口寄せ特化一族の末裔ちゃん   作:冗談だぜ、青い人

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逃げた先に

 森の中に影一つ。その少女は立派な角を生やした鹿に跨り、真っ直ぐと森の中を進んでいた。

 大柄の鹿と比べ、少女の体躯はかなり小さい。何せまだ九つであり、発育も良いとは言えない。成人男性の腰に頭上が来るほどの背丈だ。

 

 なぜ森の中にいると言うと、鵺はひとまず生きるための場所を探して彷徨っていたのだ。そこで父からの聞きかじりを思い出し、火の国があるらしい方向へ進んでいると広大な森にぶつかったと言う訳だ。

 

鹿尊(ろくそん)、人里見つかるかなぁ」

『火の国とやらの方向へは向かっている。あるいは既にこの森が国の一部やもしれぬ。故に心配することはなく、いずれ人の営みが見えてこよう』

 

 鵺の心の中に、芯のある老人の様な声が沁みる。彼ら口寄せ獣たちはそれぞれの意識と個性を持っているのだ。それは今、両親を失った彼女にとって何よりも温かい人間性だった。

 

 鹿尊の角が淡い緑に光る。

 感知の術に反応があったらしい。

 

『ふむ、何やら大勢のチャクラを感じる……これはかなり大きい集落と感じるのお』

「えっ! 鹿尊行こう!」

 

 少女はしばらくぶりの笑顔を浮かべた。家族たちと協力すれば森での野宿はそう難しいことではないが、やはり幼い彼女にとっては多大な負担になる。

 故にこそ、彼女のみならず口寄せ獣たちも人里を強く望んでいたのだ。

 

 

 しばし歩く。少女は一歩ごとに期待感を膨らませていた。

 が、その期待は最悪の形で裏切られることになる。

 

『っ! 鵺! 幻来と茶鬼丸を!』

「え?!」

 

 鹿尊の強い警告により、咄嗟に口寄せの術を行う。行ってしまう。それほどに、鵺の家族に対する信頼は厚かったから。

 

 大蛤の幻来と熊の茶鬼丸が口寄せされた瞬間、幻来が幻術の媒体である無色の霧を放出し、彼らを隠す。

 するとそのすぐ近くに、男女二人の忍者と一匹の中型犬が降り立った。

 

 彼らは話し始める。

 

「……何もいないぞ」

「いえ、ここに強い匂いが残ってる。ほんの数秒前までは確かに、誰かいたはずよ」

 

 獣の様なくノ一が鼻をヒクヒクと動かし、周囲に注意を向ける。彼女の足元にいる犬も同様だ。何かを探っている。

 

「一瞬で感知範囲外までいなくなるとは……瞬身の術だとすればかなりの使い手だぞ」

「ええ、それこそ四代目様に勝るとも劣らないほどのね」

 

 警戒を強める彼らが探しているのは、まさに目と鼻の先にいる鵺だ。幻来の幻術は強力で姿だけでなく気配やチャクラ、匂いや音まで隠してくれるが、その範囲は狭い。

 故に動けない。もし何らかの方法で見つかれば、捕縛は免れないだろう。

 

 そしてもう一つ、彼女にとって絶対に見つかれない理由があった。

 

(忍者……! あの蛇男みたいに殺されちゃう……!)

 

 鵺にとって、忍者とは恐ろしい者だった。

 隠れて、細々と暮らしていた自分達を暴いて惨殺した……あの蛇男と同類という認識だ。

 

 もし木ノ葉の忍びは温厚で、事情を話せば受け入れられるかもしれないと知っていたならば鵺は迷わず姿を現しただろう。

 そうでなくとも、ただ一方的に見つかったならば……鵺は幼い少女だ。保護されるという未来もあっただろう。

 

 だが姿を隠して恐怖に竦み、目の前の忍者たちが去るのを待つしかない。それが今の彼女だった。

 

『鵺、奴らの警戒心がかなり高まっている。危険じゃ』

 

 チャクラだけでなく、そこに含まれた感情も少しは読み取れる鹿尊が心中にて語り掛ける。

 それに頷きで返そうとした瞬間、状況が動いた。

 

「ふむ、足取りだけでも追うか。土遁・足跡浮かべの術」

 

 大柄な男が印を結び、先ほどまで鵺が立っていた場所にチャクラを流す。すると、淡い光が浮かび上がる。

 鵺が動いた分だけ……その足跡が。

 

「これは……そこね!」

 

 くノ一がクナイを投げる。それは姿を隠していた幻来の生身に刺さる。

 

「幻来ちゃん!」

 

 鵺は叫ぶ。幻来は術こそ強力だが、明確な弱点があった。それは見た目は消えても肉体は残ることと、殻は硬くともその中身は弱いということ。

 

 少なくないダメージを負った幻来の口寄せが解かれる。二人の忍者の前に、鵺は無防備にも姿を現した。

 

「子供?!」

『茶鬼丸!』

 

 鵺の姿を見てくノ一が驚いている隙に、鹿尊が強く呼びかける。すると茶鬼丸はすぐさま動き出し、男の方へその太い腕を素早く振り下ろした。

 

 その余りの事態に中忍だった男が反応出来るわけもなく、茶鬼丸の術により相当な膂力を孕んだ一撃が直撃する。

 

「ドビダ!」

「ぐ……大丈夫だ……」

 

 吹っ飛び、木に叩きつけられたドビダは目を白黒させつつも起き上がる。不意打ちを喰らったが、想定以上のダメージは与えられていないと茶鬼丸は判断した。

 

 

『鹿尊! 鵺を逃がせ! 最悪片方だけでも食い止める!』

『了解じゃ!』

 

 鹿尊は角を器用に使い、敵意に当てられ震えている鵺を背中に乗せ直す。

 

「待て!」

 

 そしてそのまま、制止の声を振り切って走り出した。

 それと同時に、茶鬼丸の重撃が炸裂した音が響く。ドビダと茶鬼丸の力比べが始まった。

 

「ぐぅ! コイツかなりの膂力だ……! ヒノメ! お前はあの少女を追え!」

「分かった! 行くぞモモ!」

「ワンッ」

 

 犬を連れたくノ一……犬塚ヒノメが、鵺を追うべく駆ける。

 匂いの追跡はまだまだ、容易な距離だった。

 

 

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