ヒルチャールの王   作:カラス男爵

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戦術を理解しているヒルチャールって普通に脅威じゃね?という話。





圧倒的外交下手

ヒルチャールです!

いや〜ようやく火砲の生産が軌道に乗り出したんだけど足りないんだわ、全然、資源が!

いやまぁ確かにね、手作りのリアカーで運ぶのには限界があるよね!

そこで取れる手段と言えば

 

①買う←かなりの無理よりの無理め、というかお金持ってない。

 

②奪う←現状最善手だが確実に目をつけられる。

 

③人員を増やす←もうやってる。

 

④現状維持←まぁ悪くはない、だって面倒だし。

 

んまぁとりあえず現状維持は無理だな、自衛のために始めた訳だが最近の被害は増加する一方。

特に騎士団の居たところは酷い。毎月ほぼ全滅、おかげで全く情報が入ってこない。

 

まぁ補充できるからいいんだけどさ、相変わらず生えてくるし、というかあれだ、むしろ増えすぎてどうしようかと思っていたがそばに置くのを少なくする事で満員電車状態で生活する心配がなくなったというのはむしろメリットしかない。

 

…翌日には奴隷船以上になると思うとゾッとする。

つまり良い消費先を得たというわけだな!

 

2の奪うのはダメだな、人間とバチボコに殺し合いとかしたくない、襲われるなら流石に考えるがとりあえず無し。

 

となると後は1の買うなんだが、お金ないねん、働けないねん。

とは言ってもな資源欲しいしな、できるのは物物交換だが、そうか!

畑たがやしゃ良いんだ!幸い人手は有り余ってるし!

 

いや待てよ?売るんだったら喋れる奴がいないとな、しゃーなしここは俺が頑張って教えるしかないか。

といっても耕すところから始めないとなんだが。

 

 

 

 

 

あれから長い年月がたちました。

いやぁ農業ってこんなに大変だったんだなって。

 

目の前に広がる黄金色の小麦畑、ようやく食えるレベルの小麦を作るのにどれだけの試行錯誤を繰り返したか、それを考えるだけでも涙が溢れて来そうになる。

 野菜に関しては形が歪ではあるが食えるものがすぐにできたのに対し小麦と稲、稲も何度やっても上手くいかなかった。

 

まず水田作りがクソ難しい、次に病気に害虫、もう考えることは一つしかない。

 

いつもおいしい食事をありがとう、農家さん。

 

「王様、ミテ、ミテ、オオキイ、キレイ、ウマイ、タクサン、タクサン」

 

「うむ、これも皆の努力あってこそ、日々の糧にするといい。」

 

農業だけでなく言語学習についてもそこそこの成果を挙げた、その練習として農業についての議論をしていたのだが。

 

なんというか建築技術が発達した。

 いやまぁ、初めは近くにテントを作るみたいな話だった筈だがその内水車とか風車とかを作る様になった結果、どんどんデカくなっていった。

 

まぁ農耕地と人員が増えていたという背景もあるのだが。

これでようやく商売が始められる、苦節10年以上、全てはこの時のため!!

 

 

 

あーね、そういう事する、もういいわ。

 

 

 

十数年前から出現し、最近になってヒルチャールと名付けられたそれは年々増加傾向を見せていた。

 最近に至っては特にひどく、彼らの作る建築物で道を塞がれ通行の妨げになっていたり、集団で放牧された家畜を襲い捕食するなど、いつ都市や農耕地を襲うかという話で持ちきりだった。

 

そんな大量のヒルチャールに対応するために俺たち街道警備隊は新しく組織された。

 その実は新兵や警備隊としてだけの訓練を受けた者たちで編成されていたが今では既になくてはならない組織となり、おかげで食い扶持にありつけた事には感謝している。

 

「なぁ今週何匹やった?」

 

「はぁ?二十、いや三十かな、だからなんだよ?」

 

「へへ、オレ五十」

 

そう得意げに話す同僚だったが、正直、だからどうしたという話である。

 何匹倒しても給金には影響がない、むしろ管轄内で街道を阻む物が撤去されていなかった場合、減給される位だ。

 

「っ!?おいっ!あれ!」

 

今度はなんだと呆れる様に彼の指差す方を見るが、俺もまた驚きの声を隠せなかった。

 

「なんだあれは!?」

 

ヒルチャールだった、ヒルチャールに違いはないが明らかに違う。

 

なぜなら隊列を組み街道を行進している。

 そしてその後ろでは複数匹の風スライムで浮かした大きな荷馬車をヒルチャールが押して運んでいた。

 それが何百メートルと続いている正しく異常事態。

 

「おい、どうする?」

 

「無理だ、武器は見えないが数が多すぎる、隊長に知らせるべきだろう」

 

彼らの報告は警備隊長に届くと最初こそ疑いの目を向けられたが事実を確認するとともに火急の事態としてさらに上へと報告される。

 

 

 

「なに!?ヒルチャールの軍勢がここに向かって来ているだと!?」

 

ありえない、奴らは一定のコミュニティを超える事はなく、群れる事は実質不可能だった筈、何より今までそうだったのだ。

 

なぜいきなり?

どうして?

ただでさえ増え続けるコイツらの対応に頭を抱えていたというのに!?

 

今にも倒れ込みそうになるが追い討ちをかけんとばかりに報告は続く。

 

「事実です、王将軍。およそ千以上のヒルチャールの軍勢が積荷を運んで此処に向かって来ております」

 

「そうか、そうか…まて、積荷?何を運んでいるというのだ?」

 

その問いに対し警備隊長は少し黙りはしたが報告を続ける。

 

「それが…穀物、だそうです」

 

「穀物?なぜ?」

 

「商売のためだと」

 

珍しいこともあるものだ、彼がそんな事をいうなんて。

 

「面白い冗談だな、というか貴様、冗談がいえたのか?」

 

私の知る限り彼は冗談一つ話さない、少なくとも職務の間は。

 何よりも彼は元来性格がクソ真面目であったから不備があったら困る街道警備隊長として任命したのだ。

 

「いえ、彼らに聞きました」

 

「ん?だれに?」

 

またも黙ってしまう彼だが報告を続ける。

 

「ヒルチャールです」

 

今度はこちらが黙り込む番だった。

ヒルチャールから聞いた?そもそも喋ったのか!?

ふざけるなと叫びたい気持ちで一杯だった。

 

隊列を組む、千人以上の規模で群れる、挙げ句の果てには喋り出す。

 いずれも初めて、前例もなければなぜ今までで起きなかったのか不思議でならない。

 

そして一つの仮説にたどり着く、罠では無いか?

 ありえなくは無い、だがなぜヒルチャールを使う必要がある?明らかに怪しすぎる。

 しかも商売ができたとして何になるのか?毒を混ぜる?敵を送り込む?わからん。

 

そもそも何故魔物と商売などせねばならんのか!

 

「よし、決めた。殺そう」

 

「了解しました。では警備隊を総動員して包囲を始めましょう」

 

「いやまて、奴らがどこから来たのか、それが重要だ。そのためには喋るヒルチャール、それだけは生かして捕らえる必要がある」

 

「ハッ!…しかし…奴らの見分けはどうにも」

 

「そうか、では一芝居打とうじゃ無いか」

 

第三軍が構えるここは、帰離原の中央都市から遠く離れた郊外にある。

 この都市は巨大な穀倉地帯を支える重要都市であり、そして同時に主戦場の一つに近い数多の兵を抱えた城塞都市として名高い。

 

その都市に今、千を超える訪問者が訪れた。

 

「キケ!キケ!ショウバイ、キタ!」

 

件の喋るヒルチャールは律儀にも閉め切られた城門を叩くと城壁から突き刺さる様な視線と共に向けられた弓矢をものともせずに喋りかけて来た。

 

城壁の兵士達は指示を待てと聞かされるだけであったが、返答に使われるのは舌ではなく鋼鉄の鏃であると皆が一様に思っていた。

 しかしあろう事が城門はゆっくりと開き、中から返答が聞こえる。

 

鏃ではなく舌によった返答が。

 

そして皆、声が出なかった、あるいは困惑した。

 なぜなら出て来たその人は商人の服装をした王将軍だったのだ。

 

「これはこれは、遠くからご苦労な事です、差し支えなければ中でお話しましょう。お茶を入れます」

 

コイツだけを捕まえて後は殺す、その計画だったがヒルチャールは動かない。

 

「05…÷€。ショウバイ、キタ、コウセキホシイ、テツホシイ」

 

「はい。勿論です、さぁどうぞ「デモ」中、へ?」

 

「王様、イッタ、ショウバイ、シンヨウダイジ、ダカラ、コレ、タダ、アゲル、ツギ、モラウ」

 

誤算だった、しかし同時に興味深い事実がわかる。

 コイツらは本当に組織をつくっている、少なくとも千人以上の、しかもそれを束ねるまともな感性をした親玉がいる。

 これは無視する事のできない事実だった。

 

目の前のヒルチャール共は意外な程に周到に、荷馬車からいくつもの大樽をおろしては後続と交代し、また同じ様に荷馬車から大樽を下ろし始める。

 

このままでは逃げられる。

 そう考えた私は引き留めるために会話をしなければならなかったが何を言ってもこちらを向くことはなく、もう計画を無理矢理実行しようかと考えた時、最後に尋ねた事には劇的なまでに反応をしめした。

 

「王様はどんな人なのでしょうか?」

 

「王様!アナタ、王様、シリタイ?、王様、キキタイ?」

 

「ええ!もちろんです」

 

「王様、スゴイ!、ノウギョウ、スゴイ!、王様、シッテル、スゴイ!」

 

目の前でひたすら王様を称えているヒルチャールに対して微笑みを崩さないようにしながら思案を始めた。

 

農業をしている?そしてそれを教えたのは王様であると?穀物を売りに来たからにはと薄々考えていたが、この量の穀物を作るには相当な耕作地が必要になるはずだ。

 

それはつまりどこか地上に大規模な住処があり相応に大きな拠点、いや、都市と呼べるものが存在する事になる。

 

「しょう、にん、様!」

 

万が一の為にそばに護衛としておいていた兵士の一人が怪しまれぬようにと検品と言って荷馬車から下ろされた大樽を覗き込んだ後、将軍と言いかけてなお興奮冷めやらぬと言った顔でこちらにかけて来た。

 

「これを!」

 

差し出された両の手を見て同じく驚きを隠せない。

 

何と言うことだ!製粉された麦と精米された米だと!?

なるほど、コレは、コレはもうダメだ、見過ごせない。

 

「おい!"勘定だ!"」

 

それを聞いた兵士たちの動きは迅速だった。

 目の前の喋るヒルチャールを袋詰めにすると城門の中に引き込まれ、門はガッチリと閉じられた。

 城壁からは雨の如く矢が降り注ぐ。

 

友好を示す為か非武装だったヒルチャール達はなすすべもなくその体に穴を空けられた。

 

しかし兵士たちにとって誤算だったのは彼らはいつものヒルチャールと同じままだと考えていた事だろう。

 これから起きるのは逃げ惑うヒルチャールを掃討し、いつもの様にその死骸を燃やして終わる。

 

その程度の事だと思っていた。

 

最初の異変は袋詰めにしたヒルチャールからだった。

 ジタバタと暴れていたそれは急に大人しくなったかと思うと、大きな声で叫びだす。

 

「Урааааа!!」

 

奇妙な雄叫びだった。

 長年ヒルチャールの対応をしている街道警備隊にとっても初めて聞く声だったが、それがどう言う意味か推測する間も無く群れをなし隊列を組んでいたヒルチャールたちが返答する。

 

「「「Ураааааааааа!!!」」」

 

なんだ!なんだコレは!?

 

その雄叫びの後、躊躇う様子もなくヒルチャールは駆け始めたのだ!

 

前へと!

 

矢の雨から逃げるためではなく前へ!城門に向かっての突撃である!

 

その予想外の行動に王将軍から焦りの声を上げる。

 

「おい!何をしている!早く始末しろ!弓を放つのだ!」

 

もちろん彼らは言われずともそうしている。しかし勢いが止まることなくそれは一つの塊となって城門にぶつかり始めた。

 その勢いは猛烈で最前列にいたヒルチャールは押し潰れているのが見えるが止まる事はない。

 既に門の前に群れが集まり隙間なく門を押しているがそれでもそれは仲間を踏み台にしてでも門を叩こうと前へ前へと走る。

 

門は破城槌にでも叩かれているかの様に振動を始めた。

 

 

門が悲鳴を上げている。

 いくら射っても数が減っている様に見えない、奇妙な雄叫びと状況に恐怖し弓手に動揺が走る。

 

次第にそれは塔の様に積み重なり、あろうことが城壁をよじのぼられる心配までせねばならないほどに積み上がっていく。

 

こうなってしまったのは二つ原因がある。

 一つはまともな攻撃など想定していなかった為に防衛の手段が弓しか用意していなかった事、そしてもう一つの致命的な失敗は逃げると考えられていたヒルチャールを包囲する為に多くの兵士が城塞都市から出ていたからである。

 

メキメキッ

 

その音を最初に聞いたのは尽きぬヒルチャールの為に矢を運んでいた兵士の一人で、それに気づいた最初はヒルチャールの雄叫びとバタバタと門を叩つける音にかき消え、よくわからなかったが光の漏れ出た門を見て音の正体に気づく。

 

「門が!門が破られる!」

 

そう叫んだ時にはもう遅かった、悲鳴をあげながら打ち破られた城門からはヒルチャールが溢れ出し、その奇妙な雄叫びをあげながら雪崩れ込んでくる。

 

白兵戦だ!

 

そう思って運んできた大量の矢筒を放り投げ、剣を抜いたがヒルチャールの波には無力に等しくあっという間に呑み込まれ、まともに剣を振るうこともできずに殺された。

 

「早く!早く伝来を走らせろ!包囲のために外に出した兵士を呼び戻すんだ!」

 

口泡を飛ばしながら発せられた指令はその余裕のなさを表すには十分過ぎるが事実でもある。

 

マズイ、マズイマズイマズイ!

このままでは民が戦闘に巻き込まれる!

既に城壁にいた兵士には追撃を命令したが忌々しい事に奴らは目もくれず民のいる場所に進んでいく。

クソっ!考えている暇はない!少しでも被害を減らさなくては!

 

 

 

 

「何と言う事だ」

 

目の前の光景が信じられない。

私は緊急の指令を届けられ包囲に割かれた兵士を全て引き連れて都市に向かったのだ。

だが、どうして、、、

 

どうして都市が!都市が燃えている!

 

それが火事でないことを打ち破られた門と中に入り込んでいる大量の死骸が物語る。

 

「急げ!もたもたするな!」

 

とにかく現状を理解する必要がある、王将軍を探さなくては!

 

 

中はさながら地獄だった、家という家は燃え、抵抗したと思わしき人間は死んでいた。

 あの賑やかだった広場は踏み荒らされ、綺麗に咲き誇る草花は全て燃えており木からは火の粉が舞う。

 

教会に人間が集まっているという報せと王将軍もそこにいるという報せに少しの落ち着きを取り戻したが、教会でその気持ちは考えなしであったと自信を恥じた。

 教会には運び込まれたケガ人が溢れかえり、苦悶の声に耳を塞ぎたくなる。

民からは今更きたのかと言わんばかりの鋭い視線が突き刺さり動かなくなった母親の前で泣き叫ぶ子供の声には胸を抉られる気分だ。

 

「警備隊長!曹雲警備隊長はいるか!?」

 

「王将軍!ここに!」

 

半ば放心状態に近かった時、聞き慣れた声によって意識が目の前の人間を認識し今はそんなことが許される立場では無いと己を叱責する様に返答した。

 そして意識を向けられた将軍の姿によってこの事態がどれ程までに余裕がないかを教える。

 あの将軍がなんとひどい姿をしているのか、華やかな鎧は煤にまみれ、血で汚れ一部分に至っては破けており、煤が目に入ったのかその瞳は充血している。

 

「貴様に預けた兵は今どこにいる!?」

 

「ハッ!現在、消火作業に尽力させています!」

 

「そうか、では命令を下す!貴様らの主目標はこの区域内に存在するヒルチャールの殲滅、第二目標に完全なる鎮火だ!」

 

成る程、どうりで街にいた兵士の数が少なかった訳だ、最悪な事にヒルチャールはまだ生きていた。

 それどころかいまだにこの都市を破壊して回っている。

 しかし疑問が残る、城壁に配備された兵士は少なかったとはいえヒルチャールなど敵ではないはず、ならば駆除はすぐに出来たのではないのかと。

 

「将軍、城壁の兵は今、どちらに?全力でヒルチャールを叩きます、その為には兵は少しでも「ダメだ!」」

 

遮られる自身の発言に王将軍は小さな声でそうではないのだと目尻に皺を寄せながら現在の状況を知らされた。

 

「敵にまとまった集団はもはや存在しない、あるのは大量の少数グループによる破壊活動、奴らは最初、広場に到着するや否やすぐに分散し辺りのものをとにかく燃やし始めた」

 

「…つまり、あなたがしたのは」

 

「そうだ!城壁の兵だけでもあれらを駆除する事は容易だった、だが、だが!」

 

その声音と言葉に詰まっている様子から今でも後悔している事が手に取るように分かる。

 

当然だろう!他の区域に被害を増やさない為にこの商業区域を切り捨てるなど!兵士が!守るはずの民が蹂躙されているのを見ているしか出来ないなどと!

 

「…多くの兵はこの商業区域と職人街、そして住民街を隔てる門へと配備した、全ては…」

 

「全ては他の区域にまでヒルチャールを通さないため、ですね。わかりました、迅速に片付け参ります」

 

最後に聞こえた、頼む。という言葉はとても六万五千人の総司令官とは思えない程に小さく、か細かった。

 

この都市の構造は優れた城塞都市ではあるものの元はただの農家の集まり、大戦によって拡張され、穀倉地帯を守護する為に人が増え、都市となり、戦争が長く続くにつれ装備を整える為に職人街が作られ、外壁が建ち、人が増え続けた結果として商業区域が一番外にでき、また外壁が造られた。

 つまり外縁部である商業区域に住宅街と職人街は囲まれている。

 

成る程、二つの城壁に囲まれた実に堅牢な都市だろう。

 だがしかし、一つ目の城壁は既に破られ、守るべきはずの兵士は外にいた。

 至る所で火の手が上がっている。

 

 

 

 

 

これでは埒があかない。

 迅速に片付けるといったものの敵を捕捉し追跡したとしても10匹にも満たない数で更にはバラバラに逃げ出す為、数匹を取り逃がす事例は既に珍しくない。

 

「隊長!こちらに!」

 

負傷した兵に手当てを施していた兵士に呼び止められ、手を引かれる様につれていかれ、そして驚愕する。

 

何と、何と厄介なことか、警備隊長として、奴らが狩猟において原始的な罠を使う事は知っていた。

 しかし目の前の即席で作られたであろう罠を見て苛立ちを隠す様に奥歯を噛み締める。

 

焼け落ちたであろう鉄柵はベランダの装飾として役に立っていたことだろう。

 だが今ではその鋭い先端を此方に向け、十分な脅威となった落下式の罠が造られていた。

 

王将軍の見事な手腕によってこの区域内の残りの人間は既に退避されていたが、ヒルチャールは抵抗が無くなったのをいいことにその牙を兵士に向けている。

 

今、起きているこれは駆除ではなく、魔物との市街戦であると誰もが感じ始めた。

 ヒルチャールは家から見つけたであろう包丁や家々を燃やす為の松明で武装し、小さな体躯を生かして下水や煙突から奇襲を仕掛けてくる。

 

ああクソ、損害が思ったよりも多い、とくに街道警備隊の被害は目も当てられない程。

 

彼らは確かにヒルチャール専門の組織ではあるが正規の兵士には遠く及ばず、なにより市街戦に全くと言っていいほどに慣れていない。

 兵士たちの間では不穏な空気が漂っている。

 

結局、ヒルチャールを完全に制圧するには丸一日の時間を要した。

 

 

 

 

 

あの惨劇の後、第三軍総司令部では都市の復興のために人が走り回り、かつての静謐な雰囲気は消え去り今では喧騒で溢れている。

 

「これが…今回の被害の全てか?」

 

頭を抱え、報告書を睨み付ける王将軍に再度、報告する。

 

「ハッ!商業区域の三割が全焼、負傷者4074人、死傷者356人、その内183名が、街道警備隊含む軍人です」

 

力無い声を上げ、椅子に倒れ込む様に座る王将軍。

 無理もない、すぐに終わると考えられていたヒルチャールの駆除が蓋を開けてみれば丸一日かかる魔物との泥沼の市街戦。

 もし昨日、魔神勢力から大規模な攻勢があったならこの都市の陥落は免れなかっただろう。

 

「敵の…数は?」

 

絞り出す様な声だった、いや、本当に絞り出したのだろう。

 きっと彼のできる最後の抵抗だったのだ、死者こそ少ないが商業区域の三割という規模は今までにない被害だ。

 相応の戦果が欲しかったに違いない。

 

「城壁の外における死骸の数は386匹、市街地においては1014匹、合計1400匹です」

 

「1400、、1400だと?これだけの被害を出しておきながら!たったの1400!ふざけるな!この俺は!この俺は!鉄壁の王将軍なのだぞ!」

 

今、彼自身が語るその異名は滅多に自分から名乗る事はない。

 その名はこの都市を幾たびもの激戦から守り抜き、民からつけられたが、その異名は既に市井の声から消え失せた。

 

「そして…」

 

「なんだ!何があるというのだ!」

 

「捕虜が、一匹、、、」

 

「捕虜?…ああそうか、あの喋る奴か。…そうか」

 

その切り替えの速さは流石は将軍と言ったところか、あの苛烈な言動から打って変わって、冷静に思考を巡らせ、考えている。

 

「よし、第一、第二軍司令部、そして北方騎士団にも連絡を回せ。そして尋問官は奴らがどこから来たか必ず口を割らせる様にしろ、なんとしてでもだ」

 

 

この時、まだ交渉の余地はあった。

 だがとってしまったのは戦への下準備である。

 

これは始まりに過ぎなかった。

戦争の、今までにない、地獄の様な戦争の。

 

 

 

 

首都帰離原、統一最高総司令本部、「黄金皇宮」

 

黄金と称されるここは神の座す歴とした城であり、宮殿であった。

決して戦争のために造られた通常の司令部とは違い、どこまでも華やかで文字通り大量の黄金を用いられて造られた皇宮は民の繁栄を約束し、また、神の威光を轟かせる為に造られたのだろう。

 

「王!あの被害は本当か!」

 

会議室に向かう途中、親しげに話しかけて来るこの男は中央軍管区第二軍総司令官の常徳であり、また第一軍総司令官の元徳の義兄弟でもある。

 確かに親しい間柄ではあるが、今、話かけられるとは思いもしなかった。

 

「常徳…ああ事実だ、しかし…よいのか?」

 

「む?ああ…それなら、兄者がしてくれるからな」

 

その言葉を聞いて少し気が重くなるが、これは必要なこと。多少詰められることになったとしてもそれは仕方がない。

 

「で、元徳は何処に?」

 

「もう中にいるぞ」

 

目の前の会議室への扉が少し重くなった。

 

豪奢に飾られた扉を押して中へと入る。

 絨毯から天井の隅まで華やかに飾られているのはさすが元皇宮、しかしその部屋の真ん中に置かれた少し埃のかかった無骨で巨大な会議机は現在戦争をしていることを示していた。

 だが、それよりも存在感を放ち何よりもこちらに圧を放っているのが先ほどまで話していた元徳である。

 腕を組み眉間にしわを寄せてこちらを睨みつけてくるその姿は、だれから見ても不機嫌であることを教えてくれる。

 

先に謝るべきか?

そう考え口を開こうとしたその時、大きな音が響き渡り、会議机を叩かれた事を知る。

 

「王!貴様!()()を使うというのはどういうことかわかっているのか!貴様の司令部でも、俺の第一軍司令部でもなく、()()を!」

 

彼が怒っているのは訳がある。

 というのも本来の将軍たちの会議は自分たちの司令部を使い他の軍管区から将軍が参加する場合でも第一軍総司令部にて会議は開かれる。

 

ではなぜ黄金皇宮は存在するのか?それはこの戦争が常態化し何百年とたってしまったことが起因する。

 

「無論、理解して「理解しているものかぁ!!」」

 

「ここを最後に使ったのは何時だ!いってみろ!」

 

「……開戦時と、諸侯団結宣言の二回だ」

 

「そうだ!たったの二回だ!開戦時からたったの二回!そしてここで開くという事はつまり!」

 

「そう、()()()が主目的であるが故に」

 

「ッ!?ッッ!!」

 

声にならない声、果たしてその表現が正しいのかわからない。

 それが激昂の末であるが故に、彼の顔は赤くなり、血管が浮き出している、今に倒れるのではないかと心配するほどに。

すると会議室の扉が開かれ、常徳がはいってきた。

 

「失礼する。全司令官が、ぬおッ!?兄者!大丈夫か!」

 

怒り狂い挙句の果てには弟分である常徳将軍に介抱される元徳大将軍、信仰心の強い事だとも思う。

 

だがこれは必要な事なのだ、許してくれ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「今回集まって貰ったのは他でもない、第三軍司令官の王将軍からの緊急要請である、王、説明せよ」

 

先程までの激情ぶりと介抱されていたとは思えないほどに…いや、やはりまだ怒っているな、その証拠に彼の手元にある筆は何故か新しい。

 おそらくへし折ってしまったのだろう。

 中央、北部、北西部、南部、南西部、ほぼ全ての軍管区から将軍が招かれる中での会議。

 この会議はなんとしてでも賛同してもらう必要がある。

 だが、聡明な将軍達であればそれは可能だろう。

 

「今回集まって貰ったのは他でもなく件のヒルチャールの攻撃である。既に皆、聞き及んでいると思うが、あの被害は事実である」

 

周囲からどよめきが広がる、想像していたよりも大きいのはヒルチャールだからか、それとも鉄壁の異名ゆえのことか。

 

「そしてそれらの拠点とされる場所を発見、そこに住むヒルチャールは確認できただけでも一万を超える」

 

どよめきがさらに大きくなる。

 

「故に討伐軍を編成し、早急に事に当たりたい」

 

「待っていただきたい、いかに一万を超えるとはいえヒルチャール、中央軍管区だけで済む話でわないのか?」

 

そう発言するのは北方軍管区の将軍である。

 彼の言っている事は確かに正しい、だがその実情を知らなければの話である。

 

「この拠点の中央部にて巨大な古代遺跡が確認された。

そこでは常にヒルチャールが往来しておりそれが途切れた所は確認できない。

にも関わらず、拠点におけるヒルチャールの数は変わっていなかったそうだ、おそらくあの中にはその数倍のヒルチャールが存在する」

 

「理解した、それで?我々に何を?」

 

「戦力については、予備戦力の六万五千と我々の第一・第二・第三軍から抽出した六千の兵士で事に当たりたい、他の軍管区の方々には兵站にご協力をお願いしたく」

 

「そうか…わかった、いいだろう。それと兵に関してだが、少ないが我々も送らせていただく、熱烈に行きたがる奴がいるのでな」

 

「ありがたく」

 

唐突に破裂音にも似た音が響く、机が叩かれたのだ、言うまでもなく元徳から。

 

「いつ?、本題に、入るのだ?」

 

おそらく怒鳴り散らすのを我慢した結果の声は微かに震えている。

 

「その程度で"ここ"に集まったでなかろうな?」

 

そうだ、言わなければならない、この私でも未だに信じ難いその理由を、あってはならないその理由を。

 

「……敵拠点において"魔神級"を発見したからだ、、」

 

この発言は、まさに劇物と言っても過言ではなかった。

 

「貴様!何を言っているのか分かっているのか!」「ありえん!ヒルチャールだぞ!」「鉄壁の王ともあろう者が耄碌したか!」「見間違いではないのか!?」「自身の失敗を隠すためにそうまでするか!?」

 

罵詈雑言の混じった回答がこの発言に対してどこまでも否定を述べる。

 仕方がない、私もいまだに信じ難いのだ。

 見たわけでもない彼らならば尚更、それにきっと私も同じことをしただろう。

 

「信頼に足る元素観測者に再三に渡って報告され、何よりも私自身が赴いて計測もしたのだ!結果はいずれも同様!計器に異常はなし!」

 

魔神級、それは魔神を含み、また、それに匹敵する元素力を持つ上位の存在である。

 幸いにして数は最も少ないが、その強さは比類なく、まず勝てない。

それに対抗できるのは同じ魔神。もしくは複数人の護法夜叉や仙人達によってようやく足止めできる存在だ。

 当然ながら既に彼らは戦場にて必要不可欠、現状でも数が足りているとは言い難い。

 

いや、ハッキリと言ってたりない。

 そこにこの新たな魔神級の出現は凶報、いや最悪の、、災厄の報せだろう。

 

「故にここ、黄金皇宮にて『()()()()()()』様に助力を賜りたく存じます」

 

魔神には魔神でなければ勝てない。

ならば、そうするほかない。

その為に多少の無理をしてでもここを使ったのだ。

 

どよめきの声こそあれど、誰も否定する事はなかった。

 

 

 

『無論だ、此度の討伐戦、我も同行しよう』

 

地に響く様な声、それを聞いて皆が椅子から立ち上がり、頭を下げる。

いつから聞いていたのか?

…いや、きっとこの黄金皇宮に入った時からだろう。

何故ならここは彼らの住まいとして造られたのだから。

 

頭上に現れた黄金の鬣と漆黒のうろこに包まれた龍こそが我々を守護する神、「岩の魔人モラクス」様である。

 

『「世の塵を払い、民を守る。」契約はいまだに有効、それが民に害をなし、都市を焼くというのであれば我が動くことに何を迷うことがあるものか』

 

皆が下げた頭をさらに深くし、その意を示す。

 

「はっははー、やぁやぁみんな、ごめんねー堅苦しくて」

 

突然聞こえた女性の声、子供のような身長でぶかぶかの服を着ているその人は、何を隠そうこの帰離原を守るもう一柱の魔人であり、かの魔人モラクスと同じ地位にある神であった。

 

「帰終様!?」

 

なんと!?「塵の魔人帰終」様まで来ていただけるとは!帰離原を守護する二柱が降臨してくださるとは、流石にここまでの事とは想定していなかった。

もしや此度の戦は信じられないほどに苛烈なものになるのだろうか?

 

「帰終様!それはなりません!」

 

そう声を上げたのは元徳である、おかしい、彼は私の知る限り神に対して大声を出すようなことは無かったはずだ、そう疑問に思ったが帰終様自身がそれに答えてくれる。

 

「大丈夫大丈夫、あの件だろう?忘れちゃいないよ、今回はただの見送りさ」

 

そういうと彼女は将軍たちに良く見えるように移動する。

 

「さて、私がここにいる訳だが、この場を借りて説明させてもらおうか、これは元徳大将軍から聞かされたことだが…第一軍管区においてはちょうど一月に渡って一度も魔人軍と戦闘していない」

 

吉報にも思えるその発言、しかし経験と歴史に基づくならばこれは完全なる凶報だった。

 何故ならこれは明確な大規模攻撃の予兆である、それも決戦と言われるほどの。

 

「では討伐戦は延長をいたしましょう」

 

「いいや、駄目だ、それはできない」

 

「なっなぜです!?魔神を相手に戦力を分散するなど!!」

 

「そうだな、その通りだ、お前は正しいよ常徳、だがここで、第一軍管区であるこの帰離原で、魔神四柱が暴れることになる可能性を除けばね」

 

言葉に詰まる、魔神同士の戦闘、その規模をよく知っている。

 何故なら()()()()()()()()()()()、あの谷は、あの川は、あの湖はすべて魔神の戦いの余波であると聞かされ何度息を呑んだことか。

 

()()()()()!この首都近辺で!あってはならない!

 

「まぁ安心したまえ、仙人達をいつでも呼べるようにしている。負けはしないさ」

 

そういうと、子気味良い音を立てて手を叩き、彼女は頭上にいる魔神モラクスへと向き直る。

 

「そういうわけだから、頑張ってきたまえ」

 

 




ようやく原神キャラが出てきましたね!
…まぁ人間体では無いし、なんなら性格もキャラとは違うんだけど、、、
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