各地で戦闘が始まる。
白がサスケを、再不斬がカカシを……そして鵺が木ノ葉第八班を。
それぞれ相手取るに十分な力量であり、また同時に互いを援護できない程度には余裕がない。
唯一白だけがその力量差から他にも目を向けられていたが、いつの間にかナルトが参戦してからその余裕も無くなる。
鵺は再不斬が残した霧の中で隠れながら、クリスタに攻撃指令を出す。
だがそれは何故か事前に察知され、霧の中ですらまともに捉えられない。霧の隠蔽力が足りないのかと幻来を出しても、やはりその結果は変わらなかった。
『鵺、奴らどうやら見えているようです』
普段は寡黙な幻来が鵺に言う。彼女の術は対象が動くほど効果が薄れるが、それでもこの蔓延する霧の中であれば十分すぎる程効果を発揮するはずだ。
それなのにも関わらず、こうも攻撃を避けられるのは何らかのカラクリがあるに違いなかった。
そしてそれは間違いではなく、寧ろほぼ正解だ。
「キバ、ヒナタ。常に相手の位置を共有するのよ」
その言葉通り犬塚家のキバがその嗅覚で、そして日向の血を受け継ぐヒナタが白眼で霧の中にあるチャクラを監視している。
実は鵺の情報は、その殆どが目視困難な攻撃を操る口寄せ獣を操る……と言うものばかりだ。彼女の必勝パターンはその実、有用であるばかりに情報が出回りやすいと言う欠点がある。
それを加味した三代目火影は、感知能力に優れた第八班を寄こしたのだ。
「行け、奇壊蟲」
そして感知で位置を探り当てれば、次は油女シノの操る蟲の出番だ。
未だ未熟で大層な秘術は扱えないが、奇壊蟲の持つチャクラの吸収能力は馬鹿にならない。纏わり付かれれば、相当なチャクラの消費を強いられるのだ。
忍者はチャクラを失えば、行動が不可能になる程の疲労を覚える。故にチャクラを奪う能力は無力化に適していると言える。
「チャクラを失えば奴の戦闘行為は不可能になる。何故なら口寄せの術の維持にはそれなりのチャクラ消費が伴うからだ」
口寄せさえ封じてしまえば、後はヒナタの柔拳なりキバの人獣忍法でどうにでもなる。
そして鵺には口寄せ以外の術を使う情報も、今現在その素振りも見せない。
どの様な忍者が相手でも、備えと確かな戦術を用意すれば勝てる……と紅は考えており、またそれを下忍たちに教えているのだ。
一方で鵺は、新手の情報など何も知らない。
精々が感知能力があるっぽいことと、夜月に与えた術と同系統の技を操る男と犬がいることくらいだ。
『鵺……』
「分かってる」
だが鵺のやることに変わりはない。仕事の邪魔をする奴は……幸せの邪魔をする奴は、全部殺す。それだけだ。
決意を新たに、攻めに回っていたクリスタを自分の傍に寄せて待機させる。ここからの攻撃役は別のモノがやるのだ。
「口寄せの術」
ボンッと煙と共に夜月が現れる。彼ならばこの濃い霧の中でも正しく相手の位置を把握できるだろう。さらにその戦闘能力は、相手の攪乱や翻弄にも十分力を発揮する。
そして──────。
「開錠血……」
鵺は懐から血の入った小瓶を取り出す。
それこそずっと温めていた、禁術によって作られたチャクラを練り込んだ鵺の血液。
本来ならば鵺のチャクラ量では呼び出せない様な、そんな強力な口寄せ獣を顕現させるための扉を開く鍵──────
故に開錠血。
「口寄せの術! 来て! シーツー!」
「オォォォォォアアアォアァァアアア!!!!!」
その虫の様な三対の翼が周囲の霧を吹き飛ばし、太く硬い四対の節足が地面を踏みしめる。
長い尾は先端が槍の様に鋭く付け根に向けて丸太の様な太さを帯び、その顔は虫と竜を混ぜた様な異質な造形をしていた。
「なん……だよこりゃ……」
キバが慄く声を上げる。ヒナタやシノは、最早声も出せない程驚いていた。
紅はその経験値故か酷く驚くことこそないが、報告にあった蟹よりもよほど強力そうな口寄せが現れたことで、作戦の修正を脳内で巡らせていた。
「シノ、あれが何か分かる?」
「……分からない。何故ならあの様な蟲は見たことも聞いたことも無いからだ」
蟲に精通しているはずの油女一族の者すら聞いたことも無いとなると、全くその性質は不明と言える。
それもそのはずだ。シーツーと呼ばれる蟲竜は、鵺がデイダラの『C2ドラゴン』から着想を得て、一から生み出された架空の生物である。
まさにこの世に一体しかいない、鵺の暴力装置だ。
「くっ……ヒナタ! 本体はどう?!」
「無理です! さっきの蟹があの女の子を守ってます!」
明らかに強そうな口寄せが相手でも術者を倒せば消えるはずだと考えた紅だが、それはクリスタが許さない。
そして……
「何だこの忍犬は?!」
キバが呻く。
この班の下忍の中では最も優れた戦闘能力を持つ彼は今、夜月に絡まれて行動が出来ない。
夜月も夜月で自らの源流となったモノと分かるのか、自分と同じような高い個人戦闘力を危惧して真っ先に潰しにかかったのだ。
「紅先生! 俺はコイツをやる!」
キバの相棒忍犬である赤丸より、二回りどころか三回りほどデカい狼を相手に彼は宣言した。
餅は餅屋、犬は犬塚家だと考えたのだろう。そしてそれは実際に正しく、この場で一番忍犬に詳しい彼が夜月を相手にするのが最適解だった。
「分かったわ。なら……私たちはあの怪物を倒すわよ!」
これ以上何を口寄せしてくるかは分からないが、間違いなくあれは彼女の切り札だろうと紅は考える。
ならばあれさえ倒してしまえば、鵺の戦力は大幅に削られることになる。それが第八班の唯一の勝ち目だ。
『鵺、シーツーに術はまだ与えられていません……そう油断はしないでくださいね』
クリスタの言葉に鵺は頷き、第八班の面々を睨みつける。
「さぁ行って! シーツー!」
鵺の猛攻が、始まる。