それは鵺にとってある種の天恵であり、道行く先を一変させた大きな出会いであった。
仏堂を寝床にした翌日、彼は現れた。そしてそんな、彼女の前に立つ長い金髪で左目を隠した少年が口を開く。
「誰だオメーは、うん? ここはオイラの拠点だぜ? うん」
少年は少し特徴的な語尾で話しつつ、鵺を探るような目で見ている。その自信ありげな雰囲気と、自分が強者だと信じて疑わない姿勢に圧倒される。鵺は蛇男とはまた違う威圧感により、動けなかった。
それは茶鬼丸も同様で、獣としての勘が彼の持つ
「私は……鵺。寝る場所を探してて、ここを見つけたから寝てたの……」
「ふ~ん?」
言葉を真偽を確かめる様に、少年はじっと鵺の眼を観察した。彼から見るに、少女のその眼は大半が怯えに染まっており、ともすれば数秒後には泣いてしまいそうな色だった。
(岩隠れからの追い忍って訳じゃなさそうだな……うん。そもそもどっかの忍者でもなさそうだな……そばにいるのは口寄せか忍獣だろうけど)
少年はそんな鵺のちぐはぐさに、どうにも対応を決めかねていた。
確かに鵺やそばにいる熊からはチャクラを感じるが、肝心の彼女の立ち振る舞いや身のこなしに鍛えられたモノは見られなかった。
忍者っぽいが忍者ではなさそうな、妙なガキ……それが彼の鵺に対する印象だった。
追い出すことは簡単だ。
だがどうにも、そうする気になれない。里から禁術を盗み、爆破テロで生計を立てているという極悪犯罪者である彼だが、十にも満たなそうな女児に非道になろうとは思わなかったのだ。
年齢こそ違えど、故郷に妹分を置いてきた身だ。
妹分と同じ髪の色をした鵺を見て、そっと里に居た頃はちょこちょこと自分に付いてきていた少女を思い出す。
(ひとまず、話くらい聞くか。うん)
仮に何かしら反攻してきたとしても、対処可能だろう。そう判断した彼は鵺に、座るように言った。
怯えや警戒心を隠そうともしない彼女だったが、大人しく従い座った。そばにいる熊も彼女の背もたれになる様に屈む。
「まぁ何か訳ありそうだな。オイラもしばらく仕事はねーし、とりあえず何があったか話してみろよ」
「う、うん……あ、えーっと、お兄ちゃんの名前は……?」
少し親しみやすい声色で話しかけた途端、鵺の怯えや警戒心が半分ほど揺らいで消えた。そんな彼女のチョロさ……というか世間知らずそうな様子に、彼は一抹の不安を感じる。
そして彼は一つ溜息を吐き、答えた。
「オイラはデイダラ。粘土造形師のデイダラだ!」
里を出奔して以来使っている名乗りを上げる。そう名乗るのは忍者である前に、自分は芸術家なのだと強く信じているからだ。そしてそれは、自分の芸術を『粘土遊び』などと宣った土影に対する反抗心でもあったのだ。
「粘土造形師……忍者じゃない……?」
鵺はポツリと独り言を漏らした。そして、彼女の警戒心は崩壊する。即ち──────。
(デイダラお兄ちゃんは
鵺は正しく、世間知らずであった。だがそれは仕方ないことでもある。
何せ彼女の人付き合い、あるいは信頼関係というのは、『家族』という括りしか知らないのだから。
故に警戒を解いた相手を無意識に、家族という枠組みに入れてしまうのは仕方ないのだ。
デイダラを『兄』としても……仕方ないのだ。
「あのね……」
そうして彼女は話し始める。デイダラが少し驚く位、先程までしどろもどろだった口調が饒舌になって。
◇
「そうか……」
鵺は話した。この一か月間の旅路を。
両親を失い、残った家族と共に火の国から歩いてきたこと、いずれ打倒せねばならぬ敵のことを。
そしてその中には彼女の口寄せの術──―夢現獣の術のことを話すのは茶鬼丸に止められたが──―についても含まれていた。
現状の鵺は孤児と言えるだろう。
そしてそれは、忍界において然程珍しいものでもない。むしろ今でこそ大戦の傷が癒えてきているが、少し前まではそれこそ孤児など掃いて捨てるほどいたのだ。
だが、ありふれているからと言って不幸だと言うことに違いはない。
デイダラの見立てでは、このまま行くと彼女は近い内にどこかの忍びに捕まる。
確かに鵺の口寄せ獣は、話を聞く限り隠れることや逃げることは得意な様だ。だが、それが通用するのは精々中忍クラスまで。
このまま盗みや国への不法侵入を続けていれば、あるいは中忍を退け続ければ、いずれ上忍が出張って来る。そしてあっと言う間に捕まるだろう。
人相書きも低位犯罪者として回り始めている可能性もある。
デイダラは瞑目する。自分はそれなりに経験を積んだ忍者でもある。故に先ほど想定した彼女の末路は、そう的外れでもない。むしろ高い可能性でそうなるだろう。
チラリと片目を開けて鵺を窺う。警戒心などすでに消し飛んでいたが、今度は不安が滲んでいた。
彼女は素直過ぎるくらいにはデイダラを信用してしまっているが、だからと言ってこのまま見捨てられないとは考えていない。
そんな目に、デイダラは溜息を吐かざるを得なかった。
自分は思った以上に厄介な拾い物をしてしまった、と。