ヒルチャールの王   作:カラス男爵

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魔神戦争の本来の主人公はモラクス、と言う話。




敗北と敗北、、、

岩神モラクスは急いでいた。

 民を見捨て、友を見捨てた結果の逃走には後ろ髪を引かれ、舌を噛むような思いだったが、それでも友の決死の覚悟で稼いでくれた時間を無駄にしない為に一度も振り向くことなく急いでいた。

 

何故だ?何故?何故、帰離原に救援か必要なのか?

 

帰離原の守りは完璧だ。何重にも作られた分厚い防壁に相互に支援を可能とする砦、それ等には魔神戦争のために造られた帰終機が必ずと言って良いほどに設置され、重要地点では死角すら無い。

 

設置された巨大弩砲、帰終機は千の矢を降らし、鋼鉄をも貫く。

 そこに仙人の力が加われば魔神をも退けるだろう、更には帰離原が危機的状況になった場合にはモラクスの障壁が展開する。

で、あるならば何故?

 

もしや内部から攻撃をされたか!?それならば、、、いや、ありえん。

帰離原は我と帰終が統治していたのだ。

 どのような者がいるのかそれこそネズミ一匹に至るまでを感知できる。

 

だが、決死の思いで自身に託されたのは帰離原の救援である。

 その意味する所、言うまでも無く帰離原が危機的状況にあるからに他ならない。

 

そして、思う。

この距離をあの怪我で駆けてきたのかと。

 

あのヒルチャール達の拠点は首都帰離原から遠く離れた大三軍を守護する城塞都市そこから更に7日かけて北北西に存在する。

 

確かに空を飛べる仙人ならばそれはたったの3日もあれば往復すら可能にするだろう。

 しかし削月築陽真君が帰離原が危機に陥り救援が必要だと考えたにも関わらず通常通りの時間をかけるとは到底思えない。

 

無理をしたのだろう。

あの怪我で、それこそ血反吐を吐くような無理を!

 

幸いにして、魔神は仙人とそれこそ比べものにならない程に力の差が存在する。

 故にすぐにその光景を見る事になった。

 

都市が攻撃されている。それは予期していた。問題は敵の魔神軍の戦力とその被害である。

 

()()()()()()()()!?どうして四体もいる!?

 

魔神級が四体、それが都市内を暴れ回っていた。

 なんとかそれを仙人達が食い止めようと帰終機を用いて奮闘しているが魔神級一体に対して仙人の数が足りていない。

 

荘厳だった都市はそのほとんどが砕かれ、燃やされ、今では装飾の無いただの石造りの骨格が剥き出しとなっている。

 

街中を見て見れば、すでに魔神軍が略奪を始めており、所々では千岩兵が家々に立て篭もり抵抗していたが、しかしその光景は弱々しい。

 

魔神級を殺すため、仙人を援護するため、すぐ近くの魔神級に突進する。

 奇襲を受けた形となったそいつは吹き飛ばされ、追撃に発射された岩石をまともにくらい、何本か突き刺さりながら岩石に埋もれていく。

 

「モラクス様!!感謝します!」

 

仙人の1人が話しかけてくる。

 ボロボロだ、友と帰離原を好きにさされてしまった事に嫌になるが、分からない事が多すぎた。

 どうして魔神級が四体もいるのか、我の障壁はどうしたのか。

 

『よせ、そんな事より状況を報告しろ』

 

「勿論です、ですが先に帰終様にあっていただきます。帰終様は今、黄金皇宮におられます」

 

それだけを告げると友は帰終機へと戻り、岩に埋もれたそれに向かって連射し始めてしまう、しかしあの程度で魔神級は死なないだろう。

 

だが、彼等とて仙人、無駄な事はしない。

我を帰終に会わせる事、それが必要であるというのならそうするまで。

 

 

 

幸い、黄金皇宮は無傷で近くに魔神軍もいなかった。

 中には未だに数多くの千岩兵がおり、作戦司令部へと改造された入り口すぐの大広間では戦場へ指令を出し、作戦を練り、発令している。 

 

つまりはは未だに継戦可能であることを示しているため、それには束の間の安心を覚える。

だがそれは目的ではない。

  

『帰終!帰終はどこにいる!返事をしろ!?』

 

彼女はただでさえ小さい、それがこの慌ただしい中では更に見つけづらいので、はやる気持ちからか思わず叫んでしまう。

 

「全く、五月蝿いよ。まだ死んじゃいないってのいうのに。

それで?王将軍達の方はどうなった?

……そうか、いや良い、悪い事は続くものだ」

 

そう言うと彼女は深くため息をついた。

ヒルチャール達の殲滅が叶わなかったことを察してくれたのは助かった.

だがこちらの状況を知らなくてはならない。

 

『帰終、何が起きている。我等の障壁はどうした、なぜ都市への侵攻を許した、なぜ魔神級が四体もいる、マルコシアスはどうした?』

 

「ハハッお前もしかして取り乱しているのか?これはいい、良いものを見た。

…安心したまえ、教えるとも。

簡潔に言えば敗北した、残念なことにね。」

 

敗北?敗北だと!?

 

日に二度もそのようなことがあってたまるものか!!

友と民を見捨て、ここに来たのだ!その挙句が既に敗北している!?

 

モラクスは怒りに震えた。あのように激情を発露したのは後にも先にもこの時だけだろう。

 

帰離原に轟いたその咆哮は戦場の兵士たちを鼓舞したが、そのような咆哮が発せられた黄金皇宮内はとてもではないが耐えられるものではない。

 

帰終が彼の咆哮を止めるために遠慮なくその顎を叩くことでようやく咆哮は止まる。

 

「うるさい。

まったく、私は今努めて冷静に振舞っているというのに。

これからの要である君が取り乱してどうするんだい?」

 

『どういう、ことだ?』

 

落ち着かなくては、そう、落ち着かなくては。

我は岩神、民を導く神である。

 

これからの要、そう彼女は言っている。

 魔神の中でも聡明な彼女の作戦の要であるというのなら失敗するわけにはいかない。

 

「……その前に説明をしなけらばならないな、どうやら私も取り乱していたらしい。」

 

 

そうして語られるのはここで起きた惨劇の詳細。

 

 

 

 

 

 

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「さてさて、モラクスたちが移動して丁度五日目。

彼らはもうすぐ悩みの種を一つ解決するというわけだが…どうやらこちらの問題を先に対処しなければなら無いようだ。

全く、嫌になるね。

モラクスがこれから動けなくなるというのに、そこに丁度良く魔神軍の侵攻が被るなんて、間者が紛れ込んでいるのかと疑いたくなるよ。

…勿論、冗談だけどね」

 

 

そう会話されるのは中央軍管区第一軍総司令部。

 通常ならば元徳大将軍を筆頭に参謀達の智謀が巡らされる会議室は今、魔神と仙人が団欒する異界と化しており、その主人たる帰終が主催である。

 

本来の部屋の持ち主たる元徳は部屋の隅で目立たないようにじっとしており、時折、雑務を率先して行っていた。

 

「それで?削月築陽真君、敵の規模と魔神の数は?」

 

「はい、帰離原の西にて今までにない大規模の軍勢、そして魔神級は四体確認されています」

 

聞かされるは絶望の報せ、元徳からは唾を飲み込む音が聞こえてきた。

しかし帰終はまるで余裕の笑みを浮かべている。

 

「そうかそうか、イヤな事だ、これではモラクスを行かせた意味がない。マルコシアスを呼ぶ必要がありそうだね」

 

竈の魔神マルコシアス、山にも届かんばかりの獣神である。

 彼の膂力は山をも砕き、吐かれる炎は鉄をも溶かす、仲間になるならば頼もしい事だろう。

 

しかし彼は竈の火から生まれし神。

 飢えや疫病などから家庭の温もりが守られるようにと願われ生まれたる存在だ。

故に争いは好まず、得意とする力はその巨体から小さな自身を分裂させ、巨大な獣神ではなく小さな魔神として幾千万と増える事は中央軍管区においての人手不足を解消している。

 

彼の仕事は多岐に渡る。建築、修繕、運搬、食料配給に製造に…まだまだある。

 彼は絶対に戦わせるよりも支援に徹して貰った方が圧倒的に有益だろう。

 

彼が戦う事で後々どれほどの被害がでるのか、考えたくもないが今回は仕方ない。

 相手が魔神級四体とあっては楽観視はできない。全力で応戦しなければ危ういだろう。

 

「ともかく、今は準備……と、言っても、その準備はすでに何週間も前にしていた訳だが…まぁ最終確認というやつだよ。()()()()()()()()()()()、なんてよくある事さ」

 

それを最後に仙人達による会議は終了した。

 

 

 

総司令部から出て防備を確認するために外壁へと歩いていく。

 途中途中で避難を始めている帰離原の民に頭を下げられるが、帰終は反応しない、考え事に耽っていたからである。

 

魔神級が四体、確かに脅威だ。だが此処を舐めてもらっては困る。

 ここは私とモラクスによって創られた璃月を統べる最初の都市であり、璃月の繁栄の中心である最大都市だ。

 

当然、その防備は堅牢無比、まともに攻略をされたとしても与える被害によって逆に魔神軍を壊滅させる事だってできると断言してやろう。

 しかしそんな事をするのだろうか?魔神軍が愚鈍ではない事は数百年続く戦争によって証明されている。

 

で、あるならば、奴らは勝機があると思って来ている事になる。

 もし仮にモラクスが帰離原を離れる事を知っていて私一人を相手に魔神級三体を率いてやって来たのならば確かに勝機はあるかもしれない。

 しかし奴らが仙人やマルコシアスを忘れたわけでは無い筈だ。何より帰終機の存在もある。

 

これらは幾度となく奴らに深手を負わせた。普通に考えるならばそれらが来ないというという考えはしない筈だ。

 

いや、待てよ?報告では西側のみに奴らは集結していた。

 魔神級四体による同時攻撃で突破を謀るのか?…なるほど確かにそれは脅威だ、しかしそれでもこちらの勝利は揺るがない。

 

ふと、武器と兵糧を運ぶ行列を発見し、その荷車を運ぶ何十匹もの小さなそれに近づく。

 

少女のような体の帰終よりも小さな背丈、クリクリとした大きな瞳に耳、ふわふわの毛皮を纏うそれが協力している姿は何とも愛らしい。

 

「やぁ()()()()()()、君は本当に働き者だね、だが頼むよ君にはこれからの戦いに参加してもらう必要がある……知ってるよその形態では喋れないのだろう?」

 

一生懸命に身振り手振りで伝えようとするもこもこの友を見て気づいた。

 彼が最後にあの巨体で戦ったのは何時だろうかと。

 

彼はもとより争いは好きじゃない。何よりもその能力が支援に向いているという事からもう長い事戦っていない。

 

 

もしや奴らは巨体の獣神となった彼と、この小さな彼を()()()()()()()()しているのか?

 

そうか!それならば奴らに映るのは私一人と仙人達が守る帰離原、帰終機こそ煩わしいが勝機だと確信するだろう。

 そしてモラクスが離れておらず攻略が無理そうだと考えたなら攻略はせずいつもより大規模なちょっかいをかけておわりか。

 

何とも小賢しい奴らだ。それならば確かに引き分けで終わる。

 いや、マルコシアスを戦場に出す分こちらの負けかもしれない。

 ともあれ明日だ、明日奴らとの闘いとなる。ならば奴らの魔神級を一体は持って行ってやろう。

 

 

 

 

 

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西側の防壁上部から遠くに見える草原を覆い隠すほどの軍勢は魔神軍である。

 残念なことに今までに無い規模というのは本当のようだ。とは言えそれらは聞かされたいた。動揺することは無い。

 

 

 

 

「見たまえ諸君、もうすぐ戦闘だ。

さてさて留雲借風真君、帰終機に何か不備はあったかい?」

 

「はい、いいえ、ございません」

 

「よろしい、では削月築陽真君、マルコシアスの奴はちゃんと大きくなっているかい?」

 

「はい、現在八割ほどかと、開戦時には間に合います。戦場ではそのお力を存分にふるってくれましょう」

 

「では最後に、元徳大将軍、これを機に逃げ出すような千岩兵はいるかい?」

 

「はい、いいえ、あり得ません」

 

「うん、結構。それじゃあ不遜な奴らを全員ぶちのめしてやろうか」

 

最後の仕上げとばかりに帰終から確認されると仙人と大将軍達は持ち場に移動する。

 

「まずは、奴らの出鼻をくじいてやらねば、行こうか、友よ」

 

苛烈な戦いが始まる、帰終様とマルコシアス様を含む魔神級五体と仙人達が戦う地形が変わるほどの戦いが。

 

 

 

 

 

山のように大きくなったマルコシアスの頭部に帰終が乗り、魔神軍めがけて進んでいく。

 

敵の魔神級から熱線が飛んでくるが帰終が塵にすることで無効化した。

 接近しなければ攻撃が通らないと感づいたのか敵が一直線に飛んでくるが、すでに帰終達は魔神軍に到達している。

 

マルコシアスの口から火炎が放たれた。

 足元の魔神兵たちを焼き払っていくが未だにその数は多い。

 しかし帰終達の役目は魔神兵の殲滅ではなく魔神級の足止めと討伐である。

 それは数でこそ負けているが、仙人達が操る帰終機によって援護され有利に進んでいる。

 

魔神には勝てないというのは多くの魔神兵にとっても周知の事実であり、全体の進軍速度は変わっていない。

 舞台は神話の戦いから泥臭い人間達の闘争へと移っていく。

 

 

 

 

 

「手を止めるな!休むことなく攻撃しろ!」

「矢がないぞ!とって来い!」

「第一集積所はもう使い果たした!第二へ走れ!」

 

喧々囂々、誰もが怒鳴るように叫んでいるが兵士たちの掛け声と爆発音の前には小さく聞こえる。

 

「元素濃縮弾が届きました!斉射が始まります!」

 

「!?耳ふさげぇ!!」

 

放物線を描き、見事、敵中のど真ん中に着弾したかと思うと雷鳴と爆発音が轟き、そして発光。

 肌を叩くような衝撃波が起き、耳をつんざく音が更に発生。

雷と炎元素による元素反応過負荷によってその威力はキノコ雲を形成する程。

 

元素濃縮弾、主に炎元素か雷元素が濃縮され、詰められたそれぞれの瓶は並大抵の元素爆発よりも威力が強い。

 濃縮された雷と炎の元素反応が起きた際の威力にいたっては凄まじく、村一つ程度なら安易に吹き飛ばせる。

 

しかし元素を詰め、着弾時に爆発するように制作することは難しくこの帰離原という都市であるが故に制作できたという代物、そして元素保有者の数も少ない事から貴重である。

 

そんな貴重な元素濃縮弾が防壁の上からカタパルトに山の様に積まれ、惜しげもなく投擲されていく。

 

 

確かに強力ではあるが、やはり数が足りない、敵に多大な被害を与えたはいいが適はいまだに戦う意思を見せている。

 

忌々しいことに奴らが用意した高さ10mはある車輪のついたシェルターは大楯で守られ普通の矢では意味をなさない。

 何百ものシェルターを押して動かす魔神軍を止めるために帰終機が動かされる。

 

一射、二射と放たれると帰終機の槍の様な矢は難なく鋼鉄の壁を貫き巨大なシェルターを擱座させる。

 しかし、それらを止めるべく魔神軍側からもカタパルトが発射される。

だが、発射されたのは何と炎スライムでも鉄球でもなく魔物だった。

 

防壁上部、あるいは防壁にぶつかった獣は鋭利な牙と爪、そして四つの目の顔と角のついた頭を持つ異形の化け物だ。

 

その鋭利な爪によって防壁を駆けるようによじ登ると帰終機を操作している兵士を噛み砕こうと襲い掛かる。

 

「敵、牙獣級が防壁に侵入!」

 

防壁で叫んだのは誰だったか、牙獣級と呼ばれたそれの爪によって真っ二つに切り裂かれ、対応しようとしていたもう一人の兵士も噛み砕かれてしまう。

 

「四人以上で当たれ!盾を過信するな!丸ごと切り裂かれるぞ!」

 

防壁を守護していた指揮官によって命令が飛ぶと弓を射っていた兵士が帰終機の兵士を守るように動き出した。

 

 

突然、一陣の風が吹く。

 

 

防壁上で猛威を振るっていた牙獣級が吹き飛ばされ、切り刻まれた。

 頭上を見てみれば仙人の一人が羽ばたき、敵を防壁から叩き落している。

 

 

「配置に戻れ!牙獣級の対処はあのお方がやってくれる!敵を殲滅するんだ!」

 

いまだに魔神軍は防壁にすらたどり着けていない、にもかかわらずその攻撃が緩まる様子は無かった。

 

 

 

 

 

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どういうことだ?奴ら主力をすりつぶす勢いで攻撃してくる、本当に帰離原を攻略するつもりなのか?

 

帰終は魔神級の相手をしながらも防壁に近づこうとする魔神軍に疑問を抱いた。

 明らかに敵の被害は多く仮に防壁が攻略されたとしても防壁内を攻略できるような戦力は残っていないだろう。

 そんな攻撃がもう半日近く続いている。

 

こいつら魔神級も妙だ、とにかく防御に徹している。

 確かに私とマルコシアス、そして帰終機による攻撃には手も足も出ないだろう。

 だが四体同時に阻止し続けるのは無理だ。流石に隙ができる。

 

それでも奴らは攻撃よりも援護に回り、致命傷を避けている。

 何か企んでいる?考えられるのは我々の足止めだが、このままでは魔神軍は壊滅するはずだ。

 なら奴らには何か秘策が?確かめなくては。

 

「友よ、確かめることができた、少し無理をしてくれ」

 

今立っている足元のマルコシアスにそう告げると、返事を聞く間もなく大技の準備を始める。

 

神の心を総動員する。あふれる元素が体を輝かせ始めていく、敵魔神級はそれを間違いなく感じ取っていた。

 

魔神級からの攻撃は激しくなり、マルコシアスには無視できないような一撃が入るが、それは想定の範囲内。

 秘策が何処にあるのかわからないならばまとめて吹き飛ばしてしまおう。

 

 

ためにためた元素の末に放たれるのは小さな黒い玉それが魔神軍の中心へと落ちていく。

 

当たったのは魔神軍か地面か。

 突如としてそのほとんどを覆い隠すような黒い球体が出現、音もなく包んだそれは一瞬で消失、いや、塵に帰る。

 

魔神軍ごと、いや魔神軍だけではない。その地面もまるでクレーターの様にへこんでいる。

 

これで今の奴らの半数が文字通り消失した。絶対に壁を超えることはできない。

だが、それでも奴らは撤退を考えていない。

何だ?何がある!?

 

拭いきれない気持ち悪さが帰終を襲ってくる。

何か見落としがないか、奴らが企んでいることは何だ?どんな秘策がある!?教えろ!!

 

「帰終様ぁ!」

 

突然呼び掛けられる。叫んだのは防壁から帰終機で援護していたはずの削月築陽真君である。

 何だと目を向けてみれば返答よりも先に叫ばれた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()帰離原を飲み込むほどの大津波が!!」

 

 

 

 

な、、、に、、、!?

津波!?津波だと!!

いや待て、あり得ない。、、いや、いや、違う、だがそれは、信じたくない。

 

帰離原の東には海が存在する、その海は数多の海産物そして海運により帰離原に多くの富をもたらしていた。

 そう、帰離原は()()()()()()()()なのだ。

 

だがいままで津波が起きたことは無い。

 理由はほかでもなく岩神モラクスが璃月で大地震が起きないようにその権能を振るっていいるからだ。

 ではなぜ津波が起きているのか、それが一番考えたくない、信じたくない理由である。

 

 

五体目の魔神だと!?

 

だが!それ以外あり得ない!地震よりも大きい力で都市を呑み込むほどの津波を起こせる存在はそれしかない!

東側に魔神級は誰もいない!このままでは飲み込まれる!

 

「マルコシアス!私は障壁を起動しに行く!お前も下がれ!!」

 

仙人も何人か連れていく、マルコシアスは苦戦を免れぬどころかこのままでは敗北する!

 だが私とモラクスで造った障壁を起動すれば外からも内からも攻撃を通さない、その間にどうにかして対応しなければ!

 

すぐさま戦場から離脱し障壁を起動するべく黄金皇宮へ飛び込んだ。

 起動装置の前に立てばマルコシアスが防壁に入ったのを見た瞬間にさどうさせた。

 間一髪で津波の被害を免れたが、それを起こした元凶を仕留めなければ意味がない。

 

「削月築陽真君!港に行くぞ!遅れるな!」

 

飛び出すように黄金皇宮から出て港へ行くとその光景に絶望した。

 海は荒れ狂いそこかしこに渦を形成している。そしてその元凶たる存在は多頭の竜。

 

その大きさはこの距離からですら巨大であると認識させ、何よりもその力を見てさらに絶望する。

 

 

あれは魔神級ではない!()()()()()()()だ!

いったい何処にそんな存在を隠していた!!!

 

あれを相手にするならば戦力を分けている余裕はない!

早急に全力でもってどちらかを潰さなくてはならない!だが!

そんなことをすれば都市への被害はどれほどになる!?

守るべき民はどれほど生き残ることができる!?

 

「防衛だ、全軍で防衛する、、、」

 

「帰終様、それでは「わかっている!!」」

 

「…民を璃月港に避難させろ、あそこは山に囲まれた天然の大要塞だ、あそこなら敵は数を活かせない筈。

削月築陽真君、民の避難がある程度終わったらすぐにモラクスを呼んでくれ、彼にあの魔神を倒してもらう必要がある。

マルコシアスは空を飛べない、璃月港でできるのは防衛だけだ。

津波もきっと止めてくれる。

つまり、奴を倒すことができるのは私達にはモラクスだけ、私は魔神級四体をここで私が相手するからな」

 

私はどこで間違えた?

あの時もっと疑っておけば良かったのか?

…いや、きっと一番の原因はモラクスと帰離原を信じすぎた事だろう。

 

 

 

 

---------------------

 

 

 

 

「そうして今、君がここにいる。君には最後の民を率いて渦の魔神を倒して貰わないとな」

 

何と言う事だ、語られた事態に驚きを隠せない。

魔神級四体と魔神一柱それがここを襲っただと!?

動揺するのは後だ、帰終は1人では魔神級四体は倒せないはず。

なぜ我を戦わせないのか?

 

『民は元徳に率いて貰え、我はここで貴様と魔神級討伐を手伝おう』

 

「…それは嬉しいね、君となら楽勝だろう。

だが言っただろう?君には渦の魔神を倒して貰う必要がある。

実を言うと奴は今でも津波を引き起こそうと躍起になっていてね。

それを止めるのが結構キツイのさ」

 

『ならば我一人で相手しよう、我ならば苦労はすれど、勝てる』

 

「言っただろう、君には最後の民を率いて貰う」

 

『それは元徳に「元徳は死んだ」…そうか』

 

「仙人と私が取りこぼした敵の仙人級が元徳率いる避難民に接近。

結果は相討ちさ、君は渦の魔神を倒してくれ、私はここの魔神級を倒す。

頼む、もう長くはもたない」

 

そうだ、彼女は言っていた。

敗北なのだ、敗北とは失うものなのだ、もはや逆転は叶わない。

 

まて?だが彼女は魔神級四体を倒すと言っていた。

だがどうやって?

 

「ああ、そうだ、最後にこれを貰ってくれ」

 

渡されたのは奇怪な形をした石。よく見ればそれは複雑に組み合わさったパズルだと分かる。

 

「君なんかじゃ絶対に解けない私特性のパズルさ、いい形見になるだろう?」

 

形見?形見とは誰の?帰終の?なぜ?

まて!まさか、そうか…

 

『自爆するつもりなのだな?』

 

既に諦観していた。彼女が津波を止められなくなれば民が死に、魔神級四体が解き放たれれば璃月港も危ない。

 彼女を救うには魔神級四体を殺し、渦の魔神を倒す必要がある。

…しかし彼女がいう残り時間はもう長くない。

 

「ここは私と君で創った国だ、奴等なんかにくれてやるもんか」

 

『決意は、固いのだな?』

 

「私は塵王魔神だぞ?帰離原丸ごと奴らを塵に還すなんて楽勝さ」

 

『お前を、救いたかった、、、』

 

「…ありがとう」

 

それを最後に民を引き連れて黄金皇宮を、帰離原を後にする。

 

もうあの都市に残っているのは帰終と仙人と足止めに努める決死隊だけだろう。

 璃月港の入り口についたところで仙人が合流した。

それはつまり帰終の最期を意味する。

 

思わず振り返る。目が眩むほどに光っていたが音はしなかった。

 彼女が帰離原とそこにいる魔神軍全てを包み込み、輝きが更に増したかと思えば全てが掻き消える。

 そこにあった都市も思い出も、全てを持って行ってしまった。

 

「…モラクス様、渦の魔神からの攻撃が来ます…どうか」

 

渦の魔神、その言葉を聞いた時点でもう弾かれるように飛んでいた。

もう限界だった。

 敗北、敗北だ。

 だが、失うものが多すぎた、その元凶の一つをぶちのめせると言うのなら何を迷う事があるのか、とにかく怒りに身を任せて暴れてしまいたい。

 そうしてくれと言うのなら喜んでそうしよう。

 

幸い、奴は海にいる。

 

つまり()()()()()()()()()()()と言うことだ。

 

璃月港を守るマルコシアスが何か言おうとしていたが、それを無視して奴のいる海へと突き進んでいく。

 高い津波がそれを阻むように立ち塞がったが、それを大岩を投げ込むことで波をつくり打ち消す。

 璃月港にも津波が行くがモラクスによってある程度小さくなったそれならマルコシアスは問題なく対応するだろう。

 

『お前がモラクスだな?大人しく敗北を受け入れろ、人類勢』

 

渦の魔神に近づくとそいつは喋りだした。魔神ともならば知能はあって当然であるが、今に限っては声も聞きたく無い。

 

『我が名はオセル、大海を統べる魔神、海の覇者である!

貴様は既に我が領域の中、お前は既に()()したのだ!』

 

『…我が名はモラクス、岩神にして、、、』

 

『命乞いか?聞いてやろう』

 

目の前の力量差すらわかっていない愚物を見て、怒りが溢れてくる。

 

こんな奴のせいで帰終が死んだというのか!

帰離原が無くなることになったのか!

 

奥歯を噛み締め、喉元に溜まっていた怒声を元素爆発に乗せてやつに叩き込んでやる。

 

『大地を統べる神である!!』

 

突如として出現した三叉槍、それは正しく島のように大きい。

そんな大きさの槍がオセルを突き刺さんと落下している。

 

あまりにも巨大な槍を前にオセルが抵抗を試みるが、その圧倒的質量を前にどのような攻撃も意味をなさず、せいぜいがその表面を削るのみ。

 

『あり得ぬ!!お前!どうしてそのような力を持っておきながら!!何故だぁぁぁ!?!?』

 

オセルがその槍を前にして自身に逃れるすべがないと知った時、最後に耳障りな叫び声をあげた。

 それに対してモラクスは吐き捨てるように呟く。

 

『…民のいる場所で使える訳がないだろう』

 

その槍は難なく魔神オセルごと海に沈んでいった。

 

 

 

 

璃月港へ帰還する。そこには凱旋の準備もなければ祝杯の一つも用意されていない。

 ただひたすらに陰鬱とした空気が漂っていた。そこに更に最悪の報せがかけられる。

 

『モラクスよ、話さなければならない事がある』

 

マルコシアスだった。帰終と共に戦い璃月港を守り抜いた功労者である。

 

『何が起きたのだ?』

 

『いいや、これから起きる。見ろ、この土を』

 

『?濡れているが』

 

手のひらに乗せられた土は泥と言った方が正しいほどに濡れている。

 

『そうだ、濡れている……お主、本当にわからないのか?

まぁいい、よいか?この土は濡れている、正確には海水に濡れている。

塩に浸かった土というは何も生やさぬ不毛の土地となるのだ。しかもこの海水はあの魔神の力に侵されている』

 

理解した。

 奴の放った津波は璃月港のは打ち消されたが帰離原には届いていたのだ。

 つまり、今まで使われていた耕作地帯はすべて使えなくなった。そして更にマルコシアスからの言葉は続く。

 

『今の璃月港は人が多すぎる。

いまだ未熟な都市に成熟しきった都市のほぼすべての民が集中したのだ、何もかもが足りない。

…当然食料も、だが、幸い蓄えはあった。草神の支援もあれば今年は何とかなろう。

そして璃月港はその海運によって極東軍管区から多くの支援も届き、海産物も見込める。

来年も何とかなろう。

だが再来年は餓死者によって民の大半が消えるだろう』

 

『それはつまり、お前も、、』

 

『そうだ、土地を浄化し飢えを無くす。

もとより儂はそれを願われて飢えと疫病から守られるように生まれたのだ。

何、安心しろ、死ぬわけでは無い』

 

微笑みながら去っていくマルコシアス。帰終もいなくなった今、取り残された様に残る自分。

 

中央軍管区は、璃月は、失うものが多すぎた。

 力を蓄えなければならないが、そのしわ寄せは他の軍管区へ行くだろう。

 

 

 

地獄の大戦はまだ始まったばかりに過ぎない。

 

 

 

 

 




例によって改行忘れていたので上げ直しました。
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