口寄せ特化一族の末裔ちゃん   作:冗談だぜ、青い人

34 / 43
月は一人じゃ輝けない

 かぐや月麻呂の人生は、その半分が逃亡と共にあった。

 

 その始まりは彼女が四歳の頃だ。

 当時戦乱の緊張がピークに達していた霧隠れの里と水の国は、いつ弾けてもおかしくない水風船の様なものだった。

 

 そんな状況の中、彼女の両親は一族の集落から抜け出す決断をする。

 それは偏に、彼らの一族の性質を憂いたからだった。

 

 彼らかぐや一族は、かなり古い血統とそこに宿る血継限界を守ってきた者達である。

 そしてそんな彼らは、何と言ってもその術の特異性がもたらす高い戦闘力を持っていた。

 故にこそ、恐れられたのだ。

 

 かつての水の国では、特殊な術や特徴を持つ一族は尽く迫害対象だったから。

 そして何よりも、かぐや一族の持つその戦闘に対する精神性も恐怖の対象だった。

 

 彼らは戦闘を好む一族だ。

 故にこそ戦国の世でも優位性を以て駆け抜けられた。他の地域よりよっぽど戦争が激しかった水の国にて。

 

 しかし今の世ではそれは、ただただ恐怖を向けられる的でしかない。

 そして実際に、膨れ上がった恐怖心は彼らを四面楚歌にし、最終的には滅ぼされた。

 

 ここまではいい。

 これを分かっていたからこそ、月麻呂の両親は幼い彼女を連れて逃げ出したのだから。

 

 きっと、かぐや一族は戦うことを選ぶのだろうと。

 負けると分かっていても、戦うのが我々なのだからと。

 寧ろ、荒ぶる血を抑えつけて逃げた彼らの方こそ、異端なのだと。

 

 

 しばらくは平穏な日々が続いた。

 往々にして、一度大きな戦乱があれば暫くは静かになるものだ。

 その上、一つの一族が消えたとなればそれはなおさらである。

 

 だがそんな平和な時期も、蓋を開けてみればそう続かなかった。

 

 最初の逃亡先では、ある時月麻呂の血が目覚めてしまった。

 と言っても、骨が一本掌から突き出ただけなのだが……。

 

 しかしそれがいけなかった。許されなかった。

 

 かぐや一族は水の国にて、悪名高く有名である。

 戦に狂った異端者たち。骨を操る血継限界。ついぞその鬼どもは滅ぼされた……はずだった。

 

 だがここにいた。生き残りが。

 去年の冬頃にこの村にやって来た、よそ者が生き残りだったのだ。

 

 そうして彼らは当然の如く異常なほど恐れられ、追い出された。

 いや、迫害され、殺される前に逃げたと言った方が正しい。

 娘をきっかけに、また彼らは居場所を失ったのである。

 

 しかし彼らは月麻呂を責めはしなかった。

 一族にとって、その血の目覚めは喜ばしいことだ。まさに成長の証なのだと言える。

 本来なら……集落にいた頃ならば、皆から祝福される吉事のはずだった。ただ少し、タイミングが悪かっただけで。

 

 それから彼らは自衛のためにも、月麻呂に力の使い方を教えた。だが彼女の肉体はともかく、精神性はまだかぐやに目覚めていなかった。

 寧ろ力を使うことこそを恐れた。それが目覚めの際の事件が端を発しているのは、両親からは一目瞭然だった。

 

 結果としてちゃんと修められたとも言い難いが、基本的なことと秘伝の型を一つ教えて修行は終わる。

 そもそも月麻呂の精神は戦いには向かないのだ。心根は真っ直ぐだが、臆病だったが故に。

 

 

 それからまたしばらく、各地を転々とした。

 情勢が悪い頃に、よそ者を受け入れてくれる場所など殆どないから。逃げる様に旅をするしかなかったのだ。

 

 そして運命の日が訪れたのは、月麻呂が今の年齢である七歳になる直前だった。

 

 その日は珍しく、とある村にてお世話になることが出来た。両親はまともな寝床で身体を休められることに感謝し、家族三人で寝床に就いた。

 そうして何事も無く朝日を迎える……はずだった。

 

 その要因の最たるものは……どこまでいっても彼らの不運としか言いようがない。

 この事件に限って、彼らの血も……その精神性も何も関係なかった。

 

 ただその村が、よそ者を文字通り食いモノにする類の村であっただけだ。

 

 確かに新たな水影の就任を機に、水の国は良い方向へ向かい始めただろう。

 未来に待つのは、暗い歴史を払拭した皆が平和に暮らせる国という光だろう。

 

 だが今ではない。

 それは今ではないのだ。

 

 ここは水の国の末端部分。

 いわゆる、最初期に腐り始めた……最も戦乱の影響を受けた不幸な患部。

 ここまで国の手が及ぶのは……未だ遠い未来の話なのだ。

 

 結果、月麻呂の両親は殺された。

 彼女を逃がすために、その時間を稼ぐために戦ったのだ。

 

 相手がただの人であれば問題なかったが、村人たちは昔敗走した忍一族の末裔だった。

 そして国にも霧隠れの里にも血を隠し続け、ひっそりと技術と秘伝を継承し続けた……そんな人々だったのだ。

 

 なお、そんな人々もつい最近滅びたのだが。

 奇しくもどこぞのS級犯罪者の手によって。

 

 そうしてついに独りになってしまったのが、かぐや月麻呂という少女だった。

 それから二か月間、鵺と出会うまで泥と恐怖に苛まれる日々を送ることになる。

 

 だが、これからは違う。

 

「大丈夫だよ。もう怖くないよ」

 

 太陽だ、と彼女を見上げる月麻呂は思った。

 圧倒的で、それでいて優しく暖かい。月が太陽の光を受けて輝く様に、私は今この人に照らされているのだと。

 

 そう理解した。

 

 そして同時にもう一つの真理をも。

 

「月麻呂、幸せはね……壊される前に敵を壊せば良いんだよ」

 

 一筋の光を湛えた、濁った瞳が月麻呂を射抜く。

 その何とも言えぬ()()()に……彼女は幼いながらに強く魅了された。

 父様も母様も、もういない。だけれども──────

 

「鵺……姉様……」

 

 頬を真っ赤に染めて、彼女はそう呟くのだった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。