口寄せ特化一族の末裔ちゃん   作:冗談だぜ、青い人

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罪も厭わない

 誰もが寝静まった岩隠れの里。空に三日月はあれど、薄く雲が覆っているため光源は限りなく少ない。街灯もあるにはあるが、主にそれは人通りの多い大道がほとんどであり裏路地にはあまりない。

 

 そんな中、鵺はコッソリと地中から這い上がっていた。ハクリンが上空から人も家もない場所に誘導してくれたが、幻来も万が一に備え蜃気楼の術を展開している。

 

 そしてすかさずドリュウを消し、代わりに鹿尊を呼び出す。これは感知系の術を警戒してのことだ。

 

『ふむ、火の国の時とは違い感知の術になにも引っかからないのう』

 

 角に反応はない。彼の術は詳細に感知するには適さないが、感知出来る範囲とモノの種類は多い。故にこちら側に対しての感知にも反応出来るのだ。

 それがないとなれば、術を介した感知は無いと言える。もちろん耳や鼻、目を使った感覚または物理的なモノは検出出来ないので、警戒は怠れないが。

 

(ハクリン、見つけた?)

『うん、土影邸は一番大きかったからね。でもやっぱり見通しが良い上に、見張りが多いよ』

 

 幻来の術の中で会話する鵺。彼女はハクリンからの報告を聞き、少し顔を顰めた。

 鹿尊が事前に行った想定内ではあるが、苦しい状況と言うのには違いない。だがしかし出直すこともない。

 禁術を得なければ彼らに未来は無いのだ。それにきっと、日を改めても状況は変わらないのだから。

 

(行こう、皆)

 

 気合を入れ直し、歩を進める。幻来の術は本来その場に留まるのが主であり、移動時に使えばその効果は著しく低下する。だがやらないよりマシではある。ある程度近くで見れば違和感に気付く者がほとんどだが、遠目ならまだ誤魔化せるのだ。

 

 ここからの動きも決めている。

 警備に穴が無いのは想定内なので、どうにかして穴を開けねばならない。

 故に比較的警備が薄い所を狙って、その任に就いている忍者を無力化するのだ。

 

 家の屋根を伝って、土影邸に近づく。深夜とは言えもう二時間ほどで夜明けが来るだろう。だからこそ、気の緩む奴がいる。

 

 デイダラが言うには、里に直接襲撃があったなど戦時中を除いてもう十年単位で無いのだ。無意識にも警戒が緩むのは仕方のないことだ。

 

『土影邸の裏側、そこが一番警備が薄いっぽいね。一人しかいないや』

(分かった。ここからは茶鬼丸の出番だね)

 

 闇に紛れて土影邸の裏側へ。かつての鵺にはこの様な俊敏な動きや屋根伝いに移動するなど不可能だったが、デイダラ直伝のチャクラによる肉体活性のおかげでそれを可能としていた。

 

(ふー……よし、やるよ。……うん)

 

 鹿尊から茶鬼丸へ変更する。口寄せの度に彼女のチャクラは目減りするが、キチンと学んだチャクラコントロールが、今までよりもその消費を抑えていた。

 

 成長している……だがもっと、根本的に翻せる。己の弱さを。死の恐怖を。誰にも害されない暴力を以て! 

 

 わざと物陰で小さな音を立てる。不自然過ぎず、また自然過ぎもしない音を。

 思わず何かを確認したくなるように。

 

「ん? 今何か変な音が……」

 

 彼の職務上、異変は確認せねばならない。それがどこか人由来っぽい物音ならば尚更。

 だが他の警備忍者に警戒を促す程でもない……もし何事も無ければ、寝不足のストレスをぶつけられるかもしれない。具体的に言えば、飲みを奢らされるような形で。

 

 だが、それこそが鵺の賭けであり……彼の命を道半ばで終わらせる結果となった。

 

 彼の背後で空気が揺らめく。誰も見ていないその揺らぎは、朧気だが確かに熊の形を取っていた。

 様々な要因……完全な予想外、油断、気の緩み、そして睡眠不足が重なり、その急襲を察知すら出来なかった。

 

 茶鬼丸の剛腕が彼の首に振り下ろされる。

 肉を抉るどころではない。首の骨をへし折り、動脈ごと気道や筋肉を叩き潰す。振り下ろしきった後は、もはや首は皮膚だけで繋がっている状態であり言うまでもなく即死だった。

 

 そして倒れた音を出さぬように、すかさず鵺が胴体を支えて降ろす。かなり血を被ってしまったが、無音で一人減らすことに成功した。

 

『鵺、大丈夫か?』

 

 茶鬼丸が問う。

 鵺が人の死を見るのはこれで三人目だ。父と母……彼らの死体は今まで楽しく話していた姿とはまるで違う、無機質で、温もりものない、何処か寒く恐ろしいものだった。

 

 だがこの男はどうだ。この男の死は茶鬼丸が手を下したとは言え、鵺の口寄せなのだから彼女が殺したと言っても何も間違いではないだろう。

 

 彼女にとって彼は、ある種の壁だった。目標を達成するまでの障害と言う壁だ。

 それを排除するために人を殺すのは……仕方のないことではないか? 

 

 そう鵺は思う。

 あるいは、幼いが故の罪悪感の薄さか。それとも酷く狭い人間関係しか知らないが故の、他人に対する無意識的な興味の薄さなのか。

 それは彼女には自覚できない、倫理観の緩さだった。

 

 確かに人を傷付けたり、人の物を盗ったりすることは悪いことだと両親には教えてもらっていた。だがそれを実感する経験が無かった。知識だけあっても、実感が伴わなければそれは希薄なものになってしまうだろう。

 

 両親が殺された、それで悲しかった。だから人を殺してはならない……とは鵺の中ではならなかった。

 悲しくならないためには奪われる前に奪うしかない……短絡的で直情的にも思えるその思考は、彼女の中で真理になってしまったのである。

 

 幸せの為なら罪を犯すのも厭わない。そんな真理が。

 

(大丈夫だよ、怪我してないし)

『……そう言う事ではないが、まぁそれなら良い』

 

 茶鬼丸はそう言いながら男の死体を咥えて、物陰に移動させる。血の跡が出来てしまったが、この夜の暗さだ。早々見つかるまい。

 

『禁書庫、あったよ』

 

 するとハクリンから言葉が届いた。見張りを排除する間に邸内へ侵入していたハクリンは、見事その場所を発見した。だが同時に問題もあったようだ。

 

『中に見張りはいないけど、書庫には鍵が掛かってたよ』

(鍵か……)

 

 流石は禁書庫、鍵は掛かっているらしい。恐らくその鍵も、普通の場所には保管していないだろう。何せ最近デイダラが盗み出したばかりなのだ。何らかの対策は行われているに違いない。

 

 だが最悪……本当の最悪の時には強行突破する手段もある。

 

(大丈夫、いける)

 

 そう気持ちを強く持ちながら、ドリュウに穴を開けるよう頼む。幻来の術により景色が固定されているので、周囲からは何も変わったようには見えていない。唯一、穴を開けた衝撃で術が揺らいだり、音で察知されるかもしれないが幻術が時間を稼ぐだろう。

 

 鵺は力強く、決意を以て踏み入れる。

 土影邸の中は……とても暗かった。

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