強めのモブウマ娘になったのに、相手は全世代だった。   作:エビフライ定食980円

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第16話 魔境・オープン戦の片鱗

 5月の間にオープン戦に出走するとはいったが、実際のところ選択肢はそこまで多くは無い。

 

 まずオープン戦以降は『名前無しレース』であるところの一般競走は無く、全て特別競走なために登録は1週間前に済ませる必要がある。

 だから5月前半レースのうち、第1週に行われるレースは既に出走登録期限を超過しているために走ることは出来ない。

 同様にGⅠレースも2週間前に出走登録を行う必要がある関係上、第2週に執り行われるNHKマイルカップへの登録ももう不可能だ。全く選択の埒外ではあったけども。

 

 としたときに、そもそも出走登録が可能という区分で残されたレースは、実際のところトゥインクル・シリーズにおいては9レースしかない。

 

 その9レース以外に、ローカル・シリーズの指定交流重賞であるJpnⅢ・北海道スプリントカップという門別レース場で実施されるレースも一応選択肢には入るが、これはトゥインクル・シリーズ出走ウマ娘に開かれた枠は最大4名までなので、抽選にて除外される可能性を鑑みるとちょっと申し込むリスクがある。1200mダートだから、重賞レースということに目を瞑ればこれまでの短距離ダート路線にマッチングしたレースではあるけれどもね。

 

 という訳で、出たくないレース順に省いていこうと思う。

 まずアイネスフウジンと話したときに出てきた日本ダービーと、そのトライアル競走であるプリンシパルステークス。これは完全に出る気が無い。ついでに言えばオークスも出る気は無いので、一気に3つ消える。

 残り6つの中で一番格が高いGⅡ・京都新聞杯。日本ダービーの優先出走権が与えられるトライアル競走ではないものの、日本ダービーの叩き台として調整用に使われることが多いステップ競走だ。開催時期が違う時代も含めて史実覇者を見てもスペちゃん、ネイチャ、ブルボンにチケゾー、フクキタルにアヤベさんととんでもない名前が名を連ねている。これも無理です。

 後、重賞格のレースは葵ステークスが残っているが、こちらは史実・ダイタクヘリオス号の勝鞍。加えて言えば直近に芝のスプリント路線のクラシック級重賞レースがほぼ皆無なために、ここにNHKマイルカップに出走しなかった短距離路線の猛者が集結する恐れがある。というか、そもそもその用途のために葵ステークスは重賞レースに昇格したわけだし。なおこの世界もアプリ同様、未来先行で葵ステークスはGⅢ扱いである。

 

 ということで最初から分かっていたことではあったが重賞レースは魔境なのでオープン戦から選ぶことになる。それはそう。

 残り4つの中で明確に行ってはいけないレースがまず1つ。それは芝・1800mの白百合ステークスだ。このレースは日本ダービーの裏番組で行われるので一見狙い目に見えるが、距離の面で日本ダービー用に仕上げてきたウマ娘を配置転換出来なくもない感じなので『残念ダービー』とも言われるレースの1つであり、惜しくも日本ダービーの選考から落ちた強者が、とはいえダービーに向けて調整してきたこれまでのトレーニングを無駄にしたくないということで出走登録しがちなレースである。だから基本的に通常のオープン戦よりも有力ウマ娘が集まりやすい傾向にあるので排除。

 それで残ったレースは芝・1400mの橘ステークス、ダート1600mの青竜ステークス、ダート1800mの鳳雛ステークスの3つになる。

 

 本来こうなったときに競馬において馬主が出走する際に考えるべきは『負担重量』即ち斤量の条件である。騎手と馬具の重さなどを総合した競走馬の上にレース中に乗っかる積載量のようなもので、ざっくりとしたことを言えば1kg違うだけでマイル戦において1馬身分のハンデになると言われている。この制度を各競走馬にそれぞれ傾斜を付けたりすることで格下狩りを未然に防いでいるわけなのだが、残念ながらウマ娘にはそんなものはない。言わばすべてがGⅠレースで行われるような定量レース、そもそも重りも何も載せていないのだから定量に決まっている。

 だからアプリの育成ウマ娘がGⅡ、GⅢに出ると大差に近しい差を付けて勝利もするわけである。GⅠを何勝も出来る……というかトレーナーの気分次第でクラシック三冠を取れるような育成ウマ娘がハンデ無しに格下を相手取っているのだから、そりゃそうなるよ。

 

 なのでこの世界では一層、虎の尾を踏まないようにレースを吟味する必要があるのだけれども……。

 残念ながら橘ステークスはNHKマイルカップやクラシック級時代に安田記念に挑戦する場合の調整レースとしても使われるし、青竜ステークス・鳳雛ステークスはJpnⅠ・ジャパンダートダービー向けのステップ競走。

 ……あれ? 消去法で選ぼうと思ったら選択肢全部消えちゃった。詰んだじゃん!

 

 こうなってしまうと、もうどうしようもない。これがオープン戦の怖さである。取り得る選択肢のすべてが何らかの別の重賞レースにリンクしているということが往々にして起こり得るのがオープン戦の世界だ。

 そうなれば、もうどのレベルの子が出てくる恐れがあるか、という指標はまるで意味がなくなり他動的な理由でレースを決定することができない。

 

 だとすれば、どうする? ――他者がどうするかではなく。自分がどうしたいかで決めるしかない。

 

 そして、その選択であれば、答えは自ずと1つに定まった。

 

 

 そのレースは。

 鳳雛ステークス――京都レース場・ダート1800m。

 

 

 

 *

 

 鳳雛ステークスを選んだ理由は3つ。

 1つは、前述の消去法でとりあえず一番最後まで残ったレースだということ。少なくとも最後に残った3レースこそが相対的には狙い目になるはず。

 

 2つ目に、その3レースの中で鳳雛ステークスが最も開催時期が遅いということ。三条特別に出走したのが4月後半であるために、多少は期間を開けた方が良いだろうという自己判断だ。

 

 そして3つ目に。京都・ダート1800mは、実は私は1回走っているということ。メイクデビューに敗れてから挑んだ初めての未勝利戦、テイエムオペラオー戦において私は全く同じ距離を同じ京都で走っている。

 あの時が7月で今が5月だから、多少季節にずれはある。その上、ほぼ1年ぶりだから実際経験があることがどこまで私にとっての血肉になっているかは甚だしく疑問ではあるけれど、まあ何もないよりはマシだろう。

 

 そういう願掛け要素を付加するのであれば、マヤノトップガン戦で勝利したレース場も京都である。距離は違うけどね。

 

 

 なお多少の救いは因子魔改造のメジロマックイーンは5月の初戦に、園田で開かれるJpnⅡ・兵庫チャンピオンシップを選択していた。7月前半のジャパンダートダービーに向けてもう1戦挟むかどうかは微妙なところだが、少なくとも同月にあたる鳳雛ステークスに出走してくる危険性は大幅に下がった。

 ただ今までのようなネームドばかりにかまけていればいいと言う話でもないかもしれない。確かに私は『強めのモブウマ娘』と自己表現しているが、よくよく考えてみればオープン戦に出てくる時点で、他の子だってもう強めのウマ娘だ。だからこそマークを全員に広げる……なんてことをしてしまう訳にはいかない。全員をマークするというのはかえって効率が悪い。大まかなレース展開を予想できるだけの判断材料を得ることは大事だが、誰も彼もマークするということはピントがずれて個々のマークがぼやけることと同義だ。やはりこれまで通り、レース展開を明らかに形作るだろう相手に対して気を配る方が良い。

 

 

 そして。第1回の特別出走登録が終わり、鳳雛ステークスの出走予定者が掲示されたとき。

 そのレース展開を決めるであろう人物の名は刻まれていた。しかし、その名はトゥインクル・シリーズレースにおいて、あまりにも予想外なものであった。

 

 

 彼女――いや、彼女たちの名は。

 トウケイフリート。

 そして、トウケイニセイ。

 

 

 

 *

 

 鳳雛ステークス……というか、ジュニア級やクラシック級限定のオープン戦特別競走はすべて『特別指定』の交流競走となっている。

 ローカル・シリーズにおいてURAが指定した特定の競走に勝利した地方ウマ娘に様々な優遇措置が与えられるが、その中の1つとしてこの『特別指定』がなされたレースにおいて、地方所属のURA認定ウマ娘が2名まで出走できるという恩恵も与えられる。トウケイフリート、トウケイニセイの両名はまさしくそのたった2つしかない枠を掴み取り、なおかつ中央のウマ娘から収得賞金で除外されないだけの勝利数を挙げていた。

 

 競走馬・トウケイフリート号の生涯戦績は65戦21勝でその全てが岩手競馬での出走だ。その勝鞍数もさることながら安定して高順位につけつつもこれだけのレースに出ている点は圧巻の一言である。地方重賞であるが同一年に5連覇を成し遂げてもいる。

 

 このトウケイフリート号だけでも優駿なのだが、その半弟であるトウケイニセイ号は『岩手の魔王』と呼ばれる異名の通りの規格外の競走馬である。戦績は43戦39勝で負けた4戦も2着が3回と3着が1回のみと生涯戦績全てが馬券内。しかもその戦績の中には中央との交流競走である南部杯2連覇が紛れているというヤバさ。

 ……トウケイフリートも南部杯4着という成績を残しているけれども、トウケイニセイと並べると感覚がバグってしまう。

 

 そして少女・トウケイフリートと、少女・トウケイニセイ。両名は岩手トレセン学園の生徒であり、姉妹とのこと。トウケイフリートが高等部でトウケイニセイが中等部で同時期デビューになったらしい。それで姉妹揃って非史実の中央殴り込みを仕掛ける辺りは、彼女たちもまたローテぶっ壊れ組ということだ。

 というか百歩譲ってジャパンダートダービーの前哨戦という位置付けだったとしても、中央のわずか2枠しかない特別指定の地方枠を掴むのだったら他の南関東の『地方全国交流競走』に指定されているローカル・シリーズレースに出た方が良い気はしないでもないが……それを言うのは野暮ということなのだろう。

 

 

 

 *

 

「――1着、トウケイニセイ! そして5着にトウケイフリート。岩手の地方からやってきた姉妹は見事に、2人とも掲示板入りという快挙を成し遂げました! 中央のウマ娘たちはあと一歩が及ばず――」

 

 

 うん。まあこれはこうなるよね。正直マッチングしたのが事故だと思うしかない。

 そして勝利後のインタビューにてトウケイニセイが、

 

「ジャパンダートダービーでは、お姉ちゃんと一緒にワンツーフィニッシュして、メイセイオペラ会長に自慢しますっ!」

 

 と高らかに宣言していた。というか盛岡トレセンの生徒会長はメイセイオペラなのか。地方所属で歴代たった1人の中央GⅠ覇者だし納得の選出である。

 そしてトウケイ姉妹に敗れた中央の意地は、おそらく同レースに出走するであろうメジロマックイーンに是非とも仇を取ってもらいたいものである。いや、私達の世代のダート路線の最後の砦がマックイーンなのは、今になっても意味分からないけどさ。

 

 

 ……え? 私の順位?

 16人中11着です、はい。

 

 だから別にあのトウケイ姉妹が居なくても精々9着だった。だからちょっとオープン戦は時期尚早だった感が否めない。

 

 まあ6月からはPre-OP戦の2勝クラスに戻るから、そっちで2勝クラス、3勝クラスと勝ち上がって、改めてオープン戦に出よう。

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