離れてたこ焼きの列に並ぶ。
うん、やっぱりずっとこっちを見てる子がいる。
……病院の時の子だ、まだいたのか。
トレーナーを追い払っていた事実は許せないし、許す気なんてない。
横目で睨みつけてから前を向く。
微かに悲鳴が聞こえた気がするが、相手をするつもりはない。
「たこ焼き二つ!」
たこ焼きを一つ食べながら飲食スペースでトレーナーを待つ……そこまで待つことなく合流できた。
「ついでに甘酒買ってきたぞ」
「ありがと」
渡された甘酒を飲んで一息つく。
あったかい……。
甘酒を飲みつつたこ焼きと焼き鳥をつまんでいく。
トレーナーの分も奪いつつ完食した。
「すまん、ちょっとお手洗い行ってくる」
「ここで待ってるね」
トレーナーがそそくさとお手洗いの方に向かう。
次は何を食べようかと屋台を見た時にふとこちらに向かう影に気が付いた。
今の私は髪も隠してるし、目立たないようにはしてる。
……私だという確信が無ければ声はかけてこないだろう。
「……なにか?」
「あ、あの……ステラさんですよね?」
やはり確信があって声をかけてきたのか、頼むから勘弁してくれ。
「いえ人違いです、それでは」
知らないふりでさっさと立ち去るのが吉だ、トレーナーにはあとから連絡を入れれば合流は出来るだろう。
立ち上がって踵を返す、人混みさえまぎれればなんとかなるだろう。
「なんでまだあんな人といるんですか!」
何かに掴まれたように足が止まる。
「ステラさんが怪我しますよ!あんなやり方じゃ!」
あぁ、イライラする。
「ウィンタードリームトロフィー出走は取りやめて、他の人にかえてもらいましょう?」
あの人を……私のトレーナーを悪く言わないで!
そこから先は必死だった。
「私は!私はあの人に支えられた!多くのことを教えてもらった!走り方も!勝ち方も!私のことを第一にいろんなことを考えてくれた!」
私はトレーナーのことが好きだ……愛している、そこは何したって嘘のつけない本心だ。
……だから許せない、止まらない。
「なんにもしらないあなたが!部外者が!私のトレーナーを侮辱するなんて絶対に許さない!」
泣きそうになるのを我慢しながら走りだす。
途中で帽子が落ちたが気にしない。
人混みに紛れて神社の気が付けば人の気配のほぼない本殿の裏側だった。
ボロボロと涙がこぼれてくる。
どうしてなんだろうか。
転んでしまったのは私なのにトレーナーが傷つけれているのが納得がいかないし、許せない。
でも自分じゃどうしようもできないし、トレーナーが私のトレーナーを続けていることすら……いや、トレーナーがトレーナーを続けていることすら奇跡なんだ。
今までなんども我慢していたはずなのに、何かのスイッチを押したように急に苦しくて涙を止められなかった。
「いやだ……いやだよトレーナー……」
泣いたままじゃ会えない……いやもしかしたら合わない方がいい気さえしてくる。
もしウィンタードリームトロフィーで負けたら?そこで怪我をしてしまったら?
不安はぬぐえず、答えるように嗚咽が出る。
頭にそっと帽子を被せられる。
反射的に帽子を被せた主に抱き着いた。
ふわりと私の好きなにおいがする。
「トレーナー!」
そっと帽子の上から手が乗せられる。
嗚咽が止まり涙が引いてくる。
「大丈夫、俺は大丈夫だから……落ち着いたか?」
そんなはずない。
今のトレーナーからしたら知りもしないことでなんどもなんどもひどい扱いを受けているんだ。
「でも……!」
とっさに顔を上げた……そこに人差し指が当てられる。
「……なんてったって、俺は『ステラの』トレーナーだからな」
わざとらしく『ステラの』だけ強調してくる。
「き、聞こえてたの!?」
顔が熱くなっていく。
心臓がバクバクと音を立てて、ぎゅっと締め付けられる感覚になる。
とっさにトレーナーから離れて後ろを向く。
「あんだけでっかい声で言えばな~?」
「っ~!バカッ!」
……あれだけ私の中に渦巻いていた感情は、気が付けば消えてなくなっていた。
「……なぁステラ、俺はステラの為になんだってする」
「……うん」
静かにトレーナーが続ける。
「ウィンタードリームトロフィー、勝とう、そんで全部見返して、ひっくり返してやろう」
「うん!」
突き出された拳に拳を当てて答えた。
もうなにも迷わない、道しるべは確かにここにあるから。