口寄せ特化一族の末裔ちゃん   作:冗談だぜ、青い人

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その鎖は

 残月は惨劇を前に、一体何が起こっているのか一つも理解出来なかった。

 

 見えないナニカに抉られ貫かれ……部下が一人一人嬲る様に殺されていくのを、彼は呆然と眺めているしかない。それは偏に、水化の術があっても今動けば次の瞬間には死んでいるのではないかと、そんな悪寒が彼を支配していたのだ。

 

(何なんだ……何なんだよコレは……?!)

 

 残月は今の霧隠れの里において、上から数えた方が早い強者だ。

 それは幼少期から才能に支えられ、そして血霧の環境においても腐らず……寧ろ楽しんで経験と鍛錬を積んできた結果でもあった。

 

 その為か彼は自分の腕には強い自信を持っていたし、強者と戦うことも恐れない精神力を持っていた。

 実際、月麻呂と戦うのは楽しかったのだ。確かに彼女は経験も技術も、自分には遠く及ばなかっただろう。

 

 しかし彼女の才能が、闘争本能が、極限の中で加速度的に研ぎ澄まされていくのを肌で感じるのは……まさに死闘だと、追い求めた決闘だと、心の底から言えた。

 だからこそ国家S級犯罪者だと認識していた月麻呂を前に、彼は部下の介入を許さなかったし、一分でも一秒でも長く闘いたかったのだ。

 

 終ぞ月麻呂の刃が残月を裂くことは無かったが、彼女がもう少し強く……持久力もあれば勝負はまだ分からなかっただろう。あるいは、彼と月麻呂が同程度の使い手であれば、間違いなく水化の術を維持出来なくなるまで闘いは続いたであろう。そしてその結末は、残月の敗北だ。

 

 しかし、たった今状況が変わった。

 

 鵺と言う犯罪者だと思っていた少女は、人違いだった。まぁそれは良いのだ。犯罪者の一味であったことは間違いはないのだから。殺してしまっても問題はない。

 

 だが残月の水鉄砲の術が月麻呂を貫き、勝負はあったと確信したすぐ後。本当の『寄木鵺』が現れたのだ。

 蟲の様な竜に乗る彼女は、確かに彼が再不斬から聞いていた特徴と一致していた。

 

 だが話と違った月麻呂とは違い、彼女が本当に寄木鵺であれば口寄せ使いに間違いはないはずだ。故に口寄せ獣さえどうにかしてしまえば……何なら先に術者を撃ち抜けばどうにでもなるはずだったのだ。

 クリスタとかいう蟹型の防御用口寄せ獣は……既に始末しているのだから。

 

 しかしこれは、違う。悪夢ならば醒めて欲しいとすら思った。

 

 目の前にいる竜と少女は、じっとこちらを見つめて動きやしない。だが部下は絶賛血祭り中だ。まるでお前は最後だと言わんばかりに、見せつける様に嬲っている。

 

 月麻呂を人質にしようにも知らぬ間に回収された様で、そこにあるのはただの幻影だった。

 彼の悪夢は、まだ終わらない。終わらせてあげない。

 

 

 鵺は今、夜月の口寄せ解除と共に呼び出した明晰夢体の幻来の術により隠れ潜んでいた。

 彼の術はかの二代目水影……の頃までは鬼灯一族に伝わっていた大蛤の口寄せによる幻術『魔幻・気蒸の楼閣』である。これは寄木の遺跡で知り得たモノだ。

 

 そこで鵺は、シーツーの蹂躙に紛れて回収した月麻呂に寄り添っていた。

 海月は再不斬に消されたのでいない。故に忍術による治療は出来ない。彼女に出来ることは何も無いが、抱き締めずにはいられないのだ。

 

「月麻呂ッ……月麻呂……!」

 

 必死に妹の名前を呼ぶ。腹から血が溢れ、どんどん身体が冷たくなっていくのを彼女は涙ながらに感じることしか出来ない。誰も、助けてくれる人などいないのだから。

 

「ぬ、え……ね、さま……」

「ダメッ死なないで! ねぇ月麻呂……私を……」

 

 置いて行かないで。

 皆、皆……鵺を置いて行った。両親は二度と会えぬ場所へ、デイダラは知らぬ何処かへ、再不斬と白は……敵側へ。

 

 もう別れなど、うんざりだった。二度と失わぬ様に力を求めたのに、結果はこれである。

 まだ駄目なのかと、まだ力が足りないのかと、また失うのかと。

 そう思わずにはいられない。あるいは、この世界に幸せなど無いのではないかとすら思う。

 

 いつか口に出した様に、ずっと夢の中で揺蕩っていられればそれが幸せなのかと。寄木にとって夢は幻ではなく、確かにそこにある世界なのだから。

 

 だがそんな時、最初はデイダラが……そして出会った家族たちが、鵺と現実を繋げてくれたのだ。

 その鎖が無くなればどうなるのか、鵺には分からなかった。考えたくも無かった。

 ただただ寂しくて辛い。そんな未来が待つ現実など。

 

 だからこそ、祈りは届いた。

 神にではなく、月麻呂に。その家族への親愛が、まごうことなき強い想いが! 

 

「だい……じょうぶですよ。ぬえねぇさま……わたしは……ねぇさ、まを……ひとりぼっちになんて、しませんから……」

 

 月麻呂だって、独りの辛さを知っている。その悲しさを知っている。

 どこまでも寒い、二度と幸せになれないのだと信じて疑わざるを得ない、そんな日々を知っている。

 

 月麻呂はたった一人の姉を……自分にもう一度幸せを教えてくれた姉を地獄に墜としたくは無かった。それこそが己の役割なのだと、自分は彼女の心と身体を守る剣なのだと信じているから。

 

 ソレが成功したのは、きっと残月との戦いで『屍骨脈』が大きく成長したおかげだろう。

 本来無い場所に骨を生成するのは、中々に難しいことだった。主要な臓器が多数ある腹部など特に。

 

 だが、月麻呂はそれを成し遂げた。

 

 まず初めに完全な生成は間に合わなかったが、水鉄砲の術を体内の薄い骨で受けて初撃を軽減した。

 そしてたった今。鵺の抱擁に興奮した月麻呂は内からチャクラを生成し、傷付いて出血が止まらない臓器を骨で覆って強引に止血したのだ。無論危ない状況ではあるが、これですぐさま死ぬことは無くなった。

 

 何なら傷付いた皮膚や筋肉は体質上勝手に治るので、気にしなくてよい。となればこのまま海月の復活まで耐えるのは、容易だろう。

 

「月麻呂!」

「ねねね、ねぇさま?!」

 

 すっかり鵺の腕には収まりきらなくなった月麻呂を、彼女は力いっぱい抱き締めた。もう離さないよう。消えてしまわない様に。

 

 そしてそれと同時に、シーツーによる部下の処刑が終了した。もはや無事な部分を探す方が難しいほど損壊した遺体の山に、かの竜は座していた。それももちろん、幻来による幻術でその姿は見えないのだが。

 

「さ、初めよっか」

 

 月麻呂を労わる様に横にし、立ち上がった鵺の瞳が妖しく煌く。

 それはまさに……魑魅魍魎の瞳だった。蜃気楼の鵺も、同様に。

 

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