強めのモブウマ娘になったのに、相手は全世代だった。   作:エビフライ定食980円

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第17話 Pre-OP戦の脅威

 と、言うわけで。

 Pre-OP戦に戻ってきました。短いオープン戦ウマ娘の天下だった。

 

 リトルココン戦以来、初めての着外、それも2桁順位。

 なんというか負けて悔しいとか、不甲斐ない戦いをして恥ずかしいとか、そういう感想以前に、何だかんだ私ってこれまで強いレースしてたんだ、ということに気付く。

 

 だってさ、普通に考えれば11戦して入着9回というのは、よく考えてみれば全然悪くない、というか2勝しかないことに目を瞑ればそりゃ注目されて当然な戦績。オープン戦たる鳳雛ステークスでボロ負けしてしまったから未だオープンウマ娘としての実力には届いていないわけだけれども、メイクデビュー・未勝利戦で勝利を飾れるウマ娘が大体1500人なのに対して、オープン戦の総数は150程度。そこで1着を勝ち取れるのは、私があれだけ苦労した未勝利戦勝利をこなせる中の上位10%だけなのだから、流石に厳しい戦いが強いられてしまう。

 

 頭の悪い計算方法をするならば、マヤノトップガンと戦ったときの私の10倍の強さがあって初めて勝負になるみたいな感じなのだ。あ、これは別にアプリ版におけるステータス値を10倍にするという意味ではなく比喩表現ね。

 

 確かに私も成長しているとは思う。けれども、周りはそれ以上に成長……ってこの言い方は多分正しくない。私の成長速度と、オープン戦のレベルが見合ってないということだ。

 やっぱり段階を踏んでステップアップしていくのは大事だ。まあ勝てるレースを落としてまで現在のクラスに留まろうとは思っていないけれども、今の私は無理なチャレンジをする必要は無い。しっかり入着出来るレベルで賞金稼ぎをすることの方が、格式高いレースに出ることよりも大事なのだから。

 

 

 というわけで2勝クラスのレースを見繕う……といきたいところだが、流石にレースに出た直後なのでクール期間は置きたい。次走は6月末くらいかな。良い戦略が浮かんだレースがあれば1、2週間くらい早めても良いけど、とりあえず1ヶ月1レースペースで。

 

 

 

 *

 

 5月のクラシックGⅠ戦線を軽く振り返っておく。とは言っても、テレビや雑誌などで見聞きした情報なわけだけど。

 NHKマイルカップは皐月賞回避で話題となったアグネスタキオンが勝利。彼女の次走は現状公開されていないものの、有識者の予想としてはこのままマイラー路線を突っ切るために安田記念でシニア級に殴り込みをかけるとか、菊花賞を狙いに行くとか、あるいは夏季に一旦GⅡの札幌記念に出場して様子を見るかもしれない、など実質何も分からないからこそ自由な推測がなされていた。

 まあアグネスタキオン本人としては脚部不安の解消こそに力点が置かれていると思うからぶっちゃけ次走どころじゃなさそう。アプリトレーナーなら夏合宿でなんとかしてくれるはず。

 とはいえ皐月賞・日本ダービーともに回避しているものの、クラシック路線の第2回特別出走登録において菊花賞も同時申請しているから追加登録をしないでも菊花賞を射程に残しているあたりはちゃっかりしてる。

 

 

 で、オークスを勝利したのがなんとマヤノトップガン。いや2月にはまだ未勝利に居たのに5月後半のオークスに良く間に合わせたとしか。オークスのトライアル競走であるスイートピーステークスで勝利して優先出走権を得て強行突破したみたい。ウマ娘だから誰でもティアラ路線に行けることを十全に生かしてきた。

 

 またそのマヤノトップガンは芝転向してからは無敗らしく、最後に彼女を地に付けたのが私なせいでまた過大評価されていたが、ある意味鳳雛ステークスで大敗を喫したことで評価軸がリセットされるという副次作用もあったとのこと。何せオークスの翌週だったからね、あのレース。

 私のことは一旦置いておくとしてマヤノトップガンは完全に非史実ローテに突入してしまったが、それにしたって芝転向してGⅠをこの時期に狙えるとなったらまず日本ダービー行くだろうに、そこでオークスを選択するのは何というかやはりレースへの嗅覚がずば抜けているというか。

 

 

 そして最後に、その問題の日本ダービー。これは私もリアルタイムでテレビで見ていた。

 

「――アイネスフウジン、ゴールイン! 堂々逃げ切った! 見事アイネスフウジン、ダービー制覇! オグリキャップ2着、その後はどうでしょう――」

 

 アイネスフウジンの日本ダービー勝利。競り合う場面もあったものの、逃げで日本ダービーを掴み取った。なお入場者数世界記録更新のおまけも史実通り。まあアイネスフウジンに同室のライアンは勿論のこと、オグリもオペラオーもフジキセキもアヤベさんだって居てそれ以外にもネームドやら史実ダービー覇者のオンパレードだったから、それは入場者数もインフレするよって感じなんだけどさ。

 

 ただ、ちょっとひやっとしたのが全力を尽くしたのかゴールを駆け抜けた後に、惰性で少し走ってから減速してそのまま芝に寝転んだシーン。ウマ娘的にはよくあることなんだけど、流石にアイネスフウジンの日本ダービー直後という『情景』が私の肝を冷やさせるものであった。

 

「――左脚っ! 左脚、何ともなってないですよねっ!!」

 

 居ても立っても居られずに、私はまだテレビの画面にはターフ上にアイネスフウジンが映っているのにも関わらず彼女のスマホに電話を入れてしまう。控え室にいたアイネスフウジンのトレーナーさんが代わりに出てくれたのは奇跡的と言うべきか、厚意と言うべきか。

 

 それからのことは後日聞いたけれども、結果的には彼女の脚は別に特に何も異状はなかった。何なら、あの後普通にウイニングライブしていたし。

 けれど問題視するほどのことではなかったが、若干の筋肉疲労が左脚に見られたとのことで、それはクールダウンすれば然して問題の無いそれこそレース直後のウマ娘にはよく見られる一般的な現象でしかなかったが、アイネスフウジンは夏のレースの出走予定は取り止めて合宿に専念して足腰の強化に踏み切ることとなる……と私にまで教えてくれた。

 

「その……そんな細かいことまで、外に漏らしちゃっていいのですか? その……まだ6月なのに夏合宿の予定をバラすというのは……」

 

「サンデーライフちゃんにしか言っていないから大丈夫なのっ!」

 

 うーん、なんだろうこの高すぎる信頼感。いや、実際レース直後に電話してその通りの場所に疲労が溜まっていたのだから彼女の中で私の評価が急上昇するというのは、客観視すればそりゃそうなるって分かってはいる。それに競走馬・アイネスフウジン号はあの日本ダービーで負傷引退するから多分何度同じシチュエーションに出くわしても電話をかけたとは思うけどさ。

 

 これらの結果が、少女・アイネスフウジンの夏の予定を変えてしまったこと、そしてそのスケジュールを他ならぬアイネスフウジンのトレーナーが是としてしまった以上は、もう彼女のトレーナーは。

 多分、アイネスフウジンに大きく負荷をかけるトレーニングが出来ない……と思う。

 

 うん。それが良いことだとか悪いことだとかが問題なのではない。

 ただ問題は。少なくとも今の私はアイネスフウジン、『私達の世代のダービーウマ娘』のレースのローテーションに介入出来るくらい彼女の中には影響力があって。

 そして本来そうした外部の声を遮断すべき専門家である彼女のトレーナーですら、私に一目置いている。多分、それはアイネスフウジンの友人であることに加えて、私が自己管理でレース出走を組んでいてそれで怪我をしたことがないという健康面における信頼をいつの間にか勝ち取っていた。

 

 そのことに、私は無自覚であったことが問題だ。

 トレーナーの最終判断よりも優先されるべきものという破滅的なところまではいってはいないが、ただ今回の出来事でアイネスフウジンのトレーナーが最終判断をするための材料として私の言動を加味するということが起こり得る。

 

 アイネスフウジンが私のことを過大評価していることは、ずっと分かっていた。

 であれば、私はもう一歩踏み込んで。

 過大評価されている私の言葉は、アイネスフウジンの中で重きを置かれる――ということの意味をもう少し考えないといけない。

 

 そして、過大評価をしているのはアイネスフウジンのみに留まらないということにも向き合わないと。

 

 

 

 *

 

 このままアイネスフウジンの相談に乗り続けていると、いつの間にやらアイネスフウジン陣営の一員になってしまいそうなので、自身の次走レースを考える。

 

 2勝クラスは1勝クラスと制度的な面で異なる部分は殆どない。単純にレベルアップしたと思ってもらって差し支えない。たまに格上挑戦でやってくる子を除けば大体はメイクデビュー・未勝利戦で1勝、1勝クラスで2勝目をあげている子ばかりだ。

 

 ただ2勝クラスの開始する6月から最初の1、2ヶ月はレベルが高くなる傾向はどうしてもある。というのも本来オープン戦で入着出来るくらい優秀な子でも、オープン戦で勝てていない――制度上の厳密性を求めるならオープン戦なら1着、重賞なら2着以内に入っていない――ならばその子らも2勝クラスに区分されるからだ。勿論2勝クラスであってもオープン戦に格上挑戦しても良いが、目の前に勝てるレースが転がっているのだからその選択は少数派だ。ということで、本来上のクラスに居てもおかしくない実力のあるクラシック級ウマ娘が紛れているかもしれないのが今の時期の2勝クラスなのである。

 

 そしてもう1つ大きく変わるのは、夏シーズンに突入したからという意味合いが大きいからなのだが、これからのPre-OP戦はシニア級ウマ娘との混合になるという点。これは前にも話したことなので割愛。

 

 また、レースをいざ決定するにあたって懸念点となるのが――レース数。

 メイクデビュー・未勝利戦が年間1500戦程度で、1勝クラスは年間1000戦ほど存在する。一方で2勝クラスにおいてはそもそもレース数が年間500戦を切る。

 単純化して考えると毎年1勝クラスから1000人上がってくるけど、2勝クラスを突破出来るのは500レースしかないから半分はそのまま2勝クラスに残留する計算になる。……が、ちょっと待って欲しい。その残留した2勝クラス据え置きウマ娘は来年も2勝クラス。翌年はその残留500人と1勝クラス勝ち上がり1000人を合わせた1500人の中から500レースの王座を争うこととなる。じゃあ今度は据え置きが1000人になって……あれ、年を経るごとに突破が難しくなる?

 

 実際には年々難化するというのは多分無いと思うが、では先の単純化の何を間違えていたかと言うと2勝クラスのフィールドで相手になるのは今年1勝クラスから上がってきたばかりの約1000名のウマ娘だけではなく繰り越し組……つまりシニア級ウマ娘たちも居るから、実際には1000名よりも遥かに多い人数で500席程度しかない昇格の玉座を奪い合うことになるということだ。

 勿論、格上挑戦で2勝クラスのレースで勝つことなく上のレベルに行くことも出来るし、逆に引退や平地競走以外に戦いの場を見出すウマ娘も出るから、先の単純化の計算のようにこのクラスに所属するウマ娘が雪だるま式に膨らみ続けるわけではない。

 

 あと、ついでにレースの格式自体も1勝クラスのときよりも上がっているので『名前付きのレース』である特別競走の割合が増えてくる。

 まあともかくまずは前哨戦ということで、流れに身を任せる。選ぶレースは清里特別。6月末に開かれる東京レース場のダート1400mのレースだ。

 とりあえず、前走から1ヶ月の余裕を見た上で最も直近のダート短距離がこの清里特別だったので選んでみた。前々走の1勝クラスと、前走のオープン戦レースのレベルが段違いだったので、今回のレースは細かい作戦を組み立てる前のデータ取りのレースという意味合いが強い。

 つまり相手にはどれくらいのレベルのウマ娘が来て、私の実力はどの辺りにあるのかを知るためのレースだ。勝てるなら勝ちに行くけど、勝てなくても次走の組み立てに必要なデータが取れさえすれば目的は達成、といった感じの選定レースである。

 

 

 で、いつものように1週間前の特別登録1回目を済ませて、準備を整えていたレース前々日。

 出走登録を完了するために2回目の登録を行った私は……抽選対象になっていた。

 

 

 あ……、そっか。前走が11着だから、これまでの入着による出走投票の優位が消えているのか、私。

 

 トレセン学園内の出走投票室に掲示された一覧表……そのうちの『清里特別』の項目を見る。この一覧表に名前がある場合除外が確定するが、その一覧表を眺めていたら次のような記載があった。

 

 

 ――サンデーライフ、非当選。

 

 

 

 *

 

 失念していたが除外自体はあり得ることだったので、気を取り直して清里特別非当選の週に、今度は別のレースに特別登録1回目を済ませる。清里特別と同条件のダート1400mで場所が中京レース場に変わった香嵐渓(こうらんけい)特別。

 そして翌週の木曜日。出走投票室にて。

 

 ――香嵐渓(こうらんけい)特別。これもまた除外。

 

 

 2連続除外となった私は、流石に危機感を感じて専属トレーナーの居ないウマ娘のトレーニングを全体監督しているトレーナーに相談する。

 そこで貰ったアドバイスは『ダート短距離は人気』という、そう言えば私も前に全く同じことを考えていたことであった。その基本を思い出させてくれたこの全体トレーナーは『特別登録1回目のときに事前に時間ギリギリまで粘って定員割れしているレースに出せば良い』という反則みたいな裏技も教えてくれる。

 あー、そういうレースの出方をすれば確かに適性不一致で出走してくる子が出てくるのか。

 

 

 ということで出走投票室の掲示を眺めつつ、ギリギリまで粘っていたら確かにレースごとに人気・不人気というのは明瞭に分かれていた。そして私は、投票締切5分前になって芝・長距離のレースが狙い目だと最終判断し、登録用紙を窓口に申請――無事受理された。

 

 そして、私が入ってもそのレースは定員割れ。ということは出走確定である。

 

 

 いやー、めでたしめでたし。これでようやくレースに出ることが出来る。

 そう思って、私が今。出走完了したレースの詳細を見る。

 

 札幌レース場、芝・2600mで行われる2勝クラスの特別競走。

 

 そのレース名は。

 

 

 ――阿寒湖特別。

 

 

 ……ぎゃああああ、見えてた地雷じゃんこれ!!!

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