カバネ。それは人間だったものが怪物となって蘇り、人の血を喰らうさまよう死体。
奴らは体に傷をつけても直ぐに塞がるうえ、たとえ頭部を切り離しても活動は止まらず、斃すには唯一の弱点である心臓を破壊するしかない。
しかし、その心臓の周囲は『鋼鉄皮膜』という固い組織に覆われており、刀はおろか、下手な銃弾ではカバネを容易に仕留める事などまず敵わず、一撃で仕留めるには熟練した剣術か、同じ箇所へ銃弾を複数発撃ち込む射撃の腕が不可欠となる。
つまるところ、カバネに対処できる者など一握りの猛者を除けば、あとは恰好の糧にしかなり得ない為、大半の人々は出くわさぬように閉じこもるほか無い。これが世間一般に広まっているカバネの生態とその対処法とされている。
〜介〜
「はあ……っ! はあっ……!」
「グルル! グァウ!」
燃え盛る家屋が崩落する中、泣きじゃくる赤子を胸に抱いて走り続ける一人の若い女。その背後を、化け物──カバネが追う。
つい先程まで平和だった。
皆が協力し合い、笑いの絶えぬ、自然に溢れた長閑な村であったというのに。
前触れも無く現れた奴等の襲来は、瞬く間に村を絶望と恐怖に染め上げていった。
そこかしこから上がる老若男女の断末魔が、火煙と共に鈍色に曇った遥か上空へと消えていく。
痛みに耐えかねてか、もしくは助けを求めるものか。悲痛な叫び声が耳に届くたび両脚が震え上手く力を込められず、まともに走れなくなっていくのを女はひしひしと感じ始めていた。
やがて、脚の力も抜けて地面にへたり込んだ女と泣き止まぬ赤子は唯一の逃走手段を失い、疲れも知らず唸り続けていたカバネに追いつめられる。
「グルルル……」
「どうしてこんなことに……」
大した暮らしは出来なくとも、愛する夫と我が子がいればそれで幸せだった。他の多くは望んでなどいなかったのに……神様、何故私たちはこの様な仕打ちを受けなければならないのか。女は胸中でそう嘆く。
仮にそうであるならば、傍目に見ても厳酷な神罰だろう。
彼等村民は悪行を働いたわけでも無く、神に邪な願いを立てた訳でも無いというのに、この結末はあまりにも救われない。だが現実は彼等に非情を突きつけた。
そして、女もまた悲惨な最期を迎えようとしている。
「お願い、あなた……やめて……」
腰が引け、恐怖に震える体を逸らすように赤子をより強く抱きしめた女が情けを乞うのは、悍ましい化け物へと変わり果てた最愛の夫であった。
だが夫は言葉の意味を理解など出来ぬどころか、目の前の女を唯の餌としか認識しておらず、既に彷徨う死体と化している彼には最早カケラの理性や愛情も残ってなどいない。カバネを突き動かすのは満たされぬ吸血衝動唯一つ。
「グァゥ……グルル……」
女の哀訴など聞き入れる訳もなく、徐々に距離を詰めてくるカバネ。唸り声を上げる口もとから止めどなく溢れ出る涎を拭いもせず、極上の獲物を前に鋭利な牙を覗かせる。
カバネとなってからまだ血の一滴も口にしていない彼の飢餓感と苛立ちは、とうに限界を超えていた。
「お願い……。この子だけは……!」
「グァアウ!!」
「っ!」
一際大きく唸り、爪牙を向けて飛び掛かってきたカバネを前に、女は赤子を包む様に抱きしめ、襲い掛かる痛みと恐怖に備えて頭を伏せる。
「グァウ!?」
「…………?」
しかし、数秒ほど経っても痛みや衝撃は訪れず、怪訝に思った女は正面を仰いだ。
「グ、グルァ……」
視線を戻した先に広がった光景に女は自分の目を疑った。
先程まで捕食者だった筈のカバネが、身の丈2メートルに迫る、頭から膝下まで覆い隠す黒の外套を纏い、背に150センチ程の一際輝く金塗りの金棒を携えた大男らしき者に片手で頭を掴まれ、軽々と持ち上げられていたからだ。
例え大男が体格に恵まれた力自慢だとしても、常人の数倍の膂力とタガの外れた凶暴性を持つカバネに素手で挑むなど、蛮勇どころかただの死に急ぎでしかない。というか空前絶後の前代未聞である。
「な、何がどうなって……」
これは夢かはたまた現実か。短時間に恐怖と困惑に晒された女の頭は目の前の状況に全く思考が追いつかず、ふと疑問の声が溢れ出す。
そんな女とは裏腹に、今の今まで泣いていた腕の中の赤子は大男の姿を認識するやはたと泣き止み、興味深そうにまじまじと見つめた後、にこやかに微笑んだ。
しかし、より不可解なのは頭を掴まれているカバネの動きだった。
カバネの頭は大男によって動きを制限されたにも拘らず、首から下を女の方に向け、ひっしに手足をばたつかせているのは一体どういう事なのか。
カバネは直近の人間を一番に襲い、ある程度血を喰らったら次へと獲物を変えるのが一般的だが、こと現状に於いてはその例に当て嵌まらない。今一番に襲うべき標的は、自分の頭を鷲掴みにしている大男だというのに。
このカバネが女の夫であった名残り故の執着か、それとも別の理由があるのか。いずれにせよ、今は動きを足止めをしてくれている謎の大男に自分と赤子の行く末を託すほか無かった。
「グルァ! グァルル! グァア──」
「……え」
直後、女が絶句する。
尚ももがき続けるカバネをじっと見据えていた外套の男はやおら拘束を解いた刹那、背中の金棒を手にし、カバネに目掛け真横から躊躇無く振り回したのだ。
勢いよく振り出された金棒が、暴風の吹き抜けた様な風切り音と共にカバネの胴体を捉え、振り抜かれたと同時に、銃声の様な耳を劈く破裂音が鳴り響く。
凄まじい衝撃音に違わず、カバネの上半身は風船の如く四方八方に四散した。
カバネを殺したことに露ほどの憂いも無いのか、男は振り抜いた金棒を片手に持ち替え、自身の肩へと小刻みに当てては口笛を不思議な曲調に乗せて吹き出す。
その人ともとれぬ軽薄な行動と、カバネになってしまったとはいえ、愛した夫を当たり前のように殺された事への怒りが、呆然としていた彼女に図らずも声を荒げさせた。
「ひ……人殺し! よ、よくも私の夫を……!」
そう罵倒をぶつけた直後、男は口笛を止めて徐に女へと振り向く。次いで、僅かに震えながらも真っ直ぐ睨む彼女の下までゆっくりと歩み寄り、黙ったまま見下ろす。
目深な外套の頭巾を被っているためか、暗がりで顔が全く見えず、大男を見上げる女からでも彼の表情を窺い知る事は叶わない。
「──はっ!? す、すみません! あなたは命を救ってくださったのに、私なんという暴言を……すみませんでした。……それと、私とこの子を守って下さり、本当に……ありがとうございます……!」
自分は何を言っているのか。
衝動的に出て来た非難とはいえ、目の前の大男が過程はどうあれ結果的に自分と我が子を救ってくれた恩人でもある事を思い出し、先刻の自分の軽挙妄動を内心で恥じつつ、男へ即座に謝辞を述べた。
「あ、……あなたは一体?」
「………………」
しかし、女の誰何に一切の返答も示さず、十数秒ほどの沈黙を続けた後、手を伸ばして笑い掛けていた赤子の頭に手を置き、ゆっくりと慈しむ様に撫で始める大男。更には何度もほっぺを突き、何処かご機嫌な雰囲気だ。一先ずは機嫌を損ねられずに済みそうだと、女はほうと胸を撫でおろす。
よく見るとその指には丁寧に包帯が巻かれ、指抜きの手甲を嵌めており、先程の圧倒ぶりからは考えられぬ装いに、こんな人が怪我を負うほどの相手がいたのかと女は少し訝しんだ。
すると、すぐさま手を外套の中へと引っ込めた男は立ち上がると同時に踵を返す。
「あ、あの……!」
名前を聞き出さなければという義務感に駆られ、女が歩き出そうとした男の外套の裾をとっさに掴んで引き留める。
瞬間、歩みを止めた男が背中越しに振り返った直後に突風が吹き抜け、目深に被っていた彼の頭巾部分がバサリと外れる。
遭遇からずっと隠されていたその中身が顕となり、真実を目の当たりにした女は二度目の絶句を余儀なくされた。
取れた頭巾から現れたのは、誰もが見覚えの深い木彫りの
確かに女も見慣れてはいる。見慣れてはいるが、こんな場面で合い見えるなどとは夢にも思わないだろう。一体この男はどんな心持ちでひょっとこの面など着けているのか。
いや、そんなことよりも今はこの人の名前を聞かねばなるまい。
「え、と……あ、あなたのお名前は!」
「…………」
「ま、待って! せめてお名前を……!」
呆気に取られていた女の呼び止めを鮸膠もなく黙殺し、外套を払うように翻した男はそれ以降一度も振り返ることなく、燃え盛る村の中へと姿を消して行った。
男が去った村の方を見つめたまま立ち尽くす女と、母親に両手を伸ばして笑う赤子の後ろで、風に揺れる木のざわめきだけが、静寂な夜空の下際立っていた。
〜介〜
オッス、オラカバネ! 多分転生者!
ていうのも前世の記憶殆ど無いのに、ここがあのカバネリの世界であることはすぐに分かったんよね。
つまり自分が前世で何者だったかなんぞほぼ憶えて無い。興味ないな。(クラウド感)
あ、こういうサブカル的内容やネタは覚えてるんだねしょうもない。
まあ経緯を語るなら、あ、ありのまま(中略)目が覚めたら山の中でカバネになっていた……!
え、何でカバネの分際で理性が残ってるのかって? 知るかドンドコドーン! 因みに言葉は喋れねえよ! 他のカバネと一緒でグルルとかしか唸れなかったわ。はー、つっかえ!
それにしてもカバネってアンタェ……モブの人間とかならいざ知らず第二の人生の門出がカバネって何? これじゃメインキャラに逢えても六根清浄まっしぐらよ? せめてモブとして甲鉄城にくらい同乗させろよ。
しかもなんだこの前世とは違うと分かるであろうあからさまな恵体はよぉ! いつもの感じで動かそうとしたらくそラグいぞこの体! まだ定着してないの丸わかりだぞ転生システムガバいな! 早急にメンテ入れ! 詫びカガチ一万個持ってこい! あと焼きそばパンな!
おれにはな、あの海門決戦後の甲鉄城の一角で行われた、生駒と無名ちゃんの
一先ずはこの半裸姿と、出くわした人が即行で反乱狂する見た目をどげんかせんといかん。
ここは幸いにも森の中。素顔を隠すお面を作るには打って付けの材料がそこら中に逞しく聳え立ってるんだね?
つうわけで早速取り掛かるか。カバネの膂力とこの無駄に良い体格なら、大木の伐採なんぞ朝飯前っしょ。
数時間後、立派なひょっとこのお面が完成。両端に、尖った岩で穴をくり抜いて、細くした木の皮を束ねて紐を作り、穴に通して結ぶとあら不思議! 顔を隠す便利アイテムの出来上がり!
――アイテム、ひょっとこのお面。着け心地はナシ寄りのアリ。
よし、後は服だよ服! こんな上半身丸出しで過ごせる訳ないだろ常考! 弱点の光る心臓がまろび出てるでおじゃる!
おいそこ! 鋼鉄被膜がどうこうの問題じゃないんだよ! 個人的モラルと身バレの問題なんだよたわけめ!
大分歩いて来たが未だ山から抜け出せず、森の良い香りとマイナスイオンしか感じない。
せめて村とかが見つかればいいが全く人の匂いしてこないんだよなあ。まじでどこら変なんだよここ。あまり表舞台から離れてたら洒落にならんぞいつ会えるんだよ。二人のアレを見逃すわけにはいかんのですぞ!
そもそもカバネリの世界だとは分かっていても、今がいつの時系列なのかも分からんわけで……おいおいまさか既に本編の後日譚ですとか勘弁願いますよ?
……お、人が建てたらしき祠を発見──にしちゃでけえな。あと古い。一体こんな山奥に何を祀ったんだか。
中を覗くと、其処には一振りの大きな金棒が祠の中心に公然と佇み、その両脇には大きな二つの金のた──これ祀ったやつバカじゃないの? 神様なめんなよ。
戒めとして真ん中の棒は貰っていこう。そうすりゃ金の玉が二つだけ。これなら神聖な祠っぽいよね、うん。それに身を守る武器も丁度欲しかったところだし。
よし、気を取り直してガンガンいこうぜ!
気が付けば山には夜の帳が下りていた。でも自然と疲れや空腹感も無いし眠気もさっぱりなんだよな。さすがカバネの体だわ、そりゃ朝も夜も見かける訳なのん。
飢餓感による吸血衝動も無いのは好都合だったわ。あれあったらメインキャラ達と死闘を交わす未来しか無いからね。
──お、なんか新しい匂いが漂ってきたくさいな。この匂いは……物の焼ける匂い、つまり火だ!
ていうことはつまりあれやろ? 人間がいることの証左でありけるわよね? こうしてはおれん! まともな衣服を見繕ってこのみすぼらしい半裸の変態カバネから脱却せねば!
おれは水を得た魚のごとく駆け出した。
あ、カバネじゃ相手にされないじゃん。
人里に入った際のコミュニケーション方法を考えずに近くまで来てしまったが、目の前の光景にそんな思考は一瞬で払い飛ばされた。
「や、やめ、ぐわああああぁああぁああ!!」
「きゃあああぁああぁぁあ!!」
「グァアウ!」
「グルルァ!」
村は辺り一面火の海と化し、あちこちから聞こえてくる人の断末魔と唸り声。見紛う事なくカバネに襲われてるやんけ。これもうわかんねぇな。(人命)
地獄の縮図ともいえる阿鼻叫喚な状況を前に、おれは何の気概を示すことなく、当初の目的を果たす為迅速に動きだす。変なところで冷めてんなこいつ。(他人事)
狙うはいっとう大きな家屋。どうせなら上等な品を貰っていきたいのがひとのサガってもんだからな。カバネだけど。
お、開いてんじゃ〜ん。(歓喜)……なに? カバネの癖に火事場泥棒なんかすんなって? たわけが! 正攻法で服なんか手に入るわけないだろいい加減にしろ!
差し当たってはあれよ、一応指先まで血管光ってるから手に包帯を巻きたいな。救急箱でもありゃ……ん、あっちから薬品の匂いがするな。この茶箪笥か? お、救急箱みっけみっけ。さっそくご開帳! 包帯は……ありますねぇ!
えーと、確かこう巻いてって……ふむ、我ながら完璧な出来映え。なんか手に巻いただけで一気に厨二臭くなって来たな。
しばらく家の中を物色していると、大きな箪笥を発見。こ↑こ↓が怪しいな。どれどれ、中を拝見しますかな。
ビンゴ! まったく使われた形跡の無いフード付きマントと上下セットの真っ黒い衣服を発見! おまけに指抜きの手甲まで──いてててて。包帯と指抜き手甲の組み合わせとか最高に頭痛が痛くなったぞ。
見た感じおれで丁度のサイズだな。入ってきてた戸口の高さからして、家主にそんな高身長はいない様な気もするが、外国への輸出品にするつもりだったのか? ここがどういう家柄でどんな経緯で入手したかなんぞ知らんがな。興味も無い。(クラウド感 再)
ま、この丁度いい身包みも見つかったところで、さっさとお暇しま──
「誰か! 誰かああぁ!」
「グルァァアウ!」
んお、誰かの叫び声だ。おれがここに来て暢気に物色し始めてから彼此一時間ほどは経っているはずだが、まだ生き残りいたんやな。
服とマントを身につけて金棒を背負い直し、戸口から外へ顔を出して見渡すと、村の外れに駆けていく一人の若い女と、男だったらしきカバネが、女の人の後を追う様におれの前を横切って行った。
助けを求めてた割に、こっちに見向きもしなかったな。……べ、別に泣いてなんかないんだからね!
んー、この村見覚え無いし、ここの村民を助けようが助けまいが恐らく本編には何の支障も無いんだろうなあ。
当初の目的は達成してるし、今が本編のいつ頃なのかも分からない以上、無駄足はなるべく控えたいところなんだが……ま、おれカバネだし? 人を襲うどころか人命救助とか柄じゃないし? 身から出た錆は御免被りたいかな。
じゃ、そゆことで。アリーヴェ帰ルチ! (さよナランチャ)
あのさぁ……全然違うじゃん! 言ったよね!? 関係無いから御免被るって。一刻も早く生駒達に合流しなきゃって。さっきの女の人が逃げてった方角に向かってるこの状況は何!? この身体、おれの気持ちと裏腹に凄い勢いで走っ行くんだけど!? カバネの癖に何の使命感に燃えてるの!? 血なの!? 血が欲しいの!? 実質カバネの体なんて死んでるんだから栄養なんか要らないじゃん! もういいよ!! 私カバネやめる!! ……茶番はこのくらいにしとこ。
まああんなところに鉢合わせちゃったらさ、やっぱ腐っても元人間だから普通に不愉快なんだよね。ましてや女が涙流しながら助けを求めてるんだぜ? 見捨てるなんざ男が廃るってもんよ。
別に? 夜目の利くカバネアイで捉えた女の人が美女だったからとか、そんな浅ましい理由じゃないし? あくまで心に人としてての譲れぬ矜持があっただけだから。譲れぬ矜持があっただけだからね? 譲れぬ矜持があっただけだよ? (あのやずやでさえ二回)
「お願い……。この子だけは……!」
そんな自分へのどうしようもない言い訳してたら追いついちゃったよ。
女の人は……まだ無事みたいだな。よくよく見ると腕の中に赤ん坊抱いてたんだn……ファッ!?
はえ^〜すっごい、大きい……。たわわに実ってんねえ、何カップあるの? ──ゴホン! ま、まあ? 助けるのは吝かでもなきけるが? 女を守るのは男として当然の使命である故に?
は? カバネ相手に素人が勝てるわけないだろって? 馬鹿野郎お前おれは勝つぞお前。
あ、女の人にカバネが飛びかかった。──そうはさせんぞ。
「グァウ!?」
うーむ、思いの外余裕で間に合ったな。
何となく頭を掴んで抑えたはいいが、純粋なカバネであるこいつの膂力次第では、もしかしたらおれ如きやっぱ身に余るかもしれない可能性が微レ存。しばらくこのカバネの動向を探るか。
「グ、グルァ……」
……こいつ、自分がどういう状況か分かってんのかな。ずっと首から下が女の人に向かおうとしてんだけど。どんだけ飢えてんだよ、吸血衝動こっわ。せめて拘束を解くぐらいはするかと思ってたのに。
ま、さっきのが杞憂に終わったならそれはそれで重畳だよね。丁度この金棒が護身用として使えるかも試したかったところだし、実験台第一号として華々しい活躍を見せておくれ。
「グルァ! グァルル! グァア──」
せーの、ドーーン!! ──ふんっ、汚ねぇ花火だ。
なんか凄いパァンッ! って音して弾けたわ。もしや加減間違えたかな。下半身だけ残ってるけど、心臓も上半身諸共爆発したから流石に動かなくなったか。
金棒は……まさかの無傷っすね。あの鋼鉄被膜を歯牙にも掛けぬとは、さすが祠に祀られる神具だけあるな。コンセプトはごみにも劣るが。
よし、お前今日から名前エスカリボルグな。色めっさダサいけど。
「ひ……人殺し! よ、よくも私の夫を……!」
おっ、そうだな。
上機嫌で口笛吹いてたら美女から睥睨された挙句人殺し認定を受けました。まあカバネだからね、しょうがないね。何より美女からのヘイトは我々の業界ではご褒美です。
え、というかあのカバネこの人の旦那さんだったの!? 目の前で意気揚々とフルスイングかましちゃったよ! そりゃ怒るよね当たり前だよなぁ?
謝罪の為に近付いたら警戒してるのかちょっと後退りされた。それは普通にショックですハイ。
あ、赤ん坊見てもダメなんですね。そんな隠すみたいに体逸らさんでも──おっふ。近くで見るとほんと凄いなコレ……あ。
「──はっ!? す、すみません! あなたは命を救ってくださったのに、私なんという暴言を……すみませんでした。……それと、私とこの子を守って下さり、本当に……ありがとうございます……!」
まずいですよ!
そんなに頭下げたら……ほら言わんこっちゃない! 深い峡谷が露わになってるじゃないですか! お陰でカバネベビーが最高に硬くなってんぜ?
「あ、……あなたは一体?」
やっべ。何か値踏みするような視線に変わり始めだぞ。胸見てたのバレる前にこいつを何とか収めないと。
しかし一体どうしたら……せや、赤ん坊でも撫でさせてもろて、性欲を癒しに変えるやで。
無害であることを主張する為にまずは目線を合わせよう。ちゃんと真摯な態度で接すれば、相手も警戒を解いてくれるはず。
ちょっと肩に力入ってるけど、さっきよりは大分表情が柔らかくなったな別嬪巨乳さん。
次に赤ん坊へ手を伸ばす。特に払われたり距離を置く様子が無いみたいだし、これは撫でても良いってことだよね。
うわ、髪柔らか。しかもほっぺぷにっぷに。何だこの可愛い生き物。こんなの例えカバネになっても襲えるわけなくない?
にしてもしゃがんでからこう改めて見ると、凄いおぱーいだな。あのカバネはこんな美女を相手に堪能してたわけか。ふーん……滅べば? (もう滅んでる)
……これ、もしかしたらどさくさに紛れてラッキースケベ的なパイタッチいけるっぽくね? 赤ん坊撫でてたら手が滑ってみたいな──やめとこ。何か美女の目つきが段々怪訝になってきたし。そもそもおれにそんな勇気は無かったよパトラッシュ……。
さて、美女も助けられた事だし、村に戻って残党どもをお掃除してこなくっちゃ。またこの人が襲われないとも限らんからな。
別嬪さん。エロと癒しの提供感謝します。
「あ、あの……!」
ぬおっ、裾クイッ……だと!? この女、なんてポテンシャルを秘めてやがるんだ……! 男はこういうのに弱いから多用するなって両親から教わらなかったのか!
うお、風つっよ! フード取れたやんけ! やっぱお面着けといてよかったわ。
ん? 別嬪さんたらぼーっとしてどうしたん? あー、このお面? 完成度高いやろ、自作なんやで?
とまあ冗談はさておき、何か用なのかな? これでも忙しい身だから簡潔にお願いしますよ。
「え、と……あ、あなたのお名前は!」
その件につきましては、弊社ではお答え出来かねます。
カバネだから喋れないこと以前に自分が誰だか未だに知らんからなあ。名前分かんないんですサーセン。
というわけなんでほんじゃ。
「ま、待って! せめてお名前を……!」
やはりカバネのおれじゃあ美女とお近づきなんて無理だったようだぜ。ここは明日またあらためて出なおすとすっか。(二度とこない)
カバーネワゴンはクールに去るぜ。
待ってろよカバネリ達。村のカバネをぶっ倒して、君らに会いに行くからな!
女「何でひょっとこ……?」