その攻防はまさに一進一退を極めた。
闘いが決闘の様相に変わったとはいえ、残月と月麻呂の経験や技術は桁違いである。それは残月自身がよく分かっており、正直なことを言うとここまで食い下がられるとは想像だにしていなかった。
それは偏に、お互いの持つ防御力が要因だ。
片や鋼鉄の如き骨の盾と、それらを満足に出し入れする皮膚や筋肉の修復力。
片やチャクラの限り肉体を液状化し、あらゆる物理的な致命傷を無に帰すという鬼灯一族が名門たる所以の術。
それらのぶつかり合いは、いっそ不毛とも呼べるほどの泥仕合を展開したのだ。
だが勿論、いくら修復力が優れているかぐやの肉体でも……ダメージを負えば負担は蓄積され、流して失った血液は戻らない。
それをチャクラに置き換えれば残月とて消耗していない訳ではないが、こちらは長年鍛錬を積んできた熟達の忍だ。月麻呂とは土台が違う。
しかしそれらの差を埋めるのは、往々にして『才能』だと相場は決まっているものだ。
月麻呂のそれは、間違いなく本能的な『屍骨脈』の使い方だった。
まず第一に残月との差は、その体躯の差である。
大の成人男性と齢七歳を超えた程度の女児では、明らかに体格が違う。身長差にして、凡そ二倍ほどの差があるのだ。つまりそれは圧倒的なリーチの違いを生み、月麻呂にあまりに不利な踏み込みを強制させる状況を生むことになる。
そこで月麻呂は全身の骨を伸ばすことを選択した。
そしてそれに伴い破壊された皮膚や筋肉の修復が追い付かない為、残月を超えることは出来ないが少なくとも鵺よりは高い……十五歳程度の身長を得ることに成功する。
無論この方法は、チャクラ消費のみならず身体への負担も尋常ではない。何せ一時的とは言え全身に大怪我を負うのと、同義なのだ。修復力を高める為にさらにチャクラを使えば、戦闘継続可能時間が狭まるのは当然である。
だが月麻呂は持久戦など想定していない。
ここで敵を殺す。そして姉である鵺を守る。ただそれだけを考えていた。
だが同時に……
「何だよ、随分と楽しそうじゃねぇか!!」
「アハ! アハハハ!!」
何処かで女の子が笑っているのを、月麻呂は朧げに認識していた。
いや、それは他の誰かではなく……自分が笑っているのだと。
そう、殺意と怒りの中で確かに……月麻呂は喜びの感情を覚えていた。それは小さな萌芽から始まり、やがて心の内を支配するような熱い激情が。
殺し合いに対する……悦びが。
体力など早々に尽きた。
気力などもう無い。
だが動ける。不思議なほど足が動く。寧ろ、軽い。
「このガキ……ッ」
闘いを楽しんでいた残月の背筋に、ゾッとしたモノが過る。
明らかにこのガキは異常だと。その精神性ではなく、見る見るうちに上がっていく身体捌きと直感の鋭さが。
「死んじゃえ!」
月麻呂が強く踏み込む。
闘いの最中にどんどん数が増えた、身体の至る所から生える羽衣の舞の骨膜が残月を食い破る……
前に。
「ッ!」
強い殺気を感じた月麻呂は、朧げな意識の中それ以上踏み込まずに後退した。
そしてその次の瞬間、残月から放たれた小さな水弾が彼女の顔の横を通り過ぎる。
「……何のつもりですか、隊長」
「テメェらは手ぇ出すな。このガキは俺がやるっつったろ」
月麻呂の背後に迫っていた部下の男が、残月に牽制されて下がった。どうやら先ほどの殺気は、この男から放たれたモノらしい。そして残月の攻撃はこの男を狙ったモノ。
ちらりと月麻呂が背後を窺うと、そこには既にクリスタはおらず三人の部下がこちらを見つめていた。
「ガキ、そいつらは気にすんな。俺らは闘いを楽しもうや……てめぇが死ぬまでな」
自分は負けないという絶対の自信。
そしていっそゾクゾクするほどの威圧感と殺気を、月麻呂は彼から受け取った。
片やまだ余裕のある水流。
片や自らの全てを絞り出す様な舞。
その戦いはまだ、終わらない。
「水遁・水龍弾の術!!」
残月が目にも止まらぬ速さで印を結び、術を起動する。本来ならばこの術はトドメの一撃になり得る大技なのだが、すでに彼は月麻呂には通じないことを知っている。故にこれは目眩ましと牽制を兼ねたモノだ。
そして予想通り、月麻呂は龍の頭を、水面歩行の術と足裏の骨を利用して滑る様にいなして突き進む。術の根元にいるはずの残月に向かって。
だが……
「あめぇ! やっと捕まえたぜ!」
自身を水化し、水龍弾と同化していた残月が頭上通ったタイミングで月麻呂の足首を掴む。
激しい水の流れと速度の中では相手の動きを見切るのも困難だが、長年の経験と直感が残月に成功をもたらしたのだ。
すぐさま足首から生える骨膜を利用して、掴んだ手を切り裂こうとするも足場が不安定で上手く舞えない。
あくまでかぐや一族の骨は独立起動する訳ではないのだ。それをするには、それ用の舞を使用しなければならない。
「あぐっ!」
足首を掴んだまま、肥大した残月の右腕により地面へ叩きつけられる。月麻呂の術は打撃には強いが、内を侵す衝撃には弱いのだ。
そのあまりの衝撃に、彼女の息が詰まった。
そしてそれを見逃す残月ではない。
「骨が硬くて貫けなかったが、零距離なら関係ねぇだろ?」
その銃口が、月麻呂の腹に食い込む。