双子の姉妹が堕とそうとしてくる。   作:灯利

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双子は見つける。

 

幼い頃から家は嫌いだった。

 

家は家族代々ヤグザの溜まり場みたいな家庭だった。

財閥の数少ない生き残りばかりで構成された古臭い家系。

広さと格式だけは多分俺の知る限り実家に勝るものは無かったが。

 

家というより屋敷と呼べるその敷地内には多くの木が植えられ、中庭があり、

数え切れないほどの離れも存在して、それらが使用人によって完璧に管理されていた。

 

持ちうる資産はゼロの数を数えるのが馬鹿らしくなるほど持っていて、それを目当てにいろんな場所やいろんな人種が顔に笑顔を貼り付けて父を訪ねてきていたのを覚えている。

いわゆる、由緒正しい名家、というやつだ。

 

そんな家の長男として生を受けてしまった俺に、当然と言わんばかりに自由時間なんてものは存在しなかった。

 

外を少し出歩くだけでも監視の目がそこら中に張り巡らされ、

読むもの見るもの知るもの触るもの全てが大人によって選別されていた。

 

少しでも駄々をこねれば肉体言語で世の中の…我が家の掟を思い知らされ、

時間があれば稽古、鍛錬、勉強、習い事、礼儀作法、ありとあらゆるものを徹底的に教え込まれ学ばされた。それこそまだ小学校にも入っていないような頃から。

 

 

俺は、朝起きてから夜寝るまでの一言一句までが親父の監視下の元管理されていた。

徹底して家の後継としての教育を仕込み、暇さえあればありとあらゆる手段で死ぬ間際まで鍛錬を行なわされた。父曰く、健全な精神は肉体に宿るという強引な理論で。

 

 

そんな荒んだ家族のうち、唯一俺に優しかったのは母だった。

傷つき倒れる俺を誰よりも心配して、ことあるごとに父から俺を庇ってくれた。

 

俺が本当に苦しい時にはいつも母がいて、だから俺は母が俺のことを心配して悲しい顔をしているのを見るのが何より辛かった。

 

だから俺は母の前では出来る限り笑っているように努力した。

どんなに疲れていても、どんなに倒れそうでも、どんなにしんどい状況だろうとも、

母にだけは元気で笑っている俺を見せてあげようと、当時の俺はそう思っていた。

 

当然、体はすくすくと育ち、小学生ながらに色んなことが出来るようになったし、

勉強も高校分野レベルであれば難なく解ける程度には賢くなった。

 

反面、体も顔も傷でボロボロと怪我した痕が残っていたし、会話をしようと声をかけただけで怯えられるようになった。顔を直視しようものなら相手は冷や汗を流すし、大丈夫かと一歩前に足を出せば全速力で逃げられた。

 

 

そんなことを母に相談すると、母は珍しく笑っていた。

やっぱり血は争えないものなのねと、何かを懐かしむように。

 

 

 

…そんな優しい母が死んだのは、俺が中学に上がった直後だった。

 

 

 

父を道連れにしての心中だったという。

 

 

 

 

表向きには、反社組織の突然の襲撃にあったという雑なカヴァーストーリーが建てられ、一族を挙げての葬式が行われた。

 

 

両親の葬式のことは、正直よく覚えていない。

覚えているのは、周りが強面なヤグザみたいな大人ばかりだったこと。

経済界の重鎮やら政治家の大物やら俳優やらそれはそれは色んな人間が群がっていたこと。

その中には、やたら俺についてまわっていたやつもいた気がするということ。

 

 

 

 

 

 

一族の長たる父が死んだ衝撃は意外にも少なかった。

本家たるうちは俺以外に跡取りがおらず、当然俺はその時小学生。

巨大膨大な一族の家を継げるわけがないという理由から、臨時的に分家から当主を選出することが決まる。

その翌日には分家から速やかに次期当主が選抜され、間をおかずに菱川家の長を継いだ。

 

 

 

当然、本家となった分家から見て俺は邪魔な存在にしかならなかった。

せっかく本家に成り上がったのに俺が成人すればまた分家に戻らねばならないのだ。

結果、未成年だから、とか適当な理由を色々とでっち上げられ両親の持っていた資産家権力の全てを奪われた。

 

そうなってようやく事件の全てを察することが出来たが、既に事の真相を知るには遅すぎた。

その時にはもう両親も後ろ盾も何もかも失い、俺に残されていたのは、何もなかった。

 

 

 

 

 

西の西の、そのまた西の方。

本家の親戚のそのまた遠い親戚に養子として入ることになった俺は、新たに月本という名字をもらった。

事実上の一族本家からの島流しだった。

 

 

その頃になると、俺はもう孤独だった。

残っていたのは、生きていていいのかという罪悪感と、他者に対する不信感。

 

 

幸いにも本家の権力争いからは程遠いその家族はとても優しかった。

滅多に感情も出さず、表情も固く、言葉も発しない俺になんの非難もしなかった。

 

家族には二人の子供が居た。

妹として紹介されたその双子の娘は俺より二つばかり歳は下だったが。

コミュニケーションに長け、容姿端麗。感情が死んでる俺とは真逆の性格だった。

 

 

いつも二人で手を繋ぎ合い、二人で一人のように過ごしているという双子。

小柄な身体、腰まで伸ばした絹糸のように細く白いお揃いの髪。

中学生とは思えないほどのスレンダーな身体と、人形のように整った顔。

どこか眠そうな、遠くを見つめているような細く垂れた瞳。

お揃いのニットパーカーを着ていた二人は本当に瓜二つだった。

 

 

特に俺が何も言わずに二人を見ていると、突然泣かれた。

 

 

「怖い」

 

 

双子がそう言いながら「えぅ…えぅ…」と一生懸命に袖で涙を拭きながら泣いた。

 

ここにまできて人に迷惑をかけるのか、俺は。

慌てて双子に駆け寄る双子の両親を見ながら、心の底から湧いて出たのは、罪悪感だった。

 

その時俺は、その家にいる間は出来る限り静かに暮らそうと決心した。

そして、一刻も早く家を出て邪魔にならないところで一人で生きていこうと。

 

養育費という名目で幸いにも本家から少なからず金は貰っていた。

事実上の手切金だろうが、無いにしてもそれは俺にとってありがたかった。

こんな金受け取れないと言う月本夫妻に無理やり生活費を握らせた後、残りの金全てを株に注ぎ込んだ。

今では未成年でも金さえあれば株口座を持つことが出来る。あとは実力のみ。

幸か不幸か、その手のことは鬼父直伝で骨身に染みるほど勉強してきている。

最初こそかなり手こずったが、ある程度まで金額を増やせればそれまでは早かった。

学生という身分もあって昼間合間を縫っては取引を繰り返し、資産を増やしていく。

 

 

俺が手元の資金を密かに増やしている時、家族との関係にも変化が起きた。

 

 

最初はびぇ、と大泣きしていた双子がひと月ふた月と過ぎ、半年が過ぎる頃には俺を拾ってきた犬か猫かのように面白がって好き勝手に遊ばれるようになっていた。

両親には虎に群がる兎みたいだと言われた。例えが微妙にわかりづらい。

 

気がつけば、引っ越した当初殺風景だった俺の部屋は知らぬ間に双子の所持品でまみれ、随分とファンシーな部屋に変わってしまっていた。

部屋に鍵なんてものもついていないので、プライバシーもひったくれもない。

 

株の取引なんかも家族との連絡用と言われて渡されたスマホで全て済ませているし、

本当に最低限の衣類と家財しか部屋には置いていなかったのに。

 

勝手に部屋に入り浸っては遊べ、かまえと煩くわめき散らしたことも何度もある。

 

 

 

 

尽く俺は全て無視した。

 

 

 

 

本家の生活とは程遠い、ごくありふれた生活。

 

生まれながらにして異質な環境に生まれた俺にはわからなかったが、多分、これが普通の生活で、一般的に言うなれば恵まれた幸せな家庭なのだろうと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

だからこそ、俺という異質は混ざっちゃ、いけない。

 

 

 

 

 

 

友達との付き合いも一切無く、色恋沙汰も当然なく、

周囲からは人間のふりをした何か恐ろしいものだという腫れ物扱いをされ、

行事にも授業にも学校にも最低限しか求めず。

 

 

そんな俺を悲しそうな目で見る新しい両親を見るのが母の面影を思い出すよう辛くて。

やんちゃで人懐っこく勝手に騒いではひっついてくる双子に申し訳なくて。

 

 

 

 

 

 

 

3年後、俺はようやく家を出て遠い高校へと入学した。

 

 

…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、お父さん。ハル兄さんは?」

 

 

姉の桜(さくら)が父にそう聞くと、父は難しい顔をして。

 

 

「ねぇ、お母さん。ハルお兄さんは?」

 

 

妹の椿(つばき)は母にそう聞くと、母は悲しそうな顔をした。

 

 

 

 

 

「「そっか。」」

 

 

双子は、お互いに手を握りしめながらそう小さく呟いた。

 

 

 

 

「逃げちゃ」

 

「ダメだよ」

 

「私たちが」

 

「見つけたのに」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、椿」

 

「なぁに、お姉ちゃん」

 

「私の考えてること、わかるよね」

 

「お姉ちゃんだって椿のこと知ってるくせに」

 

「ふふ」

 

「にひ」

 

 

イタズラするような顔で、2人は小さく微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

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