星は暗闇で輝く【完結】   作:一口さん

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神様は笑わない


U3、絶望

 トレーナーの帰る背中を見たあの日から妙な胸騒ぎは収まらない。

 恐怖や絶望、悲哀や落胆の様々な黒い感情が胸の中で暴れているようだった。

 ただそんな不安な感情を拭えるような話が合った。

 学園に戻れる日が決まったのだ!

 そうと決まればしっかり安静にしないと……。

 きっとトレーナーのことだ、多分骨折中のリハビリも含めてドリームトロフィーまでのトレーニングを作ってるだろう……。

 全部完璧にこなして、ドリームトロフィーも取ってやる!

 

「ただ一つレースで不安があるとすれば……」

 

 私はそっと折れた足をなでる。

 この足が走ってくれるか……。

 

 ……

 

 ウマ娘の怪我は致命的で、強いストレスがかかる。

 つまりトラウマになりやすい。

 多くのアクシデントが存在するレースで、実際にアクシデントにあって復帰後に復帰前と同じように走れるウマ娘はいないとさえ言われている。

 怪我をしたくないという本能がそうさせているんだろう。

 ましてや私はドリームトロフィーを狙って走るのだ。

 一筋縄でいくような相手がいないことを考えると……

 

「復帰したらすぐに体もとに戻さなきゃ……」

 

 退院の日が決まったという報告は私のポジティブな感情に作用して私の足はめきめきと治っていった……ような気がする。

 本当なら3日後だけど……。

 私の足は病院じゃなくても大丈夫レベルまで回復した。

 急に学園にも戻ってトレーナーをびっくりさせてやろう。

 私の心は今まで不安が忘れられるほど明るい気分になっていた。

 

 ……

 

 学園の門の前まで来る……。

 私が早く帰ってこれたことはルドルフにもゴルシにも話していない……もちろんトレーナーにも。

 トレーナーは空き部屋を借りてそこで普段から過ごしているのは聞いてたのでまっすぐそこに向かう。

 途中途中で妙にひそひそされてるような気がするが……いったいなぜに?

 まぁそんなことは些細なことだ。

 

「ここかぁ……ん?」

 

 扉に思いっきり足で蹴った跡が……これトレーナーの足跡じゃないよね、多分。

 疑問は湧いたがともかくトレーナーに会いたい。

 ドアノブに手をかけ思いっきり開く!

 

「ただいま!トレー……あれ?」

 

 部屋にトレーナーの姿はない。

 テーブルの上に紙の束を発見!

 

「なになに……ロンリーステラドリームトロフィー用トレーニング」

 

 予想通りというかなんというか……。

 私のことを思ってくれてるって思って、顔が熱くなるのは私の悪いところ……なのかもしれない。

 その場にいないだけで学園のどこかにはいるだろう、先にルドルフでも驚かせるか。

 多分生徒会室だろうのんびり歩いて行くとするか。

 

「ん?あの後ろ姿は……!」

 

 廊下からまっすぐ見える階段にトレーナーが見える。

 まだ走っちゃいけないのでちょっと早歩きで……。

 階段の近くまで来たタイミングで……上からトレーナーが降ってきた。

 

「え……?」

 

 大きな音がなって、血の気が引いていく。

 呼吸ができているかもわからない。

 

「トレーナー?返事してよ!」

 

 彼は何も答えない。

 血は出てない、きっと大丈夫なはずだ。

 

「そこの二人!担架を持ってきて!」

 

「は、はい!」

 

 すぐに担架を頼む。

 嫌だ、せっかく私の足も治るのに。

 募る不安で目の前が真っ暗になる感覚がする……

 

「ステラ!」

 

「ッ!ルドルフ……」

 

 ルドルフとエアグルーヴ、ナリタブライアンが騒ぎを聞いてやってきた。

 そのタイミングで担架が運ばれてくる。

 生徒会の2人が担架にトレーナーを乗せ、運ぶ。

 その場に私とルドルフだけが残った

 

「ルドルフ……トレーナーが、トレーナーがぁ……!」

 

 言葉が出ない、呼吸がしにくい、ピントがぼけたように安定しない。

 私はただ、救われない目の前の現実に涙をこぼすしかなかった……。

 

 ……

 

 涙が止まったころにはトレーナーは病院に運ばれた後だった。

 あぁ……どうしてこうなったんだろう?

 希望が絶望で黒く塗りつぶされたような感覚が私を蝕む

 不安が不安を加速させて、ありもしないはずのことも想像してしまう。

 いやだいやだいやだ……。

 きっとトレーナーなら大丈夫……会いに行かなくちゃ。

 

「ステラ!」

 

「な、なに……?」

 

「前を向け!暗い考えを捨てろ!……君のトレーナーならきっと大丈夫だ」

 

 ルドルフの言葉ですっと視界が広くなったような感覚がする。

 

「ありがとう……」

 

「会いに行くんだろう?泣いたままだと彼も不安になってしまうぞ」

 

「うん……うん」

 

 もう一度飲み込むように考えを整える……行こう!

 

 いつの間にか合流してきたゴルシちゃんとルドルフと一緒に病院へ向かう。

 病室は私の入院してた部屋のすぐ近く……ほぼ隔離の場所だ。

 医者はマスコミが来るとまずいから……と言っていた。

 どういうこと?マスコミからの何かがあった?

 トレーナーが目覚めたらいろんなことを聞かなくちゃ。

 病室の扉を開くとトレーナーはベッドの上で眠っていた。

 

「トレーナー……」

 

「ひとまずは無事です、命の危険はありません……」

 

「……目覚めるのはいつになりそうですか?」

 

「出血もありませんし、そう時間がかかるとは思いませんが……おそらく精神的な面が関わるかと」

 

 精神的な面が関わる……いったいどういうことなのだろう。

 私は入院中のトレーナーを一切しらない……。

 ゴルシちゃんに私の怪我に関する話があるかを聞いたとき、大したことは書かれてないと言ってた。

 それが嘘だったり、もしくは私に関することはないけどトレーナーに関することはあるって意味合いがあるなら……。

 また不安の種が生まれる。

 

 ……

 

 医者の話はほとんど覚えていない。

 一通りの話が終わった後、私は部屋を飛び出して談話スペースに向かう。

 入院中一度も来たことがなかったそこにはいろんな雑誌がおかれていた。

 一冊つかんで読む……トレーナーは不正をしているなどどいう妄言が書かれている。

 ほかの雑誌も手に取って読む……トレーナーは素質をもったウマ娘を潰したなどときつい言葉が書かれている。

 ……もう一冊読む……トレセン学園生へのインタビューにも似たようなことが書かれていた。

 トレーナーはこんな仕打ちを受けたのに私に会いに来て一切の苦労を見せないように笑っていたのか。

 

「トレーナー……」

 

 また涙が出てくる。

 気が狂いそうだった。

 ルドルフやゴルシちゃんが小数なだけでおそらく多くのウマ娘にこんな対応をされたのかもしれない、そう思いたくはないがこんな記事が出回る時点でほとんど答えのようなものだろう。

 トレーナーのいる病室に戻ってもう一度トレーナーの顔を見る。

 ……苦しそうだった。

 苦悶や絶望の顔、私の前では決して見せなかった顔……

 

「隠すぐらいなら……言ってほしかったな」

 

 トレーナーの手に何か握られているのが見える……。

 耳……飾り、私が預けたマーガレットの……。

 

「うぅ……」

 

「!?トレーナー!」

 

 ゆっくりと目を開けて私達を見る……。

 

「ルドルフ……ゴルシ……君は……誰だ」

 

「え……?」

 

 ガラスが砕けるような感覚、体が麻痺して動かなくなる。

 

「おいおいおい……冗談にしたってもっとあるだろ!」

 

「さすがにそれは笑えないぞ、涙トレーナー」

 

「いや、本当にわからないんだ……」

 

「わ、わた……し」

 

 言葉がでない、呼吸ができない、前が見えない……。

 思わず部屋を飛び出した……。

 

 ……

 

 走ることのできない足でひたすら歩く、なにも考えたくない。

 トレーナーのいた空き教室に入る……。

 乱雑におかれたファイルがいくつかと、飲みかけのコーヒー……そして私専用のトレーニングメニュー。

 一度顔を出した時のままだった。

 

「どうしてこうなるのかなぁ」

 

 呟きには誰も答えない。

 ペラペラとトレーニングメニューを眺めていく……いったいいつまでそうしていたのだろうか。

 

「なぁ」

 

「ヒャッ!」

 

 体が驚きではねる。

 

「と、トレーナー」

 

「俺は君のトレーナーだったんだよな……すまない」

 

「……なんで謝るの?」

 

「……わからない、でもそうすべきだと思った」

 

 自信がなさそうにぼやいたトレーナーの顔は不安ですと顔に書かれているようだった。

 

「……私は、ウィンタードリームトロフィーを取りたい、まだトレーナーでいてくれるなら手伝って」

 

 まだトレーナーがいてくれるなら……記憶がなくてわからないなら……。

 今度は私が助ける番だ。

 

「俺は……君のトレーナーには戻れない」

 

彼は俯いて、そう言った。

 

「ここに戻る途中で調べた、君の足は写真で見てもひどいものだった」

 

やめて、それ以上言わないで。

きっとトレーナーは記憶があっても同じことをいう。

 

「あの怪我は俺のs「それ以上は言わないで」

 

「言ったら私」

 

もう立ち直れなくなるかもしれないから──。

そこまでは怖くて自分でも口にできなかった。

 

「まだそう思ってるならちゃんと私と一緒に戦って、諦めてそこで終わりになんてしないで」

 

そうだ、させてたまるものか。

怪我も治してトレーナーにも思い出させてみせる。




あいも変わらず誤字脱字チェックをおねが

トレーナーの記憶が飛びました、ご都合主義とか言わないでください
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