口寄せ特化一族の末裔ちゃん   作:冗談だぜ、青い人

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飼い犬に手を噛ませる

 時はほんの少しだけ遡り、場面は鵺の百鬼夜行が総攻撃を開始した時点に着地する。

 

「あれちょっと欲しいなぁ……」

 

 鵺は水障壁に囲まれた彼らを、シーツーに乗って上から観察していた。

 彼女が興味を持って見ているのは、彼らが連れて来た大きな蛸だ。その他の人間……特に敵対した者になど微塵も関心は無いが、あの動物には強く惹かれた。

 

 そして寄木の勘からか、あの蛸は口寄せ契約をしてはいるが、忠誠心などは感じない。どころか大した意思も無いように感じる。

 そこで鵺には本当に、よく言えば対等。あるいはチャクラだけの関係と見えた。

 

 となると、もしあれを鵺が手に入れれば……家族ほど濃い関係を結ぶでも、使用感も違うだろうが手札の一つになるんじゃないかと考えた。

 そして何よりも、手に入れた術を使ってみたいと言う欲もあったのだ。

 

「シーツー、あの蛸に近づいて?」

『あぁ、分かった』

 

 クリスタと夜月が敵を惨殺したのを尻目に、蛸のすぐそばに降り立つ。

 彼は随分と鈍感な様で、幻来の術でぼやけた彼らに対した反応は示さなかった。

 あるいは分隊の混乱により、明確な指示が通っていないからか。まぁどちらにせよ、彼女にとっては好都合と言える。

 

「よいしょ」

 

 残り少ない開錠血の瓶の一つを叩き割る。派手に飛び散った血は、鵺と蛸に多く降りかかった。

 

「んー、どっちの言う事聞いたらいいか分かんなくなるから……こっちが先かな?」

 

 印を組み、術式を発動……そして鵺は蛸の身体に手を押し付けた。

 それに蛸が攻撃かと反応し、反撃体勢を取るが……それはもう遅い。

 

「寄木式 口寄せ()()術式」

 

 そして間髪を容れずに、契約術式も組み込む。たったこれだけで、契約が締結された。

 

 そうして蛸が振り上げた触腕が、ゆっくりと地に落ちる。そこにはもう、鵺に対しての敵意は無かった。

 

 これが寄木の秘伝の一つ。当主専用の秘術ではないが、秘伝の巻物に同時に記載されていたのだ。

 チャクラにモノを言わせて、強制的に解約と契約を操るという一族秘伝の術式が。

 

 そうして蛸……羅蛸と呼ばれた口寄せ獣は、あっさりと鵺に墜ちた。

 むろん夢現獣の術による口寄せではないので、心の中で会話することや感情の伝播は不可能だが戦力にはなるだろう。

 

「えっと……羅蛸だっけ? みんなと一緒にあいつらやっちゃって」

 

 再びシーツーに飛び乗った鵺が、ピッと残る四人の忍者に指を差す。

 それと同時に、羅蛸は丸太の様な触腕をたわませた。

 

「馬鹿な?! 口寄せ獣が反逆するなど?!」

 

 あまりにも有り得ない状況に、隊長は面の下で目を白黒させて絶叫する。

 だが仮にも部隊を預かる隊長か、しっかりと回避行動とコールを同時に行い四人ともが羅蛸の攻撃を躱すことに成功した。

 

 だが攻撃はそれだけではない。何せ他に十体もの口寄せ獣が、彼らの隙に目を光らせているのだから。

 

「また来るぞ!!」

 

 敵の姿も見え辛くその上水障壁による強制的な搾挟により、極端に回避が難しくなった夜月の通牙が彼らに襲い掛かる。

 それと同時に、鵺を守らなくてよいクリスタの自由な重撃が挟撃を仕掛ける。

 

 隊長は、まるで世界がゆっくりと見える感覚に陥った。

 

 正面からは羅蛸の触腕が、右からは謎の回転撃が、左からは巨大な鋏の切先が、そして下からも何らかのチャクラを感じるあたり攻撃が仕込まれていると見える。

 

 正に四方八方。

 何処にも逃げ場のない致命の檻が狭まるのを、彼らは見ているしかない。

 そして鵺しか知らぬことだが、その他にも家族の中でもトップクラスの膂力を持つ茶鬼丸が……そして上空からはとある秘伝忍術を構えたシーツーも彼らを狙っている。

 

 そしてそれらを、ハクリンと鹿尊が術と物理両方の探知で監視しているのだ。

 

 正真正銘、逃げ場無しだ。

 

「クソがぁぁぁぁあああ!!!」

 

 もはや絶叫するしか、やれることがない。

 そしてその二秒後、生き残っていた四人の命は……儚くもこの世から消えた。

 たった一人の犯罪者の手によって。

 

「……んー、ふぅ──ー。皆、ありがとね~」

 

 しっかりと敵が死んだのを確認した鵺は、シーツーに地面に降ろしてもらった。

 そしてかなり強い疲労感を覚えつつも、皆を労う。今回はしっかりと憂いなく戦闘が終わったので、鵺も家族も満足げだ。

 

 しかし秘術の対価はしっかりと払わなければならない。

 口寄せ秘術・百鬼夜行の術は確かに強力だが、チャクラの使用量と術者への負担がかなり重い術なのだ。

 開錠血でチャクラ問題を解決していても、術者への負担は無くならない。

 

 何せ自分の中から……言わば己を切り分けた存在が全て外に出るのだ。肉体ではなく精神に重い負担が掛かる。使用後は夢現獣の術を一体分しか維持出来ぬほどに。

 

 海月と羅蛸を残して全員が消える。

 海月が残ったのは鵺のサポートの為だが、羅蛸まで残ったのは単に括りが違うのだ。

 

 彼は夢現獣の術ではないので、秘術の効果範囲外らしい。

 それは今知ったことだが、どうやら百鬼夜行の術後のケアを契約術式で補うのが正しい形の様だ。

 

 しかし羅蛸も羅蛸で長いこと彼らが顕現させていたらしく、口寄せ継続時間が限界だった。

 それに気付いた鵺は、いいよと一撫でして術を解除する。

 

 これも彼は他の口寄せ獣と違い、夢に還る訳ではないのでどこぞの住処に帰ったのだろう。

 

『彼は使えそうですか?』

「うん、皆みたいに心は分からないけど……力はあるし素直だから大丈夫そう。きっと家族にもなれるよ」

 

 その枠はペットだろうか。

 鵺の脳内で、無意識に彼の立ち位置が決まった。

 

『そうですか。それなら良いですね』

 

 海月が鵺の言葉を肯定する。

 鵺が良いならそれで良いのだ。あらゆるものが。

 

 そうして鵺は疲れた身体を休ませるために、寄木邸の比較的崩れていない部分に腰を落ち付かせた。

 何せ一日中活動した上に、秘術まで行使したのだ。気分的にはもう歩けないと言ったところか。

 

 以前ならば追われる恐怖で同じ場所に居続けることを嫌っていたが、秘術を手に入れたことで心に多少なりとも余裕が生まれた。故にこの場所で休むと決断できたのだ。

 

『おやすみなさい、鵺』

「うん、また夢でね」

 

 夢現に家族の輪、家族寄り沿う木は夢の中。しかして我ら血の先に微睡わん、獣と共に微睡わん。

 

 口の中で転がす様に唱えて、鵺は眠り夢の中へ潜る。

 手に入れた秘術……その最後の術を携えて。

 

 

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