星は暗闇で輝く【完結】   作:一口さん

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T10、決戦

 いつもより早く目が覚めて、なんだか落ち着かないままコーヒーと新聞を手に取る。

 この日が来てしまった。

 ウィンタードリームトロフィーの開幕だ。

 新聞の記事の注目すべき選手の中にステラはいない、好都合だろう。

 レースで勝ちを得られるのはたった一人だ。

 勝者がすべてを得られるのだろう、敗者に残るのは屈辱かもしれない。

 新聞を読んでいるうちに冷え切ってしまったコーヒーを一気に飲み切る。

 そろそろ時間だ。

 会場までは俺が運転して行く。

 車の方で集まることになっているから、早いうちにいた方がいいだろう。

 扉が乱暴に開けられる。

 

「ステラか?どうした、行きは車で向かうからそっちで集合だって話してただろ?」

 

「いや……なんか違和感があって」

 

 視線は下を向いている。

 足に何かあったのか!?

 すぐに座り込んでステラの足を確認する。

 

「!?足か?どこか怪我したのか?大丈夫なのか?」

 

「いやそうじゃなくて!……言葉で言い表しにくいというか、でも足は大丈夫だから」

 

「本当か?……ならいいんだが、違和感か」

 

 足に何もないならいいが、違和感か。

 座り込んでいたのを立ち上がって視線が一瞬重なる。

 あぁ、そういうことか。

 

「顔、笑ってるぞ」

 

「え?」

 

 にまにまというか、笑っている顔が漏れ出てきている。

 すぐさま小走りで窓の方に向かっていった。

 困ったように尻尾が硬直している。

 

「楽しみなんだと思うぞ、自分で隠せないぐらいに」

 

 さてと、ステラも来たし、そろそろ会場に向かわないとな。

 

「さて、車に向かおうか、行こうステラ」

 

 窓に向いたままのステラに一声かけて、車に向かう。

 学園からレース場まで向かう間、ステラは一言も話さなかったが、ただならぬ雰囲気だけは放ち続けていた。

 

 ……

 

 控室の前で待つ……久々に着ることになるだろう勝負服。

 そんなに待つことなく扉が開かれる。

 

「トレーナー、着れたよ」

 

「入るぞ……似合ってるな」

 

 勝負服は黒色がメインの服装になっている……。

 それがステラの煌びやかな金の髪を目立たせ、よりいっそう美しく見える。

 見惚れてしまいそうだ。

 

「それじゃあ私パドックに向かうから」

 

 おっと、忘れていた……ずっとそのままだったからな。

 

「ちょっとまってくれ……ずっと忘れてたしな、ステラ、頭下げてくれるか?」

 

 ゆっくりと頭が下げられる。

 信頼してくれているのがありがたいかぎりだ。

 

「耳触るぞ」

 

 預かっていた耳飾りを返す。

 これが俺を守っていてくれたような気さえしている。

 今度は俺の思いをステラに届けてくれ。

 

「耳……飾り」

 

 ステラが右耳に触れて困惑している。

 

「よし……さぁ行ってこい!」

 

「うん……見せつけるよ」

 

 パドックに向かう背中はいつもより大きく見えた。

 

 ……

 

 ゲート入り直前、マルゼンとルドルフとステラが三人集まって何かを話した後、急激にその場の空気が変わる。

 ステラの位置は大体真ん中、マルゼンが内側でルドルフが外側にいて、挟まれるようにいる形だ。

 ゲートが開いてレースが始まる。

 ゆっくりとそれぞれが狙っていた位置についていく。

 マルゼンが先頭、そこから三馬身開けてステラ……ルドルフはさらに4馬身後方、少し前のめりな差しの位置だ。

 まだレースは始まったばかりだというのに先行集団達のスピードが上がっていく。

 マルゼンを逃がさないためかと思ったがどうにも違う。

 原因は……ルドルフだろう。

 ここからでもわかるほどのプレッシャー、これを直で感じればいつも通りを発揮するのすら無理難題だろう。

 コーナーを曲がる、胸騒ぎがして、頭が痛くなってくる。

 ピリピリとした感触を胸に感じて、変な汗がじわじわと流れてくる。

 何を焦っているんだ、何を恐れているんだ俺は。

 先行集団のほとんどがペースを見誤り、三人の独壇場になっていく。

 最終コーナーが近づいてくる。

 鼓動が加速して、足元がおぼつかない。

 頼む、止まらないでくれ。

 顔をあげてステラを見る。

 

「ステラ……ステラ!」

 

 マルゼンとルドルフがステラの一歩前に立つ。

 ……負けそうになるといつもロスは下を向くんだ……。

 

「ッ!ロスゥゥゥゥゥゥ!!!!!」

 

 届け、届け、届いてくれ!

 今までずっと戦ってきたんだ。

 きっと俺の思いは……!

 ロスの顔が上を向き、まっすぐ前を捉えた。

 もう残っていないはずの足で、もう一度加速する。

 二人を抜き去って……ゴールに飛び込んだ。

 そして転んで、動かなくなる。

 関係者席から飛び出してゴールへと向かう。

 

「ロス!ロス!」

 

 少しこっちを見て微笑んで……瞼が閉じた。

 抱えて救護に向かって走る。

 絶対にあきらめるつもりはない、終わりになんてさせない、思い出したんだ。

 

 ……

 

 病院で眠ったままのロスの隣で診察の結果を見る。

 結果として、命に別状はないが無理をさせすぎた。

 ……両の足は骨折をしていた。

 だが奇跡はあった、折れ方がきれいでウィンタードリームトロフィー前の足の形に戻るかもしれないと言われた。

 どんな手を使ってもお願いします、そう懇願した。

 ロスの右手に触れる。

 ミサンガがなくなっている。

 もしかしたらこれが助けてくれたのかもしれない。

 終わりが遠のいたような気がして……少し救われた。

 目標であったウィンタードリームトロフィーを超えた。

 これからなんて想像ができない。

 ロスの頭をなでる。

 マーガレットの花飾り、花言葉の意味は……「恋占い」「真実の愛」「信頼」

 それだけではない、英語の意味も存在する、「faith(信頼)」

 そして……「secret love(秘密の恋)」

 俺自身の気持ちにも踏ん切りをつけなければならないかもしれない。

 きっとこれからも続く物語なのだから。

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