デイダラの術を手に入れると決意した鵺。しかし素直に聞いたとて、その情報を彼が開示するとも思わなかった。
故に彼女は鹿尊の助言により、彼の経緯からその術の出元を探ろうとしたのだ。
秘伝忍術という概念は知っていたので、その可能性も考えていたが問題はない。術の仕組みと発動方法さえ知ってしまえば、鵺が術を使えなくとも関係ないのだ。
日が沈んで眠りに入る前、今日は外での仕事が無かったデイダラと互いに暖をとる様に寄り添って寝そべる。そこで鵺は、彼に寝物語を強請った。主に、過去の話を。
自分も話したのだからデイダラお兄ちゃんのも聞きたいと言うと、案外彼は渋らずに話し始めた。あるいは、誰かに聞いてもらいたかったのかもしれない。
そして彼は語る。
両親が先の大戦で殉職したこと。六歳の頃にはずっと家に一人で、手慰みに始めた粘土細工に嵌った事。
里のアカデミーに入ったこと。卒業間近に土影の孫娘と出会い、忙しい祖父や父に代わりに兄貴分になってやったこと。
そして……尊敬していた土影に自らの造形作品を『粘土遊び』と吐き捨てられたこと。爆破部隊に入り、『爆発』に魅了されたこと。そこに芸術性を見出したこと。
そこから先の話をする直前、彼は一瞬口を噤んだ。言おうか言わまいか、悩む様に己の掌を眺める。だがそれもすぐに止め、もう一度口を開いた。
本来、己の切り札の情報をバラすなど忍者として有り得ない。しかし彼は忍者である前に芸術家だ。
己の芸術の根底にあるものを、鵺に知ってもらいたかったのかもしれない。
里を飛び出して以来、まともな人付き合いが出来なかった彼の、ちょっとした安寧が彼女だったから。
「オイラは里から古い禁術を盗んだ。それでオイラの芸術はやっと、一流の作品になったんだ……うん」
「その術って……?」
「……正式名称は無い。オイラも詳しい術の仕組みは分からねぇ、でもその正体は知ってる」
ついに鵺の本命の情報が出た。それも予想以上の量と質だ。
幼い彼女は比較的に早く眠たくなってしまう気はあるが、今回ばかりはそんな眠気など早々に吹き飛ぶ。
今日の鵺の枕兼、夜の警備役になっている鹿尊も注意深く聞いている。
デイダラはそっと掌を鵺に向けた。そこにあるのは、通常の人体には無い手の口。彼は鵺にこれを見せたことは無いが、術の説明をするのには欠かせないのだ。
「この口は口寄せの術の一種だ。随分と古くて特殊な口寄せだがよ、うん」
相互契約・寄生口寄せの術。
その名の通り、契約を交わした口寄せ獣を身体に寄生させる術。
とうの昔に失われた古い口寄せ形式らしく、そしてデイダラが盗んだ禁術はこの特殊な寄生口寄せを媒介にした術であるらしい。
(寄生口寄せ……! そんなのがあるんだ……!)
チャクラを物質に練り込む術はもちろんだが、それに加え鵺は寄生口寄せの術に興味を示した。
普通の術ならば鵺に扱えないので、口寄せ獣に与えればどう使えるかに思考が寄るがこれは違う。
(私にも使えるかも……!)
具体的にどう活用するかはともかく、手札が増えるならそれに越したことはない。
口寄せ系統の術ならば鵺にも扱える可能性がある為、そんな存在があると知れただけでもかなり嬉しいことだった。
『なるほど、口寄せ契約が必要なのか、ふむ』
逆にそれさえ出来れば術として完成する。実はデイダラが粘土にチャクラを込めている場面をコッソリと目撃出来た鹿尊は、そのチャクラの動きと印を見切っていたのだ。
鵺がその術を欲しがったから、術の考察を主な役割として創り出された自分が頑張った結果である。
そんな、鹿尊が頷いているような姿を幻視する。無論、そんなことをしたらあまりに不自然なため実体の彼は微動だにしていないが。
「ねぇデイダラお兄ちゃん……」
「何だ?」
「それ、私にも契約できるかなぁ……?」
デイダラは思わず閉口する。
出来るか出来ないかで言えば、確かに鵺ならば契約できるだろう。だが、その契約巻物は今岩隠れの里にある。
巻物を廃棄したとしても、相互契約という口寄せ獣側からの契約があるため関係は破棄されない。そのため、既に契約機会が失われていることはないだろう。
それに、あの土影のことだ。そんな無駄なことはせず、いずれ戦力として使う為にも禁術は保管されているだろう。
故に鵺が契約したいのであれば、岩隠れの里へ行き……禁術を保管している土影邸へ行かなくてはならない。デイダラとて、相当な危険を冒して土影邸の禁書庫に忍び込んだのだ。
もう一度同じことをやれと言われて、素直に首を縦に振りたくないほどには緊迫した瞬間だった。
「出来るだろうが……契約しただけじゃ意味ねーぞ、うん」
そう、あくまでこの口の形をした口寄せ獣は禁術の媒介でしかないのだ。
確かに鵺にとって、寄生口寄せの術は新たなる知見になっただろう。何処かには単体で自己完結する寄生口寄せ獣もいるかもしれないだろう。
だがデイダラの持つコレは、禁術とセットでなければただの口である。
口寄せ以外の術を使えない彼女では、契約したところで仕方がない。
「そ……っか。分かったよ」
デイダラがそう諭せば、鵺はしょんぼりしながらも了承した。その後彼女は、話してくれてありがとうと言って、一足先に目を瞑る。寝息は次の瞬間には聞こえて来ていた。
(流石に起こし過ぎたか、うん)
そうしてデイダラも、子供特有の高い体温を感じながら眠った。
こちらをじっと見つめる鹿尊など、気にもせずに。