強めのモブウマ娘になったのに、相手は全世代だった。   作:エビフライ定食980円

2 / 90
第2話 未来のタイムリミット

 この世界がアプリ時空。

 

 つまり何がヤバいかと言えば、世代無関係のバトルロイヤルになるということである。

 例えばトウカイテイオーの育成シナリオ中に何食わぬ顔してシンボリルドルフが出走登録してきたり、メジロマックイーンの宝塚記念で何故かゴールドシップが居たりと、そういうことが起こる世界線なのである。

 

 それをモブ視点からみた場合、自分が出走するレースに全ネームドウマ娘が出てくる可能性があることになる。最早どこの世代だとか言ってられない事態だ。多分、誰の育成シナリオというわけでもないのだろう。だからこそオグリキャップ世代がメインと決め打ちするとか、あるいは世紀末覇王に合わせる意味は無くなってしまう。

 下手すると芝のスマートファルコンとか、有記念に最適化されたハルウララとか、ステイヤーのサクラバクシンオーすらも紛れているかもしれない。そんな世界に降り立ってしまったのである。

 

 そして全世代バトルということは、クロフネみたいな未実装ウマ娘もこの世界に溢れているということだ。フランスにはブロワイエが居るかもしれないし、下手したらアメリカでサンデーサイレンスが現役で走っているかもしれない。

 というか地方に逃げようと思っても、オグリキャップやイナリワンはもちろんのこと、盛岡にはメイセイオペラやトウケイニセイ、大井にはアブクマポーロ、船橋のフリオーソに宇都宮のカネユタカオーなど錚々たる面子が揃っているのか。オグリ関連で笠松がある以上は大井しか出てきていない地方のレースもこの世界にあるとは思うけど……うん。

 

 もっとも私自身が中央のウマ娘である以上は、地方で出走する場合は交流レースになるから、中央から刺客がやってくるかもしれないことには結局変わりがない。

 

 

 とはいえ、そんな魔境であっても2連続で2着を取ったことで、私の賞金はとりあえず440万円となった。ネームドに勝てずとも2着が取れるならこのまま未勝利戦で高順位を重ねて賞金荒稼ぎするのも1つの手ではあるが、そこまで脳死でこの競走社会を乗り越えることは難しい。

 そもそも、来年の夏ごろには未勝利戦自体が無くなる。それまでに勝利できないウマ娘に用意される道は主に4つ。

 

 分かりやすいのは、引退しトレセン学園を中退。1度も勝てないウマ娘と聞いて最もピンと来るルートは多分これの気がする。とはいえ、それ以外の選択肢もある。

 第2の選択としてあり得るのが、地方のトレセン学園に転校するという手段。地方の場合は未勝利戦が来年夏以降も設置されているので、1度も勝てなくとも現役を続行できる。というか、そうじゃなきゃ史実ハルウララ号が存在出来ないし。

 

 3つ目の選択肢として障害競走レースへの転向という手段がある。障害レースには未勝利戦とオープン戦という区分しかないため、こちらも未勝利戦が継続して設置されているためだ。とはいえ競技性が全く異なる上に、レース数自体も少なくGⅠレースも年に2回。加えて短くても2800m前後からで、重賞レースともなれば4000m超えもあり得るステイヤー路線のウマ娘ですら顔負けの超長距離コースばかりであるとなれば、適性が見えるウマ娘はごくごく限られてしまうだろう。

 

 そして最後の選択肢。見落としがちだが、無勝のまま中央トレセンに所属し続けて、ずっと格上挑戦を行い続けるということも出来る。ただし、これを行うウマ娘は極めて少ない。勿論格上の中にぽつんと取り残され続ける精神的ストレスも無視はできないものの、それ以上に致命的なのが出走したいレースに希望者が殺到したときの抽選の際に格下挑戦者はまず真っ先に除外されるという点だ。

 未勝利戦がなくなった後に残るレースにはPre-OPという格のレースがあるものの、これを更に細分化すると1勝、2勝、3勝と区分される。

 ぶっちゃけ未勝利であっても理論上はPre-OPの上のOP戦はおろか一部の重賞レースにすら出走登録だけは出来る。ただ定員を超えた場合に真っ先に除外される。同様に3勝のレースに未勝利や1,2勝のウマ娘が出走登録を行っても全く問題はない。……問題ないが、こうしたPre-OP戦は人気というか需要が高い状況なので規定の水準を満たしていたとしても抽選で除外されることは度々発生する。だから、未勝利で中央トレセンに留まろうとしても、そもそも除外ばかりでレースに出走することすら出来ない、という状況に陥りがちなのだ。であれば、現役続行するにしても出走機会のある地方へと転校するのが無難となってしまう。

 

 

 ということで競走精神豊かなウマソウルを有するウマ娘たちは、未勝利のままであってもいつか再び中央に復帰するための臥薪嘗胆の折とみて、地方へと埋伏するのであった……とはならずに引退を決断するウマ娘もそこそこに居る。

 まず単純な時期的な問題だ。未勝利戦が終わるのはクラシック級の夏である。ということは早熟なウマ娘だと既に全盛期だったりするのだ。未勝利状態から成長が見込めないともなれば見切りを付けざるを得ない。アオハル杯の自チームウマ娘たちも能力限界があったアレが未勝利モブだともっと低い能力値で訪れることもあるということである。

 

 

 そして、それ以上に深刻で逼迫した問題がある。

 

 

 ――それこそが、金銭問題なのだ。

 

 

 

 *

 

 中央トレセン学園こと日本ウマ娘トレーニングセンター学園。最大規模・最新鋭のトレーニング施設を備えており、一般の中等教育機関としての機能の上に2つの寮、更にはアスリートを全面バックアップするだけのスタッフと、更にはウイニングライブのトレーニングのための声楽やダンスの専門家すら雇用し在籍する本学園は、必然ではあるがその運営・維持に莫大な費用がかかる。

 URA管轄の学校だから国公立なのか私立なのか良く分からないけれども、普通の中学・高校レベルではあり得ない設備投資が行われている以上は、いくら国からの助成金で負担しようとも限度というのはあるだろう。

 

 なので学費があり得ないくらいに高騰する。具体的な数字を出すと、1ヶ月で70万円である。たった1ヶ月トレセン学園に通うだけで大学の1年分の授業料くらいはかかっているのだ。言ってしまえば、名門ボーディングスクール相当ということで。当然こんな法外な学費を支払える訳もないので、ほぼ全生徒が奨学金制度を利用している。

 そして肝になるのが、この奨学金制度だ。ウマ娘のレースとは国民的イベントであると同時に最大規模の興行であることから、貧富の格差でウマ娘が進学を断念しないように多彩な補助がなされている。だから奨学金と一口に言っても多種多様だ。

 

 URA独自の奨学金制度ではレースへの出走の奨励も兼ねて、1人辺り『700万円』までを限度として無利子で奨学金を借りることが出来る。それ以上借りる場合は余程経済状況が困窮していない限りは有利子となるが、利率自体は民間の奨学金制度とほぼ同等で暴利を貪っているわけではない。

 

 

 ――そして、この『700万円』の無利子奨学金。

 なんと、メイクデビュー戦もしくは未勝利戦で勝利することで事実上『全額免除』となるのだ。

 

 まあ、理屈としては単純でメイクデビュー戦の1位賞金が『700万円』、未勝利戦だと『500万円』程度で自ら勝ち取った賞金で肩代わりしているだけと言えばそうなのだが、1勝することでURAから「この子は走れる」と評価されるわけだ。

 

 未勝利戦なら200万円ほど得をするわけだが、実際のところ賞金が全額競走ウマ娘の懐に入るわけではないのでメイクデビュー戦勝利であってもウマ娘側が得をする制度であり、それは同時にURAが彼女らの学費の一部なりとも自腹を切っているということになる。

 

 未勝利戦が途切れるクラシック級の夏までは、最短でも入学からおおよそ1年半。単純計算でその時点までに学費だけで1260万円に膨れ上がっている。

 いくら5位までに賞金が割り振られるとは言っても、1ヶ月の学費70万円をレース1回で稼ぐのには毎月掲示板入りする必要があり、しかも先に述べた抽選の『除外』もあることを鑑みれば、ここまでに勝利していないウマ娘が中央に残り続けるのがいかに難しいのかが分かると思う。

 しかも、この時期まで未勝利だと『700万円』の全額免除措置が消失するのだから猶更だ。どのような手段をもってしてでもメイクデビューか未勝利戦に勝たなくてはいけない。

 

 ……そしてすべてのウマ娘が全員1勝出来るわけではない。多分、これがレース以外で社会生活を営むウマ娘が耳を隠す理由なのだろう。

 たとえ掲示板入り時の賞金や他の補助制度などで負担が軽減されているにしても、社会で生活するウマ娘の多くはそうした奨学金の返済が待ち受けているのだから。

 

 

 と、ここまで考えれば、私が2戦連続2着で獲得した賞金440万円がいかに足りないかが分かるだろう。最低限でも無利子奨学金免除の未勝利戦勝利を飾る必要はある。そして、その為には私の実力では史実ネームドウマ娘の居ない戦場を選択しなければならない。

 

 

 ……ということで。

 今度は、函館レース場のダート1700m未勝利戦を選択。

 

 

 

 *

 

「1着はメジロマックイーン! 2着はメジロマーシャス! メジロ家の2人がワンツーフィニッシュを決めたっ! サンデーライフ、僅かに3着か――」

 

 

 ……百歩譲ってメジロマーシャスは仕方ないとしようか。一応史実のメジロマーシャス号は重賞勝利を飾っているし、秋の天皇賞で8着を取っているから非実装ではあれど、モブよりは強い。

 でも。

 

「……なんでマックイーンさんが、未勝利のダートのマイル戦に出てくるんですか!?」

 

 まさかのダート魔改造マックイーンの登場である。確かにダート適性元々Eあったけどさ、マイル適性なんてFじゃん。

 ……史実メイクデビューで同じ距離のダートで勝っていることには目を瞑る。

 

「……メイクデビューでヤエノムテキさんに負けまして」

 

 

 いや、本来そのメイクデビューでヤエノムテキにダートで負けたのって2着だったメジロマーシャスの方だったはずなんだけど……。

 世代無関係バトルになった結果、メイクデビューから史実ネームドの競合が起こるとか怖すぎるでしょう。

 

 

 ――現在の獲得賞金、550万円。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。