お呼びじゃないよカバネさん!   作:昆布たん

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暑くなってきました。

そうめんが食べたくなったので初投稿です。


【貳駅目】カバネ、恋活するってよ

 

「何事だ!」

 

 大きな衝撃と物音を聞きつけ、来栖を筆頭に武士達がどよめく一般人から遠ざける様に生駒達の前へ立ち塞る。

 

 気安く触んないで! と無名に顎を蹴り上げられた生駒と、後ろに蹌踉めく彼の背中を支えた黒い外套の大男に銃を突きつけながら三人を睥睨した来栖は、生駒と大男両名の足下へ自決袋を投げつけ、銃口を向けた。

 

「まさかもう一人噛まれた奴が乗り込んでくるとはな……。貴様らに救われたこと、恥とは思わんぞ。少しでも人の心が残っているなら、皆の為に自決しろ!」

 

 来栖に続き、他の武士達も銃を構える。

 恩を仇で返す様な冷遇を施す武士達に対し、身構えて歯噛みする生駒と、床に転がった自決袋を無言で見下ろす外套の男。

 

 冷静な来栖とは対照的に、後ろで控える部下達の視線と銃口は外套の男へと向けられていた。

 さもあらん。先程の光景を垣間見たものからすれば、カバネを労せず蹂躙した目の前の大男の方がよっぽど化け物に見えたことだろう。有り体に言えば、彼等は今カバネ以上に外套の男の存在が末恐ろしいのである。

 

 武士達の額からは緊張と恐怖の混じった汗が止めどなく噴き出し、銃を把持した彼等の手元は標的が定まることなく震え、どう贔屓目に見ても確実な狙撃は不可能に等しい。

 

「こいつらはカバネじゃないよ。人でもないけど」

 

 張り詰める空気の中、そう切り出した無名は来栖達の方へ背中を向けると、胸元に結んだ紐を解き、やおら羽織を両肩から下へずらす。その左胸辺りから姿を覗かせたのは、煌々と輝き脈打つ一つの心臓。

 

「おい、あれ……」

「カバネの心臓だ……!」

 

 衆目は一斉に無名へと集まり、どこからともなく戸惑いの声が上がる。

 

「私たちはカバネリ。人とカバネの狭間にあるもの」

「カバネリ……だと?」

「そう。人でもカバネでもない」

「結局人ではないということだろう」

 

 不穏分子の新たな判明に、一度下ろした銃を無名へ構え直す来栖の睨みはより一層鋭くなった。

 

「あんたが私の敵なら──殺すよ」

 

 手元に隠していた黒い小さな玉を指に挟め、無名はその場で回った勢いを利用し、来栖に向けて投げつける。──が、すかさず反応した来栖は刹那に逸らした銃身で向かって来る玉を跳弾させ、見事に防いだ。

 小さい頃より主の菖蒲を守る為、弛まぬ努力と鍛錬を続けて来た彼にとってこの程度は造作もない。

 

「カバネは人の敵だ」

「へぇ」

 

 ――少しは骨のあるやつもいたんだ。

 そう内心で賛嘆した無名が次の手を考え始めたその時。

 

「やめなさい来栖!」

 

 尚も威圧する来栖を制止したのは、この甲鉄城の指導者となった菖蒲の声であった。

 

「彼らがいなければ、私たちは皆死んでいました」

「だからといって、カバネと同行は出来ません!」

 

 侍女と共に様子を見に来た菖蒲からの言葉に、来栖は暗に三人の存在は危険だと、彼女へ諫言の意を込めた返事で返す。

 他の武士達も、来栖の言に首肯で続く。

 

「俺も同意見だ! 俺はカバネだ! ここに居たらみんなをカバネにしてしまう!」

 

 来栖の意見に賛同し、生駒が車外へ出ようとしたその時だった。

 隣で何もせずに静観していた外套の男が、突如生駒の行く手を阻んだのである。

 

 思わぬ人物の行動に虚を衝かれた生駒だったが、今の自分は危険因子に他ならない。

 立ち塞がったのは、この男なりの生駒に対する同情の表れだろうが、後々他者に危害を及ぼす可能性がゼロで無い以上、人と共に共存するなど生駒自身がそれを許せる筈もなかった。

 

 彼が、自分に誇れる自分になる為に。

 

「……悪いけど、そこをどいてくれ。助けてくれたことには感謝してる……でも、それとこれとは話が別だ。俺は誰も傷つけたくないから、甲鉄城を降りる。だから道を開けてくれ」

 

 睨むように見上げる生駒の要望を聞いてなお、何も言わず彼を見下ろしたまま佇む外套の男。

 車内のせいかあまり日も差さず、フードを目深に被った男の顔や表情は、正面から相対している生駒でさえも全く窺えない。どうやら男に譲与の意志は無いようだ。

 

「ああ、分かったよ……あんたがどうしてもどかないんだったら、力尽くでも──」

「……え?」

 

 瞬間、言葉の途中で床へと崩れ落ちる生駒。突如として意識を失った彼の身に一体何が起きたのか誰にも分からなかった。

 顕金駅でカバネを相手に鎧袖一触で立ち回ってみせたあの無名でさえも視界に捉えられず、奇しくも戸惑いの声が漏れ出る程に。

 

 周囲が唖然とする中、外套の男は横たわった生駒を肩に担いで端の方に寝かせ、背中から外した金棒をボイラーのガス管に立てかける。

 そして何事もなかったかの様に壁に凭れ、皆からの視線を気にすることなく腰を下ろすと、一仕事を終えたとばかりに呑気に首を回しながら寛ぎ始めた。

 

 この数十秒間、彼以外誰も口を開くことがなければ動くことも無かった。

 

 

 

 

 その後、思考停止から立ち直った無名が菖蒲と取り決めを交わし、金剛郭までの同乗をこぎつけ、人外三人は最後尾のボイラー車輌から出ないという約束で収束。

 

 未だ生駒が気絶中の車内は、途轍もなく重苦しい空気に包まれている。

 今のところ無名と外套の男の間に会話は一切無く、唯一この場の鬱屈さを少しだけ紛らわせているのは、彼女が読書をしている片手間に遊んでいるけん玉とボイラーの音のみ。

 対する男は身動きを取る事なく胡座で腕を組んでおり、幽々たるそのフードの中から何処を見つめているのか、無名の位置からでは窺い知れない。

 

 とうとう痺れを切らし、いつまでも続くかの様に見えた沈黙を破ったのは無名からだった。

 

「……いっとくけど」

 

 無名からの徐な切り出しに、男が正座で彼女へと向かい合う。

 やはり橋で邂逅した時と同じく返事は無い。

 

「あんたのこともカバネリって言ったのは、別に庇ったわけじゃ無いから。伸びてるソイツもだけど、あくまであたしの盾に使えそうかなって思っただけ。勘違いしないでよね」

 

 とりつく島も無い様相で足を組み替えた無名からの忠告に、外套の男は突然深々と頭を下げた。

 その姿に、無名は眉を顰める。

 

「なにそれ感謝のつもり? 庇ったわけじゃないって言った筈だけど」

 

 払う様に手を振ってそっぽを向く無名の言に、男がゆっくりと頭を戻す。

 両者が視線を交えて発生した二度目の沈黙。

 

 あまり気の利いた話題作りが不得手の無名。どうにか沈黙を作るまいと、再び男に向けて話し出す。

 

「……あんた、もしかして喋れないの? 体はカバネだから?」

 

 小さく頷く男。

 発語が不可能となれば、やはり脳にまでウイルスが達していることはもはや自明の理。

 にも拘らず何故理性が残っているのか。無名にとってはそこが最も重要な謎だが、今はそれを言及しても詮無きと、一旦意識の外へ追いやり帰結した。

 

「……幾つか聞いていい? ちゃんと頷きとかで答えられる質問にするから」

 

 問い掛けに対し、親指を立てて了承を示す素性不明の不審者。

 目の前の奇怪千万を体現したような男の情緒に理解が追い付かず、今までそれとなく彼の動向に目を光らせていた無名は思わぬ肩透かしを喰らう。

 

「はぁ……なんかあんたに警戒してんのがバカらしくなって来るわ……。さっきの繰り返しになるけど、あんた……カバネだよね」

 

 何故か五度頷く男。

 

「これからの目的とかあんの?」

 

 肯定も否定もせずに俯き、だんまりを決め込んだかと思えば、無名と生駒を見回した男は、自身の胸を一度だけ拳で叩いた。その姿に少し高揚している雰囲気を感じたのは、無名の気の所為だろうか。

 一応彼なりの目的はあると捉え、咳払いした無名は気を取り直す。

 

「──ンンッ! 人、食べたこと無いって言ってたよね。ってことは血も飲んだことないんでしょ? お腹減らないの? それとも、血に代わるものがあるとか?」

 

 男は血に食指が動かないのか、無名の言を聞くとあからさまに溜め息をついて項垂れる。その様子から察するに、どうやら代替物を口にしていたりも無さそうである。

 

 これまでのカバネの生態原理を覆す新たな存在を前に、無名は更なる興味と憂鬱の増大を人知れず自覚した。

 

 結果。答え方はどうあれ、男は全ての質問に一切嘘をつかなかった。

 

「……どれも嘘は付いてない、か。言っとくけど、あたしはまだあんたのこと完全に信用したわけじゃないから、それだけは覚えといて」

 

 選りに選って真面目な忠告にもOKサインで返すひょうきんな男。

 カバネを殲滅していた時の非情な冷酷ぶりとは裏腹なその能天気さに、無名は今日一番の嘆息をこぼす。

 

「あんた、少しは自分の置かれてる立場分かって──」

「──っは!?」

 

 外套の男に対する無名の言咎を遮って跳ね起きた生駒へ、二人の視線が集まる。

 一先ず外套の男に関する究明を打ち切り、無名は生駒へ声を掛けることにした。

 

「傷、治ってるでしょ。体はカバネだからね、もう完全に動けるようになってるはずだよ」

 

 すっかり癒えた体の各所の傷を確かめる生駒へ声を掛ける無名と、片手を小さく挙げて外套の男。

 

 その後。無名が生駒へ、彼が気絶している間に交わした取り決めの内容や、この甲鉄城の最終地点が金剛郭であることを説明した。

 

「お前、金剛郭に行くって言ったな」

「兄様と約束したからね。言えないけど、大事な用なんだよ。……面倒な案件も増えたし」

 

 憂鬱そうに外套の男を横目で睨んだ無名は、溜め息と共に肩を落とすと生駒へ尋ね返す。

 

「それで? あんたも金剛郭に興味あんの?」

「あそこはカバネ研究の最先端だ。カバネリなんて中途半端な状態も、どうにか出来るかもしれない。もしかしたらこの人だっ、て……」

 

 無名と同様に生駒が目を配ると、男は話題そっちのけで金棒を布で磨いては真っ直ぐに立てて得意げに出来映えを確認しており、話の輪に加わるつもりがまるで無い。

 自分と共にカバネを駆逐せんと奮闘していたあの頼もしさは一体どこへやら。

 

「……っ! こん、のっ!」

 

 片目を引くつかせた無名が本を男に投げつけるも、弾丸のように真っ直ぐ飛んで行った本は容易く後ろ手で受け止められた挙句、当の彼からは肩をすくめて小馬鹿にされ、無名の額に青筋が浮かぶ。

 

「こいつ……!」

 

 臆面もなく舌打ちを発した後、深呼吸で気持ちを入れ替えた無名は次の質問を再開する。

 

「降りるんじゃなかったの?」

「お前の言うカバネリ……完全に信じたわけじゃないぞ。でも、このボイラー車に三日間閉じ籠れば、心までカバネにならないって証明は出来る」

「じゃあ決まりだね」

「決まり?」

「あんたたちと私は甲鉄城に乗る。そして私の盾になる!」

「盾だって!?」

 

 突拍子もない宣言に、生駒は無名の口から発せられた不穏な単語を反芻する。

 

「私、長く戦うと眠っちゃうんだぁ。だから生きてる盾が必要なの。あんたたちならカバネに噛まれても平気でしょ?」

「平気なわけあるか──ンブッ!?」

 

 ふざけるな。いくら体がカバネの生駒とて半分は人間の体だ。痛いものは痛い。

 

 到底受け入れられない頼みに否やを告げようと詰め寄りかけた生駒に、突然無名から予告も無く鉄拳が振り下ろされた。

 床へ仰向けに倒れた生駒が顔を顰める中、彼が横目に捉えた外套の男はいつの間にか端の方へ避難を終え、再び金棒の手入れに専念している。見た目の割に何とも抜け目ない。

 

「金剛郭に行くんでしょ! なら立って! 始めるよ!」

なにを!?」

「稽古に決まってるでしょ! そっちのカバネはともかく、今のあんたじゃ盾としても頼りなさす、ぎっ!」

「どわっ! ちょ、ちょっと待てよお前──」

「ほら、動きが大きすぎ! 足下がお留守になってる!」

「待てって!」

 

 待ったをかける生駒の声に耳も貸さず、特訓と呈したいたぶりを強行する無名。

 

 二人の様子を遠巻きで眺める外套の男は、金棒の手入れを続けながら静かに成り行きを見守っていた。

 

 

 

 

 特訓は苛烈を極めていたが、進捗は芳しくない。

 というのも、感覚で体を覚えた無名と、理屈で物事を覚えてきた生駒では、二者の間に絶望的な溝があるからだ。

 コツや要点を全て擬音による表現で簡潔させてしまう無名の説明は一ミリも生駒の理解に及ばず、一方的に痛めつけられるその姿は、物言わず佇むだけの稽古台となんら変わり映えがない。

 

 その実ただのリンチと化していた特訓は、仕方なく休憩を挟む運びとなった。

 

 枷紐を付けている自分に負けているようでは使いものにならないと吐き捨てた無名から、自身の身体能力に対する詳細や、それを抑えるための枷紐についての仕組みを聞かされ、不甲斐なさを感じた生駒は内心で臍を噛んだ。

 

 直後、それまで悠然と寛いでいた外套の男が前触れもなく立ち上がったかと思えば、側に立て掛けていた金棒を背中に携行し、一目散に前の客車目掛けて駆け出したのである。

 

「おい! いきなりどうした──」

「……感じる」

 

 生駒の呼び止めに応じもせず、備え付けの開閉レバーを解除することなく重厚な扉をそのまま蹴破った外套の男。

 無名と生駒もすぐに後を追う。

 

「カバネだー!」

「カバネ!? 出てこないはずじゃ!?」

「きゃあああ!」

 

 無論、突如侵入してきた無名たちの登場によって車内は一気に騒然となり、慌てふためく乗客達が悲鳴をあげながら反対側へと避難していく。

 

「やっぱりあんたも?」

 

 乗客の視線を尻目に車内を見渡す無名の問いに、外套の男がゆっくり小さな首肯で返す。

 

「……おかしいな、確かに感じたのに」

「戻れ、無名! さっきボイラー車から出ないって約束したんだろ! あんたも一体どうしたんだ!?」

「ちょっと邪魔しないで!」

 

 二人を引き止める為に追いかけて来た生駒が無名の肩を掴むも、食い下がる無名によって彼の手はすぐに払われてしまう。

 そんな中、外套の男だけが誰かを値踏みする様に見据えていたが、その者を除き、周囲が彼の視線に気付くことは無かった。

 

「動くな! 何がカバネリだ……やはり人の血を漁りに来たか!」

「やめろ! 今すぐ二人は連れて帰る! 金剛郭に着くまでは大人しくさせるから!」

「ふんっ、あんたに出来んの?」

 

 騒ぎに駆け付けて早々、一も二もなく銃を構えた来栖の詰問に、目的地までの間は二人をボイラー車から出させないと公言した生駒を無名は鼻で笑う始末。彼女から完全に戯れ言だと思われていた。

 

 「無名さん!」

 

 後にやって来た菖蒲が、惨状の中心にいた無名達の姿を捉えると失意の表情を示す。

 

「どういうことですかな、これは」

「何故出てきたの? 約束したのに」

「言ってもきっと分かんないよ」

「おい!」

 

 挙げ句の果てには六頭領まで首を突っ込み始め、菖蒲の問いを突っ撥ねる無名のけんもほろろな言動によって、車内は更に混迷を極めていた。

 

 カンッ! カンッ! カンッ! カンッ! 

 

 一触即発の空気を遮った甲高い音。その発生元となる方へ皆が目を向けた先には、ゴーグルをつけた独特の髪型の男性、鈴木が立っていた。

 

「まずいぞキャァプトゥン。応急処置した給水テァンクが破れてる。次の駅まではとても持たない」

 

 

 

 

 介

 

 

 

 

 カバネです。フードが取れたので光速で被り直しました。後々顎で止められるゴムを手に入れたいと思います(サザエさん次回予告)

 

 ただ今背水の陣下にあり、護衛代表の来栖様から私と生駒くんに自決袋が賜れました次第に御座候。

 

 へー、これが自決袋ね。初めて見た。

 だっておれ自我芽生えた時ハナからこんなの持って無かったからね。カバネになって何処へホロったのやら。

 

「こいつらはカバネじゃないよ。人でもないけど」

 

 え、ちょ、無名ちゃん! いきなりストリップだなんて、何と大胆な──そーなのかー。俺もカバネリだったのかぁ……そんなわけ無いんだよなぁ。金属被膜あるし、全身血管がキラッ☆てしてるし。

 なにより顔なんて見られた暁には月に変わって六根清浄(おしおき)されちゃうもんね。カバネって辛いね、ほんと。

 

 でもありがとよ無名ちゃん。こんな素性の知れないおれを庇ってくれるなんて、年甲斐も無く泣きそうだよ。まあこの肉体と精神が何歳なのか微塵も分からんし、動く死体から涙など出るわけ笑

 それと呼び方だけど、前世で無名ちゃんのこと『むめちゃま』って呼んでたのいま思い出したわ。これからはむめちゃまって呼ぶね(心でだけ)

 

「結局人ではないということだろう」

 

 おっ、そうだな。

 しかもおれに関しては同族にすら蛇蝎の如く敬遠されるくらい害悪認定されてるからな。(おぉ排泄物よ)剰え女のカバネなんて目ぇ合うと『キャーッ!』とか悲鳴あげるし、どっからそんな声出てくんの?

 

 これが俗に言う黄色い歓声ってやつか。フンッ……人気者は辛いぜ(涙目)

 

「あんたが私の敵なら、──殺すよ」

 

 ヒューッ! 

 流石俺の『カバネリ名シーンランキング』トップ20位圏内にランクインしただけの事はあるぜ! 惚れちまいそうだ!←尚畏れ多い模様

 

 来栖くんも負けじとあの球速に反応するんだもんなぁ。さすが高スペック搭載のイケメン侍やで。くたばりなさって?

 おまけにあんな綺麗な菖蒲さんのお側仕えだぞ? 前世にどれだけの徳積んだらこんななれるんだよ。嫉妬のあまり歯噛みして歯がひび割れしちゃいそう。

 

「やめなさい来栖!」

 

 わーい、噂をすれば菖蒲様のお成りだぁ! ──おらどけ平民ども女神様のお通りだぞ! 首を垂れて蹲え、平伏しろ!(家来ヅラ)

 

 いいですねー、可憐な中に覗かせる艶やかさが堪りませんねえ。しかもめっっっっちゃいい匂いしてくるんだよなぁこれが! 

 やっぱどっからどう見ても綺麗な顔立ちよなぁ、絶対母親似じゃん。あといい匂い。真っ先に男やカバネを寄せ付けそうな素晴らしいパルファムが漂ってきます。

 

 この人にも今後色んな苦悩が待ち構えてるんだよなぁ。美人は罪だからね。仕方ないね。あと摘み食いのシーンめっちゃ可愛いかったのでスクショしてお気に入りフォルダに保存してます。

 因みにデスクトップは言うまでもなく海門決戦後の『生×無』のあのシーン一択。

 

「俺も同意見だ! 俺はカバネだ! ここに居たらみんなをカバネにしてしまう!」

 

 ちょ待てよ!(キム○ク)

 どこへ行こうというのかね。逃げは甘えってそれ一番言われてるから。

 

 君がいなくなったら誰がむめちゃまを幸せにするんだよ!(建前)

 あとおれの生き甲斐が見れなくなんだろ!(本音)

 

「……悪いけど、そこをどいてくれ。助けてくれたことには感謝してる……でも、それとこれとは話が別だ。俺は誰も傷つけたくないから、甲鉄城を降りる。だから道を開けてくれ」

 

 退かぬ! 聞かぬ! 受け入れぬ! カバネに同情はないのだー! (南斗鳳凰拳の構)

 

「ああ、分かったよ……あんたがどうしてもどかないんだったら、力尽くでも──」

 

 そのための右手。

 恐ろしく速い手刀。俺でさえ見逃しちゃうね(並人)

 

 ごめんよ。イチャコラ見たさに君を無力化した僕をどうか許してクレメンス。

 でもおれが何もしなくても、どのみちキミはこの後むめちゃまにキン○マ蹴られて更にお腹蹴飛ばされてたから、今よりもっと惨めなやられ方してたよ。相手がおれで良かったね(身勝手の極意)

 

 チカレタ……(小声)何か気分的に休みたくなってきたンゴ……。

 一先ずここだと邪魔になるから、生駒くんはすみっこにしまっちゃおうねぇ。おやすみなさい……メルエム……(死んでない)

 

 さて、おれは何処に休もっかなぁ……お、その隅っこいただ禁貨ァ!! ──どっこらせっ○す(オヤジギャグ)

 やっぱ体は疲れなくてもメンタルが消耗してんだなぁ……休憩は大事ってはっきり分かんだね。

 

 

 

 

 取り敢えず今回の処遇ですが、我らズッコケカバネリ組はボイラー車からの外出は禁止ってことで手を打ったみたい。当たり前だよなぁ? 

 向こうからすればいつ襲われるかも分からん状況下で寝床を共にするとか考えられんもんね。誰だってそうする。おれだってそうする。

 

 んなことよりやべえよ……やべえよ……。

 人間組がボイラー車から立ち去ったからさ、今ここにいるのむめちゃまと生駒くん(絶賛気絶中)とおれだけ。

 どうみても実質二人きりなんですがそれは……。

 

 やばいわこれ何も話す事ねえわ……というか話せないんだわ。

 だからずっとボイラーの圧力計をひたすら眺めてるわけ。おかげで一分あたりの平均稼働率割り出せちゃったよ。因みにこれ始まってから五分ぐらいしか経ってない……空気重くね? 

 

 ふえぇ……なんかちらちら棘のある視線が飛んで来るよぉ……。

 

「……いっとくけど」

 

 んお? 豈図らんやむめちゃまが話しかけてくだすったぞ。

 いやぁ良かった! 沈黙キツかったしまじ助かる。でも何だか真面目そうな話みたいだから正座で臨むぜ! おらいつでも来いホイ!

 

「あんたのこともカバネリって言ったのは、別に庇ったわけじゃ無いから。伸びてるソイツもそうだけど、あくまであたしの盾に使えそうかなって思っただけ。勘違いしないでよね」

 

 鋭い目つきでの見下しありがとうございます! 毎日の励みで──……ファッ!?

 

 まずいですよ! そんな短い丈のスカートでこっち向きながらおみ足組み替えんといて! 

 見えちゃうから! カバネアイが一瞬の隙を逃さず奥の奥まで見えちゃ──ほらぁ、言わんこっちゃない! カバネになってから無駄に動体視力が良すぎるんだって! どうしてくれんだよ! くそっ、鎮まれムスコォ! アンタ、責任とんなさいよね!(脳内指差し)

 

「なにそれ感謝のつもり? 庇ったわけじゃないって言った筈だけど」

 

 ありがたいよ! ありがた迷惑だよ! 誰のせいでこうなったと思ってんだ! お前どう考えても十二歳の発育じゃないからなその体! 

 だから違うもん! ボクロリコンジャナイモン!(逸らし目)

 

 よし、こうなったら一気に冷めるようなこと考えよ! 

 六頭領の相互総攻め受けなんて……おえぇ吐きそ。でもおかげで息子もショボンできたからヨシ!(現場猫)

 

「……あんた、もしかして喋れないの? 体はカバネだから?」

 

 おっ、そうだな。

 喋ることは出来ないが『ほえる』なら覚えてるぜ!(タマゴ技)

 もしくはドラクエ8のおどかすコマンドでも可。その場合、仲間のヤンガス達さえ逃げだすんだぜ? なにそれつっら。

 

「……幾つか聞いていい? ちゃんと頷きとかで答えられる質問にするから」

 

 おけおけ。気遣いぐぅ助かる。

 

「はぁ……なんか警戒してんのがバカらしくなって来るわ……。さっきの繰り返しになるけど、あんた……カバネだよね」

 

 YES! YES! YES! YES! YES! 

 

「これからの目的とかあんの?」

 

 カバネは奮起した。かの二人のイチャコラを見届けねばならぬと決意した。カバネには前世が解らぬ。カバネは、自称転生者である。(口)笛を吹き、同族を叩きのめしてここまで来た。けれどもカバネリ達のイチャコラエンドに対しては、人一倍敏感であった。

 

「──ンンッ! 人、喰ったこと無いって言ってたよね。ってことは血も飲んだことないんでしょ? お腹減らないの? それとも、血に代わるものがあるとか?」

 

 血なんかどうでもいいから早くイチャコラを見せて(渇望)

 おれの栄養源は君らの存在そのものだって何度も言ってんだろ!←言ってない

 

「……どれも嘘は付いてない、か。言っとくけど、あたしはまだあんたのこと完全に信用したわけじゃないから、それだけは覚えといて」

 

 ウッス! おかのした!

 

 おいおいそんな呆れた様に溜め息つくなよい。美少女からのヘイトはご褒美だっていってんだろ!(逆ギレ)

 つか可愛い顔でこっちみんな。とっくに死んでるおれがまた死ぬぞ、不整脈で。

 

「あんた、少しは自分の置かれてる立場分かって──」

「──っは!?」

 

 おや、どうやら王子様がお目覚めのようですな。

 

 いやぁ助かったよ生駒くん! さすがのカバネさんも十二歳の少女となんてなに話したら良いかなんて分かんないよ! あといかんせん太ももがけしからん。

 やっぱ個人的にはバブみを感じさせてくれる母性溢れた女性が一番かなって(大真面目)

 

 こうしてみると、やっぱ生駒くんと話してるむめちゃまが一番生き生きしてるよなぁ、尊い。

 

 さて、むめちゃまの機嫌が回復したことだし、愛器エスカリボルグの手入れでもしますかね。根から先っぽまでしっかりしっぽり綺麗にしないとな(意味深)

 Foo↑気持ちぃ〜! こうやって磨いてると時間忘れられるから個人的にめちゃくちゃ癒しのひと時。艶と光沢出ますよ〜今日は〜。

 

 そういや今更なんだが、このエスカリボルグについて漸く気付いた点がある。

 それは何かといえば、おれが体を洗わなくても、こいつの加護なのか汚れないし全く臭くならないのよこれが。あと服とかに付いても次の日には汚れ落ちてる。

 もう完全にこいつの仕業確定。カバネ相手に無双した後の返り血とか、翌朝にはきれいサッパリ。ドラ○もんもビックリのひみつ道具だズェコレハ……!

 

「……っ! こん、のっ!」

 

 ふむ、やはり見れば見るほど真っ金金で目に煩いな。普通に黒でよかったのに──む、殺気!? へっ、カスがきかねぇんだよ(無敵)

 フハハ! 甘いでござるぞ無名殿! 拙者は親父にもぶたれた事のないニュータイプのパイロットと同様、後ろに目をつけておりますからなぁ! 背後からの奇襲など無駄無駄無駄ァ!! 

 

「こいつ……!」

 

 ほう、あからさまな舌打ちと睥睨とはな。

 あまり酷い態度を見せるなよ……かなり泣けるぞ(CV:速水奨)

 

 お、どうやら特訓が始まったみたい。さあ生駒くん! むめちゃまからの愛の鞭を存分に味わうがいい! いいぞ〜コレ

 

「金剛郭に行くんでしょ! なら立って! 始めるよ!」

なにを!?」

「稽古に決まってるでしょ! そっちのカバネはともかく、今のあんたじゃ盾としても頼りなさす、ぎっ!」

「どわっ! ちょ、ちょっと待てよお前──」

「ほら、動きが大きすぎ! 足下がお留守になってる!」

「待てって!」

 

 あるぇ? 何か本編観た時よりも二人の特訓の様子が痛々しいんですけど。これ絶対むめちゃま憂さ晴らししてるゾ……何でそんな怒ってんの……(無自覚)

 じゃ、じゃあおれは隅の方で温かーく見守ってあげるからね。もうちょっとエスカリボルグ磨きながら。

 

 えっと……むめちゃま? 生駒くんをちょいちょいこっちに蹴飛ばしてくるのわざとじゃないよね?

 

 

 

 

 あのさぁ……むめちゃま説明下手すぎんよ。理論派に感覚派の基準で教えても糠に釘だって。

 そもそも生駒くん自体カバネリになって日が浅いんだからさ、まずは基本の動き方とか、力の加減とかから始めた方がいんでないの? 

 

 さしものおれも慣れるまでは三日くらい掛かった。

 なんせ山籠りだったから走っては木にぶつかり殴っては木が倒れ跳んでは木の枝に首が引っ掛かったり……あまりにも邪魔だったからちょぴっとだけ伐採したけど(甚大)

 

 しょ、しょうがないわね。休憩が終わったら、ちょっとくらい教えてあげても──

 

 ――おら、いい加減に白状しろ! 

 ――や、やめて下さい! だ、誰か! 

 

 何だァコレェ……?

 女が……女が呼んでいる! 淑女の涙がカバネを呼ぶ! 

 

「おい、あんたいきなりどうした──」

 

 んもぅ、扉邪魔! こっちは急いでんだよ! 

 カバネを無礼るなよ(皇帝)

 

「カバネだー!」

「カバネ!? 出てこないはずじゃ!?」

「きゃあああ!」

 

 警察だ!(インパ○ス板○)

 オラァン! 女を泣かす不貞な輩はどこのどいつだクルァ!! 

 

「ひ、ひいぃ……!」

 

 お前かちょび髭オヤジ! そんな綺麗な美人に乱暴するたぁ漢の風上にも置けねえやつだ! 5秒やるからその汚い手をどけろ(シブボ)

 

 ……んー? このお姉さんお腹が……ほう。

 

 「あんたも感じた?」

 

 ああ感じたぜ、ビンビンとな。ど美人妊婦からの助けを求める魂の叫びを!

 

「動くな! 何がカバネリだ……やはり人の血を漁りに来たか!」

「やめろ! 今すぐ二人は連れて帰る! 金剛郭に着くまでは大人しくさせるから!」

「ふんっ、あんたに出来んの?」

 

 そうだよ(便乗)

 

 「……あ」

 

 え、なんで妊婦さんこっちガン見してきたの? どう見ても視線がおれに釘付けじゃんかよ……もしやこれはそういうのって捉えても構わぬな!? 構わぬのだな!? なら告白の言葉は是非とも『しゅき♡』か『すいとーよ♡』でオナシャス! ──え、未亡人で子持ち? だが、それが良い!! あ、子供は十人ぐらい欲しいからお互い頑張ろうね!!(妄言)

 前世のお父様、お母様。今世でついに私にも春が訪れました! あなた方の顔も名前も知らんけど!

 

 カンッ! カンッ! カンッ! カンッ! 

 

 おいヤメルルォ! いきなり耳障りな音出しやがって! ──あ、妊婦さんの目が逸れちゃった……。

 せっかくわいと彼女の目と目が逢う瞬間好きだと気付きかけてたってのに! ふざけんじゃねぇよお前これどうしてくれんだよ!

 

「まずいぞキャァプトゥン。応急処置した給水テァンクが破れてる。次の駅まではとても持たない」

 

 ダニィ!? 水が危ないだって!?

 

 ――み、水……水を……。

 ――それを寄越せ……それも1台や2台ではない……全部だ!

 

 世紀末求水主は帰ってもろて。

 

 何か助けに馳せ参じただけなのに扉直せって怒られた。解せぬ。

 ま、美女と見つめ合えたし役得やろ。結果オーライ。

 

 

 

 

 

 ……ちょー暇だ。

 外じゃ皆葬儀の準備とか給水とか甲鉄城の修理とか炊き出しに追われてるってのに、何せおれたちお外禁止だから車内で留守番しか出来ないんだもん。悪いかよ!?(誰も言ってない)

 

 二人は暢気に寝ちゃったし、ついに誰もおれを構うものがいなくなった。

 『資格はない。おぉその資格はない』みたいなメッセージがそこら中に貼られてそう(フロム感)

 

 ――……か…………すか……ますか

 

 ぬ? この声は妊婦さん? 

 

 扉の方を向くと、前の客車側の覗き窓に妊婦さんの穏やかで綺麗なご尊顔が。やあ、また目があったね(恋の予感)

 

「あ。よかった……かなり声を潜めていたので、聞こえていらっしゃらなかったらどうしようかと……」

 

 ほっと安堵の息をつく妊婦さん。

 へへ……良い声出すじゃねえか(ゲス顔)良かったらASMRでもやってみない? おれ限で添い寝と耳かきシチュオナシャス!

 

「あなたは昼間の扉を蹴破った……その、他のお二人は……?」

 

 二人ならおれの傍で寝てるぜ(NTR調)

 

 ――グァァァ……ゴオオオ……

 ――むにゃむにゃ……兄様……

 

「ふふ……どうやら、お疲れみたいですね」

 

 ふつくしい笑顔(浄化)

 てかそっち妊婦さん一人ぃ?(チャラ男)

 

「……私、こんなお腹なので何も手伝える事がなくて……女手の皆さんからも、葬儀が始まるまではあまり動かないで私たちに任せるようにと」

 

 そうだよなぁ。横になりたい時とかあるもんなぁ。

 もし産気づいた時は、何としてでも女の人連れて来るからね! 独りぼっちは、寂しいもんな(杏子感)

 

「なので諸々の準備が終わるまではここで体を休めているんです。武士の方々も外で見張りをされていて、一人だと少し不安で……なので気を紛らわせられる話し相手が欲しくて……いきなり呼びかけてすみません。不躾でしたよね」

 

 かまへん!かまへん! こんなカバネごときに気ぃ使う必要無いから!

 寧ろ却ってごめん。おれ喋れないから聞き手のみに回っちゃうだけど大丈夫?

 

「あ、話したくなければ結構です。独り言だと思って聞いてくださるだけでも楽になりますから」

 

 いや、助かる(結婚しよ)

 こんな良妻を娶った男の顔を是非とも拝んでみたかったぜ。これからに向けてのご挨拶しとかないとだし(暴走モード)

 

 「そういえば名乗りが送れました。私は信乃といいます」

 

 信乃さんかぁ……そういやそんな名前だったな。この時代って婚姻届もうあるかな?

 

 ……それにしても、何か忘れてる気がすんだよなぁ。こう、首のとこまで来てるんだが、何だっけな。初めて信乃さんをみて感じたあの感覚と似てるんだけど……う〜む。

 

 「その……実は相談といいますか、あなたに折り入って頼みがあるんですが……」

 

 ──ほう、頼みとな。大方『しゅきです♡私と祝言して下さい♡」ってところかな。まさかの妊婦さんから逆プロポーズかぁ、堪らぬな!

 いいよこいよ! 心の準備は出来てるんで!!

 

 

 

 介

 

 

 

 葬儀は滞りなく行われ、人々は少しばかりの安寧に肩の荷を下ろし、鰍も、少しでも皆の役に立とうと子守りや炊事を進んで引き受けている。

 しかし、そんな鰍は内心ある一つの懸念と葛藤していた。

 

 まさかとは思った。

 

 親友の母親から聞いた英雄と、外套の男の特徴がほぼ一致しているのは類い稀なる偶然なのだろうか、それとも……。

 鰍の頭は、今外套の男で一杯だった。

 

 背丈、服装……そして、極め付けは背中に携えた黄金の金棒。まさしく親友の母親が事細かに口早く説明していた英雄の風体そのもの。

 しかし彼女が当時その英雄に見えたのは、十年以上も前。それも顕金駅からは遠く離れた、山々の連なる深奥に位置した村でのことであり、こんな所にいる事が俄には信じ難かった。

 かといって他人の空似と帰結も出来ず確信にも至れない心境に、鰍の頭は目まぐるしい堂々巡りを続けていく。

 

 ――もし、彼があの人だったなら……でも、もし違ってたら……。

 

 あの頃に憧憬を抱いた英雄である可能性が、鰍の心をざわつかせる。

 

「と、とにかく、今は自分のやるべきことをしなくっちゃ!……あれ?」

 

 気を引き締め、作業に戻ろうと頭を振った鰍の先で、昼間に赤子の分もとおにぎりを二つ差し出した相手である妊婦の信乃が、どこか悲しげに蹲っているのが見えた。

 

 「信乃さん……?」

 「──カバネリだ! 何しに来た!」

 

 心配になり、声を掛けようとした鰍だったが、武士の警告が耳に入りそちらへ振り向くと。

 

 「こっちも物騒だなぁ。戦いに来たんじゃないって」

 

 視線の先では、両手を頭の後ろに組みながら、周囲を見やりつつ悠然と此方へ歩いて来る、一人の少女。確か、自身をカバネリと自称する、無名……だっただろうか。

 何故当たり前のように外へ出て来たのか。取り決めを幾度と無く破る彼女への不信感が、鰍を含めた人々に募る。

 

「あっ」

「っ!」

 

 やがて、無名と目が合った鰍は、子供たちを庇うように彼女の前に立ち上がった。鰍の体に緊張が走る。

 

「ね、お願いがあるんだけど」

「な、何……?」

 

 無名が用件を告げようとしたが、突然泣き出した赤ん坊の声によって一旦打ち切られ、鰍が赤ん坊のもとへと向かう。

 

「どうしたの? おしっこ? 気持ち悪いのかなぁ」

 

 戸惑う少年から役目を引き受け、赤ん坊を抱き上げてあやすも、泣き止まぬ赤ん坊の意図が全く分からず困りあぐねる鰍。

 

 それを見かねてか、無名が赤ん坊のもとへと近づき変顔を披露してみせると、赤ん坊はころりと笑顔を見せ、朗らかな笑い声をあげた。

 

「あはは、笑った!この子笑ったよ!」

 

  赤ん坊につられた様にこちらへ笑いかけてきた無名の姿に、鰍の緊張と警戒は少しずつ解けていったのだった。

 

 

 

 

 その後、子供たちとすっかり打ち解けて笑顔をみせる無名を、女性陣たちは遠巻きから和やかに見守っていた。

 

「笑ったらお腹すいちゃったなぁ」

「団子汁があるの。よそうね」

「ありがとう。でも、それはいらない」

「え?」

「私には、血を頂戴」

 

  気前良く団子汁を提供しようとした鰍だったが、突如告げられた無名からの予想だにしていなかった要求を受け、女性達全員に動揺が走る。

 

「え? 血って……」

「赤くってさ、人を斬るとピューッて出るやつだよ」

 

 鰍は耳を疑った。だから聞き直した。

 しかし無名が欲しているものの答えが変わることは無い。彼女は人の血を求めている、つまり……だが、鰍の前にいるのは見た目も心も年頃の少女だ。子供と共に笑い合える、無垢な女の子。

 

 それでも。だからこそ。鰍は聞かねばならぬと決意し、無名へと問う。

 

「だって、あなたは……」

「カバネリ。半分はカバネだからね」

 

 臆面も無く、無名が公然と言い放つ。

 

「ふざけないで! 私たちにもカバネになれっていうの!?」

「離れな鰍! やっぱりこいつは怪物なんだよ!」

 

 無名に向け、たちまち女性達から非難の声があがりだす。

 

「仕方ないじゃない。お腹が空いちゃったんだから」

 

 罵声とともに飛んできた投石を難なくかわし、無名が鰍へと近づいて行くその時だった。

 

「きゃああ! カバネ!」

 

 突如悲鳴をあげた女性の先に、ゆらゆらと彷徨う一体の女のカバネ。

 そこには、子を身籠っていた信乃の姿が。

 

 「信乃さん!?」

 

 鰍が信乃へと呼びかけた直後、枷紐を解いた無名は脇目も降らずカバネとなった信乃目指し駆け出す。

 

 「待って! その人は……!」

 

 鰍の呼び止めに耳を貸す事なく、狼狽する武士達の腰から一本ずつ刀を抜き取った無名が跳躍し、カバネの心臓目掛けて二振りの刀を突き刺す。

 

 「──なっ!?」

 

 ……ことはかなわず、無名の攻撃は、彼女とカバネの間へ一瞬の内に躍り出た外套の男によって、呆気なく阻止されたのである。

 

 思い掛けぬ人物の登場に、それまで逃げ惑っていた人々ははたと動きを止め、衆目が無論外套の男へと集まったことによって辺りは嘘のように静まり返った。

 

 枷紐を解き、カバネの心臓を貫くつもりで放った渾身の一撃を物ともせず食い止められたことと、普通に邪魔立てされたことに怒りが込み上げてきた無名は、外套の男の腕を踏み台に一度跳躍して距離をとり、着地から立ち上がるや眼前の彼をこれでもかと睨む。

 一方の男は、理性を保たんと頭を押さえて苦しむカバネを背に、毅然と無名に対峙していた。

 

「……何のつもり? 見てのおり、その人はもうカバネなの。殺すしかないって、あんたも分かってる筈だけど」

 

 忠告する無名の言を受けてなお、男は一向に引き下がる気配が無い。

 既知の上で敢行する彼の心境に全く理解が出来ず、無名の中で益々苛立ちが募りだす。

 

「あっそ……! 何だか知らないけど、そっちがそのつもりならあたしはあんたをぶった斬ってでも……!」

「やめて、無名ちゃん! その人のお腹には……赤ちゃんがいるの……っ!」

「……!?」

 

 両手で顔を覆い嗚咽を漏らす鰍の言葉に、刀を構えていた無名は動きをぴたりと止め、鰍へ振り向く。

 

 もう全てが遅い。カバネに噛まれていた時点で、信乃は何もかも手遅れだったのだ。しかし、母親としての願望である我が子との対面を諦めきれなかった結果が今の有り様である。

 先立ってしまった夫との、唯一無二の愛の結晶。それをみすみす手放すことなど信乃には出来るはずも無く、最後の最後まで希望を見出そうと孤独に奮闘していたのだ。

 

 全てを理解した無名は、再び外套の男を睨んだ。

 

「あんた……知ってたの? だから止めたの?」

 

 無名の問いに、男は応否を示さずただ彼女を見下ろす。

 

「でも、関係無い! お腹の子供だってもう助けられない! どう足掻いたって殺すしかないんだよ!! どいて! 私がやる!」

 

 声を張り上げても、一歩も動かぬ外套の男。

 

「いいから、どいてよぉぉぉ!!」

「無名ちゃん!」

 

 三度制止する鰍の声も虚しく、無名が男の心臓部分へ狙い澄まして刀を突き刺す……が、刀の切先は彼の心臓を貫くことなく、被膜の表面で止まってしまう。

 

「どうして……なんで出来ないのよ……!」

 

 直後、俯いた無名の目から涙が止めどなく溢れ出る。

 但し、その涙は悔しさからでは無く、悲しさから込み上げたものだった。信乃のお腹に赤子がいる事実を耳にした時点で、無名の心と体は既に彼女を殺す事を無自覚に拒んでいたのだ。

 

 最早今の無名には目の前のカバネを殺す意志も力も無い。

 

「こんな事なら知りたくなかった……! 知らないままなら、出来たのに…………あんたのせいだよ……、あんたが……あんたが……!」

 

 片方の刀の頭で何度も胸を小突いてくる無名の弱々しい罵倒を受け、男は震える彼女の両手から優しく刀を奪い取ると、頭を押さえながら唸り続けているカバネへと踵を返す。

 

「グァアァァァ……」

 

 苦しそうな声で呻くカバネの前に立ち、男が両方の刀を後ろへ引く様に構える。

 

「いや……ダメ……!」

 

 震えた声で呼び掛ける鰍の思いが届く筈もなく、刹那に突き出された片方の刀の一閃によって、心臓を貫かれたカバネの胸からみるみる鮮血が噴き出す。

 飛び散る返り血が付くのも構わず、男は続け様にもう一振りの刀を再びカバネの心臓へ突き刺し、一斉に二振りとも引き抜く。

 

 瞳孔が消え、絶命して崩れ落ちたカバネが地面へと横たわる。

 

「そんな……」

「…………」

 

 口許を手で覆い涙を流す鰍と、拳を握りしめて歯噛みする無名。

 

 愕然と棒立ちする周囲の人々を尻目に、男は徐にカバネの下でしゃがみ込むとそのままを死体を抱き上げ、燃え盛る焚き火に向かって行く。そのまま死体を焚き火の火中へそっと下ろすと、数歩退がって合掌し、小さく顎を引いた。

 

 直後、突風が吹き抜け、男のフードが取れる。

 

「──っ! 嘘……こんなことって……」

 

 驚愕に目を見開いた鰍の視線の先には、ひょっとこの仮面を身に付けた大男。背には、彼の身の丈に迫る長さの金に染まる大きな金棒。

 

 だが、こんな形での邂逅など、鰍は露たりとも望んでいなかった。

 





はぁ……今回は少し頭捻ったから頭痛が痛い。

なので惜しみない感想や評価をいただければ幸いです。
あとめっちゃ筆が乗ると思います!
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