口寄せ特化一族の末裔ちゃん   作:冗談だぜ、青い人

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痛み堪えて

 鹿尊の背に乗り、うねる様にして森を駆ける。

 鵺の家族の中では鹿尊は最上位の脚力を持つが、現役の忍者相手には分が悪い。

 

 現に、ヒノメと鵺の距離は徐々に縮まり始めていた。

 

「待ちなさい!」

 

 しかし鵺たちは止まらない。

 落ち着きを取り戻してきた彼女は、さりとて依然として強い恐怖を感じていた。

 

 時に彼女の不幸は二つある。

 それは犬塚ヒノメの人相が獣染みていて恐ろしかったこと、そして目の前で幻来を消されたことだ。

 彼女は既に彼らを、完全に敵と見なしていたのだ。ここから保護されたとしても彼女の恐怖は一生消えないし、暴れて逃げ出すだろう。

 

『不味いのぉ……鵺、かなり距離が縮まってきている』

 

 鹿尊の角がひっきりなしに光る。彼は後ろを見ずとも、どれ程ヒノメが迫ってきているか感知により把握していた。

 このままでは追いつかれる……彼らがそう判断を下すのは早かった。

 

『鵺……合図をしたら儂を消して、ハクリンとドリュウに切り替えるのじゃ』

「うん……分かったよ鹿尊……」

 

 誰に代わるかを指定すれば、鵺ならばその意図が分かる。鹿尊のクリクリとした眼球と目を合わせ、鵺は力強く頷いた。

 

 しかし彼らが想定していたよりも早く、ヒノメが動いた。

 

『行くぞ鵺!』

「モモ! 通牙!」

「きゃあ!」

『鵺!』

 

 通牙……犬塚家に伝わる秘伝忍術の一つ。彼らのパートナーである忍犬が、チャクラで身体能力を超向上させ、回転を加えた突進を放つ技である。

 効果は単純だが威力が高く、一流の犬塚家忍犬が放つ通牙は掠っただけでも身が引き裂かれると言う。

 

 そしてヒノメのパートナーであるモモは、紛れもなく一流の忍犬であった。

 

 回転エネルギーにより一回りも二回りも接触範囲が増えた通牙は、鹿尊を掠めて鵺を地面に叩き落とした。

 直撃させなかったのは、偏に彼らの優しさか。幼い少女の保護……あるいは捕縛を優先したために、怪我は最小限に抑えて動きを止めようとしたのだ。

 

 しかし、それにしては噛み合いが悪過ぎたと言える。

 本来ならば当てずに衝撃波だけで止めようとしたのだが、鹿尊が急な動きを見せたために目算がズレたのだ。

 

 結果として合図と供に……そして鵺が口寄せに移行する前に通牙は炸裂した。

 

「カッハ……ろく……そ」

 

 人生で感じたことのない痛みが鵺を襲う。出血こそほぼないが打ち身が酷く、呼吸も満足に行えなかった。

 

「ちょっと、大丈……」

 

 流石は木ノ葉の忍者。想定以上のダメージを負った少女を心配し、ヒノメが駆け寄ろうとする。

 しかし……

 

「くちよ……せ……」

 

 流れた血を使って、地面に倒れながらも術を使う。既に鹿尊は通牙のダメージにより消えていた。気付けば茶鬼丸の声も無い。

 

 独りだ、独りは怖い。逃げなければ。どこか遠くへ。

 

 朦朧とする意識の中で、ただ恐怖に突き動かされて家族を呼び出した。

 どれだけ意識レベルが不安定でも、チャクラをろくに練られなくとも……必要なモノさえあれば彼女の血と才能が己が半身の術を成功させるのだ。

 

『ハクリン! 近づけさせるな!』

『分かった!』

 

 術者()が指示を出せなくとも、彼らは自己判断で動き術を使う。

 

 白い鳥のハクリンは特殊な影分身により爆発的に増殖し、ヒノメの前に()()()を叩きつける。狙っての事ではないが、これには鼻を誤魔化す効果もあった。

 その隙を突いて、ドリュウが鵺を抱えて地中に逃げ込む。あっという間だった。ヒノメから見れば、一瞬にして消えたかのように。

 

 結果としてドビダが彼女の元に合流するまで、ハクリンの処理に手間取らせられることになる。

 

 

 

『大丈夫か、鵺』

「いたい……」

 

 地中を経由し、かなり移動した先の洞窟。そこに彼らは逃げ込んでいた。

 そしてドリュウは心配の声を掛けつつも心中にて、焦りの感情を自覚していた。

 

 鵺の負傷、そして人里への危機感。

 

(知らなかった……火の国があの様な危険な国だったとは……)

 

 ドリュウは歯噛みする。もう少し戦える力があれば、自分も強者に立ち向かえると言うのに。

 

 あるいは……

 

『鵺、海月(ウミツキ)は出せるか?』

「無理……チャクラが足りない……。せめて一回寝ないと……」

 

 彼らの中で唯一医療忍術が使えるクラゲの海月、そして堅牢な殻と鋏……そして汎用性の高い水遁を扱える巨大蟹のクリスタは口寄せの際の消費チャクラが多い。

 それこそ、おいそれと呼び出せない程度には。

 

 今の鵺に、そして遭遇時の鵺にそのレベルのチャクラを捻出する余裕は無かった。ただでさえ慣れぬ逃亡の旅で消耗しており、その上手酷い怪我までしたのだ。万全な状態に戻るには時間がかかる。

 

『鵺……確かに前途多難だが、我々が付いている』

「うん……ありがと、ドリュウさん……」

 

 慰めることしかできない。だがせめてこの、それなりに大きな身体で温めてやる。

 鵺はドリュウに包まれると、幾ばくか和らいだ表情を浮かべた。

 

「おやすみドリュウさん、また夢の中でね」

『あぁ……』

 

 そうして彼らは眠る。

 火に追われ、土に塗れながら。

 

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