口寄せ特化一族の末裔ちゃん   作:冗談だぜ、青い人

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幼い月との邂逅

 朝日が昇る。

 海月を枕にして眠っていた鵺は、小さな足音と気配に気が付き目を覚ました。

 それには海月も気が付いていたようで、起き上がった鵺の背中に張り付いて触腕を蠢かす。

 

『おや……?』

 

 昨日始末した忍者の仲間が来たのかと思えば、どうやら違うらしい。

 海月は鵺の目線の先にあるモノをみて、思わず呆けた声を出してしまった。

 

「だぁれ?」

 

 鵺がその者に語り掛ける。その声色は、酷く落ち着いていて穏やかだ。

 いくら鵺でも、()()()()()()()()()()に対し最初から敵意を見せる程、冷たくはない。

 寧ろ、大人たちに最初から威圧的な人間が多いのがいけないのだと、鵺は無意識下で思っている。

 

「え、えと……月……麻呂です……」

 

 そうか細い声で答えたのは、何処かから逃げて来たのか随分と身形がボロボロな少女……否、幼女と言える女の子だった。

 近くに親がいる様な雰囲気も無く、仲間がいるようにも見えない。そんな様子に鵺は警戒心を薄めた。

 

 と、そこでふと、鵺は彼女……月麻呂と目が合った。

 そこに映し出される瞳の色は……鵺と同じ色をしていた。

 

『鵺……?』

 

 無言で鵺は彼女に近づいた。有無を言わずにズンズンと迫る鵺に、月麻呂は少し怯えた声を漏らすが彼女はお構いなしに歩み寄る。

 そして──────

 

「よしよし、怖かったねぇ」

 

 鵺は月麻呂が薄汚れているのも気にせず、遠慮なしにその自分よりも小さな体を自らで包んだ。

 そして彼女の腰まである長い黒髪を、頭から下へ梳く様に撫でる。

 

 同じだったのだ。彼女の目が自分と。

 家族を全部失った、昏い悲しみと絶望の色だったのだ。

 しかし何処かにあるはずの、幸せに追い縋る辛うじて残ったような一筋の光をも。

 

 鵺は彼女に、強い親近感を覚えた。

 

 故に抱擁を選んだ。かつて自分がして欲しかったことを、この自分よりも小さな女の子にしてあげたいと、心の底から思ったのだ。

 そしてそれは彼女にとっても、感じたことのない初めての感情であり、不思議と温かなモノで溢れる。

 

「私は鵺。寄木鵺だよ」

「ふぇ……かぐや……月麻呂ですぅ……!」

 

 正式に名乗った月麻呂は、温かさに耐えられず涙が溢れ始めた。

 彼女は正しく逃げて来たのだ。その一族の特異性と精神性を恐れられ、家族が殺されたあの日からずっと。

 その期間自体は二か月と、そこまで長くはないが彼女にとっては途轍もない地獄の日々だったのだ。

 

 人が怖くてずっと逃げた。お腹が空けば野草を喰らった。眠くなれば泥にまみれて眠った。

 村に行けば偏屈な村人に石を投げられた。街に行けばチンピラに襲われかけた。忍者に見つかれば殺されるかと思って、近づきもしなかった。

 

 けれど、けれど突発的に出会った鵺は違った。

 自分が欲しかった温もりを、彼女が与えてくれたのだ。涙するのも仕方はない。

 そしてその心を溶かすのも、また然りだ。

 

「ぅえぇぇん……」

「よーしよしよし」

 

 本格的に泣き出した月麻呂を鵺はもう一度力を込めて抱き締め、頭を撫でる。それと同時に海月へ、彼女の怪我の治療をお願いした。

 大きな怪我自体は無いが、擦り傷などが身体のいたる所にあるのだ。これではいつ重篤な病を引き起こすのか分かったものでは無い。

 

 

 そうして幾らか時間が経った後、月麻呂は落ち着いたのか少し恥ずかしそうに頬を染めて鵺から離れた。

 だがそれと同時に、やはり人肌がクセになってしまったのかもじもじと鵺の方に視線をやっている。

 

 鵺はそんな月麻呂の様子を……眺めるがその意図までは分からなかった。

 何せ鵺はどちらかと言うと、遠慮なしに甘えるタイプなのだ。そう言った羞恥心の機微は、彼女には分からない。

 

 そして何よりも、鵺は人の気持ちにこそ最も疎いのだ。

 文字通り、自分と同じモノしか分からないのである。

 

 と、そこで何をするでもない間が流れて、次の瞬間には二人の腹の虫が鳴き始めた。

 片や敵を殺戮した後に疲れて眠って、片や逃亡生活でボロボロの身だ。一息付けば腹が減っていたことにも、気が付くと言うものである。

 

『食料が必要ですね』

「うん……あ、じゃあ山降りて街に行こっか」

 

 水の国に来て二週間ほどは一族の遺跡探しを優先して、村を見つけては襲うだけの生活だったが、その用事はもう終わってしまった。

 なのでもう水の国にいる必要も大して無いのだが、どうするにせよ衰弱している月麻呂をこのままにはしておけないだろう。

 

 彼女と行動を共にするにせよしないにせよ、鵺の中では月麻呂をそこそこ気に入っており面倒を見ることは決定していた。

 今までの庇護されるだけの立場から、自分より小さなモノとの出会いにより彼女は少しだけお姉さんになった。ちょっぴり、少しだけ。

 

 

「ま、街……」

 

 月麻呂の顔がすっと青くなる。どうやら彼女は以前の鵺の様に、街が苦手なようだ。

 そんな様子を見た鵺は、大丈夫だよと手を握って先導する様に引いた。

 軽くて力の弱い彼女は、そんな鵺の手引きに抗えずその足並みを揃える。

 

「お金ならあるからね! 好きなの食べられるよ!」

 

 実際ガトーカンパニーから強奪した金は、それなりの額だ。金庫を丸ごと抜いた訳ではないが、持ち歩くには十分すぎる量であり、文字通り好きなモノを買えるだろう。

 

 そうして鵺は、鼻息荒く月麻呂にしたり顔を見せるのだった。

 

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