ヒルチャールの王   作:カラス男爵

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改行と空白の使い方で悩んでました。

戦闘を書くはずだったのにまたも設定多々です。





避けるべき事象としわ寄せ

この世界は少しおかしい。

まだこっちに来て十年程度で人間との大規模な戦闘なんて初めてだが、それでも気づいた事がある。

 

ここに攻めてきた約70000の人間に打ち勝ち、包囲殲滅と言う快挙を成し遂げた。

 だが問題は人間の行動だ、彼らは包囲され勝ち目が見えない状況になっても最後まで抵抗を続けた。

 

そう、最後まで

 

俺はモラクスが戦場から追い払うことに成功した後、勝利は揺るがないと確信した俺は包囲下にある彼らに何度も降伏を勧告したのにも関わらず。

 

誰一人として応じない!?

捕虜がいない!?玉砕上等だと!?!?

 

全員が死を望むなど、異常どころの騒ぎではない。

 

だが、その事例を知っている。

極東の島国と大陸の約8割を統べた大国で。

 

一つ目は国体護持の為の抵抗、だが違う。

 彼らの認識にそこまでの国家意識やイデオロギー的思考があるとは思えない。

 何故ならば今の文明は文字通り正真正銘の神が統べる国なのだ。

 つまり、まだこの世界は絶対王政、いや、絶対神政が主流だからであるため、イデオロギーが成長し、機能するのはまだまだ先だろう。

 

で、あるならば

 

もう一つの事例だ、絶滅戦争、あるいは大祖国戦争。 

 その本質はイデオロギーとナショナリズムによる闘争だが、戦場で信じた人間達の認識は違う。

 

敗北すれば国家が死滅し奴隷として奉仕する事になると

敗北すれば民族が浄化の名の下に虐殺されると

 

勝利とはどちらか一方の絶滅であると

 

恐ろしい事にそれは一部においては正しかった。

 

だが、この世界ではどうだ?

敵は非人間!負ければ食料!

まさしく絶滅戦争ではないか!!

 

忘れていた!彼らが何と戦争をしていたのかを!

これはまずい!すごくまずい!

最後の一人になるまで戦争など御免被る!

終わらない戦争!それだけは何としてでも避けなければ!

 

俺は人類滅亡なんて求めていない!!

 

どうすれば避けられる!

駄目だ!冷静に!冷静に、冷静に考えるんだ。

俺たちが人間ではないというのはどうにもならない現状、だが、その他ならまだ何とかなる。

少なくとも俺たちに文明があると知ってもらは無ければ、ヒルチャールの認識は野犬と同じ。

 

どうすれば?

俺たちが人命を尊び食料にしない存在であると声を大にして言っても、それを聞いてくれる人間はいない。

だが、それでも魔神軍よりもひどい現状を何とかしなければ!

 

 

 

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とりあえず、旗を作ることにした。

 正直言って気休めになるかどうかすらわからない代物だが、それでも無いよりはマシだろう。

 旗を持たせて隊列を組ませてみる。

 

いいぞ、文明を感じる、いい感じだ。

 ちなみに旗の絵柄は赤をベースに右上に小さくクワとつるはしである。

…ほとんどソヴィエトなのはちゃんと理由がある。

 染料が手に入りやすかったのと、複雑な絵柄だと量産が大変だったからだ。

 

…嘘じゃない、正直ただの赤い旗でよかった気もするが…嘘じゃない。

 

とにかく!

さらにあれば強力なのは前例だ。

 一度捕虜を取り、食料にしていないという前例があれば人間からの評価も変わる筈だ。

 だが兵士ではだめだ、奴ら捕まるくらいなら舌を噛んで死ぬ勢いがあった。

 

というかされた、武器を取り上げても戦おうとするので仕方なく拘束をしたところ舌を噛みちぎって死んでしまった。

 

死ぬ前に「触媒にされるくらいなら…」と呟いていたから恐らく魔神軍が原因だと思われる。

 勿論、全員がそうするわけでは無いだろうが、大量の兵士の捕虜は大規模な作戦の準備と捉えられる可能性がある。

 

つまりは非、生産的で無意味に軍人と民間人を問わずに捕まえておく必要があり、並びに彼らに決死の抵抗までは考えない程度の生活を送らせる必要がある。

 

つまりどうするべきか、、、

 

都市を奪うのだ!!!

 

野バンばバンば蛮蛮!!

 

しょうがない、じゃないとテントに詰め込んで柵で囲む事になる。

 

そんなの強制収容所そのものではないか!

 

そういう訳なので都市を奪って丸々収容所に変える必要があるのだが、最適な一番近くて大きい都市が交易しようとした時に全員殺されたという前例があるから正直あまり乗り気ではない。

 だが、これは必要なことなのだ。敵が全て死兵となり抵抗されるなんて最悪極まりない。

終わらない戦争なんてごめんだ。

 

だがその前に、懸念事項が一つ。

 ここら一体で暴れ回る何かがいるという情報。そいつのせいで侵攻用拠点を建設していた部隊が全滅した。ヒルチャール暴徒とシャーマン達を含み約4,000の大部隊が一夜にして全滅したというのは仙人もしくは魔神軍の尖兵以上の存在であることは間違いない。

 その惨状は尋常とは言い難く。暴れ回ったであろう破壊痕はまるで竜巻の様であり、斬撃の跡は深く爪痕の様であった。それは、考えたくはないが魔神の可能性もある。

 幸いな事に集積されていた砲弾と火砲には手を付けられていなかったが、そちらを先に片づけなければ都市を丸ごと収容所にして数多の軍人と民間人の捕虜を手にする計画は破綻する。

 仙人であれば都市から多くを避難させ、兵士だけとなった都市では意味がなく。尖兵が攻略戦の途中で乱入した場合はそれこそ徹底抗戦は免れないだろう。

 まずはそれの対処を先にしなければ、今はとにかく兵を率いてそいつの捜索に当たるべきだろう。

 

 

 

 

俺は新たに6,000の兵を編成し侵攻用拠点へと向かう。

 攻略目的の都市近郊であるこの辺りは丘陵と平原が大部分を占め、まさに耕作にはうってつけの土地であるが、これ程の大部隊が気づかれることなく建築のできる場所は限られている。

 だが、それは同時に件の暴れ回っていた何かを見つけることは安易だった。

 

遠くに見えるそれは禍々しい異様なオーラを放っており魔神軍の尖兵かと思ったが、どうもおかしい。

 目的を持って行動しているというよりはただふらふらと移動しているだけに見え、人間を探すわけでも魔神軍を索敵している様子も無い。

 

仙人でも魔神軍でもないというのならいったい何者だというのか?

だがそうだな、これはチャンスだ、どの陣営にも所属していない強力な戦力。

 それこそは今まさに喉から手が出るほど欲している存在、どうにかこちらに引き込めるのであれば活動範囲は大幅に広がる。

たとえ無理でも試したいことがある。

 

近づいてみればそれは人間であることが分かった。

 

少年?だが間違いなくその元素保有量は仙人をも超えるもので、よく観察すれば人間ではない事が分かる。

 その力は魔神には遠く及ばないが足止めならば問題なく遂行できる力だ。

 

だがあれは残念なことに…いや嬉しいことにか?理性がないようだ。

 試しにヒルチャールを一匹、更に近づけてみたところ問答無用で殴殺されてしまった。

と、なれば、試したいことをする訳だが、、、お前はいったい何者だ?

 

 

 

 

 

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少年は小さな寒村に住むただの村人だった。

 食事は貧しかったが、父と母に愛され、ようやく言葉を話すようになった妹は可愛くて仕方ない。

 偶に届く兵士となった兄からお菓子などの贈り物があった際には妹と一緒に口いっぱいに頬張って父に怒られたらもしたが、彼らは幸せだった。

 

だが、そんなある日それは起きた。

 

カァーンカァーンと夜中に鳴り響く甲高い鐘の音に起こされる。

 本来なら火事を知らせる鐘だが、焦げ臭い匂いはしなかったため、遠くで起きているのかと勘ぐりはしたが、叫ばれたその声に布団を蹴飛ばし飛び上がる様に起きた。

 

「魔神軍が来たぞ!!」

 

繰り返されるその声と飛び上がる様に起きた自分の物音に父と母も同様に起き上がる。

 父は寝ぼけた頭を覚ますように自分の顔を強く叩くと一番上の棚から剣を取り出した。

 

一度もあそこは触らせて貰えなかったな、なんて考えと同時に同じくそこから取り出した風呂敷を投げ渡される。

 

「おい!この子達を連れて早く避難しろ!!俺は自警団と合流する!」

 

「頑張って、あなた」

 

母が力強く父を抱擁すると妹を抱き上げ、緊急用の風呂敷をひっさげて 僕の手を引っ張り避難場所である山に向かって走り出す。

 

「離して!僕も戦う!」

 

「黙ってなさい!お父さん達がなんとかしてくれるから!」

 

ガッチリと掴まれた手をなんとか振り解こうともがくが、びくともせず、どんどん山に向かっている。

 

そんな時、母がつまずいた、その結果、掴む手が緩まり手が離れた。母が大きな声で危ないから戻れと呼び止めているが止まらない。

 だが少年は知っていた。魔神軍は強大で気を抜ける様な相手ではないと兄から届いた手紙を何度も読んでいたからだ。

 それでも足を止めなかったのは今年でようやく十五となり成人としての扱いを受けるようになったからである。

 

こんな時こそ僕だって役に立たなくちゃいけないんだ!

魔神軍が強いなら人手はいくらあっても足りない筈!

 

父のいる自警団の集合場所である村を囲む外壁に向かう。しばらくすると、人だかりが見え、武器を持っていることから自警団であることが分かる。

 

「お父さん!!」

 

そう呼びかけるとざわめきが広がりどうやら自身が来たことに驚いている様だ。

 すると人だかりから父が顔をのぞかせたが、その顔は顔面蒼白でありながら鬼気迫るものだ。

 

「お前!何でここにいる!」

 

「お父さん、母さんが僕を連れて避難しようとするから逃げて来たんだ。僕も戦うよ!」

 

「ばっ!馬鹿野郎!!!」

 

殴り飛ばされた、頬を思いきり強く。

 今までの拳骨は手加減されたものであると分かる程の強さに思わず涙が溢れるが泣声を上げることは無くことは無く、逃げなかった。

 

殴った父を見れば頭を抱えながら周りの大人達と話し合っているようでこちらは見向きもされない。

 

そんな時、隣から声をかけられる。

 

「おい、ガキ。これ持て」

 

そう言って無愛想な男に渡されたのは大ぶりの鎌、普段であれば麦や竹藪を刈り取るためのそれが今、渡される理由は一つしかない。

 

「おい!何やってるんだ!」

 

「うっせぇな、もう間に合わないのは分かってんだろ?」

 

父と鎌を渡した男が口論になっている。

 来たは良いものの何もできずにただそれを眺めているだけに思ったその時、外壁の上から声が聞こえた。

 

「早く持ち場につけ!もう時間は無いぞ!」

 

そう叫ぶ男には見覚えがあった。この寒村にて猟師を兼ねる自警団団長の彼と父がよく肉と酒を交換していた記憶がある。

 彼の言葉に人だかりは整然とした動きで外壁に張り付くような速さで走り出したが、自分は何をすればいいのかわからなかったので素直に猟師の男に聞くことにした。

 

「親父さん!僕は何をしたらいい!」

 

「坊主!?お前なんで!?…薪を持ってきてくれ!あるだけ全部!」

 

僕はそれを聞いて家々に備えられている薪を片端からかき集め、外壁近くまでもっていくと外壁にいた村人たちが外壁上部にもっていく。

 

「おい矢がもうないぞ!」

 

「薪に火をつけて投げるんだよ!」

 

どうやら敵の数は相当に多いらしかった。幸い、薪はまだまだあるはず。

 命じられたとおりに薪を運んで来ようとしたら外壁から父がこちらに近づいてきた。

 父は有無を言わさずに僕を担ぎ上げるとどこかに向かって走り出す。

 

「離して!僕も戦うんだ!」

 

「聞きなさい、俺たちがしてるのはな、魔神軍の撃退じゃないんだ」

 

そうして語られるのは大人たちの本当の役割。

 彼らは確かに村にやってくる少数の魔神軍ならば確かに撃退をするが、数が多ければ仙人か千岩兵達が駆け付けてくるまで時間稼ぎをすることが仕事となる。

 だがそれは何時になるのか、確かにここは軍の補給路の休憩地点として創設された村だが、今では森が開拓され最短経路としての新たな補給路が存在するため村に駐屯する兵もいないただの寒村である。

 

しかし今まで大規模な魔神軍が来ることは無く平和な暮らしができると村に居つく人間は少なくなかった。

 

()()()()

 

村を襲い掛かる魔神軍は到底村人だけで撃退できるような数では無く、時間稼ぎすら望めない。

 そんなときの想定は一応計画されていた。だがそれは男達が命を懸けて村の女子供の避難だけを優先させるというもので、それは書かれてこそいないが男達の命を犠牲にさせるという前提の計画だった。

 

ガラガラと崩れる音がした。

 目を向けてみれば外壁が火を纏いながら倒壊し、その向こうに見える異形の怪物共に恐怖した。村民の姿が見えないのはすでに隠れたのかそれともやられてしまったのか。

 

「ここに隠れていなさい」

 

そう押し込められたのは村にたった一つだけ存在する祠。村に一つだけという事もありその大きさは少年を一人入れることは容易だった。

 ガチャリと鍵をかけられる。出してと声を上げても帰って来たのは朝日が見えるまでそこで静かにしていろという言葉。

手に持つ鎌で無理やりこじ開けてみようかと考えたが、あの怪物と戦うことになるという恐怖から選ぶことができたのはじっと息をひそめて言われたとおりに待つ事だった。

 しばらくして聞こえてきたのは怒声と悲鳴、そして怪物によって倒壊し燃え移る家々が祠の隙間から見える。

 

どうしようどうしよう、お父さんたちはみんな死んじゃったな?避難したお母さんは奴らに見つかってない?

 

考えた事がグルグルとしてまるで酔ったようにまとまらない。

 気づけば鎌を落とし、口元を抑えながら涙を流していた。

 

「#$=~?$”#S」

 

「$”#%%」

 

奴らが何やら会話している。その豚のような鼻を見て匂いでばれるかと心臓がバクバクと動く。

 だが、そんな考えは昆虫の様なもう一方が突き出した槍の穂先を見て真っ白に変わってしまう。

 

妹だった。

 

ようやく喋り始めたはずの妹が腹を貫かれピンク色の内臓をむき出しにしながらまるで人形の様に揺らされている。

 

何も考えられなかった、意識はそこにある筈なのに真っ白でそこに何があるのかそれが何を意味するのか理解をしたくなかった。

 だがしかし、現実は何も変わらない。

 槍に突き刺されたそれの服は間違いなく母に着せられたもので、髪についた花飾りは兄から届いた妹お気に入りの髪留め。

 

化け物が妹の頭をもいで咀嚼し始める。バリバリという頭蓋が砕ける音が頭に響くようで-----

 

 

少年は壊れてしまった。

 耐えきれない恐怖と家族を惨たらしく惨殺された喪失感は少年の心を壊すには十分すぎるほどに強烈で、次にそうなるのは自分で、祈るしかない現実に耐え切れなかったからである。

 

だが、一つだけ救いがあった。

それは彼が閉じ込められた祠の主が確かに存在した事だ。

 寒村の人間が信仰していたそれには知能は無く、願いを聞く事もできず、ただただ力を持つ存在。

 だがその存在の生きる糧である信仰心は今やたった一人になりその一人はすぐ近くで空っぽの器に変化しつつある。

 

故に起きた現象、祠にいた神もどきは少年の心に入り込み融合を始めた。

 少年には幸運なことに仙力と高い親和性があり、その力を十分に引き出し、肉体はその膨大な力に壊れること無く融合を果たす。

 しかしその神もどきに知能は無くただの力の存在、行動を起こすことができたのは少年だったが少年はすでに壊れてしまっていた。

 だが最期に僅かばかりに残った少年の理性が望んだのは怒りによる復讐。

 

そうして出来たのが村を襲った魔神軍を殲滅した後も、あてもなくただ暴力を振りまく復讐に囚われた空っぽの器。

 

それが今の彼だった。

 

 

 

 

 

---------------------

 

 

 

 

ふむ、成程?この力には対象者の記憶を読むこともできるのか?

 試したいことの一つ、それはヒルチャールに対して行使できる絶対的な命令権を他の生物にも適応できないかというもの。

 こいつを掴んで拘束するのは簡単だった。仙人よりも強い存在とは言え魔神に遠く及ばないなら俺の敵ではない。

 

自身を纏うシールドに思われたこれは確かにその役目も果たしていたが、同時にこれこそがヒルチャールを生み出す源であり、彼らに王として認められる力である。

 この力を他者に浸食させ、ヒルチャールと同じように絶対的な服従を強いることができるのではないかという試みだった。

 結果は成功。瘴気の様なオーラは消え、敵意はもう感じない。

先程までドス黒いオーラを放ちながら暴れ回っていたのが嘘の様だ。

 

だが、こいつの場合は特殊だろう。何故なら自我がなかった。それは他のケースに活かせるとは思えない。

 

「服従せよ。そして頭を垂れて我に忠誠を誓え」

 

「ア……アァ……」

 

会話は不能。だが跪いて頭を下げている。やはり上手くいっているらしい。

 

しかし指示がないと動かないラジコンではどこまで使えるものか?

 まぁいい、これで懸念事項は無くなった。心置きなく都市攻略戦に向けての準備ができる。

 圧倒的な兵力差を引き連れて都市を包囲、敵の都市一つを相違するのであれば十万もいれば楽勝だろう。

 堅牢に造られていた二重の城壁も俺の攻撃と砲撃によって簡単に穴が空く。

 

…ところでこいつ、随分と可愛い顔をしているな?

 いきなりなんだと言う話だが正直に言って女性と勘違いするくらいに可愛らしい顔立ちをしている。

 

しょうがない、後で仮面をくれてやろう…ヒルチャールのでは流石に不味いか、、、

 

 

 

 

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「王将軍からの連絡は?」

 

「はい、いいえございません」

 

「そうか、、、では、帰離原からの連絡は?」

 

「はい、いいえございません」

 

「そうか、、、」

 

ここ数日、幾度となく繰り返されたやり取り。

 王将軍が討伐軍に赴き、彼のいない第三軍を一時的に任された曹雲警備隊長は現在置かれている状況を理解しきれていない。

 

王将軍から連絡が来ないのは何故だ?戦闘が長引いて遅くなるのはわかる。

 だが一度も連絡が来ないのは明らかにおかしい。ここからヒルチャールの拠点までは7日はかかる事を加味しても馬ならば4日とかからない筈だ。

 そしてもう一つ、こちらの方が深刻だ。中央都市からの連絡も帰中央都市に向かわせた連絡要員も一度として音沙汰がない。

 

唯一の情報として、モラクス様が中央都市方面、恐らく首都帰離原に向かったのを見たと言う情報があるが、モラクス様が討伐軍に参加していた事を知っている身からすれば不安を掻き立てられる。

 

モラクス様はヒルチャールの拠点に存在する敵の魔神級を倒す為に討伐軍に参加していた筈。

 モラクス様ならばすぐに魔神級を倒し帰還する事はおかしくないが、それならば何故王将軍からの連絡が来ないのか?

 それに帰離原に向かったと言うのなら、それこそ中央都市方面からの連絡が途絶えた理由はなんだ?

 

不安が不安を呼び、少ない情報が更に追い討ちをかける。

 極め付けはヒルチャールだ、今まで大人しかった筈の魔物が積極的に人間を襲うようになり、一部に村落に至っては占拠され、その避難民がこの城塞都市に押し掛けてきていた。

 

何故奴等がいきなり活発になったのか?それが王将軍と関係していると言うのならそれが意味する所は、、、

 

曹雲警備隊長は頭を抱えながら掻きむしる。現在彼の職務は多忙を極めている。

 本来であれば街道警備隊のみに適応される命令権は今に限っては第三軍の正規兵にも及ぶ。

 それに伴い彼に舞い込む仕事は通常の三倍から五倍にまで増えてしまっていた、いや、むしろその程度に収まっている。

 本来の職務である街道警備に加え、正規軍の各地に点在する魔神軍との交戦状況に都市の防衛兵力の増減。そこに戦傷者や兵糧の管理までもが追加。

 

だがそれらは事前に決められていた徹底防衛計画によってギリギリパンクしない程度に納められていたのだ。

 

これは本来第三軍を維持する将軍及び参謀達が根こそぎ討伐軍の指揮に持って行かれてしまった結果だった。

 戦略予備の総数65000に加え第一、第二、第三中央軍管区から6000の追加兵力に更に北方騎士団から500名の騎士が加わった一つの軍管区よりも巨大な組織を操るには一つの軍管区と同じ規模の将校が必要である。

 

そのしわ寄せがいま、曹雲に襲い掛かっている訳だが、戦闘が長引いた時の備えは当然、計画されていた。

 しかしそれは第一軍管区から将校が救援に駆けつける計画であり、肝心の第一軍管区からは連絡も何もない。

 

どうして誰も来ない!?

現状維持で手一杯なのだぞ!?

 

軍を統率するものがまるで足りていない、にも関わらず都市の運営もこなさなければいけない。 

 

仕事が増えていく。

 

 

 

 

ひどい顔だ。

 

鏡に映ったやつれた自分をみて思う。

ここ最近、ろくに眠れていない。最近は食事の味が薄く感じる様になった気さえする。

 緊急措置として一部業務を民間に委託しているにも関わらず、仕事は増える一方。

 

顔を洗って、水を一口飲んだらまたあの忌々しい紙束と格闘だ。

 そんな事を考えながら人の少ない第三軍総司令部の廊下を歩いていた、偶にすれ違う同僚の顔はまるで死体の様だったが他人のことを言える顔ではないと知っていたので笑う事もできない。

 

総司令部のエントランスに急遽設置された大きな会議机には書類がこれでもかと山積みにされており、その一角は全てほぼ今日中に処理しなくてはならない事を一度忘れ、無心で作業に取り掛かる。

 

玄関扉が開かれ、ふらふらと入ってきた同僚をみて、新しい書類かと気にしなかったがその内容が報告であると知りようやく耳を傾ける。

 

「報告します。ヒルチャールが突如として現れ、都市を包囲しました。

現在の戦力では防衛は不可能です」

 

「そうか」

 

「敵集団には魔神級も確認され、降伏を呼びかけています」

 

「そうか、どの都市だ?」

 

「ここです」

 

「そうか」

 

「ご命令を」

 

「徹底防御、変更なし」

 

この城塞都市に兵は十分に配備されていた。

 

だがその肝心の頭はすでに麻痺している。

 援軍は間に合わず、助けはこない。何よりも魔神級に対抗する手段が無い。

 

ああ、撤退して命令を出すべきだったか?

いやいや、どこに逃げろと言うのか?

帰離原の安否さえ不明、何よりも彼らを引率できる人員がいない。

そもそもすでに包囲されているならどうやって連絡を飛ばすのだ?

 

通常通りの人員が適切に配備されていたのならここまで愚鈍に後手に回る様なことはなかったに違いない。

 しかし通常通りに機能していたとしても結果は変わらなかっただろう。

 すでに通常における第三中央軍管区の総兵力65000のおよそ二倍のヒルチャールに包囲されており、例え総力を上げて都市防衛を実行したとしても魔神級の存在が全てを粉砕してしまう。

 

だが、奇しくもその策は、今回に限っては捕虜を大量に確保したいと言うヒルチャールの目的と合致し最も被害の少ない最良の方法へと相成った。

 

 

 

---------------------

 

 

 

予定が大幅に狂った、いい意味で。

 

確かに隠匿に力を入れていた。

 だが流石に十万と言う軍勢は捕捉されない訳が無いと想定し、相応の苛烈な抵抗があるものだと考えられた。

 

しかし現実はどうだ?

 この都市を守るに相応しい兵力は確かに存在したがそれは十万と言う敵を前にしてあまりにも少ない。

 苛烈ではなく相応の抵抗を受けながらも予定通り大砲と俺の攻撃で城壁を破壊した後、ヒルチャールを雪崩れ込ませ兵士の無力化を第一目標としながら都市は攻略された。

 

魔神どころか仙人もいない城塞都市は罠かと思うほどにあまりにも呆気なく陥落した。

 今回の人間側の死傷者は軍と民間を合わせても100人にも満たない。

この大都市が攻略された今、周辺の村落や都市を占領するのは時間の問題だろう。

 

だがわからない、これには一体どの様な意図があっての事なのか?

拘束した将校と見られる人間を尋問するしかないだろう。

 

都市が陥落したにも関わらず熟睡していたそいつを叩き起こし、これから尋問をすると伝えれば何かすら間も無く喋り始める。

 最初こそ何故こうなってしまったかを淡々と語っていた彼だが、それは徐々に恨み節へと変わっていく。

 

 

つーまーり?

業務が超暗黒なのに代わりがおらず、徹底防衛計画によってパンクこそ免れたが、逆を言えばパンクしていないだけの維持を数週間無理矢理保っていたと?

 なんなら前々から援軍が先に来るか大規模攻撃が先に来るかのチキンレースだという事はわかっていたがそれを打開する術も人員も時間もないままに今日俺たちがやってきてしまったと。

 

首都方面からの連絡が途絶えたというのは興味深い情報だったが既にそちらにはヒルチャールにやる情報網を伸ばしている最中にであり、少し待てば安易に手に入る事だろう。

 

ともあれ、都市攻略は驚く程に順調に終了した。

 肝心の都市運営に必要な人員がそもそも足りていないという問題こそあるがおそらく時期に解消されるだろう。

 少なくともヒルチャールによって魔神軍と街道警備の仕事を軽減させることくらい簡単だ。

 というか街道に関してはヒルチャールが問題なわけで、その絶対的な命令権を持つ俺からしたら今まで各地で補給路の阻害を命じていた連中を対魔神軍に転用すればすぐに済む。

 

また熟睡をはじめたこいつには悪いが、都市の掌握が済んだらまた働いてもらおう。

 

絶滅戦争というひたすらに不毛な戦争を避ける為に獲得したこの大都市だが、さすがに占領した証がないとまずい。

 とりあえず今は旗を持たせたヒルチャール達にひたすら行進させている訳だがずっとこのままというわけにはいかない、あまり恨みを持たせずに証だけを手に入れたい。

 

なにかないか、、なにか、、、都市の名前でも変えるか?

 

悪くない様な気がする。

 食と生命に危機が迫らないとわかれば反乱はされないとして、それでも占領されているという証にちょうど良い。

 となれば名前だが、そもそもこの都市はいわば人間と友好的な関係になる為、獲得したのだからそれっぽいものが良い。

 

……友好、友人、、親友?

 

…ユーコウグラードでいいか!!!

(友好の町!!)

 

ユーコウなら響きも璃月っぽくて良い感じだしな!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ミーム汚染の気配……
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