夜明け前、デイダラが寝入った後に鵺は起き上がった。そして彼に教えてもらった隠遁術により気配を断ち、仏堂から出る。
そこには既に、鹿尊が待機していた。
『彼は?』
「大丈夫、デイダラお兄ちゃんはまだ寝てるよ」
そう言った鵺に満足気に頷く鹿尊。
ここからの行動は慎重を重ねても足らないほど危険なものなのだ。些細なものでも、一先ず状況が予定通りに動くのは喜ばしい。
そう、彼らが目論んでいるのは岩隠れの禁術を盗み出すことだ。
実は鵺とデイダラが拠点にしている仏堂は、既に土の国の領域内にある。さらに彼から教えてもらったが、意外なほど岩隠れの里から離れていないらしい。
一見デイダラに諭されて諦めたかのように見せたが、要は鵺が使わなければ良い話なのだ。寄生口寄せと契約さえしてしまえば、新たな家族に寄生させてから術を与えればいいのだから。
これまで行ったことの無い手順での夢現獣の術だが、恐らく可能だと鵺は感じていた。こと口寄せの術に関しては、彼女の才は飛び抜けているのだ。
本当ならば、地理にも詳しく実力もあるデイダラに手伝ってもらいたかった。
だがあの様子では、恐らく夢現獣の術のことを教えてもデイダラは協力してくれないと鵺は感じた。それどころか、鵺が禁術を狙っていることを知れば彼がどんな行動を起こすか分からなかった。
盗みを止めさせるために監視と拘束を行う位ならば良心的だろう。だが最悪の場合、己の切り札の秘を盗もうとするならば殺すという考えに至る可能性もある。
何だかんだで彼は術の入手方法や正体などを言ったが、詳細は語っていない。チャクラを物質に練り込む術などとは一言も言っていないのである。
彼は芸術家を謳っているが、結局のところ一流の忍者だ。最低限守る線引きはある。そして鵺は彼を信頼しているが、口寄せ獣たちはそうではなかった。だからこそ、秘密裏に動き術を盗み出す計画を立てたのだ。
『では行こうかの。鵺、不確定要素は多分にあるが、手筈通りにな』
手筈と言っても、情報が不足しているのでかなり大雑把なのだが。
だからと言って、彼女がやれることはそう多くないのだから関係ない。情報が増えようが、彼女が年齢を重ねて成長しようが……あの禁術を手に入れなければ何も状況は変わらない。
それはデイダラと過ごした三か月で嫌と言うほど分かった。
鵺には口寄せの術しかない。それを根本的に強化出来なければ頭打ちなど、すぐにでも訪れるだろう。
ならば戦いと言う戦いから全て逃げるか?
力を付けるのを止めて、何処かで静かに暮らすか?
(無理……そんなの絶対無理……!)
鵺はどこまでいっても、恐怖しているのだ。
あの日、彼女の世界が壊された日から。
そして同時に学んだのだ。
力さえあれば幸せに暮らせると。自分を害せる者がいなければ、幸せは壊れないのだと。
そして何よりも──────
あの
「……口寄せの術」
小瓶から血を三滴ほど垂らし、術を使う。呼び出されたのはドリュウとハクリン、そして幻来だ。
そしてこのメンバーでまずは、地中を掘り進み岩隠れの里への侵入を行う。
その手順を言うと、細かい方向調整や位置確認をハクリンが確認しつつ報告する。そして幻来は彼らが地中から出た際の隙を消すために術の待機をしているのだ。
「ハクリンも幻来もよろしくね。行こう、ドリュウさん」
『了解』
それぞれが了承の意を返し、行動に移る。鵺は幻来を抱えてドリュウに跨った。
『鵺、頑張ろうね』
「うん、頑張ろう」
ハクリンはそう言うと数匹に増え、渡り鳥の様相を呈する。
これまでの失敗を生かし、なるべく不自然でない形をとったのだ。
ドリュウも彼に続き、術を開始する。
彼の土中遊泳の術は有能で、鵺を背負った状態でも十分なスペースを確保して掘り進められるのだ。
地中に潜ると周囲に月光が届かなくなり、鵺には視界が一切利かなくなる。だが彼女に不安はない。最も信頼できる家族たちがそばに居るのだから。
(ハクリンを感じる……)
彼女の口寄せ達は皆、夢現獣の術で創り出された存在だ。言うなれば彼女の内から生み出されたものであり、現実世界に呼び出し距離が離れようとも心で繋がっている。
そのため、鵺が地表を跨いで上空にいるハクリンの気配を感知出来るのと同時に、彼からも鵺を感知出来るのだ。
だからこそハクリンが彼らの舵取りを行えているのだ。
「少し斜め右にずれてるってさ」
『了解』
彼らは闇の中を進む。それが命を賭けるものだとしても。
恐怖を乗り越えるためならば……幸せになるためならば何でも出来る。
例えそれが大罪を犯すことだとしても。
それが鵺と言う少女であり……恐怖に歪んでしまった哀れな孤児なのだった。