過激な情報収集
水の国には、大きな街は少ないがその代わりに小さく纏まった村が数多く点在する。
彼らは寒さと物資が厳しい中、こじんまりと生活を送っている者が多く、その実態は元忍者の末裔や農民が殆どだ。
そして今、とある一つの村が未曽有の窮地に追いやられていた。
「バ、バケモノ……ギャッ!」
ぷつりぷつりと、蟲と爬虫類を混ぜた様な奇怪な怪物が村人を喰らう。
彼は最近訪れた旅人の少女に、出て行けと罵声を浴びせた老人だった。
そして次の瞬間にはもう一人、丸々と育った大熊が腕の一振りで頭蓋を砕く。
この男は閉鎖的な村の慣習に従い、旅人の少女を追いだそうと動いた一人だった。
彼らの平穏な生活は、たった一人の旅人により破壊され、今やその少女の前で震えるばかりである。
逃げ出そうにも、途端に蟲竜が猛スピードで動き、捕らえられるのだから逃げるに逃げられない。
「ねぇもう一度聞くけど、この辺りに古い忍者の一族の遺跡とか……無い?」
「し、知らない! そんなの聞いたことも無い!」
「んー、そっかぁ……」
尻餅をついた状態で、目の前に立つ少女を見る男はこの村の村長である。
だが村長と言ってもただの村の纏め役に過ぎず、一介の農民である彼にはこの暴風に抗うことは不可能だ。
そんな男の返答に、残念そうな声を出す少女……鵺は途端に興味が失せた様に男から視線を外した。
実際に、彼にはもう興味など微塵もなかったのだが。
「またハズレかぁ」
『仕方ないのう。ただでさえ寄木が栄えていたのは随分と古い話の様だからな』
周囲の警戒と遺物のチャクラを探れるかと期待していた鹿尊が、鵺に答える。
後ろではシーツーと茶鬼丸が逃げ出そうとしている者を殺し、捕らえ集めている者達に睨みを利かせているが、それには大した関心を向けていない。
もう三つ目だ。
鵺が水の国に来てから、寄木一族の遺跡を探して襲撃した村は。
彼女の持つ情報は、寄木一族は水の国を源流とした一族であることしか無い。そのため閉鎖的なお国柄の中で情報を得るには、これが最も手っ取り早いと考えたのだ。
往々にして、こう言った古い村には古い情報も残っていると鹿尊が言うのだから。
だがその期待も中々実ることはない。
二つ目の村では古い忍の一族の情報を得ることが出来たが、その遺跡に行ってみれば寄木一族のモノではなかった。
確かに忘れ去られた秘伝忍術の様なモノは見つけ、鹿尊の解析の結果シーツーに相応しい術を与えることに成功はした。だが本当に欲しいモノは寄木一族の秘伝なのだから、残念と言えば残念だった。
そしてシーツーに秘伝忍術を与えられたことは良かったが、やはりと言うか予想以上にコストが増えてしまったのは明確なデメリットと言えるだろう。
具体的に言えば、開錠血の小瓶を二本消費しなくてはならない程に。
『ではさっさと──────ん?』
「どうしたの? 鹿尊」
下手に騒がれても厄介なため、残る村人を始末してから次の村へ行こうと促しかけた鹿尊が止まった。
淡く角が光っている辺り、何かを感知した様だった。
『いや、どうやら一人見逃していたらしい。弱いがチャクラを感知した、あの家だ』
鹿尊の見る先には、他の家から離れた場所に建つ古い家があった。どうやらあそこに、鵺の魔の手から逃れた者がいるらしい。
そこで彼女はもう見逃しはないだろうと鹿尊を口寄せ解除し、新たに夜月を口寄せする。
「あそこに一人いるらしい、行こ?」
『確かに匂いを感じる。承知した』
鵺はシーツーと茶鬼丸にこの場を任せ、夜月に跨る。別段乗る必要はないのだが、小柄とは言え鵺の身長よりも体高の高い夜月の背に乗ると、グンと視線が高くなり楽しいと最近彼女は気付いたのだ。
そしてそんな彼女の様子に、恐怖に支配された村人とは逆に嬉しさを覚えるのが彼ら鵺の家族だった。
体長がある分、一歩一歩も大きい。その逃れ者がいる家にはすぐに着いた。
そこで鵺は夜月から下りて、コンコンと木の扉をノックする。中に人がいることは分かっているので、返事が無ければ蹴破ろうとでも思っていたのだが、意外にも返答がすぐにやって来た。
「はぁい」
その声はしわがれた老婆のモノだった。
鵺が有無を言わさずに開けてと言うと、少し経った後にカラカラと軽い音を立てて扉が開いた。
「あらぁ、幼い旅人さん? 今日は寒いでしょうに、中に入りなぁ」
老婆はほけほけと緩い笑みを浮かべながら、腰が悪いのかそこに手をやって中に戻っていった。どうやら外の惨劇に気付いていないらしく、純粋にも歓待を申し出たのだ。
そんな緩くも暖かい、害意が一切感じられない接し方をされたからか、鵺の無意識の過激さが鳴りを潜める。
そして一度夜月の方を見て何かを考え、その場に待機を命じると彼女は老婆に続く様に中に入って行ってしまった。
『鵺! 何と不用心な!』
夜月が素っ頓狂な声を上げるが、鵺は大丈夫と言い黙殺する。彼女はこの旅の中でいつしか、悪感情にも……そして逆に自分に対する好意にも敏感になったのだ。
それ故に前者であればすぐに手が出て、後者であればすぐに無意識に距離感を詰めてしまう様にもなった。
それが良いことなのか悪いことなのか、家族たちには判断が付かないが、傷付けられそうなら殺せばいいと結論を出したためさほど問題ではない。
「はい、温かいお茶よ。ちょっと苦いけど身体が温まるのよぉ」
鵺が中に入ると、囲炉裏の傍にある座布団に案内され、問答無用で座らされた。
どうやら緩そうな老婆だが、強引なところもあるようだった。
そうして差し出された濃い緑のお茶は、確かに子供の鵺には些かキツイ苦さだった。だが元より良い子ちゃんだった彼女は、出されたモノを残したりはしない。
「苦い……」
けれど温かい。鵺は気付いていなかったが、随分と身体が冷えていたらしく何らかの生薬の効果か内から熱が湧き上がる。
だがそれは決して悪いモノではなく、寧ろ心地良いモノだった。
「それで、どうしてこんな何も無い村に?」
老婆が尋ねる。それに鵺は、穏やかな気持ちの中で答えた。
「あのね、おばあちゃん」