口寄せ特化一族の末裔ちゃん   作:冗談だぜ、青い人

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残った家族

「う……ん……」

 

 暗闇の中、鵺は目を覚ました。その彼女に侍る様に、そして寝具の様に丸まるモグラも彼女に合わせて起床する。

 

 ここはモグラが作った穴倉の中だった。あの恐ろしい蛇男から逃げて数時間。幻術で周囲のモノの姿を隠せる蛤まで使って、チャクラも体力も限界だった鵺はモグラを口寄せし、寝床を作ったのだ。

 

「そっか……夢じゃなかったのか……」

 

 微睡みの中にいた少女は、覚醒と共にあの惨劇を思い出した。目の前で父が、母が、無慈悲に葬られる過程を。彼らとて抵抗しなかった訳ではない。ただ、あの男の力の前では無意味だっただけ。戦国時代の一族ならともかく、今や隠れ住むだけの忍びですらない者達だ。勝てる道理はない。

 

 そう、彼らは少し変わった口寄せの術が使えるだけで、本人の能力は決して高くないのだ。

 

 キュールル……

 

 モグラが鳴く。不安定に揺れる少女の心を慮って。

 鳥も、熊も、蛤も、そしてモグラも、彼らにとって少女は親であり友人であり、家族だった。

 そしてそれは一族の秘伝忍術によるものだった。

 

 秘伝・夢現獣(ゆめうつつけもの)の術。

 

 彼らは夢の中で創り出した口寄せ獣の子供を育て、成長したそれらを現実に口寄せする。そして、育てられた獣たちは主の代わりにそれぞれ一つの術を持つのだ。

 

 白い鳥……ハクリンならば影分身の術を。

 熊……茶鬼丸ならば怪力の術を。

 大蛤……幻来ならば幻術・蜃気楼の術を。

 モグラ……ドリュウならば土遁・土中遊泳の術を。

 

 他にも幾匹かいるが、この四体が彼女の逃走を助けた口寄せ獣たちだった。

 

「これからどうしよう……」

 

 ひどく細い声が暗闇に広がる。ドリュウの体温だけが、今の鵺にとって唯一の寄る辺だった。

 

「どうすればいいと思う? ドリュウさん……」

 

 毛皮に埋まる様に凭れかかり、鵺はドリュウに助言を求めた。何もこれは犬や猫に独り言を聞かせる様なモノではない。彼らは会話できるのだ。声ではなく、心で。

 

『鵺……まずは生きることを優先すべきだ』

「うん……とっても悲しくて、ずっと眠っていたいけど……死ぬのはもっと怖いよ……」

『私とて、鵺を失いたくない。我々はもはや唯一の家族なのだ』

「……うん」

 

 大らかで温かな声が鵺の心に沁みる。それと同時に、あの無慈悲な死そのものへの恐怖が蘇る。

 再び震えだした鵺を、身体を起こしたドリュウが包んだ。

 

『あれには勝てない。少なくとも、今の我々では』

 

 それが鵺含め口寄せ獣一同が出した答えだった。寄木一族の術は確かに強力だが、弱点の方が多い場面がある。

 

 そもそも創り出せる口寄せ獣の数は、無制限ではなくその者の才能によって決まっている。尚且つ、一度創り出した獣は消せないのだ。彼らの本体は夢の中にあるので、現実で死んでも本当に死んだことにもならない。

 体感では、今使役している口寄せ獣七体の他にあと五体。それが鵺の限界だった。

 

 もう一つの弱点は、一体完成するまでにはそれなりの時間と準備がいるという点だ。

 容姿を決定し、幼体から育て上げ、術を与える。夢の中で育てるが故に現実ほど時間は掛からないが、それでも決して少なくない時間を要する。

 そしてこの与える術は、鵺本人が使えなくともよいが、印と術の仕組みを正しく知っていなければならない。自然と子供の鵺に用意できる術は簡単なモノばかりになり、高等忍術などは与えようがない。術を知る機会が無ければ。

 

 今使役している口寄せ獣が持っている術も、一族で集め継承してきた有用な術を参考にしたモノが多い。

 有用な口寄せ獣を纏めている書もあった。幻術を使う大蛤もそこに記されていた。

 しかしそれもあの急襲で失われた。燃えたり持ち出されたりしていなければまだあるだろうが、鵺にあの家へ戻るだけの勇気は無かった。

 

 そして最後の弱点。それはチャクラの消費量だ。

 彼らの術のベースはやはり、どこまでいっても口寄せの術でしかないので、呼び出す獣が大きかったり強力な術を持つ程消費が多い。

 三体までならば一度に出現させられ、かつ持続的にチャクラを消費することは無いが、そもそも呼び出せなければ意味がない。

 

 そんな意味の無い口寄せ獣……言い換えれば大きくて強い口寄せ獣は鵺の中にいない。故にこそ、あの時は逃げの一手だったのだ。

 

夢現獣の術に頼らず既存の口寄せと契約することも可能だが、その伝手がない。昔の寄木一族ならいざ知らず、今の彼女に契約巻物等は用意できない。

彼女自ら探さなければならないのだ。

 

『今いる家族は、悪く言えば小手先の者が多い。手札が多いとも言えるが、やはり戦闘力が不足しているのは否めない。十把一絡げの敵ならば問題は無いがな』

「新しい子……育てる?」

『いや、家にいた頃ならばともかく……今は強力な術を用意できない』

 

 身体の大きく、力が強い口寄せ獣は創れるだろうが、そこに強力な術や有用な術が付属していなければやはり心許ない。よほど特殊な術でない限り付与出来るのが、夢現獣の術の最たる長所だ。だがやはり肝心の術を知らなければ、無為に育成可能ストックを減らすことになるだろう。

 

 夢現獣の術にて生み出される口寄せ獣は、一体一体が鵺にとっての切り札であり、武器の全てだ。何せ寄木一族は口寄せの術と夢現獣の術しか扱えない。それが長き血の中で定められた彼らの特性であり弱点でもあった。

 

『ひとまず、隠れながらも人の間で生きていくしかあるまい。どこかの里に忍び込めれば、術の収集も可能のはずだ』

「そうだね、まずは生きなきゃ……ずっとこの穴倉で隠れているわけにもいかないし……」

 

 第一目標、生存。そして……

 

「あの蛇男……絶対許さない……」

 

 叶うならば、弔いを。

 

 

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