口寄せ特化一族の末裔ちゃん   作:冗談だぜ、青い人

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もういい、もういいよ

 白が崩れ落ちる。

 有無も言わさぬ速攻により、瞬時に叩き割られた魔鏡氷晶からはじき出された白は……その脇腹をシーツーにより抉り食われたのだ。

 

 防御など叶うはずもない。何せ身動きの出来ぬ空中にて繰り出された攻撃だ。

 そして白はそもそも耐久力に秀でている訳ではなく、速度による回避を得意とする忍者なのだ。その万力の様な噛撃を耐えられるはずもなかった。

 

『ハハハ! とても良いチャクラだ! もう少し欲しいぞ!』

 

 蟲の様な口に、べったりと血を付けたシーツーが鵺にしか聞こえない歓喜を上げる。

 そして脇腹を押さえて、青ざめた表情と吐血した血の二色に染まる顔をした白にもう一度迫ろうとする。

 が……

 

「止めてシーツー!」

 

 ぐちゃぐちゃの心境の中、辛うじて戻った正気を頼りに鵺は叫んだ。

 シーツーがもう少し白を喰らいたい理由も分かっているが、どうしてもそれを許す気にはならなかったのだ。

 

 と言うのは、秘術・肉噛みの術は鵺が襲った村の一つから奪った秘術だ。それは彼女の家族の中で唯一人を喰らうシーツーに相応しい術で、肉を喰らうと同時にチャクラをも奪うことが出来る。

 

 そしてそのチャクラは溜め込める為、元来は他の術に流用したりしていた。尤も、夢現獣の術は通常ならば一つの術しか扱えないので、彼の莫大なコストを肩代わりさせる程度しか使えないのだが。

 

 しかし……明晰夢・夢現獣の術には口寄せ獣の再調整の他にもう一つ特徴がある。

 それは、術の再付与だ。これにより明晰夢体のシーツーは奪った秘術をもう一つ扱えるようになったのだ。

 

 その術の為に、少しでも質の良いチャクラをシーツーは欲しているのだ。

 

 だがそれよりも優先されるのは鵺の指示である。

 シーツーは鵺の声に即座に反応し、口を閉じて下がった。

 

「もういい、もういいよシーツー。飛んで?」

 

 本来ならば敵の排除までが、彼らの役目である。しかし鵺はどうしても、彼らを殺せとまでは言えなかった。

 

 敵のはずなのだ。敵は殺さなくてはならないはずなのだ。だがどうしてもそれは出来ない。

 だって家族だもの。幸せのためには家族が必要で、でもその家族が敵ならば……? もう鵺には分からない。

 

 分からないから、この場から逃げることを選択したのだ。

 全てから目を逸らして。ただ妹の元に急ぎたくて。

 

「白!! てめぇ……鵺! クソッ」

 

 再不斬の怒号が聴こえる。だが追い縋らせない。夜月が彼を寄せ付けない。

 最早彼は、鵺の背中を見送るしか出来ることは無いのだ。

 

 そうして彼女は飛び立った。波の国の時よりも、よほど重い鬱屈……もはやどういう感情なのかも分からないソレを抱えて。

 

 

 

 ◇

 殿を夜月に任せて、鵺たちは拠点にしていた旧寄木邸へ急ぐ。

 そこから街は、それなりに離れているがシーツーの飛行能力は蟲がベースなのでそう遅れることはない。

 

「ん? あー、何だよ。可笑しいとは思ったんだよなぁ」

 

 そこにいたのは、見知らぬ男四人。

 そして……

 

「鵺……姉様……」

 

 今朝見た時よりも、何故か身長の伸びた月麻呂。それが大量の血溜まりの中で、苦しそうに転がっていた。

 

「月麻呂……?」

 

 脳髄がいっそ燃えているのではないかと思うほど、熱い。先ほどまで凍える様に寒かった心の内は、血に沈む妹を前にしてあっという間に燃えあがったのだ。

 

「シーツー……」

 

 心が、軋む。この様な気持ちになったのは、鵺の人生の中で初めてだった。

 白に敵を殺すのを止めさせられた波の国、両親が目の前で殺されたあの時……どちらも辛かった。前者は怒りで、後者は悲しさで。

 

 それが今、同時に心にのしかかったのだ。

 決して多くない鵺のチャクラが、揺らぐ。非常に不安定になった精神エネルギーが、彼女の内からチャクラを引き摺り出しているのだ。

 

 そして時に……感知タイプの忍は、相手のチャクラに感情を見出すことがあるらしい。

 

 この時、残月の部下である霧の忍の内の一人……まさに感知タイプだった彼は、いっそ逃げ出したい程の薄ら寒さに襲われた。

 別に鵺自体の強さは、その辺の下忍とそう変わらない。威圧感だってそうだ。蟲の如き竜がそばに居なければ、とても国家S級犯罪者とは思わないだろう。

 

 だが、今だけは違う。

 大凡、血霧の時代でも感じなかったモノ。殺しを楽しむ者も血に歓喜を見出す者も多数いた、あの頃でも感じなかった異質なモノ。

 

 それを鵺から感じた。

 

「う、うぉぉぉおお!」

「どうしたッ?!」

 

 気付けば、その男の足は動いていた。残月の指示も無く、鵺に突っ込む。早くこの人間を、目の前から消したかった。そうしないと、頭がどうにかなってしまいそうだったから。

 

「取った! ……?」

 

 実際に、鵺の首にその刃が届いた。届いたように、見えた。

 

「これは?!」

 

 何が起きたのか分かったのは、この現象に心当たりのある残月だけだった。しかし彼も、これがありえない光景だった為にらしからぬ驚愕の声を上げてしまったのだ。

 

 何故ならそれは、彼の祖父が好んでいた戦法だったのだから。

 

「全部殺して」

 

 あまりに無機質な少女の声が、聞こえる。

 聞こえた方向は鵺の像がある場所だが、実際には違う場所にいることを残月はよく知っていた。

 

 そして……一人突っ込んだ男が死んだのは、その指示と同時だった。

 

 

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