ヒルチャールの王   作:カラス男爵

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ちょっと調べることが増えたのでお茶を濁します。





幕間
璃月へ集う七神(現代)


璃月港から発令された岩王帝君による七神の招待。

 おかげで今の璃月港は祭りの如く賑わっているが、発令した本人である鍾離は呑気に食事を楽しんでいた。

 

いつもと違う点としては最高級料亭の最上階、超VIP席を全て貸し切っていると言う点だが、もし今、それを仕事に追われる刻晴達が知ったならばそれはもう長々と嫌味を言われる事だろう。

 

 

開け放たれていた窓から一陣の風が吹く。

現れたのはウェンティ、又の名を風神バルバトス。

 

「お酒飲めるって聞いたから来たけど。本当なの?あの話」

 

にこやかに冗談を混ぜて言う彼だったが窓から入ってきたという前提がどれほどその報せを気にかけていたかが窺い知れる。

 

「ああ、本当だ。そしてどうやら彼は帰って来るらしい」

 

「ふーん、そっか…『ならばこの風神バルバトス、協力を惜しむ事はない』」

 

「…」

 

突然黙り込んだ鍾離はその視線をウェンティから離さずじっと観察する。

それに耐えられなくなったウェンティがたまらず聞き返した。

 

「…何?」

 

「いや、懐かしい、と思ってな」

 

「うぇ!やめてよもう、柄じゃないのはわかってるんだからさ」

 

彼は顔を赤らめながら照れを隠す様にアイスバケツにあるワインを引っ掴むとそのまま栓を空けて直飲みし始める。

 

「あの大戦を体験した七神はもう、俺と君しかいない。

だが、もしまた大戦が起きるというのなら相応の準備が必要だ、でなければ、地獄を見る事になるだろう」

 

「やっぱりなるの?戦争、、」

 

どこか悲しげに呟くウェンティに対し一瞬考え込む鍾離だが、それは何度も考えた話であり、直ぐに応えられた。

 

「可能性はかなり低い、だがゼロではない。ならば少なくとも『諸侯団結の儀』の準備はしておきたい」

 

「『諸侯団結の儀』?はぁーあ。

モンドも離月も稲妻も、テイワット大陸全部を軍管区にするって?

知ってる?芸術は平和の中じゃ無いと息もできないんだよ?」

 

 

確かに戦争の中で生まれる芸術もある、だがその多くは悲しく、悲惨であり、それらが多く作られる事はウェンティにとって嬉しい事では無かった。

 

そんな彼が、だが、と続ける鍾離に対してわかってると少しだけぶっきらぼうに答えるのは仕方のない事だろう。

 

「…ねぇ、七神がみんな集まると思う?」

 

「来るさ。なに、来ないのであればこちらから行くまで」

 

「そっか、、戦争を完全に避ける事はできないの?」

 

「勿論起きない事が最善だ。

だが、彼が言うに『お前ら神はどうして対話ができないんだ、そんなんだから何千年もうだうだ戦争をやってたんだろ』らしい。

もしかしたら起こる可能性は大きいかも知れん」

 

最後に関してはどこか楽しげに言う鍾離に対して全く笑えないウェンティ、残念な事に風元素では彼に対して効果は薄い。

 

そして、アイツも言えた事じゃないだろうとワインを飲みながら思う。

全く酔える気がしない事に辟易しながら。 

 

入り口が開かれた。

 料理人と配膳係以外でここに入ってくる部外者はいない、では誰かと聞かれれば招待された七神と言う事になるのだが、少し違った。

 

「これはこれは岩神モラクス様に風神バルバトス様。

大変ご機嫌麗しく存じます。

本日におかれましてはこのタルタリヤ恐悦至極の至りであり、ご同伴させていただく事をどうかお許しください」

 

まるで劇場にいるかの如く大業な仕草によって紹介される挨拶、普段の彼を知っている身からすれば正直なところ……かなり胡散臭い。

 

「…キモイ」

 

「ハハッひどいなウェンティ、社交辞令は大事だよ。

まぁそう言うわけで女皇陛下に変わってこの公子タルタリヤがきたという訳さ……待って鍾離先生、もしかして笑ってる?」

 

見て見れば顔全体を片手で押さえて小刻みに震えている鍾離の姿。

 いつか一泡吹かせようとしていたタルタリヤにとってかなり複雑な心境だ。

 

「… 鍾離先生もかよ、、ひどいな全く。こう見えても俺スネージナヤで結構偉いんだけど?」

 

「へーそうだったのかー。そう言う僕も、こう見えて神様なんだけど?」

 

「あーもう降参、俺が悪かったですぅー」

 

悪戯が成功したからかウェンティまでも笑い出すと、やっと立ち直した鐘離が語りかける。

 

「この一件スネージナヤは何と?」

 

「貸し借りなしで協力を惜しまないってさ。

珍しい事もあるもんだね。正直、俺もビックリしてるよ」

 

「ふむ、ありがたいな。

だが彼らの歴史を知っていて相手取るならばそれも当然の結果だろう」

 

「あーそうそう、それ、例のヒルチャールの話。

教えて頂いても?」

 

「勿論だ、知ってもらう必要がある。

全て話すとも、この会食が終わったなら七神以外にも話さなければな。

特にウェンティ、君には四風守護のボレアスを説得してもらう」

 

 

今でこそ当時の力は失われ、名前もボレアスとなり、自分の領地にて大人しくしているが、又の名を狼の魔神アンドリアス。当時の大戦において強大な力を持つ魔神だった。

 

 

「うげっやだなぁ説得、彼、多分相当恨んでると思うよ」

 

「そうか、だが戦争を避けるためだ、頑張ってくれ」

 

ウェンティとしては既に無理そうであれば鐘離にも手伝わせる気まんまんであり、なんなら力によっても抑えつける事まで視野に入れていた。

 

 

七神は未だに集合していない。

 

 

 

 

 

 

 

「旅人ぉ!!あれ!あれ!ッん、グゥ!?」

 

小さな声で叫ぶという高度な技を披露しているパイモンの口を塞ぎながら浜辺にいるそれを凝視する。

 

ヒルチャール、だと思う、めっちゃでかいけど。

遺跡重機程の大きさのヒルチャールなんて初めて見る。

見た目もかなり凶悪。

 

「どうすっかなぁマジで、地形全然違うよ、確かに川とか水辺とかコロコロ変わるけどさぁ」

 

めっちゃ喋ってた。

 

「いっそのこと力を…駄目だな、あんま派手なことするとまた面倒な事になるしな………いい匂いがするな?」

 

しまった!パイモンの匂いに気づかれたか!?

冗談半分にそんな事を考えたがドンドン近づいてくるのは変わりなく、隠れている茂みに手を突っ込んできた。

戦うべきか?とりあえず対話か?

 

「あ"ずげでぇー!じゃびびどぉ!」

 

ガッチリと捕まえられたのは何故かパイモンのみ、そのパイモンはなんかもう、見るに耐えないレベルで泣き叫んでる。

 

「ん?……お前は…」

 

「パイモンを離して」

 

「ドワッ!?!?!?

アッ!お前は!その白い服!長い金髪!」

 

なんだ?もしかして兄妹の事を知っている?

何故ヒルチャールが?

いやまぁ普通のヒルチャールじゃないんだけど。

武器を握りしめ、より一層警戒を強める。

 

 

「女だ!!」

 

 

種の隔たりを感じた。

 

 

 

 

彼の持っていた大量の食料をバクバク食べるパイモンを眺めながらキャンプに座っている。

 

「で、なんだけどさ、ここどこ?璃月に行こうとしてるんだけど」

 

何というかビックリするほどに友好的だった。

 食べ物を分けてくれたし、ヒルチャール特有のあの独特の臭いもしない。 

というか膝を抱えて座る姿は間抜けっぽく見える。

 

パイモンは少し満足したのか一度手を止めて本題だ、とばかりにヒルチャールに問い返す。

 

「お前、璃月に行ったら何をするつもりなんだ?ヒトを襲うとか、物をうばうとかか?それだったら協力はできないな」

 

「違うって……………友達に会いに行くんだよ」

 

「…」

 

「ごめんて、そんな目で見ないで!」

 

パイモンとの会話中で明らかに怪しさマックスだったので見つめ返したら普通に口を割った、彼が言うに人に会いに行くのは本当で、その内容は言えないらしい。

 

「誰に会いに行くの?」

 

「え、あーと、、今はモラクス、いや、岩王帝君だったかな?」

 

岩王帝君、その言葉が彼の口から出る事にどこか納得した、最もそれは単に彼は顔が広いからと言う浅はかな理由だったが。

 

「がんおうていくん、、ああ、鍾離のことだな!アイツスゴイな!こんな知り合いがいるなんて!さすがは鍾離!」

 

「鍾離……今はそんな名前なのか?アイツなんか一時期名前コロコロ変えてたからなぁ」

 

「ってやけに親しげだな、お前も神様の一人なのか?だから鍾離のことを知ってるとかか?」

 

「違うぞ?ただのヒルチャールだ」

 

「お前みたいなヒルチャールが普通であってたまるか!

全く、ただでさえ見た目も超怪しいのに鍾離と知り合いとか。

本当は嘘だったりして、、」 

 

「ハハッそんな事よりも、結局ここどこなんだ?」

 

「おおい!ちょっと待て!」

 

「モンドだよ」

 

そう答えてあげると返ってくるのはウゲェというかなり罰の悪そうな声、どうしてと聞けばかなり昔に悪い事をしたらしい。

 皆忘れてるといいが、と言っていたが少なくともこんなでかいヒルチャールの話は聞かないから大丈夫だろう。

 明日になったら一緒に離月に向かってほしいと言われたので了承した。

 

 

 

翌朝になると宣言通りに移動を始める彼、そういえば名前を聞いていないと思い尋ねてみる。

 

「名前?、ああ名前ね『/|>|」€』だ。発音できないと思うから気にしないでくれ」

 

そういえば彼はヒルチャールだったなと強烈に思い知らされた。

 図書館にいるヒルチャール言語学者の彼女なら喜ぶとかもしれないが少なくとも自分にはわからない。

 

「なんだぁ!?なぁ旅人、見て見ろよあれ」

 

パイモンに言われて視線を向けて見ればヒルチャールのテントがある。

 

だが何より目を惹きつけるのは彼らの行動のだろう。

 のたうち回り、頭を押さえる者にただひたすら平伏している者、なんなら微動だにしないヒルチャールまでいる。

 恐らくその元凶である彼を見てみると。

 

「何あれ、怖っ」

 

本当に知らない顔をしてた、明らかに彼が元凶であるのは間違いないので問いただして見てもマジでわかんねぇなんだろ?と真剣に考え始めてしまった。

 

「あっ!旅人のおねいちゃん!」

 

道の脇から突然飛びだしできたのはクレーだった。

 その煤に汚れた体を見て、また新しい爆弾を開発しているのだろうかと考えたが、今はそんな事よりも気にしないと行けない事がある。

 

「すごぉい!何これおっきい!おねいちゃんが見つけたの!?」

 

なんと純粋無垢な事だろうか、初めて見るそれに対して近づいてはべたべた触り始めしまいにはよじ登りはじめている。

 

あっこれ、石像かなにかだと勘違いしてる。

よじ登られている本人は考え込んでて、まるで気付いていないし、止めたほうがいいな。

 

「おい!クレー!早くそれから降りろ危ないから!」

 

「あっパイモン!どうして?たのしいよ?」

 

そんな会話をしている時、ようやく気付いた彼が身体に引っ付いたクレーを摘んでとる。

 

「待てっ!そいつも悪気があった訳じゃないんだ!どうか許してやってくれ!」

 

パイモンは必死に止めようとしているが、最悪の事態が起きる事はなくゆっくりと降ろされる。

だが降ろされた当の本人はというと、

 

「すっごぉい!初めて見た!スゴイ!スゴイ!」

 

限界を超えてはしゃぎ回っている。

 比喩ではなく彼の周りをグルグルと、しまいにはアンバーおねいちゃんに教えてくる!と言って物凄い速さでどこかに行ってしまう。

 

「あっ!待て!?まずい、まずいぞ」

 

ようやく喋った彼は頭を抱えていた。

 

「何がまずいんだ?クレーともっと遊びたかったのかお前?」

 

「違う、人を呼ばれた。このままでは非常にまずい、はっきり言って碌な事にならん」

 

そうして頭を悩ませていた彼が唐突にこちらを向くと何か納得した様な顔をして言う。

 

「頼んだ、人が来た「カァァン」さい、に、わ」

 

いきなり弓で射抜かれ、少なくともその矢は頭に命中した。

 

だが甲高い音を立てて弾かれる。

 誰の仕業かと見て見れば、アンバーが全く効いていない矢を見て青白い顔をしながらも二つ目の矢を引き絞っている。

 

「旅人さん!離れて!!」「早く誤解を解くんだ相棒!」  

 

これは、、相当に面倒な事になった、、

  

 

 

 

「わかった、、とりあえず信じるわ」

 

一度も攻撃をしてこないヒルチャールの姿と旅人の半ば強引な説得により、とりあえず殺し合いという事態はさけられた。

 

「でも知ってるでしょう?璃月港から発令された招集願い」

 

「?知らない」

 

本当に知らなかった。

彼女はここ数日間、遺跡に入り浸り、都市には帰っておらず、ようやくモンドにでも行こうか動いた時に浜辺で彼を見つけたのである。

 

驚愕の顔をしてるアンバーには申し訳ないが知らないものは知らないのだ。

 

「待て、まさかもう討伐依頼を出されているのか!?」

 

「ふぇっ!?喋ってる!?」

 

ああもうまた、、

 

旅人の努力により、ようやく説明が終わる。

 その場にいるのは頭を抱える彼とアンバー、二人がようやく話し始めたのは少し時間がかかった後だった。

 

「まず聞かせてくれ、討伐依頼がでてるのか?」

 

「厳密には違うわ、ただヒルチャールの王に対しての七神の緊急招集なんて聞いて、どこの軍も冒険者組合も慌ただしく動いているの」

 

「そうか、ではもう一つ、あの騎士団はお前が呼んだか?」     

 

そう言われて辺りを見回してもどこにもいない。

 そう思った時、ようやくガチャガチャという鎧の音と馬の蹄の音が聞こえ始める。

 

「えと、呼んでない、わね」

「そうか、では何とかしてくれ」

 

「ええ!?たっ旅人さぁん!」

 

どうしてこんなにも問題が起きるのだろうか?

 

 

 

 

西風騎士団は今、混沌としていた。

 理由はクレーからの報告、すっごく大きなヒルチャールがいたからアンバーおねいちゃんにも教えてあげたの!のせいである。

 

最初はヒルチャール暴徒の話だと思い、相手にはされ無かったが。

 2時間たっても来ないアンバーの定時報告によって次第に例のヒルチャールを疑い始め、軍と共同して事にあたるべきという意見と騎士団だけで捜索するべきという意見に割れた。

 更にはクレーの、山みたいに大きいヒルチャールだったよ!というどっちかよくわからない新たな情報がその対立に拍車をかけたせいである。

 

「ねぇジン団長、どうするの?私が行こうか?」

 

「リサ、ありがとう。

だが一人だけはあぶない、かと言って軍を動かすのもまずい、もし勘違いだった場合事が大きくなりすぎるし、第一、管轄外だ。

そこで、エウルアと君、そして第四騎士隊で行って貰おうと思う。

申し訳ないないが騎士隊はリサが引き受けてくれ」  

 

「いいわよ、でもエウルアはどこに?」

 

「ああ、それはもう大丈夫だ、呼んである」

 

そう言うと開かれる団長室の扉、まるで時間通りと言わんばかりに入ってきたのはエウルアその人である。

 

騎士団の動きは迅速だった、まるでいつかのように。

 

 

  

 

 

リサとエウルアの二人は騎士隊を引き連れ馬を走らせている。

 

「意外ね、私ひとりでするものだとおもっていたわ。

それに一つの騎士隊を全員使っていいだなんて、理解できない。私はローレンス家の人間なのよ?」

 

「あら、いいじゃない。

そもそも貴方は西風騎士団の隊長でしょ?

しかも一応の指揮権は私が持っているのよ?不満ではなくて?」

 

「馬鹿にしないで頂戴。私は遊撃騎士として今まで活動していたのよ?人を率いて戦うなんて慣れてないわ。

だからジン代理団長が貴方をつけてたの、この事は忘れないわ」

 

「あら、そう。なら私は後ろから眺めているだけにするわね」

 

クスクスと笑うリサだったがそれを咎めはしない、何故ならそれが彼女の本分だからだ、後方から元素による援護、そして下される指令は的確に行われる事だろう。

 

彼女の顔色が変わった。

「もうすぐよ、クレーとアンバーがいたという場所まで」

 

それを聞いて私は馬から飛び降りる準備をしておく、しばらく走れば嫌でも目についた。

遺跡重機並みの大きさのヒルチャールは見た目も相応に禍々しい。

 

近くに落ちている矢を見つける、赤い羽根のついたそれは間違いなくアンバーのもので、、、

 

気づいたら飛び掛かっていた

 

だが、そいつはあろう事か

 

「んんんんんん!?!?先手必しょぉぉぉ!?」

 

喋った。

 

 

 

 

どうにかしてくれと言われたその直後だった、彼は思いきり頭を斬りつけられている。

 

「いたたたたた」

 

馬による加速と彼女の類い稀な剣術によっての一撃は見事に命中したのだが、生きているというか、ピンピンしている。

 

「なに!?私は全力で!」

 

全力でニ撃目を放とうとする彼女を急いで止める。

 どういうわけか、らしく無い位くらいに激昂している彼女を宥めるが怒りは治らず、私を切り裂くような視線をしながら怒鳴り始める。

 

「止めるな!!よくもアンバーを!」

 

「私を?」

「…えっ?」

 

「待て待て待て、あっちあっち!」

 

叫びながら指を指すのでそちらを見ると、騎士達が全力で攻撃しようとしている最中だった。

 

このままだと巻き込まれる!

急いで岩元素を用いて壁を作って隠れようとするが間に合いそうにない。

 

「うっウサギ伯爵っ出撃!」

 

「!?退避!退避ー!」

 

彼女の咄嗟にとった行動によって馬は混乱し、馬上の騎士も退避する為に進路を変える。

 彼女の起点によって幸いな事に怪我人はーーーピンピンしているのでノーカウントとしてーーー、一人も出ずに終わった。

 

 

 

 

「ねぇねぇ、私がなんだって?ねぇねぇ」

 

「ッ!おっ覚えてないわ!」

 

「本当にぃーー?」

 

「…なぁ、そんな事よりこれどうにかしてくれない?」

 

そう言う彼の周りには臨戦体制の騎士達がその剣先と敵意をこれでもかと向けている。

 

「なぁ!リサ!コイツは一度も悪い事…昔してたらしいけど、そんな事より!今は悪い事してないんだ!剣を下ろすよう言ってくれ!」

 

「…いいわよ。

もともと私達が命じられたのは民を脅かす者の排除。

現状、何もしていないと言うのは栄誉騎士を信じるわ。

でも当然、付いてきてもらいます」

 

「付いていく…モンドにだよな?ならダメだ、璃月に行く」

 

「なんでだよ!事を荒立たずに終わるんだぞ!それが一番じゃないのか!?」

 

「その通りだ、だが、言っただろう?昔悪い事をしたと。

正直その時の遺恨が少しでも残ってた場合、俺の話し合いは絶対に受け付けられない。だからダメだ」

 

「私達が簡単に逃すと思って?貴方が雷よりも速く動けるなら別だけど」

 

「はぁ、、全く……ローレンスはいないのか?」

 

その一言によって一気に騎士達にどよめきが走る。

 何より酷かったのはエウルアだった、その美しい口を開けっぱなしにして目を見開いた姿はとても元貴族とは思えない。

 

周りの騎士もそんな彼女に疑いの目を向けるが、いの一番に顔面に切り掛かったと言う事実がさらに混乱させる。

 

「その名前を、どこで?」

 

 

重々しくも口を開いたのは他でもないエウルアだ。

 ローレンスという名前、それはモンドにおいてのタブーとも言える名前、かつて圧政の限りを尽くし、革命によって没落したモンドの旧貴族。

 

「どこ?、昔彼らに大恩を売った、その時以降はよく協力してもらったのだ。

なんだ?もしかしてまだ、彼らは続いているのか?それならばモンドに行ってもいいぞ」

 

「それをどう信じろと?」

 

「ローレンスに言えばわかる、としか言えんな」

 

「なら私がそうよ、エウルア・ローレンス。『我はモンドに栄光与える勇敢なりし一族にしてその末裔、獣傑よ、貴族の栄光を受け入れ包み隠さず話せ』」 

 

懐かしい喋り方だった、格式でがんじがらめにされたモンド旧貴族の口調は初対面のものに対しては喧嘩を売ってるとしか思えない。

 

ふと思う、最後に聞いたのはいつだっただろうか?

それこそ最初にあった任務でしか聞いていない。

 

……まぁ酔っ払ってそれっぽい事を言っていたような気もするが、呂律も回っていないし何より彼女が覚えていないから聞いていないのである。

 

「お!おお!そうか!『銀世界を統べる北方の開拓者よ、その勇敢さには息災を覚える、いみじくも我に忠誠を誓うと言うのなら再び貴殿等に栄光の弓を授けん』」

 

 

息を呑むエウルア、何故なら彼の作法は正しかったが故に、しかもその内容も問題だった。

 

基本的に貴族以外には秘匿されている作法。

 しかもその冒頭の言葉「銀世界を統べる北方の開拓者」は、我が一族における一番古い呼び方であり、特に最後の弓を授けると言うのは圧倒的な上位者から送られる言葉で、しかもローレンス家にのみ適用される。

更には安易にそれを使う者は殺せとまで殴り書かれていた。

 

「まぁ、正確には我は獣傑ではないが、許そう。全て覚えていろなどとは言わん」

 

正直に言えば未だに信じ難い話、だがその秘匿された作法はローレンス家の執着心にかけて、公にされた事は無いと言える。

 

今すぐにでも問いただしたい事が沢山あった。

 

「西風騎士団の名において私は貴方を拘束する必要があると認識しました。抵抗し逃走を選択するのであれば命の保証は致しません」

 

剣を構え、剣呑な視線をむけるエウルア、彼女に習うように騎士達からは今にも飛び掛かって来そうな雰囲気だ。

 

「…何故だ、、まぁ良い。そうするのなら我にも手段がある」

 

激論をしているのをただ傍観しているだけだったが、突然掴まれた。

パイモンも含めて。

 

「えっ?」

「何すんだお前!」

 

「ジャンプ」

 

突然空に飛び上がるヒルチャール、そのあまりの風圧に騎士達の何人かは倒れてしまうが、リサからは電撃が放たれた。

 

全く効いた様子はないが。

 

「イテッ、容赦ないな、なぁ璃月はどっちだ?」

 

「ぶばぼぼぼぼば?!?!」

 

「あっごめん」

 

一緒に上昇したは良いものの、強烈な風によってまともに声も出せなかったが、風元素によって包まれた事で先ほどまでの強風がまるで嘘だったかの様に無くなる。

 

「璃月は、あっち、、だ、」

 

パイモンはそのモチモチなほっぺのせいでより強烈に風を受けてしまったのだろう。

 いつもの元気は無く、ぐったりしていた、だがパイモンが行き先を示すや否や、すぐに降下が始まる。

 

「ぶばぶぼぼぼば!?!?」

 

「あっごめん」

 

 

 

 

ぐったりと伸びてしまったパイモンをとりあえず抱えて移動する。

 

「あれ、わざとだったよね?」

 

「バレた?正直なところ他人に風元素を纏わせるのって慣れてないんだよね。それで、ここどこだかわかる?」

 

正直なところ、分からない。

 璃月のどこかであるのは間違いないのだが、地図に関して言えば全てパイモンに任せていたのだ。

 

「少し歩けば分かるかも?」

 

コクリと頷いた彼、周囲は似たような山ばかりでしばらくは目印らしい者は見つかりそうにない。

 手持ち無沙汰になったので彼に対してどんな悪い事をしたのか聞いても良いかと尋ねたら。

 それはやめてほしいと言われてしまった、なら七神と仲は良いのかと聞いてみたら今度は黙り込んでしまう。

 

「彼らにはとても酷い事をした、魔神戦争だったと言う免罪符が無ければ顔を合わせる事も出来ないよ」

 

魔神戦争、それは時々耳にするが、多くは語られず詳細は謎に包まれている。

 仕方のない事ではある、魔神戦争など、いったい何千年前の話なのかという話だったが、その単語について少しだけ思い出した事がある。

 

鍾離とウェンティ。

 滅多に見ないその組み合わせが洞天に造った屋敷で一緒に飲んでいた。

 あまりに珍しかったので声をかけるのはやめて、何を話しているのかと耳を澄ませたのだ。

 

あまり褒められた事ではないが、彼等なら許してくれるだろう。

 

その時、ウェンティは既に半分出来上がっていたが、鍾離さんは大して酔っていなかったはずだ。

そうだ、その時に魔神戦争の単語を聞いた気がする。

 

「モラクス〜、君本当はあの時を後悔してるんだろぉ?」

 

「いつの話だ?」

 

「魔神戦争だよ〜。あの最後のほら、あれさぁ」 

 

おそらく鍾離の持ってきたお酒を一本空けるウェンティは気分が良さそうだった、それがお酒か、話によってまでかは分からなかったが。

 

「ふむ……確かにそうかも知れない、だがそれで良かったのだと今は思っている」

 

「良いよなぁ、君は、僕はアレに振り回されてばっかりだったのになぁ」

 

「そんな事は無い、アイツに一番振り回されたのは俺だ。

逆に一番何もされなかったのはバアルの奴だろう」

 

「ばある?雷神バアルぅ?アイツは、大陸に手を出すべき、じゃなかったって、最後まで言って無かった、かい?」

 

口調が途切れ途切れになったウェンティ、それでも未だにお酒を飲もうとしていた。

 それに対して鍾離は目配せをして大丈夫かと気にかけているのが見えたが当然それをウェンティは気づいてない。

 

「そうは言うが、それは大陸でも同じだろう?アイツ等に関わるべきじゃなかったとな」

 

それからは確かなんだったか?……そうだ、ウェンティが鎮魂歌を歌うぞ!と勢いよく立ち上がった後、そのせいで明確に体調を崩した彼は鐘離さんに介抱されたんだ。

 

そして何食わぬ顔で参加して一緒にウェンティを介抱したのだ。

もしあの時の話、関わるべきじゃなかったアイツ等と言うのが彼の事だと言うのなら何千年たった今でも思うくらいには嫌われていたのだろう。

 だが後悔しているとも言っていた、それが殺さなかった事に対してなのか、それとも大陸を出て行ったからなのか分からないが、その時の昔を懐かしむような顔は今でもちゃんと覚えている。

 

「ねぇ、魔神戦争の時って今と口調違った?」

 

「?そうだが…ああさっきのか。まぁ単純な話、上に立つ者は相応の威厳が求められるのさ。

今はもう気にしなくて良いから滅多に使わなくなった」

 

しばらく歩いた後、目印では無いが、キャンプを見つけた。

もうすぐ夜も更ける、彼が洞天に入れたなら別だったのだが、今日はここで寝る事にしよう。

 

 

 

 

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