約束の時間までは余裕がある……かなりはやめに行動したのは実際正解だった。
神社に近づくにつれて人の数がどんどんと増えて来ている。
早い時間でなければもっと人がいて集まるどころではなかったろう。
やはりというかなんというか……ステラはすでについていて、少し震えている。
帽子やマフラーに身を包み、上着を着ているので一見暖かそうには見えるが、明らかに上着は薄い、とてもじゃないがあれじゃ寒いだろう。
「ステラ!悪いな、遅れたか?」
「ううん、今来たところだから大丈夫!」
無表情が笑顔に変わる、お互い顔はバレにくいような恰好をしているが一声かければ案外すぐにわかる。
「……大分待っただろ?そんな薄着で」
ステラが風邪をひくのはまずい、ウィンタードリームトロフィーも控えているわけだしな。
着ているコートを脱いでステラに羽織らせる……想像以上に寒いが、これでステラが少しでも暖かいならいいだろう。
「ありがとう……トレーナーはいいの?大丈夫?」
「俺は元から厚着してるからな、一枚ない程度じゃどうってことはない」
……疑ってます、といったような目だ。
うん、まぁバレるよなぁ。
「……えい!」
!?お、おいおいおい!
急に腕に抱き着かれた、なんというか会見の件から子供っぽさがでているような気がする。
かなりしっかりと掴まれていて抜け出せない。
うーむ、かなり距離が近いというか……少しドキッとはするな。
「おわっ!……歩きにくくないか?別に構わないが」
「嘘ついてまで我慢する人には歩きにくいぐらいがいいんじゃないかなって」
うん、しっかりバレてる。
さすがに年頃の女の子として野郎の腕にくっつくのは少々考え物だが。
「せめて手にしないか?これじゃ目立つぞ」
「いーの!」
問答無用といった感じだなぁ。
仕方ない、これ以上は何を言っても無駄だろう。
転ばないようにだけして階段を上っていく、右を見ても左を見ても人、人、人という感じで……なんというか神経質だが目が気になる。
当の本人は気にも留めず、屋台のにおいをかぎ取ったのか掴まれた腕が少し前に引っ張られている。
食欲が勝ったか……。
「おいしそうなにおい……」
食べ物にしか目が行っていない……買うこと自体は別にいいのだが先に買うと荷物になってしまう。
……言っとかないとフラッといなくなって買ってきそうだな。
「先に参拝してからな」
少しだけ不服そうな顔をしたが、納得はしたようだった。
参拝のために列に並ぶとさすがにあまりの人の多さに恥ずかしくなったのか腕に抱き着くのはやめたようだ……が、服が引っ張られている感覚がある、そっちもそっちで別の方面で目立つと思うのだが。
「トレーナーはどんな願いごとするの?」
「こういうのは言わない方が叶ったりするもんだから俺は秘密だ」
「そういうのなのかな、それなら私も言わないでおくね」
会話が終わり静寂が訪れる、人の会話が聞こえてくるが俺のステラのところだけ切り取ったように静かに感じる。
ゆっくりと進んでいくのが少しもどかしいと感じてしまう。
あぁ、お賽銭も準備しておかないとな。
「二礼二拍手一礼、だぞ」
自分も忘れそうだしステラも忘れてそうだから言っておくか。
「わかってる」
お賽銭を投げ込んで、二礼二拍手一礼……願うことは決まっている。
……ステラがもっと走れますように。
ウィンタードリームトロフィーで終わらせたくない、そう思ってしまうのは俺自身のエゴなのだろうか。
横から視線を感じる、ステラがこっちを見ているようだ。
「……いこうか」
「屋台にはよるからね!」
「はいはい」
コート越しからでもわかるほどにしっぽが揺れている。
食欲が旺盛だなぁ。
ん、見覚えがあるな?あのきれいな髪と謎のヘッドギアは……。
「ってゴルシちゃん!?」
「おーステラじゃねぇか!」
やってる屋台は……焼きそばか。
「ゴルシちゃん、焼きそば二つ頂戴!」
「あいよっ!」
行動に迷いがない、ゴルシちゃんの焼きそばはおいしいらしいし、期待できそうだ。
手際がいいな……ほんとに手慣れてる動きだ。
あっという間に二つの焼きそばが袋に詰められて渡される。
「はい、トレーナー」
「おう、ありがとうな」
ソースのいい香りがする。
うん、今まで食べた焼きそばの中で一番うまいんじゃないか……?
さて、ステラは……というかウマ娘はあの量じゃ満足しないだろう。
食べる速度が速い……食べながら次の店も吟味してるな?
「トレーナー、焼き鳥並んでくれない?私たこ焼き並ぶから」
「はいはい、はぐれるなよ、迷ったら連絡してくれ」
周りにいる人はウマ娘が多くだ。
身長的に俺はそこそこ目立つしまぁなんとかなるだろう。
焼きそばほどではないが焼き鳥もそれなりに並んでいる。
でもかなりはけるのが速いな……俺のとこまでもかなり早く来そうだ。
タレか塩か……どうせステラと俺の分で二つ買わなきゃいけないし両方買うか。
準備しておいた代金を払って焼き鳥を受け取る、タレから香ばしいにおいがしている……。
意外と早く買えたし、ついでに甘酒でも買っておくか。
……
ステラには俺のコートを貸したままだからすぐに見つけられた。
「ついでに甘酒買ってきたぞ」
「ありがと」
焼き鳥とたこ焼きを食べる……うん、うまい。
屋台の焼いてる人の焼き方うまいのもあるが、少し肌寒い今にはあったかいものが体に染みてくる。
甘酒も体の中からあったまるようだ。
ゆっくり食べていたが、そこそこステラに取られてしまった。
まぁ満足してるならいいか。
「すまん、ちょっとお手洗い行ってくる」
「ここで待ってるね」
ささっとお手洗いをすませて続きをまわろう。
すませてからお手洗いをでると、怒りに身を任せたような声が聞こえる……ステラだ。
「私は!私はあの人に支えられた!多くのことを教えてもらった!走り方も!勝ち方も!私のことを第一にいろんなことを考えてくれた!」
聞いたことがない声だった、記憶を失ってから聞いたステラの声は、優しいさや覚悟こそあったが怒りの声は聞いたことが無かった。
「なんにもしらないあなたが!部外者が!私のトレーナーを侮辱するなんて絶対に許さない!」
感情を吐き出している、怒りであり、悲しみであり、苦しみ。
胸の奥にずしりと響いて例えようのない感覚が心を乱す。
ステラは走り去っていった。
思考するよりも先に体が動いた。
走り去るステラを追いかけて人混みをかけていく。
ステラから帽子が落ちて金の髪がみえる、見失うものか。
……
息が上がりきって肩で呼吸をする。
嗚咽が聞こえる……。
どれほどため込んでいたのだろう。
あの俺よりも小さな背中に、いったいどれほどの感情を隠していたのだろう。
「いやだ……いやだよトレーナー……」
……たった一言、半泣きのひねり出すような声を聴いて、苦しくなる。
これは俺の感情なのか隠れたままの『俺』の感情なのか。
後ろから帽子を被せてやる。
びっくりしたようにしっぽが跳ね上がった直後、急に抱き着かれた。
「トレーナー!」
涙の混じるような声。
嗚咽が混じり肩が震えている……頭をなでてやると少しずつ落ち着いていく。
「大丈夫、俺は大丈夫だから……落ち着いたか?」
「でも……!」
涙交じりの顔の前に人差し指を立てる。
少し茶化すぐらいのほうが落ち着くだろう。
「……なんてったって、俺は『ステラの』トレーナーだからな」
わざとらしく強調する。
とたんに顔の色が真っ赤になっていく。
「き、聞こえてたの!?」
「あんだけでっかい声で言えばな~?」
「っ~!バカッ!」
すっかり暗い顔はなくなっていた……涙の跡が残ったままなのが少しつらいが。
「……なぁステラ、俺はステラの為になんだってする」
「……うん」
「ウィンタードリームトロフィー、勝とう、そんで全部見返して、ひっくり返してやろう」
顔を合わせて拳を出す。
「うん!」
拳が重なる。
ステラの顔ははれやかで、次を見据えたようだった。