口寄せ特化一族の末裔ちゃん   作:冗談だぜ、青い人

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親愛なる天秤

 クリスタが消された。

 

 心の会話は距離が離れていれば出来ないが、この世に顕現しているかどうかはすぐに分かる。

 だからこそ、鵺がそれを察知したのと舟券屋を飛び出したのは同時だった。

 

『鵺!』

「分かってる!」

 

 月麻呂の護衛として留守を任せていたクリスタが消えたという事は、何かしらの攻撃を受けたことに他ならない。

 夢現獣の術による口寄せ獣には継続時間の制限が無いので、自主的な解除かダメージによる強制解除しかありえないからだ。

 

 そして月麻呂も、率先して鵺の家族を傷付ける様な子ではない。会話が出来ない為かまだ打ち解けてはいないだろうが、それでも暴力を振るうことはないだろう。

 つまりあらゆるパターンを想定しても、最終的には外敵の襲来に結論は収束するのだ。

 

 早く、早く月麻呂の元へ戻らなくては。

 

 そんな思いが鵺の心中を支配する。

 彼女から見れば妹は弱く小さな存在だ。だからこそ姉として、家族として守らなければならない。

 クリスタをも倒せる敵を前にしていると思えば、それはなおさらである。

 

「口寄せの……ッキャ!」

 

 周囲の建物や街人など毛ほども気にせずシーツーを呼び出そうとした瞬間、強い衝撃が鵺の背を襲い吹き飛ばされる。

 どうやらその一撃は斬撃だったようで、偶然にも背中にいた海月が盾となった。しかし当然ながらダメージ超過により海月は消える。

 

 そんな状況になり、焦りと怒りで目を赤くした鵺は攻撃が来た方向を睨む。

 そこには……

 

「よぉ、久しぶりだな。鵺」

 

 巨大な包丁を携えた、男──────桃地再不斬。

 

 そして……

 

「お久しぶりですね……鵺ちゃん」

 

 雪を想起させるような風貌の麗人──────白。

 

 鵺が家族と認識した、二人の男が立っていた。

 そしてその刃は、鵺に向けられている。

 

「どうして……?」

 

 鵺が震えた声で問う。彼女には、今の状況が何一つ理解出来ないのだ。

 月麻呂が何者かに襲われていることも、この二人が自らの前に立ち塞がっていることも。

 

「どうしたもこうしたもねぇよ。鵺、てめぇは暴れ過ぎたんだよ」

「僕と再不斬さんは、今や霧隠れの治安維持部隊。水の国での鵺ちゃんの所業を見過ごす訳にはいきません」

 

 曰くこの二人は、あの橋上での戦いの後……鵺が離脱した後に霧隠れの追い忍に捕まったそうだ。

 しかし再不斬は先代水影の際に、霧隠れの里で最初にクーデターを起こした者。そのことから今では英雄としても見られているらしく、捕まったのを機に霧隠れの里へ戻ったのだ。

 

 そしてクーデター以前は旧友だった五代目水影、照美メイの要請により霧隠れ治安維持部隊へと白と共に編入された。

 

 となれば当然、水の国にて村を三つ滅ぼした鵺は粛清対象である。その上、彼女は国家指名手配犯なのだから、水の国に足を踏み入れられたなら討滅部隊が組まれるのは普通だ。

 だからこそ、鵺をよく知る二人が派遣されたのである。

 

 そして今。

 元より残月の部隊との共同作戦だったのだが、片方は先の治安維持部隊がロストした場所へ、片方は目撃情報のあった街へ向かったという形になっているのだ。

 

「何の為にお前が水の国に来たのかは知らねぇが、悪く思うなよ。これも仕事だ」

 

 首切り包丁の切先が、真っ直ぐ鵺を捉える。

 相手は国家S級犯罪者……いわゆる、その捕獲に生死は問わない者だ。故に逃す気は無い。無力化する気も無い。

 何なら最初の一撃で、再不斬は鵺を殺すつもりだったのだ。

 

 厄介な口寄せの術を使われる前に。

 

 

「……どうしても?」

「ええ、僕たちは今や敵同士。鵺ちゃんも常々言っていたでしょう? 敵は殺さなければならない、と」

 

 世話をした幼い女の子を斬らなければならない葛藤からか、白は鵺に諭す様に言った。

 まるで敵対することを促す様に。彼女に覚悟を決めさせる様に。そして、自分に言い聞かせる様に。

 

 敵、そう……敵だ。

 幸せを邪魔する敵は全て殺さなければならないと、鵺は心底信じているし、口にも出して来た。

 だがもし、その敵が家族ならば? そんなことを鵺は、考えたことも無かった。

 

 だがここで戦わなければ。二人を目の前から排除して、月麻呂の元へ行かなければ。そうしなければ、今度は妹が死ぬことになる。

 寧ろすでに……

 

 と、嫌な考えが脳裏を過ったのを、頭を振って払い除ける。

 どちらにせよ、今取れる選択は二つに一つなのだ。

 

 再不斬と白(家族)を殺していくか、月麻呂(家族)が死ぬか。

 

「…………ごめんなさい」

 

 もし、あの時我儘を言わずに大人しくしていれば。我慢して白と再不斬の傍にいれば。

 一緒に霧隠れの里で暮らすという未来はあったのか。一つの幸せに辿り着いていたのか。

 

 そんなことを想いながら、鵺は開錠血の小瓶を三本分地面に落として割った。

 これが残りの血の全て。頭の中がグルグルと落ち付かない中で、唯一選んだことだ。

 

 それは鵺らしからぬ思考であったが、この極限の中で彼女は……ここで終わっても良いとすら考えていた。

 

 ある種の自暴自棄。

 家族を斬らなければ家族を救えないと、そんな結論に着地してしまった故の。

 だからこそだろうか、無意識に守らなければならない者の方へ気持ちが寄ったのは。

 

 白の瞬身が間に合わぬほどの速さで印を結び、その術…… 寄木一族当主にのみ許された、二つ目の秘術が起動する。

 

「口寄せ秘術・()()()・夢現獣の術」

 

 夢の門が、大口を開けて開門する──────。

 

 

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