ドリュウと幻来により極限の隠密脱出を果たした鵺は、デイダラを残して来た仏堂へ向かっていた。
途中夜月が消えたのが分かったのでハクリンを呼び出し、舵取りと追手の確認を任せるという万全の状態だ。
結果として、分身したハクリンの調査により追手が放たれたことは分かった。だがどうやら地中を掘り進んで里を脱したためか、逃げた方向が分からず捜索範囲を無駄に広げざるを得ないらしい。
その上夜明け前かつ人的被害の確認があるため、その追手すらまともな量を確保出来ていないというオマケつきでだ。
しかし油断は出来ないだろう。想定以上に大事になってしまった。
なので岩隠れにほど近い仏堂では、隠れ住むのに適さない。また何処かへ彷徨う旅が始まるのだ。
(また旅に出るけど、その前にデイダラお兄ちゃんのとこに行かなきゃ)
せめて別れの言葉くらいは必要だろうと鵺は思う。これがただの知り合い程度ならそのまま旅に出ていただろうが、デイダラは鵺にとってお兄ちゃんの様な存在で、恩人だ。
目的のために手段を問わない彼女だが、その倫理観と身内への情は両立するのだ。
そうしている内に仏堂に着いた。だが、何処か様子がおかしいと鵺は感じる。
「……口寄せの術」
ドリュウに代わり鹿尊が現れる。彼らの心は繋がっているので、鹿尊は鵺が何も言わなくともやってほしいことは手に取る様に分かった。
『……誰もいないな。だがデイダラのチャクラの他に、三種類のチャクラ残滓を感じるぞ』
夜が明け、眩しい陽光が仏堂を照らしている。そしてその側面には大きな穴が空いていた。
少なくとも、鵺が出ていった際には無かったものだ。
「デイダラお兄ちゃんが誰かと戦った?」
『いや、確かに戦闘の跡にも見えるが……血痕の類が無いのう』
仏堂の中に入り、検分するもイマイチ状況が見えてこない。ただ分かるのは、ハクリンの捜索範囲にも既にデイダラはいないということだけだった。
そんな唐突な別れ。確かに別れの挨拶をしに来たのだが、ワンクッションあるかないかでその感じる寂しさは違うものだ。
「デイダラお兄ちゃん……」
『何、こうなっては仕方あるまい。それに時間もそうある訳ではないぞ』
そう言って鹿尊は鵺を励ましつつ、移動を促す。
生きているならば、また会う事もあるだろう。縁とはそういうものだと語り掛けながら。
「そうだね……行こっか。……うん」
少しだけ移った口癖を口に、鹿尊に飛び乗る。行き先にアテは無い。
また火の国の時と同じように、土の国に背を向けて歩き出すだけだ。だが今の彼女には禁術がある。
それを扱う家族さえ作ってしまえば、心にゆとりが生まれるだろう。自信も生まれるだろう。
ならばこそ──────。
「そろそろ、家に行っても大丈夫かなぁ」
恐怖の根源地であるその場所へ、足を踏み入れる勇気が生まれるだろう、と。
◇
「何よこれ……!」
ヒノメは渡された新しい資料を握りしめながら、何処に向けているのか自分でも分からない怒りを口にした。
その資料とは、つい最近各五大里に通告されたある事件とその犯人について。そしてその人相書きには、非常に見覚えがあったのだ。
【寄木 鵺】
あの日保護に失敗し、何処かへ消えてしまった少女の名だ。
容姿の特徴や、数々の口寄せを駆使するところも一致している。まず間違いなくあの少女だとヒノメは確信した。
彼女のことは実は気に掛けていた。同僚にも巡回中に見かけたら保護する様に言っておいたし、三代目火影ヒルゼンにも報告はしている。
だがその結果はこれだ。
元より木ノ葉隠れの里へしようとしていたことに失敗し、その代わりに岩隠れの里が標的になったのかもしれない。
弱き者を装った、生粋の悪人だったのかもしれない。
しかしあの時ちゃんと保護出来ていれば、未来は変わっていたのかもしれない。
そんな思いが過って仕方がなかった。忍者としては甘い思考だろうが、その甘さが木ノ葉の忍びの長所でもあるのだ。
(国家S級犯罪者……その捕縛に生死は問わない、ね)
犯罪者である以上、次遭遇すれば保護ではなく捕縛をせねばならない。
場合によっては殺すことも、あるいは殺されることもある。
「ままならないわね……」
「ワン!」
足元でおすわりしていたモモが、同意する様に一鳴きする。
こうして憤ってばかりはいられない。今日もまた彼女は、任務に出るのだった。
そしてどこぞの顔の殆どを隠した木ノ葉の上忍もまた、同様の資料と共にもうすぐ担当することになる下忍候補についての情報を三代目火影から伝えられていた。
「いやぁ~とんでもないガキもいるもんだねぇ。ま、俺より強いガキなんて忍界には十分いるからなぁ」
と、そんな独り言を漏らしながら頬を掻いて。
第一部、完。