「ねぇトレーナー」
「ん?」
車椅子のままトレーナーの部屋に入る。
「トレーナーはさ、私が担当でよかった?」
「愚問だな、最高だったよ」
窓に映る橙色の空がゆっくりと暗くなっていく。
……ウィンタードリームトロフィーの後、私は病院に入院した。
意識を失ったままで、目が覚めた時には足に包帯がまかれていた。
包帯を見たときはもう走れないんだって思って、みっともなく泣いちゃったけど。
そのあと一度涙は引っ込んだのに、医者から大丈夫だと聞いてまた泣いた。
まだ終わりじゃないんだ、まだ走っていていいんだ。
トレーナーと一緒に。
ゆっくりと思い出が見える。
スカウトの時の一言や、デビュー戦、初めて勝ったG1、……花飾りを買ってもらった時のこと、ウィンタードリームトロフィーのとき背中を押してくれたこと、すべてが美しく、私の大切な思い出なんだ。
言えなかった、伝えられなかった思いを、口にしなきゃ。
夕焼けが背中を押してくれる、大丈夫、きっと言えるはず。
「トレーナー、しゃがんでくれる?」
「ん?あぁわかった」
……
低くなった顔に手が添えられて……口づけがされる。
……柔らかく甘い甘い香りがする。
不意打ちを貰った気分だ。
正面を向いて、彼女はいたずらっぽく微笑む。
「……ずるいだろ、それは」
「私は……トレーナーのことが好き」
まっすぐに目があう、貫かれるような感覚。
吸い込まれるような青い瞳。
大人っぽく、色っぽい服、薄くつけた化粧。
普段なら動きづらいなんていって着ない長いスカート、黒いコートと中から見える白いセーター、見惚れていて……時間が止まったように感じる、本当はそうでないことを伝えてくるように窓に映る夕焼けが落ちていく。
「俺から言わせてくれ……ロス、俺と結婚してくれ、今は無理でも、いつか」
ごまかしていた感情だ。
でも大切な感情なんだ。
伝えなきゃいけない。
いつから惹かれていたかなんてわからない。
きっとはじめは走りだけだったんだろう。
今は違う、ロンリーステラが好きだ、ステラが好きだ、ロスが好きだ。
一緒に歩んできた時間の分だけ、彼女に惹かれた。
虜になるっていうのはきっとこういうことなのかもしれない。
きっと俺はトレーナーを続ける、でも俺にとっての夢は……ロスだ。
ここは変わらない。
いつまでも、いつまでも二人で。
「……はい」
ゆっくりとした返事に対して、少しだけほっとする。
少し泣きそうな彼女の顔は……暗い部屋の中で、きらりと輝いて見えた。
「星は暗闇で輝く」
完結です