サクラがタズナを、サスケがカカシを庇いながらクリスタの攻撃を躱す。
その攻撃自体は鋭く、重いが片腕の破損により手数は多くない。また挙動も読みやすく速さもないので、大の大人を抱えながらも十分回避は可能だ。
しかし当たった際のダメージはカカシの話によると岩隠れの上忍が死ぬレベルなので、油断は出来ない。
だがクリスタ側も前に出過ぎると鵺を庇えないので、よりその攻撃は中途半端になっていると言える。それが第七班にとっての僥倖となった。
しかし問題もある。今の状態は気をつけてさえいれば負けはしないが、勝てもしないのだ。
鵺としては本来ならそれが正しい膠着状態であり、撤退まで時間を稼げば良かった。が、舐めていた相手にクリスタを傷付けられ頭に血が上ってしまっている。
故に何とかして、目の前の忍者を殺そうとしているのだ。その割りには戦闘役がクリスタしかいないのは、家族の制止による最低限の成果と言える。
第七班はそのことを正しく認識している訳ではないが、鵺が怒りによって視野狭窄に陥っていることは察している。故に彼女が痺れを切らして、守りが甘くなるのを待っているのだ。
そしてその機会を窺うのは、クリスタの攻撃に紛れて姿を隠している身軽なナルトだ。
クリスタの広い攻撃範囲を掻い潜り、第七班は見に回る。既にカカシにより鵺は口寄せの術に攻撃を任せるタイプだと看破されており、仲間内に周知している。
そしてその時が来るのに、攻防の開始からそう時間は掛からなかった。
「クリスタ!」
サクラが疲労により体勢を僅かに崩した……様に見せた。依頼人であるタズナを抱えている状態なので非常にリスキーと言えるが、彼には元より依頼の難易度を偽っていた負い目がある。好きにやってくれとの言は出ているので問題はない。
その隙に誘われ、クリスタに号令を掛ける。さらに言えば、サクラはクリスタの腕をへし折った女だ。自然とその攻撃コールも力強くなる。
が、それは第七班の作戦通りだ。
「させねぇってばよぉ!」
クリスタが前に出るのに合わせて、鵺の背後に回ったナルトが五人に増えて彼女に飛びかかった。
ただでさえ身体能力に差があるのに加え、ステゴロではなくクナイがその手に握られている。そのためまともに戦えば、負けるのは確実に鵺の方だ。
寧ろ負けるで済めばよいが、場合によっては大怪我を負い死ぬ可能性すらある。
海月が背中に備えているが、彼女が活躍できるのはあくまで鵺が傷を負ってからなので、取り押さえられれば抵抗が出来ない。
『鵺!!!』
ナルトの声と鹿尊の感知により攻撃を察したが、何せ数が多く範囲も広い。最終的な攻撃の終着点が鵺なので、守りに行くことは可能だが完全に後手に回ってしまう。
水障壁の術もタメがいるため間に合わない。右鋏腕と身体で守るしかない。
二人目、三人目のナルトを弾き鵺を守ったところで、四人目のナルトがクリスタの背殻に起爆札を張り付けた。
そして──────。
『グッ……!!』
強い炸裂音と共にクリスタの体勢が大きく崩れる。起爆札の衝撃をゼロ距離で受けた背殻は決して小さくない損傷を受け、彼女はダメージ超過により口寄せが解除されてしまった。
最後の力を振り絞って迫り来ていたナルトの分身を全て消し、本体は離れた場所に弾くことは出来たが、それが限界だった。
「クリスタ──ーッ!」
鵺の甲高く悲痛な叫びが響き、彼女はクリスタが消えた場所に縋りつく様に蹲った。とてもではないが、これ以上の戦闘行為は不可能なほどの取り乱し様だ。
『いけない! 夜月!』
鵺のローブの背中の部分が膨らみ、そこから夜月が現れた。
彼女が口寄せを使っていないのにも関わらずに、だ。
これは鵺が寄生口寄せの術から得た発想の一つである。夢現獣の術をある種彼女の夢と言う精神世界にて、相互契約を結んでいる寄生口寄せと解釈したのだ。これにより、彼ら家族たちは彼女の内側から自主的に口寄せされることを可能とした。
しかし勿論欠点やデメリットはある。
四体以上の顕現が出来ないという元来の欠点もありつつ、その最たるものはチャクラの消費量と鵺への負担だ。
チャクラ消費量は出て来る口寄せ獣の元のコストのおよそ五倍ほどであり、クリスタや海月を始めとした高コスト獣はハートキートが貯蔵している血を使わないと自主口寄せは不可能だ。
そして精神世界からの勝手な脱出は、鵺の心身への負担がデカい。
何せ寄生口寄せの術の応用や、相互契約を結んでいるとは言えその原理は術の暴走と変わらない。
チャクラを勝手に使われるのと精神への干渉は、思った以上にキツイのだ。
それ故に、手段としては有用だがおいそれと使えるものではない。同様に口寄せ獣たちからしても、あまり取りたい手段でもなかった。
だが使用後の負担を差し置いてでもやらなければならない場面とあらば、しない訳にはいかないのだ。
「あっ……」
ごっそりとチャクラが抜ける感覚に鵺が呻く。この襲撃に合わせてクリスタと海月、鹿尊といった家族の中でもコストが重い面々を出していたためにチャクラはあまり余っていなかったので、強い倦怠感に襲われたのだ。
『夜月、撤退じゃ』
丁度いいと言っても良いのか、白と再不斬の撤退も済んだらしい。
鹿尊の報告に夜月は返事もする間も惜しんで、鵺を咥えて駆け出した。
森に紛れる様に入ったので、第七班の姿はすぐに見えなくなった。彼らもこれ以上戦う意思は無いので、鵺のあの取り乱し様に困惑を覚えながらも見送ることになる。
「撤退……したか」
サスケが零す。徐々に臨戦態勢を解きつつ、ようやく一息入れることが出来た。
思えば再不斬からの鵺という強敵の連戦だ。下忍には些か重かっただろう。
だが戦闘は終わったが、仕事はまだ残っている。
ここからタズナを家へ……そして動けぬカカシを抱えていかなければならないのだ。
さらにタズナの橋作り達成までに、取り逃した再不斬と鵺と言う敵……それらとの戦いは、もう一度ある。
それに対し、恐怖とも武者震いとも思える震えを、サスケは感じるのだった。