口寄せ特化一族の末裔ちゃん   作:冗談だぜ、青い人

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感情の制御

 夜月により連れ帰られた鵺の心は、些か平穏とは言い難かった。

 家族を傷付けられたこと、それは今まで案外その眼で見たことはなかった。

 

 というのも、毎回口寄せが解除される程のダメージを負うのは足止め役の口寄せ獣ばかりで、目の前で消えたと言うことはほとんど無い。

 唯一あったのは岩の上忍と戦った時にクリスタが倒された時だが、彼女は相打ちに終わっていたので怒りの矛先が死んでいた。だからこそ、溜飲が下がる結果になっていたのだが……。

 

 しかし今回ばかりは違う。

 目の前でクリスタが重大なダメージを得て、かつその仕立て人が死んでいない。

 本来なら鹿尊や海月を消してでも、夜月とドリュウ、茶鬼丸に殺させたかったが発狂している間に撤退させられた。

 

 故に鵺の内側には未だグツグツと怒りと憤りが湧き立っており、再不斬のアジトに着いても自らの服の裾を掴むその握り拳が、ずっと力強く握られていた。

 

 だが誰よりも負傷し、床に伏せている再不斬がいるから。

 たったそれだけの理由が、彼女の暴走を食い止めていた。今現在彼女は、このアジトの中では白に最も懐いているが、再不斬にもそれなりに懐いている。

 

 一度懐に入れてしまえば、口寄せ獣程ではないがまるで家族の様に思えてしまうからか、この場においては勝手なマネはしない。

 怨敵が目の前にいないだけで、彼女の荒れる心に少しばかりの冷静さをもたらしていたのだ。

 

『鵺、よーしよしよし、大丈夫ですよ』

 

 夜月と鹿尊は夢に帰り、海月だけが残って鵺をあやしている。

 背中に張り付いたまま、精一杯触腕を使って抱き締めたり絡まったり、頭を撫でているが未だ落ち着く様子は無い。

 

 そのため周りから見れば、鵺のローブのあちらこちらから内から押す様に蠢いたり裾から触腕が生えているという奇怪な絵になっているが、当の本人にそれを気にする余裕は無かった。

 

 時に口寄せ維持のチャクラや時間は夢現獣の術においてほぼ無にも等しいが、同時顕現数によってチャクラの回復が阻害されるという欠点がある。

 チャクラを練り込んだ血はあるにはあるがまだ十分な量を確保出来ていないため、気軽に使えるものでは無い。

 

 故に本来ならば海月だけでなく他の家族にも鵺をあやすのを手伝ってほしいのだが、夜月の口寄せに使ったチャクラがあまりにも多かったので、泣く泣く海月だけ残っているのだ。

 勿論イヤイヤやっているわけではないが、鵺の心が海月にも伝播して落ち着かないのだ。それに、鵺の心の平穏は家族全員の願いでもある。どうしても彼女の心を癒したかった。

 

 海月の目算ではしばらくこのまま刺激が無ければ、その内元に戻るとも思えた。が、不幸はあちらから足音を鳴らしてやって来る。

 最初にその男の来訪に気付いたのは白だった。

 

「あんたまでやられて帰ってくるとは……霧の忍者はよほどのヘボと見える!」

 

 ガトーが刀を持った二人のボディーガードと共にやって来る。

 その雰囲気は随分と嫌味気だ。

 

「部下の尻拭いも出来んで、何が鬼人じゃ……笑わせるな……」

 

 カカシに打ち取られた鬼兄弟のことを出し、そう言いながら歩を進める。ガトーには白も鵺も眼中に入っていない様だった。

 

 途中でボディーガードの二人が前に出て刀に手をやったが、それをまぁ待てと止め、ガトーが再不斬の枕元まで来た。

 誰も、鵺の静かな激情の波を知覚していない。

 

「なぁ、黙ってることないだろ……何とか……」

 

 しかしその言葉は続かない。白が再不斬に伸びるガトーの腕を万力の力を込めて握ったからだ。

 

「汚い手で再不斬さんに触るな……!」

「ぐっ! お前……!」

 

 忍者と一般人の力の強さは、大人と子供以上に違う。

 そのあまりの力強さにガトーの腕の骨が鈍い音を立て、その痛みに彼は呻いた。

 

 その瞬間、ボディーガードが反応して刀を抜くが……遅い。

 一瞬で移動した白が、両方の抜身の刀を奪い二人の首に添える。その余りの速さにボディーガードの二人からしたら、白は一瞬で刀を奪って生殺与奪の権を手中にしたと見える。

 

「やめたほうがいいよ……僕は怒っているんだ」

 

 白が心底怒りを込めた声で二人を諫める。彼の氷遁のチャクラが荒立って、薄ら寒い気すら二人は感じた。

 それに対し化け物かよと、ボディーガードが戦慄する中。彼らの背後では不幸がもう一つ、全速力で迫っていた。

 

「口寄せの……」

『鵺! やめなさい!』

 

 その手がギリギリで止まる。だが興奮しきって瞳孔の開いた眼は真っ直ぐに、ガトーを含めた三人の無礼な来訪者に突き刺さっている。

 止めた理由は単純だ。人殺しを止める……のではない。それに使うチャクラがそもそも足りておらず、戦闘が出来て一番コストの軽いドリュウですら呼び出すのが危険だからだ。

 

 術こそ行使されなかったが、その異様な雰囲気を感じ取った三人はすっかり腰が引けてしまった。

 

「次だ! 次失敗を繰り返せば、ここにお前らの居場所はないと思え!」

 

 ガトーはそう捨て台詞を吐くと、足早に出ていった。その背中にはありありと、この場にいたくないと書かれているようだった。

 

「白、鵺……余計なことを……」

 

 布団に沈む再不斬がそうぼやいた。事実、ナメた態度を取っていたガトーが自分に触れようものなら、掛け布団の下に仕込んでいるクナイで刺してやろうと思っていたのだ。

 

 だがそれを察していた白に止められた。

 

 白とてガトーは殺してやりたいほど怒りを抱いていたが、実利を考えるとそれはやめた方が良い。

 

「分かっています。ただ今ガトーを殺すのは尚早です。ここで騒ぎを起こせば、また()()に追われることになります。今は我慢です」

 

 それに……とニッコリ笑った白は続ける。

 

「鵺ちゃん、止まったのは偉いですが……そう正当性無く人を殺すものではありませんよ。殺害と言う手段は私たちにとって簡単で強いものですが、同時に多くの敵を作ってしまいますので」

「………………分かっ、た。うん…………」

 

 今まで立ち塞がる敵は殺すか殺せないかだった。チャクラコントロールを覚え、クリスタを始めとする強い口寄せ獣を比較的楽に出せる様になってからは殺すことの方が多かった。

 何せ鵺にとって他人は家族かそれ以外でしかない。そのどうでもいい人間をどれだけ殺そうとも死のうとも、どうでもいいことだったのだ。

 

 口寄せ獣たちが誰も鵺を止めなかったのも、その思考を強める一端となっていた。

 だが今この場で、初めて鵺はその所業を咎められた。別段倫理教育というものでは到底ないが、特に懐いている白から言われれば、その認識は少しは改める。

 

 結果鵺は激情に荒れる心を押さえつけて、渋々ながらも彼の言葉に頷いた。

 彼女は叱られた子供の様な顔をしながらも、一旦怒りを横に置くことが出来た。そんな彼女の様子に海月もホッと一息つく。

 

「もう、寝る……」

「はい、おやすみなさい。鵺ちゃん」

 

 言うならばそれは不貞寝のようなものだ。だが鵺の眠りは他の者とは違う。

 

「夢現に……家族の輪……家族寄り沿う木は……夢の中……」

 

 最近思い出した、遠い昔に母から教えてもらったおまじないの言葉を呟いて寝床に沈む。

 意味は知らないが、何となくそれを唱えれば心が落ち着くような気がするのだ。

 

『鵺、おやすみなさい。また夢で……』

 

 そうしてグルグルと渦巻く鬱屈とした気分を心の中に感じながら、鵺は夢の中に帰っていった。

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