口寄せ特化一族の末裔ちゃん   作:冗談だぜ、青い人

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汝ら鵺の背に集え

 秘伝の巻物をローブの内側にある細長いポケットへ仕舞う。

 中に記載されていた術も、やはり寄木の秘伝だからか鵺本人が使用することも可能だという確信も得た。

 

 鵺はいつぶりか分からぬ、満足感を覚える。

 

 思えば火の国周辺にいた頃は上手くいかない事ばかりで、何処か苛立ちや我慢ばかりしていた気がすると鵺は思う。

 

 だがそれも水の国に来てからは、嫌な思いをすることは少なくなった。そしてその嫌なことも、相手を殺してしまえば気にならなくなったのだから、波の国の様に我慢を重ねる必要すらなかったと言える。

 

 そして何よりも、力が増えたことが喜ばしい。

 その感覚は実に明確で、禁術を得た時と同じだけの高揚感をもたらしたのだ。

 

 次、あの蛇男や木ノ葉の連中などの許せない相手に出会えば、必ず自分は幸せになれると、鵺は信じて疑わなかった。

 口寄せ獣たちも彼女のそんな高揚感が直に伝わり、彼らも一様に喜ばしかった。

 

 鵺の幸せは彼らの幸せ、鵺の喜びは彼らの喜びなのだから。

 彼らは鵺の一部なのだから……。

 

「いたぞ!」

 

 と、そこで水を差すような野太い声が空気を割いた。

 何だと思い鵺が下山方面へ目を向ける。するとそこには何処かで見たことのある面を被った、八人の忍者とクリスタ程大きさを持つ蛸がいた。

 

 彼らからは一様に怒気や敵意を感じ、明らかに鵺を敵として認識していると見える。

 

『敵……ですね。恐らく私たちが村を襲っていたのを追ってきたのでしょう』

 

 冷静にクリスタが状況を判断する。どうやら彼らの耳は早いらしく、最初の村を襲ってから三日程度で鵺を捕捉したらしい。

 

『どうします?』

 

 鹿尊と茶鬼丸は一度既に送還していた。

 用事も終わったので、シーツーを出して飛ぼうかと思っていた矢先の襲撃だったのだ。

 

 だが、()()()()()()状況とも言えた。

 

「試してみよっか」

『フフ……確かに丁度いいですねぇ』

 

 クリスタが鵺の前に出て、霧の忍八人を牽制する。

 その間に、鵺は新たに手に入れた術を試そうとしているのだ。

 

「開錠血……は一本じゃ足りなさそうだなぁ……と言うか、どれだけ使うか分かんないから……」

 

 鵺は懐の開錠血を詰めた小瓶を眺めて、そう呟く。

 しばらくハートキートを出して補充していないので、もう手持ちが少ないのだ。何せシーツーを呼び出すコストが非常に重いので。

 

 しかし、ならばこうだ。

 

「ゴフッ……! ゲェ……」

「な、なんだ?!」

 

 クリスタの足の隙間から見える鵺が、突然大量の血を吐き出した。

 その異常事態に、霧の忍は驚く。一見チャンスの様にも見えるが、情報が無さ過ぎて動くに動けないのだ。

 

 そして鵺から溢れ出た血は、明らかに重傷レベルに達し彼女の足元に流れる。まるで血の水溜まりに、鵺が立っているようだった。

 

 そしてこれは全て、鵺のチャクラをふんだんに練り込んだ『開錠血』だ。

 彼女の開錠血は、デイダラの粘土の様に作り分けはしていない。ただその量のみでコストを変動させるのである。

 

 さらに言えば寄生口寄せの同期……ハートキートに寄生する口寄せ獣は鵺の契約によるものだ。そのため、彼女自身にもまた寄生させることも出来る。

 故に禁術の出口と入り口のみ、自己の夢領域と言う内側から外側へ繋げることに成功したのだ。

 

 そしてこの血の取り出し方は、身体やチャクラへの負担は大きいものの一度に大量の開錠血を貯蔵から引っ張り出すことを可能にしている!

 

「口寄せ……」

 

 血に手をついて、術式を起動する。

 それと同時に……()()の口寄せ印が地を走った! 

 

「秘術・百鬼夜行の術!」

 

 ボンッと一際大きな、口寄せの術特有の煙が爆発する。そして──────

 

『『オオォォアアアアア!!!!!』』

 

 鵺の家族、()()の雄叫びが大気に走る! 

 

「馬鹿な! これだけの口寄せの数を?!」

 

 総勢十体。

 これが寄木の当主にのみ許された、四つある秘術内の一つ。

 己が夢に内包する魑魅魍魎を背負う『口寄せ秘術・百鬼夜行の術』だ。

 

 今までの同時顕現は三体までという枷は弾け飛び、人数差が一気に引っくり返る。

 

「皆! あいつら全員やっちゃって!!」

 

 鵺の号令と共に、霧の忍の視界から鵺を含め口寄せ獣たちが全員消える。

 と同時に、彼らを取り囲む様に水障壁が立ち昇った。

 

 言うまでもなく、幻来の蜃気楼の術とクリスタの水障壁の術だ。

 そしてこれだけに終わらない。

 

「く、来るぞ!!」

 

 八人がそれぞれ別方向を警戒する。だがこの状況で、下方面への警戒を行う者はいなかった。

 

「足が!」

 

 一人の忍の足首が、地中から飛び出したナニカに切り裂かれる。

 そのせいで大きく姿勢を崩し、膝をついた瞬間に彼の首に太いナニカが突き刺さった。

 そして彼は、次の瞬間には致死量の血を抜かれて死んだ。あっという間の出来事だった。

 

『鵺以外の血は吸いたくないのだがな』

 

 幻来の術で朧げになった人間大の蚊である、ハートキートが呟く。

 そうして彼女は吸った血を死んだ男の上に撒き散らかした。まるで不味くて食えたモノではないと言わんばかりに。

 

 そしてそのすぐ横では、水障壁を突き破る様にして突貫してきた朧げなナニカに、一人また一人と五体を粉砕された。

 それと同時に現れた巨大な切先に貫かれる者もいた。

 

 正に阿鼻叫喚。

 

 正規の訓練と熟達した経験を持つ、霧の治安維持部隊があっという間にその半数を失うに至った。

 まだ五代目水影が就任したばかりで、改革のどさくさで部隊編成がキチンと整っていないとは言え、これはあまりにも手痛い損害だ。

 

 既に四人の死者を出したこの隊の隊長は、面の下で顔を青くしつつも負けるわけにはいかないと奮起する。

 これから霧隠れの里は、新水影の治世によって生まれ変わるのだ。

 そのためにも、この様な村々を破壊する凶悪犯は放置するわけにはいかないのだ! 

 

「卍の陣だ!」

 

 隊長の号令に合わせて、生き残った彼らは全員で互いに背を預ける形を取った。

 これは視界の利かない状況の為に考案された、全方位を警戒しつつ弱い背中を全員で守ると言う陣だ。

 この時どこかで瓶が割れる音がしたが、誰もそれに気付いてはいない。

 

羅蛸(ラショウ)よ! 範囲攻撃を!」

 

 自分達は守りを固めつつ、隊長の口寄せである大型の蛸に指示を飛ばした。

 だが……

 

「……? 羅蛸……?」

 

 蛸は動かない。まるで命令が聞こえていないかのように。

 否、聞く必要が無いかの様に。

 

「ちょうだいね、それ」

 

 何処かから少女の声が響く。

 それはこの状況だからか、酷く不気味で捉えどころのない、妖怪の声の様だった。

 

「寄木式 口寄せ契約術式」

 

 パリンと瓶が割れる音が再びする。

 それと同時に羅蛸と呼ばれた蛸は……隊長含む四人の生き残りに、牙を剥いた。

 

 

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