『さぁコーナーに差し掛かる!徐々に加速し先頭集団に……ああっと転倒!ロンリーステラ転倒です!』
『……は?ステラ!?い、いやだ……ロス!』
「ロス!……あぁ、夢か……」
またあの日の夢だ……気分が悪い、目覚めは最悪だ。
だるい体を引きずるように起こし、冷蔵庫の水を乱暴につかみだしてコップに注ぐ……。
寝ても覚めてもあの夢を見ている気がする、それがソファで寝ているせいか、彼女……ステラに囚われているのか……。
俺は今、トレーナー室ではなく空き部屋の一つを理事長から借りてそこで生活している。
もともとは学園の近くにあるマンションの一室に住んでいたのだが……あの一件から俺はトレセン学園内にも……そして外にも、途端に敵が多くなってしまった。
ステラのおかげで実績はあったので、理事長にルドルフが進言してくれて、外の敵……マスコミからは守ってくれた。
まぁそれでも……。
(ガァン!)
ビクッ!
……こういう子がたまにいる。
言葉は言わない、何もしてこない、ただこの空き部屋であるはずの場所のドアを蹴るだけ……足音は軽いし、多分中等部だろうな……と想像がつく、ロスのファンか後輩だと思う。
あの一件から一部……いや逆だ、ほぼすべてのウマ娘ににらまれるようになった。
話に尾ひれがつき、普段のトレーニング……ロスの体力ギリギリを前提に作ったハードなトレーニングも相まって今の俺は「最強になりえたウマ娘を私利私欲のために食いつぶしたヒト」……言ってしまえば扱いはほとんどクズ同然だ。
救いがあるのはチームのリギルとスピカは中立だし、ルドルフを含めた生徒会とゴルシは味方だ、何よりも理事長が俺の手腕や普段の態度を評価してくれていて、まだここに残れている。
『俺は……ステラに取返しのつかないことをしてしまった……俺はもうやめたいんです理事長』
『拒否ッ!君はここで終わっていい才能ではない!……これは私のわがままだ、だが君の手腕は確かなものだ、せめて彼女がここに戻ってくるまで残ってはくれないか』
ほぼ押し切られたようなものだ、『それまで辞表は預かる!』とまで言われている……彼女が帰って来るまでは無理だろうな。
きっとロスは知らない、『足がもう治らないかもしれない』ということを
医者はロスよりも先に俺にそのことを伝えてきた。
『彼女の足はおそらくもう走れるほどには回復しないでしょう』
『は……?そ、そんな!なんとかならないんですか!?』
『可能性がないわけではないですが、おそらく厳しいかと』
『ならそのことはステラに伝えちゃダメだな』
『ゴルシちゃん……?なぜそんなことを?』
『あいつが異常に怪我の治りが早いのはトレーナーのあんたは知ってるだろう?これはおそらくだが……あいつの傷の治りはポジティブな思考の時に早い』
『菊花賞前の時異常に早いとは思ったけど……』
『ステラはとにかく笑うか未来に希望を持たせてやるべきだな、なぁセンセーよ協力してくれるか』
『で、ですが……』
『なぁにどうせウマ娘の体はわかんないことだらけなんだ、なんとかなるだろ』
ゴルシちゃんが無理やり話をすすめ、彼女は1人も患者が入っていなかった病室に入れられた。
ネガティブな話の雑誌は処分し、当たり前だが俺に対するバッシングも見られないようにしていた。
彼女の病室はほぼ隔離状態だ。
『トレーナーよ、ちゃんとあいつに毎日会って声かけてやってくんねぇか?』
『でも俺は彼女を怪我させた張本人で……』
『あ~もう!うだうだ言うなよ!男だろ!お前ステラの事どうせ好きなんだしもっと堂々としろ!そんな顔でステラの前に行く気か?』
『お、俺は彼女の走りに惚れ込んだんだ、あの強烈な加速はきっと忘れることなんてできるわけないさ』
『あーはいはい……とにかくステラに会いにいけ、わかったな』
『……わかった、必ず会いに行く』
そこから医者と口裏を合わせながら彼女が目覚めてくれるのを待つ。
あぁ頼む……早く目を開けてくれ……。
願いが通じるかのように彼女の瞼が開かれ、状況を確認するかのように少しあたりを見回してこっちをみてこういった。
『あはは……ごめん転んじゃった……』
苦しかった、つらかった……ロスはもっとつらいはずなのに、ロスの乾いた笑いがズキズキと胸を刺す。
神様は残酷だと思った。
とっさに出たのは謝罪だった……と思う。
涙が出てきて自分でも何を言っていたのかが思い出せない。
しばらくして電話がなる、本来病院内ではよろしくないのだがステラの病室が隔離状態なのと、今の俺には緊急の電話がかかることがあり、特別に頼んで許可してもらった。
電話は……理事長から?
『はい、涙トレーナーです』
『たづなです、お時間よろしいですか?』
『?たづなさん……?はい、大丈夫です』
『落ち着いて聞いてください……あなたに不正やドーピング使用の疑惑がかかってるんです』
『そ、そんな……』
『もちろんそんなことはあり得ないでしょうし、理事長や生徒会でも否定されているんですが、マスコミがありもしないことを書いているようで……』
『そこまでされているんですか……』
少し現場から離れてロスに会いに行く時間だけで尾ひれはどんどん増える。
また居場所が狭くなる。
『直接お話したいことがあるので一度理事長室まで向かいます』
『わかりました……お待ちしております』
そこから学園へ行く……その前に自分のマンションによって辞表を書き上げてから理事長室へ向かった。
コンコン
ドウゾ
『失礼します、理事長、たづなさん』
『話したいこと……とはなんでしょう』
俺は辞表を取り出す……そこからはさっきの通りだ。
ため息を吐き出して呼吸を落ち着かせ、コップの水で薬を流し込む。
あの日からおかしくなったようで精神安定剤と睡眠薬が手放せない。
ほんとは彼女に会いに行くのがつらくてたまらない。
あの優しいキレイな顔が苦しそうに笑うのが……とてもつらかった。
でもそこで逃げたらトレーナーどころか人間失格だ。
自らの失敗に向き合うなどという高らかな考えではない。
でもそこから逃げたくないという考えだけだ。
先に日課を終わらせる。
レースの録画を取り出して、見る。
引きやズームのカメラを何台も見ながらウマ娘達の脚質、得意なレース運びを素早くメモしていく。
スピカのトレーナーみたいに触れば筋肉の質や状態が分かるわけではない。
リギルのトレーナーみたいに多くのウマ娘を同時に管理するだけの処理能力はない。
凡人が非凡になるために、ロスの走りにつなげるために、この学園のG1級含めて多くのウマ娘のレースとその運びをメモしている。
棚に入れられたおびただしい数のファイルはその結果だ。
ここまでしなければ俺はここまでこれなかったのだから。
日課を終わらせて、厚めのコートを着て部屋を出る、もうすぐ寒くなる時期だから以外とちょうどいいものだ。
また今日もロスに会わなくては。
……
そんな生活が続いて一週間。
リンゴを剥いているとロスが声をかけてきた。
「病院食ってさ、あんまりおいしくないんだよね」
「あぁ、味が薄いだとかなんとか」
「まるで今の私みたいだなぁ、走ることができない薄っぺらなウマ娘」
彼女から悲しそうな声が聞こえる……。
「……そんなことを言うな、昔も今も俺の希望だよ、君は」
「またそんなこと言って」
少しの間沈黙が流れる。
ステラの雰囲気が少し変わる。
「ねぇトレーナー……トレーナーは、他の担当作らないの?トレーナーならもっといい子が付きそうだけど」
俺は理事長に出した辞表と、他のウマ娘からの攻撃的な行動を考えないようにしながら言った
「作らない、少なくともロスがドリームトロフィーを取るまでは、僕の夢は君だ、君しかいないんだ」
「……そうなんだ!足、治して見せるね!……────」
「ん?今なんか言っ「な、何でもないの!リンゴもらうね!」
ロスと何気ない会話をしながら時間の流れを忘れる。
「……もうこんな時間か……ごめんな、もう帰るよ」
「まって!……トレーナーに、これ預けるね」
ロスがつけているマーガレットの耳飾りを外して、俺に渡してくる。
「私がまた走れるようになったらトレーナーがつけて」
「……わかった、必ずつけてやる」
「また来てね!待ってるから!」
「……あぁ!」
……
自室……空き教室に入ろうとすると声をかけられる。
「おい」
「エアグルーヴか、どうしたんだ」
「会長からの伝言だ『生徒会は君の味方だ、いつでも頼れ……それと、彼女を迎えるために必ず学園にいろ』だそうだ」
「それだけ伝えるために来てくれたのか……手間をかけさせたな」
「気にするな、どうせこちら側に仕事もあったしな」
ドアを指差しながらいう。
ドアには足のあとなどで変形している……。
「修理費を出すのは生徒会の仕事なのでな……」
「……本当にすまない」
「それ以上謝るな」
俺は頭を下げて部屋に入る、エアグルーヴはしばらくここにいるだろうがもう眠ることしかやることがない。
コップに再び水をそそぎ睡眠薬を飲む。
眠れるといいが。
トレーナー視点1号です、あいも変わらず誤字脱字チェックお願いします()
「ところでゴルシちゃんはどうやってここに?」(医者との会話中)
「ゴルシちゃん…もとい女には謎が多いもんだぜ!」
「謎の塊はゴルシちゃんだけで十分かなぁ」