口寄せ特化一族の末裔ちゃん   作:冗談だぜ、青い人

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素直だからこそ

「再不斬おじさん!!」

 

 片や満身創痍の再不斬、そしてそれに迫り止めを刺そうとしているカカシ。

 その雷遁のチャクラが迸る手刀は、見るからに人を貫くに余りある威力を醸し出していた。

 そんな極限状態の中、白がそれを庇おうと走る姿も朧気に見える。

 

 あぁ、また幸せが壊れてしまう。

 

 鵺の心の中はそれでいっぱいになった。もしこの場に紅班以外の誰もがいなければ、迷わず下忍たちを盾にして術の開示を迫っていただろう。

 だがそれ以上に再不斬や白という、鵺にとって家族にも等しくなってしまった者がいなくなる方が、よっぽど重大なことだった。

 

「夜月!」

 

 呼びかけはそれだけでいい。

 キバを倒し、押さえつけるなりして捕縛しようとしていた夜月は、その声だけで白とカカシの間に飛びついた。

 

 無論これを可能にしたのは運が良かったからに他ならない。

 夜月が庇える距離で、庇える速度を持ち、またクリスタの呼びかけに鵺がちゃんと反応を示した故の。

 

「何?!」

 

 結果としてカカシの雷切は夜月に妨害されて威力を落とし、白に重傷を与えるには至ったが致命傷にはならなかった。

 それを成した夜月は雷切に胴を削られており、口寄せが解除される。が、十分に仕事を果たしたと言っていいだろう。

 

 鵺も夜月が傷付いたことは腹立たしいが、自分がやらせたことであるためその怒りの程度はまだ低い。

 それよりも早く白に治療を施したかった。もはや彼は戦闘行為など不可能なほど傷付いているのだから。

 

「白おにいちゃん……」

「ゴフッ……ぬ、えちゃん……」

 

 クリスタの庇護下にいなければならないことも忘れて、鵺は一目散に白に寄り添った。無論クリスタは無言で着いてきており、カカシが下手に動くのを牽制している。

 と言っても、長時間に渡る写輪眼の使用と雷切を使ったことによる疲労で、早々S級犯罪者に対して行動も起こせないのだが。

 

 一方で白の方はそれなりに重傷だ。威力が減衰し狙いもズレた雷切は、それでも彼の脇腹を抉り決して少なくない出血を強いているのだから。

 再不斬も戦闘が出来ない程ではないがかなりの傷を負っており、特に忍犬に潰された右腕では満足に首切り包丁を扱えないだろう。

 

 場に静寂が訪れる。

 クリスタに睨まれ、下手に動けないカカシ。重傷を負った白とそれに寄り添う鵺。まだ戦えるが満身創痍かつ、白の重傷と鵺の乱入に少なからず衝撃を受けている再不斬。

 そして……。

 

「どういう状況だってばよ、これ」

 

 倒れ伏した八班と動けぬ紅、そこに現れたナルトだ。

 そしてさらに、その場に現れた者たちもいた。

 

「おーおー、こりゃまた派手にやられて」

 

 ガトー率いるチンピラ集団だ。

 そしてガトーは手品のタネを披露するかのように、とある計画を話し始める。

 

 最初から金など払うつもりはなかったこと、そしていい感じに消耗しあった忍共をタズナ諸共ここで始末することを。

 

「だ、めです。鵺ちゃん……」

 

 海月を出して白を治療していた鵺は、ガトーに意識を向けていたカカシやナルトにクリスタをけしかけようとするが、それは止められてしまった。

 信じられないモノを見る様な目で白を見ると、彼は嗜める様にこう言った。

 

 もう戦う理由は無い、と。

 

 確かに先程まで戦っていたのは、多分に私情を挟むもののあくまで仕事の邪魔を排除するという『正当性』があった。

 以前の鵺ならばそれでもお構いなしに、カカシやナルトをこの隙に殺そうとしていただろうが、他ならぬ白の言葉には従わざるを得なかった。

 

「じゃあ、あれも……?」

 

 シーツーが抑えている八班の方を指差し、震える声で伺う。

 白はその指に従い視線をやり、鵺がちゃんと仕事を全うしたことに微笑みながら頷いた。

 彼は元々忍者が持つ、感情を捨てなければならないという業に悩んでいた青年だ。奪わなくていい命は奪いたくなかった。

 

「………………どうしても?」

「…………ええ」

 

 そこまで言われれば、鵺は引かざるを得ないではないか。

 最早大人たちのやり取りなど微塵も聞こえない。何故なら鵺の心の内は今、いっぱいいっぱいなのだから。

 

 クリスタを破壊した金髪のヤツも、木ノ葉の怖い奴も殺せず。あげくあんな幸せな光景を見せられても、それを探ることすら許されず。知らぬ間にその正当性すら無くなった。

 そして当初の目的であった金稼ぎすら、白紙になった。

 

 もう、我慢の限界だ。

 確かに鵺は、両親がいた頃は素直で良い子だった。そしてその素直さは今も無くなっていない。

 だが明確に、旅の中でいつしか我慢というものを失った。一時は白のおかげでそれも取り戻していたが、それももう……。

 

「行こ……シーツー」

 

 言わばそれは癇癪だ。

 だが今、鵺にとってガトーの言い分など、そして大人たちの都合など一切合切どうでも良かった。

 彼女は治療を終えた白の傍を離れて、第八班の拘束を止めたシーツーに飛び乗った。白の制止も無視して。

 

 クリスタは口寄せを解除し、海月はいつもながらにローブの中で背中に張り付かせた。

 そしてシーツーが飛び立つ。彼らが目指す場所は…………。

 

 

 ◇

 阿鼻叫喚が、その建物内を支配する。

 そこには血と死の臭いが蔓延していた。

 そんな嵐に見舞われたガトーカンパニー職員は、最早怯えることしか出来ない。

 

「始めから、こうすればよかった」

 

 破壊された金庫の前で鵺は呟く。

 そのすぐ後ろでクリスタが職員を真っ二つにし、シーツーが強引に入り込んだ玄関で逃亡者を食い荒らす。

 

 原点回帰だ。幸せが壊される前に相手を壊せばいい。どうでも良いモノがいくら壊れても、全く無関心でいればいい。それが己の心の平穏を外敵から守る唯一の手段なのだから。

 

 金庫の鉄板に映る鵺の表情は、心なしか明るかった。

 

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