口寄せ特化一族の末裔ちゃん   作:冗談だぜ、青い人

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肉噛みの竜

 白にとって鵺は、他人とは思えない境遇の幼子だった。

 再不斬に拾われた自分とは違い、誰にも頼れずにただ独りで生きてきた……そんな女の子である。

 

 可哀想だとは思う。何て不憫な子なのだと思う。

 だがそれ以上に、白にはやらなければならないことがあった。

 

 そもそも再不斬がクーデターを起こしたのは、地獄の様な霧隠れの里を変えるためだ。

 一度はそれに失敗したが、後続がそれを成し遂げ今や安寧を維持する側に変わったのだ。

 

 つまり、再不斬の信念は過去も現在も変わらない。水の国の安寧を維持することだ。

 そして再不斬の信念は、白の信念でもある。

 

 ナルトたちと橋の上で戦い、死闘の末再不斬が見せた感情の発露。

 彼の道具として生きていた白の心に、確かな熱いモノが彼から贈られたのだ。

 だからこそ今は、道具ではなく彼を心から慕う仲間として……ここにいる。

 

 水の国にとって、恐ろしい外敵である寄木鵺の前に。

 

「口寄せ秘術・明晰夢・夢現獣の術」

 

 それを止めなかったのは、最後の情けだろうか。あるいは、せめてものの正当さか。

 と言っても、そもそも犯罪者を討つのに正当性も何もないのだが……これはただの言い訳だ。これこそが彼の甘さなのだ。

 

 濃密なチャクラの上で術式が広がる。

 それをその眼で見るのは初めてだった。何せかつて鵺と戦線を共にした時は、それぞれが離れた場所で戦っていたのだから。

 だがその『竜』は知っている。この様な醜悪な造形は、他にないだろう。

 

 

「シーツー、飛んで」

「オォォアアアアアォアァアァ!!!」

 

 建物や街人など微塵も気にせず、その巨体で周りに破壊をもたらしながら門から這い出る。そして大音量の咆哮を上げて、醜い蟲の様な竜が飛んだ。

 

 しかしこれは……

 

「前見た時よりデカいな……」

 

 一回りほど、以前見た蟲竜より明らかにデカい。当然ながらそれ相応に、膂力も上がっているだろうことが窺える。

 そして白には、鵺がこれで離脱を図っている様に見えた。

 

「逃がしませんよ!」

 

 氷遁で生み出された千本と、本物の千本が入り混じる乱撃が炸裂する。

 そして今まさに羽ばたこうとしたシーツーの翅の動きが、大きく阻害されて完全な離陸を許さない。

 

 周囲もいつの間にか、誰もいなくなっていた。どうやら戦いの始まりを察知した一般市民たちは、我先にと逃げ出したようだ。

 故に、再不斬と白には周りを気遣う必要が無くなった。

 

「白お兄ちゃん……」

 

 地に降りざるを得なくなったシーツーの上にて、鵺と白の目が合う。

 彼女の目は、初めて出会った時よりもさらに不安定に揺れていた。それはまさに今現在の動揺を表しており、今にも破裂しそうな程の鬱屈と同時に……霧の様に儚く消えてしまいそうな危うさを白は感じる。

 

 きっと、どうすれば良いか分からないのだと思った。

 

 鵺は今まで出会った敵は、全てただの肉塊であり……排除してしまうことに何の感情も湧かなかった。

 だが現在、彼女が幸せに必要だと信じる家族が敵なのだ。排除してしまうなんて、平時では絶対に考えない相手が……敵なのだ。

 

 選択なんて出来る訳がない。どちらかを選べば、彼女の信念が崩れてしまうのだから。

 心の底から信じて、幼い彼女が泣きながら縋っている柱が……壊れてしまうのだから。

 

 そして、往々にして人は……その様に選べない場面に直面した際、やってしまうことがある。

 それは、流れに身を任せること。選べないから、状況の動きに流されてしまうことだ。

 

 それは即ち、戦うこと。

 鵺が自ら動く訳ではないからこそ、彼女の手足である彼らは指示無しに動く。

 

 彼らにとっての最上である鵺を守るために、鵺の代わりに敵を排除するために。

 結局、口寄せ獣にとって他者とはどこまでいっても敵か否かでしかないのだ。

 

 どれだけ鵺が慕っていようと、家族だと認識していようと……それはあくまで彼女の中で、でしかない。

 口寄せ獣にとっての家族とは、鵺だけなのだ。

 

 だから戦う。誰であろうと敵は敵だ。鵺が悩む必要はない。

 ……我々が排除すれば良い話なのだから。

 

 

「秘術・魔鏡氷晶!」

 

 

 幾枚もの氷で造られた鏡が、シーツーと鵺を囲む。

 そこには絶対に逃がさないという意思が感じられ、また殺気も相応に込められているとシーツーは見た。

 もう白は覚悟を決めているのだ。甘い性格故か再不斬よりも覚悟を決めるのに遅れたが、術を発動したということは……そういうことなのだ。

 

『鵺、安心しろ』

『あの男は俺にお任せを』

 

 鵺の精神状態を重く見てか、夜月が彼女の中から自主的に現れる。

 強制口寄せは彼女の心身に重い負担を強いることになるが、彼にとって戦いの中で守れないという事の方が重要なのだ。

 

 故に再不斬を自由に動かさないために、夜月は彼の相手をかって出た。

 そもそも極論を言えば、再不斬などどうでも良いのだ。白を始末さえすれば、シーツーはすぐにでも飛び立てるのだから。

 

 そして鵺は、見ているだけでいい。心身への負担により、シーツーの背に伏したとしても……そのまま暴れることは容易だ。

 これが、夢現獣の術の忠誠心だ。

 

「オォォオオオオアア!!!」

 

 明晰夢・夢現獣の術により()調()()されたシーツーの巨躯が、縦横無尽に鏡を叩き割る。

 白の術は木ノ葉の下忍達を止められても、この幾多の人間を葬り去った竜を止めるには分不相応だ。

 

 そして──────

 

「白!!」

『秘術・肉噛(にくば)みの術』

 

 逃がさない。シーツーの節足的な首の動きは白の速度を容易に上回り……彼の脇腹を大きく抉り抜いた。

 それは奇しくも、雷切によって一度貫かれ……鵺が治療した場所だった。

 

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