寄木一族最後の当主は、鵺の祖父のそのまた祖父……の、兄である寄木
彼は水の国にて、干柿一族や枇杷一族などの中規模勢力と鎬を削って戦っていた頃の……寄木一族の最盛期にて産まれた。
そして元本家である鬼灯一族から独立した寄木一族本家の嫡男として、当然の如く幼い頃から戦場に出ていた。
彼らの用いた戦力は、勿論『夢現獣の術』で創られた口寄せ獣たちだ。
その開祖から続く一子相伝の秘伝忍術は、戦国の世にて特異性を以て戦場を駆ける者達の翼となった。
それが上手くいっていたのは、偏に彼らの一族としての人数が要因の全てだった。
一人につき少なくとも五種の口寄せがいたため、取れる戦略の幅が広かったのだ。それを気に入った時の水の大名が、彼らを火の国へ送り込んだこともあるほどに。
しかしある時その有用性が崩れた。
彼らの開祖は元々鬼灯一族の秘伝である『水化の術』が扱えない、そして忍者としての才能も低いと半ば切り捨てられていた者だった。
そしてその様に虐げられていたからこそ、持ち前の口寄せの術への適性と環境に由来する自閉性を以て『夢現獣の術』を完成させられたのだ。
となると当然彼から派生した一族は、たまに鬼灯一族の術を扱える者が現れることはあるが……その殆どが口寄せの術にのみ傾倒したのだ。否、せざるを得なかった。それしか才能が無いのだから。
だが時に口寄せ獣に術を与えると言うのも、一見戦略性の幅を広げているように見えるが、基本的に一種類しか与えられない。そうなると多様な術を扱う忍者の方が、余程戦略兵器としての価値はあるだろう。
そんな欠点は、悲しくも当時大きな勢力だった鬼灯一族によって突かれ、彼らは壊滅の末路を辿ることとなった。
そして大半の一族の者を犠牲に、当時まだ元服すらしていなかった奴良は少ない仲間と弟と共に辺境の小さな村へ逃げた。
一族にとって命より重い『寄木当主秘伝』を持って。
そしてそこで彼は、自らを寄木の当主だと名乗った。
元より父から譲り受けるモノであったが、彼は犠牲になっていった一族の者たちへの弔いとして、あえて大きく宣言したのだ。
むろんそれを聞き届けたのは村人たちと仲間たちだけであったが、それだけでも少年だった奴良には慰めになった。
それからは村に来る野盗を撃退したり、口寄せ獣を用いて生活の手助けなどを行った。
最初はこちらを警戒していた村人たちも、徐々に心を通わせ打ち解けていった。その頃、晩年まで親友とも呼べるようになる友人も出来た。これがシミエの祖父だった。
生活が安定するに従い、奴良は結婚し、新たな寄木の枝が生まれた。
そんな新たな命を前に、彼はここでもう一度一族を立て直し再起してみせると決意した。
他の仲間たちも同じことを思っていたのかそうでないのかは分からないが、当主に続く様に子供に恵まれた。
しかし、彼らの想いは息子たちに届くことはなかった。
奴良の息子である
無論、戦争に行くため……ではなく、移住するためだった。それは奇しくも、次代当主としての座を与える前日のことだった。
さらに彼は何処で知ったのか『寄木当主秘伝』の巻物の、
このとき彼が何を思ってその様な行動に走ったのかは、終ぞ父親世代が知ることはなかった。何せ全員が出て行ってしまったのだ。訳を聞くまでもなく。
この時共に魎と旅に出た寄木の女性と結ばれて生まれるのが、鵺の祖父に当たるのだがそれは彼らの知る由は無い。
と、そんな苦悩が……秘伝の巻物と共に瓦礫から出て来た日記巻物に書かれていた。
鵺は自分のルーツにはさして興味は無いが、この様に遠い家族の生々しい心を垣間見れるのは、不思議と温かな気持ちになった。
それは偏に彼女の持つ『家族』への偏愛故だろうか。それは彼女自身にも、詳しくは分からない。
「それにしても……」
一度読んだが、もう一度『寄木当主秘伝』を開く。
そこには間違いなく、彼女の知らない『寄木の秘伝忍術』が記されていた。
そしてもう一つ……何故か血の字で当主の名前が書かれた欄が。
鵺は考える。
今まで彼女は自らの家族……両親を含めた三人を『一族として』は見たことはなかった。それも当然だ。三人しか知らない一家を、果たして一族単位で考えることなどあるだろうか。
だが同時に彼女はこの日記を見たことで、少し考えを変える。
鵺は、きっと彼らは無念だったのだろうと思った。
家族を殺され、それに復讐する力も無く、だからこそ家族が増えるのを待ったのだ。
きっとそれが彼にとっての『幸せ』だったのだ。自分と同じ、家族こそが寄り辺だったのだと。鵺はそう解釈した。
故に鵺は……。
「私が、継ぐよ」
開錠血ではなく、普通に口寄せを行う時用の血を取り出す。そしてそれを指に付けて、欄の空きに名前を示した。
最後の寄木として、奇しくも本家筋の血を以て、正式にそれを継ぐ。
名前の欄には既に六人の名前があった。
つまり──────
寄木一族七代目当主 寄木 鵺の誕生だ。