強めのモブウマ娘になったのに、相手は全世代だった。   作:エビフライ定食980円

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第15話 同じオープンウマ娘

 『確定』ランプって本当に大事。心からそう思ったレースだった。

 

 結局、あのレースの最終直線で何が起こっていたのかと言えば、最終直線に入ってすぐで抜かした逃げの子が一旦は垂れそうになるも、何とか持ちこたえて4位に入着したその時の彼女のややふらついた動きが5着の子の進路妨害のように見えたということらしい。

 レースから20分くらい経ってから正確な審議結果が出て、降着や失格処分は無しということで最初に出た順位のまま確定することとなった。いや、本当に心臓に悪いよ、あれ。

 

 次レースの準備のためコースから出て行ったあと、審議の対象となった逃げの子は終始泣きそうな表情で動揺していた。当事者でない私ですらあれだけの驚きがあったのだから、彼女の精神的ショックは計り知れないものであろう。

 本当に何も無くて良かったし、審議中の間、真っ先にその被害ウマ娘とされていた子が逃げの子に駆け寄って慰めていたのはせめてもの救いだろう。私もエルノヴァもダイサンゲンも……というかレースに参加した全員で彼女が不安に思わないように傍に居たし、審議が終了して処分が無いと分かった時には皆で彼女を揉みくちゃにした。

 

 逃げの子――インディゴシュシュ。私が彼女の名前を『競走馬名』として把握していないということは、史実において彼女の戦績は特筆するべきで無かったのかもしれないし、あるいはそもそも『史実馬』ですら無い可能性もある。

 

 でも、そういうのはやっぱり……今だけは無粋だ。

 

 

 私はこのレースの勝者なのだから。勝者として彼女に一言だけ声を掛けておいた。

 

「――インディゴシュシュさん。次はオープン戦で会いましょうね」

 

 

 ……後日、この話をどこからか聞きつけたのか、何人かの見知ったネームドウマ娘に詰め寄られたが、それはまた別の話。

 

 

 

 *

 

「サンデーライフちゃんも私と同じオープン戦ウマ娘になったから、日本ダービー、一緒に出るのっ!」

 

「……流石にジュニア級GⅠ1勝、皐月賞2着のアイネスさんと、つい先日1勝クラスを突破した私を『同格』として扱うのは無理があるような……」

 

 私の勝利後に詰め寄ってきたネームドウマ娘の1人が彼女、アイネスフウジンである。

 オープン戦ウマ娘。クラシック級の春までは1勝クラスで勝利すればそれより上のPre-OPレースが存在しないために、出られるレースはオープン戦以上となる。だから、その文脈に沿えば4月後半の三条特別に勝った私も5月の1ヶ月間だけはオープン戦ウマ娘という肩書きになるのは確かである。

 とはいえ、6月からの夏シーズンが始まると、Pre-OP戦が3勝クラスまで拡大することから、5月中にもし勝利しなければ私はそのまま『2勝クラス』ウマ娘にスライドする。

 逆に5月のオープン戦に出走して、もし万が一勝利した場合。これだと3勝クラスになるのではなく、もう永遠にオープン戦ウマ娘だ。この格付けには賞金金額をベースにしているものの、実賞金ではない『収得賞金』という別概念が関係してくるために詳しくは説明しないが、発想としては『どれだけ格の高いレースで1着を取れる能力があるか』という指標……とでもいえば良いだろうか。重賞レースでも収得賞金には2着までしか計上されないのだ。

 

 今の私の獲得賞金は2558万円だが、収得賞金換算だと、未勝利戦と1勝クラスの2勝利分の固定保証である900万円のみである。一方で目の前のアイネスフウジンの収得賞金は8000万円となっている。

 この状況で『同じオープンウマ娘』と言っているアイネスフウジンは、一体どれだけ私のことを過大評価しているのだろう。

 

 

 そして私の意志を仮に完全に無視するとしても、収得賞金900万円では『日本ダービー』に今から追加登録料をトレセン学園が肩代わりする形で無理やり出走登録しても18人分しかない枠に収まることはほぼ不可能だろう。

 

「でもでも! トレーナーは『理屈の上ではあの子が日本ダービーに出る道はある』って言ってたの!」

 

「……その言葉、私が絶対選択しないとか、そんな感じのまくら言葉が付いていましたよね?」

 

「……む、むむ、確かにトレーナーも言ってたの……けど! 絶対出られないってことじゃないってことなのっ!」

 

 

 この4月末に1勝クラスを勝ち上がった私が、たった1ヶ月の期間限定オープン戦ウマ娘の間に5月末の日本ダービーに出る方法……一応、無いわけではない。

 東京レース場にて5月前半に開催されるオープン戦のレースに『プリンシパルステークス』というものがある。これが日本ダービーへのトライアル競走なので賞金額に関係なくダービー優先出走権を獲得出来るチャンスである。

 

 ただしその権利を獲得できるのは1着のみ。

 

 ついでに言うと、この『プリンシパルステークス』だが史実サイレンススズカ号が出走し1着を取ったレースでもあったり。サイレンススズカ本人が来ないにしても、そのレベルを相手にして1位を取ると言うのはちょっと無理ゲーである。

 ダービーの出走ローテーションに乗っかるとは、つまりそういうことなのだ。

 

 

「重賞じゃないとはいえ、苦戦するレースに私が登録するわけないじゃないですか」

 

「サンデーライフちゃんらしい、と言えばらしいけど残念なのー……。じゃあ、サンデーライフちゃんは次のレースは何にするつもりなの?」

 

 次走か。

 確かに期間限定のオープンウマ娘であるうちに上のレベルを見ておくというのは考えていた。流石にアイネスフウジンの言うような『日本ダービー』であったりそのトライアル競走までの圧倒的高みを目指してはいなかったが、とはいえ、どうせ何もしなくても6月からはPre-OP戦に戻ることを踏まえれば、ここで一度レースに出ること自体はありなのである。

 

 そんな考えとともに、私は答える。

 

「まだ確定じゃないのですけども、多分私は次のレースは――」

 

 

 

 *

 

 別の日。脈絡も無く、突如私に割り当てられた資料室の扉が開いた。

 

「ねえ、今。平気?」

 

「ひゃっ! ……え、だれ……あ、ゴールドシチーさん。ええと前に対戦して以来ですね……。あの……何か御用ですか?」

 

 阪神ジュベナイルフィリーズの勝者で皐月賞でも3着だったゴールドシチー。新潟の直線1000mで行った未勝利戦でボロ負けした相手である。

 レースの後は特に関わりも無かったはずなのだけど……あ、バンブーメモリーとの関係の中で少し名前が出ていたくらいか。

 

 そして全く人が入ってくることなど想定していなかったから、今の私は持ち込みのソファーでだらけながら次走出走予定をまとめている最中であった。

 扉の前でずっと立たせっぱなしというのは申し訳ないので、部屋の中に入ってもらうと彼女は真っ先に私の座っているソファーの隣に座ってきたので、流石に物理的な距離感の詰め方にビビる。

 

 確かに、この部屋って他に座るところが折り畳み式の会議用テーブルのところに置かれているパイプ椅子くらいなので、座り心地が良いのはこの私物ソファーなのは間違いない。横顔がヤバい美人で正直見とれつつあったが、それを伝えるとゴールドシチーは多分機嫌を悪くすると思うので黙っておく。

 

「御用ってさ……。サンデーライフ、アンタさ、ウマッター全然開いてないでしょ?」

 

「え、あ……はい。アカウント作った後から見てないですけど……」

 

「はぁ……やっぱり。道理で全然DMに既読付かないと思った」

 

「あ……。本当にごめんなさい!」

 

「別に。どうせ大体そんなことだろうと思ったし」

 

 まさかゴールドシチーからメッセージを貰っていたとは。言われてみれば彼女のメッセージアプリでの連絡先は知らなかった。ウマッターの相互フォローだってバンブーメモリーにアカウント作ってもらうのを手伝ってもらった際の産物だし。

 とりあえず、ウマッターを1か月ぶりにちらりと開いてみると、私の『かにみそ』ウマートが3万ウマいねを超えているのを見てそっ閉じ。

 

 仕方が無いのでアカウントを見るのが怖い旨を素直にゴールドシチーに伝えて、私と連絡を取り合うのが不可能なコンテンツと化したウマッターの代替としてメッセージアプリの連絡先を交換した。

 

「……でも急ぎの用であれば、バンブーメモリーさん経由でお伝え頂ければ、わざわざ来てもらわなくても私の方から行きましたのに……」

 

「まあ……ね。……ってかバンブー先輩にバレるのはちょっとハズいし……」

 

 

 ウマ娘の聴力をもってしては難聴主人公になることは不可能なので、ガッツリとゴールドシチーの呟きを捕捉する。

 発言内容はとりあえず棚上げして、そういえばゴールドシチーはバンブーメモリーのことを先輩呼びするんだっけ。競走馬・ゴールドシチー号のことを言えば、バンブーメモリー号よりも年上だったと記憶しているが、割と先輩・後輩関係はウマ娘世界では流動的だ。

 ……私と同期組にすら1986年クラシック世代のダイナガリバーと2002年世代のエルノヴァの居るこの世界線においてはもう気にしちゃいけないことなのかもしれないけどさ。

 

 で、ゴールドシチーの同室であるところの『バンブーメモリー先輩』にバレるのが恥ずかしいこと。それが私に関連するとなると……。

 

「……?」

 

 なんということだ。難聴であることは免れたが、私は鈍感であることが発覚してしまった。……いや、心当たりマジで無いと思うけど、何か見落としてる?

 

「サンデーライフ……今日の夜、空いてる?」

 

「あ、はい。トレーニング軽くこなした後は空いてますが……」

 

「……良かった。じゃあさ。夕食、食べる前に校門の前集合で良い?」

 

 もしかしなくても、夕食食べに行く感じでしょこれ。

 特に断る理由も無いので快諾する。

 

「はい、分かりました。ちなみに、何を食べに行くのですか?」

 

「ふふっ、さあね……」

 

 いや、誤魔化し方下手か!

 

 

 

 *

 

 夕方……というかほぼ夜になりかけの時間。

 校門で集合した私達はトレセン学園の関係者駐車場に止めてあるゴールドシチーのトレーナーさんの車に同乗して街へと外出することとなる。

 運転は車の持ち主であるトレーナーさんで、外出する旨は既に寮長のフジキセキや各方々に伝えてあるとのこと。手際が良い。なお、女性のトレーナーでありゴールドシチーの隣に並んで映えるくらいの美人であった。それと童顔。

 

 で、車に揺られること15分程度。

 到着した建物には、門と堀。そして中には枯山水庭園が広がっている。

 

「え……なんですか、ここ……」

 

「アタシの都合に振り回しちゃってゴメン。……ほら、こういう場所じゃないとパパラッチが居たりするからさ……。その点、ここなら記者とも繋がってて、お互い困らないように情報を調節して流してくれるんだよね」

 

 ええと、それってつまりあれですよね。料亭だよね、これ?

 

 軽い気持ちで連れてこられた場所が、料亭だなんて予想できないよ……ひえぇ。

 

 

 門構えをくぐったときには私はもうほとんど涙目だったと思うが、ゴールドシチーも気を遣ってくれたのか、案内されたのは個室で、お店の人の出入りも最低限だったので、食事をいただくころには、少し落ち着いて食べることはできた。

 

 

 ……料理はすっごい美味しかったです、はい。特にカニがすごかった。あんなに口の中で広がるとは。それに薬味であれだけ味が変わるものなんだ……。

 料理の値段はおろか、伝票も会計も無かったから、必然的に奢ってもらったのが凄い申し訳ないのですけれども、実際マジで値段は分からない。1人何万円の世界だよきっとこれ……。

 

 

 


 アグネスデジタル@前走はQ/E/2/世/C㋹ @umamusumechan_moe・2分前 ︙

  特定同志、情報感謝でありますっ!!! ネット注文しました!!

 19 リウマート 2 引用リウマート 210 ウマいね

 

 

  アグネスデジタル@前走はQ/E/2/世/Cさんがリウマートしました

 ほうじ茶(趣味垢) @misosoup43hai・41分前 ︙

 返信先:@misosoup43hai さん

  (続き)

 この料亭は完全予約制の上、一見さんお断りなので多分一介のウマ娘オタクでは店に行くことすらできないので注意。なお通販で自宅で調理出来るセットは売っているとのこと。

 ってか、サンデーライフちゃん、いつも蟹ばっか食べてんな。

 #サンデーライフかにみそ暗号解読部

 7 リウマート 1 引用リウマート 13 ウマいね

 

 

 アグネスデジタル@前走はQ/E/2/世/C㋹ @umamusumechan_moe・2時間前 ︙

  ひょええええ!!!!!!ゴールドシチーさんの御ウマート!!!!!!!!???!!!!!!!!!??!!!! アァ……

 5,094 リウマート 226 引用リウマート 1.7万 ウマいね

 

 

  アグネスデジタル@前走はQ/E/2/世/Cさんがリウマートしました

 ゴールドシチー㋹ @goldcity0416・2時間前 ︙

  同期とカニ食べた、いい感じだった

  (ゴールドシチーと彼女のトレーナーに挟まれながらサンデーライフが写る写真)

  1.1万 リウマート 2,104 引用リウマート 5.1万 ウマいね

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