強めのモブウマ娘になったのに、相手は全世代だった。 作:エビフライ定食980円
アグネスタキオンの皐月賞回避。
何かが発生しているとしか思えない声明である。史実・アグネスタキオン号はこの皐月賞出走後に屈腱炎を発症、そのまま引退している。つまり非史実的な動きだ。
そしてアプリのシナリオにおいてもアグネスタキオンはいくつかの分岐をする。しかし、その分水嶺となるのはやはり皐月賞だ。
確かにアグネスタキオン育成シナリオにおいてNHKマイルカップが選択されることがあるが、それは皐月賞出走時の『やる気』で分岐が発生する。その文脈を素直に読み解くのであれば、今のタキオンの『やる気』が低いとも考えられるが……。ただ一方でタキオンがNHKマイルカップを選択する真意は、脚の脆さに起因しており、育成シナリオにおいてはクラシック級での夏合宿でそれが強化されるまではずっと脚部不安を抱え続けていたと彼女は語る。
また、それとは別にマンハッタンカフェシナリオに登場するアグネスタキオンの場合は、皐月賞出走後に無期限休止に入り、以後長らくはカフェの育成に付きっきりとなる。タキオンの言葉を借りれば『プランB』というやつである。
これらを統合すれば、やはり皐月賞が鍵なのだが、そもそも出走しないというのは不思議な話だ。
そしてアグネスタキオンが育成中に明確に出走を取りやめたレースが1つ存在する――月桂杯というウマ娘オリジナルレースだ。と言っても、存在が語られるだけでURAファイナルズのように出走は出来ないが。
これはシンボリルドルフが夏季のレースを盛り上げるために発表した祭典でかつエキシビションレースであり、エキシビションではありながらも模擬レースのようなものではなくGⅠに比肩するような実力者を集めて競わせる、という類の催し事だ。
そんな大掛かりなものを新設するくらいなら、いっそ札幌記念をGⅠ昇格する方が手っ取り早いような……いや、それが難しいのは分かってるけどさ。
で、この月桂杯に招待されたアグネスタキオンは出走を決心するも、後に取り止める。ウマ娘におけるタキオンの『出走取り止め』と言われて想起するのが、この月桂杯の一件である。
出走を決心した理由が『プランA』を断念し、『プランB』へ移行するためのデータ取りのため。そして出走を取り止めた理由が再度『プランA』を続行する可能性に賭けたため。
脚部不安――それがトリガーになっていることには違いないだろうが、そうであっても、『皐月賞出走取り止め』についてはあまりネガティブな理由ではない気がする。
だって、この世界の皐月賞。タキオンが『プランB』に移行する場合の最後に自身の出走データを取るのには十分すぎる程の強敵が揃っている。この世界の皐月賞がアプリにおいての『月桂杯』の役割をも担っているのであれば、出走の変更は『タキオンの現役続行』の意志表明とも受け取れるからだ。
だから『皐月賞出走取り止め』は決してアグネスタキオンが勝負を逃げたということではない。……何より。
「ということは5月のNHKマイルカップ。有力ウマ娘は、話題沸騰中のアグネスタキオン……それを迎え撃つクロフネ、そして――アキツテイオーという三強という構図になるでしょう!」
史実クロフネ号はGⅠ2勝、レコード勝利4回。
そしてアキツテイオーは――『マイルの帝王』ニッポーテイオー号。GⅠ3勝に、15戦連続馬券内という脅威の好成績をマークしたマイルのスペシャリスト。
――GⅠレースに逃げ場所など存在しないのである。
*
とは言っても、ぶっちゃけ今の私にGⅠレースの結果はあまり関係ない。
そのまま4月の後半に突入して桜花賞も皐月賞も終わった。というかそろそろ私も再びレースに出走するつもりである。
まあ、それでも気になるとは思うから軽く触れると、桜花賞はマックスビューティで、皐月賞はテイエムオペラオーが獲った。なおクラシック路線に確定させたアイネスフウジンは2着で、3着がゴールドシチー。やっぱオペラオーって強いね。
加えて言えば王道GⅠ戦線の上の方の面子と大体対戦経験があってちょっと震えてきている。無理な願いではあるが私の警戒度を上げないでくれ、みんな。
泣き言を言っても次走は変わらない……というかレースに出なければ出ないで、私の過去の対戦相手がどんどん実績残して何故か私の評価が相対的に向上していくパターンに入りそうな気がするから、考えることをやめてはいけない。
直近のレースを見直すと、実はダート短距離ばかりに出走している。
前々走、初勝利を飾ることのできたマヤノトップガン戦は京都ダートの1200m、そして前走バンブーメモリー戦は阪神ダートの1200m。
この路線で好走している以上は、次も同様のダート短距離にしようかと考えている。距離感に慣れるとか、はたまた同じ距離で願掛けみたいな意味合い以外にも理由はある。
1つはマヤノトップガン戦の前に体重を増やして以降、そのまま増減なしで推移させていること。パワーに比重を置いたままなのである。もっとも何ヶ月も体型据え置きしてきたために、もうこの筋肉量であってもステイヤー路線でも問題は無いとは思うが、細かいことを気にするならダート短距離向けに作った身体なのだからその路線を選ぶことに間違いはあまり無いのである。
第2に、これはPre-OP戦や未勝利戦などでの話だが、基本的にダートの短距離はオープン以上のレースと比較すると実は競技者人気が高い。
一般にダートの方が芝よりも脚に負荷はかかりにくいとされている。ただ競走馬として考えるのであれば、それは『反手前』の脚――つまり前脚のうち走っている際に後ろに来る方――にかかる負荷が馬の脚部にとって最も負担のかかる脚で、そこに入る衝撃は芝のが確かに高いが、反対の前脚である『手前』の脚においては高速化していくにつれてダートのが実は負荷が高かったりするので一概には言えないところもある。
正直、二足歩行でダートコースを走行する場合の負荷については良く分からないところもあるが、人間スポーツにおいては土のグラウンドよりも芝のグラウンドのが故障率が低くなるという話はあったりするので、ウマ娘がどこに基幹を置くのかは未知数だ。
ただ脚に負荷がかかりにくいとしても、その一方でダートの方がパワーが必要である。なので速度が出ない。
芝でスピード勝負になって太刀打ち出来ない子がダートでなら何とかなるのは全体速度が下がることで速度以外の要素による比率が高まるからスピード以外のパラメータの重要度が増す……すると、ステータス次第では結果が変わるかもしれないのだ。
そして長距離よりも短距離のが人気。適性距離という考え方もあるものの、やっぱり短い距離の方が疲れないのである。
未勝利戦のように開催時期にタイムリミットがあったり、いつでもやっているからこそ強敵に当たらないための試行回数も重要になってくるPre-OP戦の世界においては、比較的疲労度の少ない短距離でレース出走回数を増やしてステップアップを狙うという考え方もある。
それらの理由が合わさって若干ではあるが、ダートの短距離はPre-OP戦辺りだと人気が出やすい。とはいえ単純な距離適性で考えれば、マイル・中距離辺りが一番総数としては多く、距離適性を合わせて戦うとする子はそちらに流れるので、あくまでも『オープン戦以上と比べた際の人気』という注釈は付くが。
ただ大事なのは適正外で走っている子も居るという点。つまり人気がある割に勝ちやすい。そしてダートコースは、基本芝よりも直線距離が短いことが多いので、逃げ・先行がそのまま走り切って勝つ、というレース展開も比率的には多い。その辺りも紛れで勝てるかもしれないという人気を高める要因の1つだ。
で。人気が高いということは当然抽選になりやすく、除外が起こりやすい。しかし前に抽選ルールについては興行規則で確認済みなように、前走で入着していれば抽選でかなり有利となる。
だから前走2着であった私は、今のうちにダート短距離に出ておきたいのだ。
それと、もう1つ。出走登録の届け出が1週間前までに必要となる特別競走レースへの出走も試したい。抽選前の出走登録者がこの受付終了後に掲示されるために、誰が出てくるのか読みやすいのが特別競走レースの特徴だ。
1週間の間に出走予定者に合わせて傾向・対策を重点的に叩き込んでレースに臨む。一度それを試してみたい。そして、データの比較という意味合いでも直近2回と同じ距離のレースを選択する意義がある。
だからこそ、次走。私はダート1200mをもう一度走ろうと思っている。
6月以降のPre-OP戦はシニア級との混成になるので、出来れば今のうちにもう1勝あげておくのがベストであるが、今はまだ4月なのでもう1戦くらいはチャンスはある。気楽に行くくらいの心持ちのが良いだろう。
――と、いうことで。
私が出走登録したのはクラシック級1勝クラスの『三条特別』。
新潟レース場のダート1200mコース。抽選を通過すれば、初めての名前付きレースへの出走となる。
*
三条特別の1週間前になって出走登録者が掲示された。
フルゲートで15名。予約しているのが18名で、その全員を調べたけれども、私の出走自体はほぼ確定と言って良いだろう。
その中で気になる名前は――2名。
1人はエルノヴァ。史実・エルノヴァ号はエリザベス女王杯で3着、ゼンノロブロイが勝利したジャパンカップにも出走している他、重賞戦線での活躍がある。が、一方でオープン戦昇格以降は好走するものの勝利が掴めなかった。
そしてもう1人がダイサンゲン。こちらはアニメにも登場している元ネタはダイユウサク号のウマ娘。ダイユウサク号の勝鞍と言えば誰に聞いたとしてもまず『有馬記念』だろう。というかほとんどの場合それしか知らないと思う。
究極至高の一発屋。競馬に絶対は無いが、まさかその一発を有馬で、しかもメジロマックイーンが相手に居る中で、更にはレコード勝利という、あまりにも鮮烈な花火を打ち上げた競走馬である。
……地味にダイユウサク号は3億7000万円程度稼いでいることから、もしかすると私が最も参考にすべき馬は、このダイユウサク号なのかもしれない、と密かに思っている程だ。
しかし、両名以外に私が気になったウマ娘は居なかった。確かにダイサンゲンはアニメに出ていたけれども、明確な実装キャラが1人も居ないレースは初である。
ということは、もしかしてだけど今回のレース、狙い目?
……。
史実の有馬記念勝者が居るレースが、今までで一番勝てそうな気がするって、一体どういうことなの……。
三条特別は何度か距離が変更され2014年からは芝に移行した上、2020年以降は設置されておりませんが、本作では当該レース設置初期のダ1200mで設定しています。ただフルゲート自体は現行規則に基づかせて頂きます。
時空の歪みが生じておりますがご了承ください。