Next stage of another dimension   作:烊々

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最終話

 

 

「……あれ?」

 

 今日も女神ネプテューヌへの挑戦ミッションに来たネプギアは、電子掲示板の前で足を止めた。

 ここ数日、自分以外誰もやっていなかった筈のクエストが、先客があり受付不可になっていたからだ。

 

「他の誰かがやってるってことだよね……?」

 

 考えるより見た方が早い、とネプギアはコロシアムの観客席へ向かう。

 近づくにつれ、ネプギアはあるプレッシャーを感じていた。

 

「もしかしてお姉ちゃん……ネクストフォームになってる……?」

 

 ネプギアは少し悔しさを覚えていた。

 今の自分は、ネプテューヌの通常の女神化の本気なら引き出せるが、ネクストフォームにまでさせることはできない。

 ではそんな自分にできないことをやってのけたのは誰だろう、とネプテューヌの対戦相手へ目を向ける。

 

「あれは……」

 

 ネプギアは、自身が感じていたのは二人分のネクストフォームのプレッシャーであったことに気づいた。

 しかし、ネプギアの目に映る人物はノワールでもブランでもベールでもない。

 では誰のネクストフォームか。

 ネプギアは、なんとなくその人物の雰囲気から正体を感じ取った。

 

「……プルルートさん?」

 

 

 

 

 変身時の光が薄れ『ネクストアイリス』が姿を現した。

 ネクストフォームに共通されるように、肌の露出度は大きく抑えられ、装甲のようなパーツが脚部と腕部に装着されており、背部ウイングはアイリスハートのものから大幅に形を変え、左右五対の能動性空力弾性翼からシェアエネルギーによって紫色の光の翼が形成されるものとなっている。

 

(これが……ぷるるんのネクストフォーム、『ネクストアイリス』……!)

 

 アイリスハートの特徴でもあった、これでもかというほどの苛烈な凶暴性は鳴りを潜め、変身前の穏和な雰囲気すら感じられる。

 しかしネプテューヌは、その裏にある底知れぬ闘気を確かに感じていた。

 いつもは天真爛漫で自由奔放な自分が女神化すると落ち着いた性格になるが、その心の闘志は更に激しさを増すように。

 

「……あなたもステキよ。ぷるるん」

 

 ネクストアイリスを見たネプテューヌは、プルルートに聞こえないぐらいの声量でそう呟いた。

 

「行くわよ、ねぷちゃん」

「受けて立つわ、ぷるるん」

 

 声を掛け合った直後から、常人では目で追えないほどのスピードで動き回り、ぶつかり合う二人。

 紫色の残像が、コロシアム全体を彩る。

 

(……零距離で正面からヤり合ったら、流石にねぷちゃんには勝てないわね。なら……!)

 

 一度距離を取ったプルルート(ネクストアイリス)の新たな蛇腹剣が展開され、ネプテューヌに差し向けられる。

 

(来る……っ! ……あら?)

 

 ネプテューヌは蛇腹剣のある違和感に気づいた。

 

(ワイヤーは……?)

 

 蛇腹剣の刀身を繋ぐワイヤーが存在しないのだ。

 ネプテューヌは無軌道に襲い来る刀身に一瞬は驚きながらも、似た武器を思い起こす。

 

(なるほど……ネプギアのビット、ノワールのナナメブレイドみたいな感じね)

 

 自分の視野だけではなくプルルートの視野を考慮しながら、ソードビットの動きを予測し、的確に捌いていく。

 数は多いものの、ネプギアのビットのような火力もなければ、ノワールのナナメブレイドのような機動力もない。プルルートのピットは、モンスター程度なら手を下すことなく切り刻めるほどの性能ではあるが、ネクストフォームとなったネプテューヌに届くことはない。

 

(……けど、ぷるるんの新しい武器がこの程度のはずがない)

 

 加えて、プルルートの攻撃はどこか積極性がなく散発的なことに、ネプテューヌは違和感を覚え警戒をし続ける。

 

(……⁉︎ 何か来る……っ!)

 

 その時、ネプテューヌは"何か"を感じ取り、急いで旋回してプルルートのビットの包囲から脱出する。

 

「……あら、気づかれちゃった?」

 

 そして次の瞬間、ビットとビットの間にビームの刃が繋がった。

  

「……これは!」

 

 弱者はビットで切り刻まれ、ビット攻撃を乗り越えられる強者もビーム刃を繋げて切り刻む、隙を生じぬ二段構え。

 つまり、通常の蛇腹剣のワイヤー部分がビーム刃によって繋げられるものが、ネクストアイリスの操る新たな武器『ビーム蛇腹剣』である。

 通常の女神化の蛇腹剣にはあった、敵を痛ぶって虐めるという"遊び心"は失われており、ネクストアイリスのビーム蛇腹剣は言うならば洗練された暴力の塊。

 

(動かなければ大ダメージをくらってたわね……)

 

 しかし、相対すらネクストパープルは、強者を更に超えた強者。ビットとビーム刃だけでは倒せない相手。

 だからこそ、戦う相手としては、これ以上なく燃えるというもの。

 互いに昂る心で表情が緩むも、すぐに整え直し、敵の次の行動に備える。

 

「そらぁっ!」

 

 プルルートは射出していた一旦ビットを回収し、そして蛇腹剣をまた大きく振るうと、その動きに反応し、ビットが飛び交い、ネプテューヌを囲いながら攻撃していく。

 

「……」

 

 ネプテューヌが意識していることは三つ。

 一つはビットの波状攻撃を捌くこと。

 もう一つはビット同士を繋げるビーム刃の攻撃範囲に入らないこと。

 そして最後の一つは……

 

「はぁぁぁっ!」

 

 ……ネクストアイリス本体の攻撃。

 『ハープーンスピア』の爆撃がネプテューヌを襲う。

 

「……『ブレイズブレイク』ッ‼︎」

 

 しかし、予測していたと言わんばかりにネプテューヌは反撃に刀を振るう。

 爆炎と爆炎がぶつかり合い、視界が阻まれる。

 

(慣れてきたわ。ぷるるんの剣は、刀身同士をビームで繋げる直前の一瞬、シェアエネルギーの"溜め"がある!)

 

 加えて、溜めの段階では刀身を静止させなければならない。

 時間にすれば一秒にも満たないが、女神同士の戦いにおいてその隙はかなり大きい。

 早くもネプテューヌは、プルルートのビーム蛇腹剣を攻略し、一気に距離を詰める。

 

「『クリティカルエッ……きゃっ!」

 

 すると、ビーム刃が鞭のようにしなやかに動き、ネプテューヌを捉えた。

 

「少し、油断したわね、ねぷちゃん」

 

 ネクストアイリスのビーム蛇腹剣はネプテューヌの想定を超えた、刀身ビット、ビットを繋げるビーム刃、そしてビーム刃自体を動かす、二段ならぬ三段構え。

 その隙にプルルートが仕掛けたのは、攻撃ではなく拘束。ビットがネプテューヌにまとわりつき、自由を奪う。

 

「ぐっ、しまっ……!」

「さぁ、食らいなさい!」

 

 振り下ろす脚を合図に、無数の雷撃が相手を襲うプルルートの必殺技(エグゼドライブ)『サンダーブレードキック』がネプテューヌに襲いかかる。

 

「特別に延長サービスよ!」

 

 そして、追撃に投げキッスから発生したハート型の術式がビーム砲を放ち、ネプテューヌを爆風が包む。

 ネクストフォームであっても、同じネクストフォームの必殺技をまともに受ければタダでは済まない。

 

(……っ、ネクストフォーム、とんでもない消耗ね……けど、このまま押し切れば勝てるわ……!)

 

 瞬間、閃光が煌めき、プルルートの身体に衝撃が走った。

 

「……え?」

 

 プルルートがその衝撃の正体を、ネプテューヌ最強の必殺技(エグゼドライブ)『次元一閃』に斬られたものだと理解した時には、既にダメージで変身が解け、その場に倒れ込んでいるのだった。

 

「……確かに、今のは負けるんじゃないかと思うぐらいのダメージだったわ……」

 

 ネクストパープルの並大抵の攻撃では傷がつかない筈のボディスーツは所々焼き切れており、背中のプラネットリングは、何箇所も破損していた。

 そして『次元一閃』の反動で変身が解け、ボロボロの身体をなんとか剣で支えながらも、ネプテューヌは立ち続ける。

 

「……けど、これがわたしの『次元一閃』、必殺技(ネプテューンブレイク)を超えた必殺技(エグゼドライブ)だよ、ぷるるん」

 

 ギリギリの戦いを制した勝者は、ネプテューヌだった。

 

 

 

 

 激闘から数日。

 

「うわーん! 終わらないよー!」

 

 本気のネクストフォームでの戦闘によるシェアの消費量は凄まじく、その回収のための仕事にネプテューヌは追われていた。

 

「ぷるるんも手伝ってよー!」

「え〜、あたしねぷちゃんにやられたダメージでまだ動けな〜い」

「何日も前のダメージがまだ残ってるわけないじゃん! ていうかぷるるんが変身に使った分のシェアも引かれてるんだよ! それに、ぷるるんが向こうに帰る分のシェアも稼がなきゃだし……」

「ごめんごめん冗談だよ〜。お手伝いするね〜」

 

 プルルートはネプテューヌの隣に座り、仕事を手伝い始める。

 

「……ね〜、ねぷちゃん」

「なーに、ぷるるん?」

「次は、負けないからね」

「受けて立つよ。いつでもね」

 

 

 

 

 

 かくして、神次元の守護女神たちも進化を果たした。

 超次元の女神には寸前で届かなかったものの、肩を並べて戦えるほどの強さを手に入れた。

 ある時は友として、ある時は好敵手として。

 次元を超えて影響を与え合い、女神たちは進化し続ける。

 

 

 

 

 

   Next stage of another dimension  

 

          -完-

 

 

 

 

  





 ノリと勢いで始めたこの作品も、ようやく終わらせることができました。ありがとうございました。

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