強めのモブウマ娘になったのに、相手は全世代だった。 作:エビフライ定食980円
写真判定の結果、1着がファインモーション。2着がマンハッタンカフェという結果になった。
……あのマンハッタンカフェの追い上げを、ファインモーションは何とか凌いだのか。ネームドというのは末恐ろしい。
正直、このメンバーで5着ならば善戦したと言って良い……というか、この時期のこの面子相手に1着取れるなら普通に菊花賞・秋華賞で1位争い出来るレベルだし。先行で再加速する策も前には届かなかったが、団子状態の争いから入着を掴み取る意味では役立った。
そしてその最後に追い込むスタミナは、アイネスフウジンとともに練習して会得したスリップストリームが役立っているのも間違いない。
半年ほど前に体重を増やして手に入れた筋肉量でも長距離を難なく走ることも出来ている。その筋肉によるパワーも、これまでダートを走ってきたことでのパワーも、最終直線における加速力に繋がっている。
ほぼ理想形の走りをした上で5着であれば……それはもうやはり相手が強かったというのが月並みだけれども結論となってしまう。ファインモーション号の史実阿寒湖では5バ身差勝利で最終直線で競り合いすら本来発生していないのだから。
強いて懸念点を挙げるとすれば、4着にノーマークの子が入っていることかな。鳳雛ステークスでのときにトウケイ姉妹以外のネームドでない子を相手取ってもボロ負けしたように、ここでもネームド以外の子が私の前に居るというのは注意した方が良いかもしれない。
「あの……サンデーライフさん。……今、よろしいですか?」
「あ、マンハッタンカフェさん」
そしてレースが終わったのならば、マンハッタンカフェも私に接触してくるよねえ……。
「どうして、貴方は――」
「――あら? もしかしてカフェの『視る力』のお話? だったら私も混ぜて!」
更に目敏くこちらの会話を聞いていたかのように自然体で混ざるのはファインモーション。そう言えば、この2人って面識あるんだっけ。確かファインモーションがトレセン学園の生徒との交流のために開いているお茶会の参加メンバーとかそういう感じだったはず。
で、都合よくファインモーションが起点を作ってくれたので私はそれに乗っかる。
「ファインモーションさん、その『視る力』というのは……?」
マンハッタンカフェの身に起こる霊障については私はアプリ経由で知ってはいるものの、今の身代では本来知っているのはおかしいはずなので、これを奇貨として聞き出しておく。
「そっか、サンデーライフちゃんは知らないのでしたね! 実はね! カフェは妖精さんとか座敷童が見えたりするんだよ!」
「……いえ、そういう感じのヒトは、あまり見かけないですけど……」
「えっと……つまり、オカルト関連の何かが見えるってことで良いですか?」
とりあえず超速理解を示すことで話を軌道修正しておく。というかファインモーションは私のこと『ちゃん』付けなのね。どことなくアイネスフウジンを想起するが……って。ファインモーションとアイネスフウジンも一緒にお買い物に行く仲だったな。想像以上にこの殿下様、交友関係が広い。
「……あっ! そうだ! カフェもサンデーライフちゃんとゆっくり話したいよね?」
「……それは、まあ……」
「だったら! 私の晩餐にご同伴あず……ううん、こうじゃないんだっけ。
ええと……『おう者ども! メシにありつきたいか!?』……これでよろしくて?」
ファインモーションは一体どんな創作物に影響されたんだ……。まあ申し出自体は願ったり叶ったりだったので私は了承する。マンハッタンカフェも悩む素振りを見せていたが、私が付いていくならばということでなし崩し的に同行が決定。
ファインモーションの『晩餐』って絶対ラーメンだと思うけれども、そこまで厳密な食事管理をしているわけでも無いし、そもそもレース後だから私としては別に全然ラーメン自体は構わない。
……けどさ。
流石にレース直後のターフの上で、1着と2着に同時に話しかけられている5着という絵面は少し考えてほしいかなっ!?
*
「ここっ! 隠れ家的名店って書かれてたから札幌に来たらずっと来たいって思ってたの」
「……色々突っ込みたいところはあるけれども、良くこんな住宅街のど真ん中にある地元民向けのお店見つけましたね……」
札幌レース場近くの宿泊ホテルからファインモーションのSPさんの車にマンハッタンカフェとともに同乗して、お店までは30分くらいかかった。
だからぶっちゃけてしまうと、その車中にてマンハッタンカフェから『お友だち』に関することは概ねやり取りしきってしまって実はカフェの用事は到着する前に終わってしまっていたりする。
まあ私から『お友だち』の気配を強く感じるって話だったし、私も因子継承の具体的な部分は隠蔽しつつも、三女神像の前でお祈りしてタイムが上がったことを話したらカフェもそれで納得していた。
この『三女神像前でのお祈り』という行為そのものはトレセン学園内での伝統行事と言っても良いものらしいからね……乙名史記者が、例の三女神の記事でそんなことを書いていた。
この『ラーメン遠征』にはファインモーション・マンハッタンカフェ両名のトレーナーは来ていない。これだけSPに囲まれているから問題は起きようがないと思うけれども、ウマ娘同士の友誼を深めることを重視したのか、あるいは何か他に目的があるのかは分からない。
なお全員制服である。流石にSPに囲まれていることが確定している中で私服を着ていく度胸は無かった。多分マンハッタンカフェも同じことを考えたのだろうし、ファインモーションは私達の考えを先読みしての制服だと思う。
なおレースが終わった後の夕方からウイニングライブまでの間に軽食は取っていたが、それはあくまでもウイニングライブまでの繋ぎの栄養補給といった趣きのもので、レース場の売店で売っているものをスタッフさんが仕入れてくれたものでしかない。ライブのときにお腹いっぱいで動けない、なんてことになってしまったらセンターを飾るファインモーションに重大な迷惑がかかるしね。
だから正直お腹はぺこぺこだ。ライブが夜の8時半くらいに終わってその後撤収作業とかがあって、それから車で30分揺られているから今の時間は夜中の10時近い。『晩餐』の域を大きく超過している時間で、ラーメンを食べるにはやや恐怖を感じ始める時間でもあるが、その辺りはもう空腹が打ち勝った。
お店の外観は、少し表現するのが難しいが『国道沿いの昔ながらのラーメン屋さん』といった感じだろうか。とはいえ住宅街にあるのだけれども。真夜中の街灯に照らされたそのお店は外から見たら随分とこじんまりとしている。ファインモーションの言う『隠れ家的』という言葉に想起されるようなオシャレさはない。
そしてその入り口にひっそりと書かれた『営業時間20時まで』という文字列を発見してしまった。普通に店内に入ってしまったし、店主と思しき老夫婦の姿もあるけど今って営業時間外である。
これ、大丈夫かな……と思ったが、その私の内面すらファインモーションは看破してまるで読心術でも使ったかのように私の疑問に答える。
「……大丈夫だよっ、サンデーライフちゃん! ちょっと『お願い』を聞いてもらっただけだから!」
……。
せめてその『お願い』の相手が目の前の老夫婦であることを切に願う。
外務省とか経由していないよね、大丈夫だよね!?
*
ファインモーション曰くオススメは『味噌ラーメン』ということで、じゃあそれにしようかなとメニューを見た手が止まる。
味噌ラーメンが色別に分かれている。なんか赤・白・黒とあるらしい。
え、味噌ラーメンってカラーリングがあるの? 知らなかった。
赤って辛いのだろうか、それとも赤だしのお味噌汁みたいな感じかな。というか黒が未知数すぎる。
ここでマンハッタンカフェが動く。
「……私達も3人……なので3種類選んでみても、いいんじゃないでしょうか……」
「カフェ! それ、名案だねっ!」
……私が想像しているよりもマンハッタンカフェはノリが良いのかも。でも彼女はそう言いながら最も無難そうな白色を先んじて選んでいた。
じゃあ……辛いかもしれないけれども赤にして――
「へい、大将っ! 私は赤をお願いします!」
あ。詰んだね、これ。
「……私は黒で」
この瞬間、ちょっとだけマンハッタンカフェの口角が上がったように見えた。無表情に見える割に、さては今の状況滅茶苦茶楽しんでるな!?
*
待つこと数分。何となくお店の内装を眺めているとたくさんの色紙が飾られていた。へえ、思った以上に芸能人とかも来てるのねこのお店。ファインモーションがわざわざ札幌でここを選んだだけの理由もあるみたい……って、キンイロリョテイのサインがちゃんと置いてあるし。ついでにゴールドシップのもある。
出来上がった私の黒味噌ラーメンを見やる。思っていたのよりも数倍黒い。
もう漆黒じゃんこれ、サンデーサイレンスもびっくりだよ。
私達3人のラーメンを同時に仕上がるようにお店の人がちゃんと調節していてくれていたみたいで、2人のラーメンも届いている。
ということで3人で『いただきます』と発声してから、まずは一番未知数なスープをレンゲで掬って、吐息でふーふーとちょっとだけ冷まして飲む。
飲んでみると、見た目に反して確かに味噌のスープだ。けれども旨味が凝縮されていると言えば良いのだろうか、すごく濃厚で……甘さすら感じる。でも、スープに少しだけ掛かっている一味唐辛子がピリッとアクセントになり、癖になる甘辛さだ。
しかし濃厚ではあってもこってりとした感じは殆ど無く、後味はあっさりしているかも。
そして改めてラーメン全体を見てみれば、刻みねぎとチャーシュー、メンマ、もやしというどちらかと言えば中華料理屋さんのラーメンのようなラインナップ。
麺と少々のねぎやもやしを箸で取り、それを口へ入れる。
「あひゅっ……! あ、熱々だけどとっても美味しい……!」
さっきスープを冷ましていたのを完全に忘れて口に入れたから熱かった。けど、甘辛なスープに上手く麺が絡んでいるというか、計算されつくされている。
ふと、そこで自分だけの『領域』から立ち戻り2人の方にも意識を向ける。
ファインモーションはほぼ無心で食べている。あのペースは替え玉する気でしょ。敢えて具を残しつつ麺を重点に攻めている。
成程……これが『スピードスター』。あるいは『決意の直滑降』。
そして、その一切の無駄が無い洗練としていて華麗さすら感じてしまうラーメンを食べる所作は、まるでこの世のものとは言えないような幻想性――
「……?」
ファインモーションはこちらを見やって、目が合うと微笑んできた。
その一連の所作を中断させてしまった自身に罪悪感すら湧きつつ内心を収めつつ、彼女には目で一礼して敬意を示し、マンハッタンカフェの方も見てみる。
「……スープには段々とバターが溶けていくことで、一瞬であっても同じ味のタイミングはありません。中に入っているコーンが甘味をさらに引き立てていますね。……ええ、麺と絡めてもあっさりとした後味は素晴ら……あれ? 何ですか、サンデーライフさん?」
「いや、マンハッタンカフェさん……どうして食レポみたいなことを……?」
「私と一緒にここまで
「いや、多分……。そっちの方がむしろ生殺し感が増しているような気が……」
『ついてきてくれたヒト』という表現を使った以上は、この場所……というか『阿寒湖特別』にも『お友だち』は来ていないのかもしれない。でも『付いてきた』のではなく『憑いてきた』面々であることは間違いないだろうが。
そう言えば、史実・ファインモーション号の父・デインヒル号はサンデーサイレンスの同期だったね。主戦とする舞台も国も全然違うから対戦成績は皆無だけれども、種牡馬としての国際リーディングで覇を競い合うくらいの相手である。
流石にそういう相手の子はサンデーサイレンスも避けているってことなのかな、これ。とはいえ『お友だち』がサンデーサイレンスであるかどうかは確定では無いけれども。
結局、私は替え玉を2回、マンハッタンカフェは1回、ファインモーションはちょっと2桁には届かないと思うけれども数えられないくらいは替え玉を貰っていた。
で、食べ終わった後に、お店で写真撮影。私達3人と店主の老夫婦が並んで、SPの方が撮影してくれた。その後にお店の人から言われて色紙にサインを残すことに。
「――って! せめて3人別々にしましょうよ!」
ファインモーションとマンハッタンカフェとともに自身の名を刻む勇気は流石に無い……のだけれども、そんな私の心情を多分ファインモーションは見透かした上で意図的に無視した。しかも中央に『阿寒湖の絆』などという文言をマンハッタンカフェがさらっと付け加える始末。
「だってここに来たのは私達3人だから。別々で来たわけじゃないから――」
そう言いながらファインモーションはSPの方をちらりと流し目で見る。
王族・ファインモーション殿下としてではなく。トレセン学園生……あるいは競走者としての証を少しでも残したいということ、かな。実績でも充分に残せると思うけれども、こういうお店へのサインとかでも形にしたいというならそんな彼女の願いを私は拒めない。
その『阿寒湖の絆』のサインは、お店の人の御厚意でキンイロリョテイのサインの隣に置かれることとなった。
「あ、カフェにサンデーライフちゃん! さっき撮った写真なんだけど……メディアにあげても良いかなっ?」
ウマッターとかウマスタみたいなSNSにアップロードするってことかな。マンハッタンカフェは特に問題無いとの返事を返す。
「私も構わないですが……あ、でも。『何故サンデーライフが居るんだ』って思われないようにして下されば」
だって1着、2着、5着という面子は違和感しか無いし、それまで学園で接点があったわけでもない。
「サンデーライフちゃんは心配性なんだから。でも分かりました。上手く誤魔化しておくね!」
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昨日、ファインモーションさまは『Akanko Tokubetu (2,600 méadar)』レースで堂々と1着でゴールを果たしました。これでファインモーションさまは3戦3勝の無敗で次のステージへと歩みを進めることになります。
その日の深夜に、ファインモーションさまは日本食料理店にてご学友お二人とともにお食事なされました(写真左からファインモーションさま、料理店店主夫妻、サンデーライフさん、マンハッタンカフェさん)。頂いた食事は『味噌ラーメン』と呼ばれる現地の郷土料理。
ご学友とは更なる上のグレードで再び対戦しようと暖かな激励の言葉をかける場面も。
またサンデーライフさんは同レースで5着であったものの、ファインモーションさまが滞在しておられるトレセン学園にて資料室の管理を任されている生徒とのこと。ご公務を円滑化する一助とする目的があってのことだろうと、関係筋はご歓談に隠されたファインモーションさまの深いお考えを語った。
〈 アイルランド国営放送[CSE:Craoladh Stáit Éireann]
オンライン版記事(原文:アイルランド語)の日本語訳 〉
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なお、アイルランドの全国テレビや大手新聞などでラーメン屋さんでの写真がガッツリ掲載された事実を知るのはトレセン学園に戻った後のことである。