強めのモブウマ娘になったのに、相手は全世代だった。   作:エビフライ定食980円

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第26話 育成目標:なし

 桐生院トレーナー、もとい葵ちゃんが正式な担当となったことで、私のトレーニング効率は劇的に改善され能力的に急成長を迎えた……なんてことには残念ながらならなかった。

 

 それは今までの私の方向性がそれなりに正しかったことの証明であり、同時に私が正しければ正しいほど、専属トレーナー有のトレーニング効率と大して変わらないことに繋がる。

 ただしそれはトレーナーを『トレーニング器材の延長線の存在』とだけ見ればの話。

 

 まず劇的に改善されたのは事務処理手続き。ぶっちゃけ今までの私は全体トレーナーを最終確認役程度にしか考えていなかったために、ほとんど自分でやっていた必要書類の申請が、ほぼ葵ちゃんに一元管理されることになって、この点においては飛躍的に私の作業量は低下した。

 アプリ的に言うのであれば、これは体力消費ダウンと失敗率ダウンと言ったところか。しかも私にとっての葵ちゃんは専属なので常時発動である。

 

 次いで、ファン対応関連。かつて1勝した際に理事長とたづなさんと面談したが、その際に私への取材依頼などは学園で一律で断っていたが、葵ちゃんが正式なトレーナーになったことでそれが解禁された。

 まあ私のメディア露出経験がアイルランドの国営放送とそれの転載くらいなのだから、最早意味分からないことになっていた。

 とはいえ、『清津峡ステークス』に、障害転向、そして専属トレーナー配属と話題まみれになってしまっている現状、直接応対の取材は悪影響になる可能性があるとみて、今のところは書面やアンケートでの回答に限定するという葵ちゃんの対応方針に同意し、その質問の選別作業も葵ちゃんがやってくれている。

 

 そうした大手メディアや雑誌記者関連以外のソーシャルメディア――SNSについては、まず『かにみそ』ウマートだけで完全休止していたウマッターの復活が最初の争点となった。

 というか、その『かにみそ』で既にやらかしていることもあって、私は自分自身で管理したくなかった。

 結果として新たにSNS用スマホを1つ契約して、それは葵ちゃんに持ってもらうことに。そして私の私用スマートフォンからは一切のSNSアプリを削除してもらって、アカウントの紐付けも解除してもらった。まあ自身の評判などを調べようと思えば調べることくらいは出来るらしいが、今までも大して自分のことなんて興味無かったし、しかも前述の話題性がある現状では全く調べる気すら起きない。

 

 ただ葵ちゃんがウマートを全部管理するのではなく、葵ちゃんと一緒にウマートをするって感じ。取り敢えず『ネタにはネタを重ねておく』精神で、2個目のウマートは葵ちゃんと一緒に行ったカニ料理屋さんの写真付きウマートになった。

 

「……これを投稿しないと『トレーナー不仲説』が流れますし、投稿したとしても、ここにミークが居ないから『ハッピーミーク不仲説』がネット上では流れると思いますけどね……」

 

 その葵ちゃんの独白を聞いて、ますます私のSNSへの関心は低下した。なお万が一ハッピーミークが同席していたとしても今度は『アイネスフウジン不仲説』とかになるらしい。良く分からない。

 

 

 ただ、そのハッピーミークについては、当面は私と付き合わせない判断となった。というのも。

 

「……万が一ですけれども。もしミークとサンデーライフの相性が悪かった場合にですね。

 貴方はミークに歩み寄ったり譲歩を求める前に、私とのトレーナー契約を解除するでしょう?」

 

 この葵ちゃんの読みには、私も『……確かに』と納得するしかなかった。

 ハッピーミークにとってトレーナーは必要不可欠な存在なのに対して、私にとっての葵ちゃんはあくまで補完役だ。これまで専属トレーナー無しでやってきたという意識が、ハッピーミークに無理やり譲歩を求めてまで葵ちゃんを手元に置くくらいなら、それが申し訳ないからゼロベースに戻す、という発想を多分私はする。

 

 現時点でのハッピーミークとの相性が未知数……というか性格的に全然違うことから無理に引き合わせる必要が無いというのが葵ちゃんの考え。そしてハッピーミーク自身も第一線で活躍することは止めて年に数回レースに出る感じの調整へと移行していて、トレーニング自体も葵ちゃんへの負担はさほどでもないから、彼女の方から『新しい担当を中心に見ろ』みたいな言葉もあったようである。

 ついでに言えば、私が障害転向の準備中であるために一緒にトレーニングするメリットがほぼ皆無。

 

 なので私とハッピーミークは、葵ちゃんを経由しての関係性に今はなっている。

 

 

「というか今更ではありますが、どうしてここまで私に入れ込んでいるのですか、葵ちゃんは?」

 

「サンデーライフの夢が気になったから……じゃ、ダメですか?」

 

「うーん……気になっているのは、そこに至るまでの経緯なんですよね」

 

「ああ、そちらでしたか! では――」

 

 そうして拍子抜けするほどにあっさり語られる。葵ちゃんこういうことは一切隠し立てしないのね。

 とはいえ全バ場、全距離、全脚質なんてウマ娘が目立たないわけなく、デビュー時は無名でも流石にあのアイネスフウジン戦辺りからトレーナーの内々で細々と話題にはなっていたらしく、アイネスフウジンが朝日杯に勝ってからは注目されるようになっていたようで。

 で、ハッピーミークという上位互換を育てていた葵ちゃんにも『条件不問の専門家』扱いで話は回っていたらしく、簡単に調べてもいたとのこと。

 

「じゃあ何故、あのタイミングで……」

 

「『清津峡ステークス』ですね。あのレースが全てを変えました。

 ……全く、勝って『やってしまった』という表情を浮かべる子なんて初めて見ましたよ」

 

 その言葉だけを切り抜くと八百長してるみたいだな……とも思ったが、あの瞬間に葵ちゃんには『この子は勝利でメンタルを崩すタイプ』と映ったようで、それまで何だかんだセルフプロデュースが出来ていた私に対しての優先順位が急上昇したということみたい。

 オープン戦で頭打ちになることも相まって今、誰かがトレーナーに付かなければ崩れかねない……けれどもなし崩し的にアイネスフウジンのトレーナーさんがサポートに入る以外のプランがトレーナー間に無かったことから居ても立っても居られず立候補した、とのことであった。

 

 ……うーん。聞いても『あなたの夢が気になった』と同じくあまり共感できない。欲しかった言葉ではあるのだけどさ。

 そんな面倒くさい相手に何故傾倒するのかが私としては聞きたい根幹部だったが、どうにも極度のお人好しという以上の結論が出にくい。誰もいかないなら自分が行く、って態度は中々にぶっ飛んでいる。

 まあハッピーミーク自体もアプリではメイクデビュー前は微妙な評価ではあったけど、そういう得意なものが見えてこない微妙っ子自体の育成適性があるのかもしれない。

 

 

 それと葵ちゃんの代名詞とも言える『トレーナー白書』。鋼の意志とかいう不人気スキルとともにアプリトレーナーに押し付けられる物品で、ハッピーミークに鋼の意志が備わっていない以上マニュアル式教育の弊害、みたいな散々な扱いがなされている桐生院家の秘伝である。

 案外『阿寒湖特別』のときのようなスリップストリームの使い手として動くのであれば、実質常に前が詰まっているようなものなので使えるものになるかもしれないけれども、ただ『鋼の意志』ってそもそも何に対する意志なんだろうという概念形成から入る必要がありそうなので、これについては保留。多分、永遠に保留になりそうな気もする。

 

 けれど『トレーナー白書』……というか桐生院家のノウハウ自体は、私にとってかなり役立つものであった。一般論だが未勝利のまま夏を迎え、それでも現役を続行したい場合、地方トレセンへ行くか障害転向かに大きくは分かれる。

 

 担当ウマ娘はトレーナー自身の慧眼によって将来性を見極める必要があることから、時として力量を見誤ったり潜在能力が優れていても大器晩成ですぐに頭角を現さないなどということは往々にしてあり得るわけで、そうした流れで未勝利ウマ娘を担当し続ける、ということも起こり得る。

 私自身が長らく専属トレーナーが居なかったから見逃しがちな事実だが、私とともに走った史実ネームドウマ娘だって未勝利やPre-OP戦のクラスで燻っていた。だからこそ専属トレーナーが居ても1勝も出来ないケースだって当然ある。

 

 だから桐生院家の教えにちゃんとある……『平地競走未勝利ウマ娘の障害転向時のノウハウ』が。

 マニュアル教育ではある。しかし、既にトレーニングメニューの骨組みが『トレーナー白書』の中で完成されているので、これを再構築することでトレーニングを決定することが出来るようになった。

 トレーニングそのものの効果が劇的には上がっていなくても、トレーニングメニューの作成にかける時間の飛躍的短縮に繋がっている。

 

 これに慣れてしまうと葵ちゃんの居ない時代にマジで戻れなくなるかもしれない。

 

 

 

 *

 

 もう1つ、これは指導ノウハウとしても分かれるところなので私自身に考えて欲しいという形で、葵ちゃんに切り出されたのが、闘争心というか『絶対に勝つ』というマインド形成に関すること。

 

「もし、サンデーライフがもっと『絶対に勝利する』という気持ちが強ければ、勝てていたかもしれないレースというのは結果論ですがいくつかあります。

 なのでその精神性を育むことが勝利への近道となるのは間違いないのですが……。ただ……それで得られる勝利の数倍だけ、同時に入着を逃していたのは確実です。勝利への執着が希薄だからこそ現在のサンデーライフのコンディションの安定性があり、そしてレース後のクールダウンを適切に行えていると思います。

 『勝利』を優先するのか、『長く走り続ける』ことを優先するのかで、精神的な部分をどう育むのかというのは変わってきます――」

 

 

 レースの勝ち負けは相手が居るからこそ成り立つもの。だからレースに絶対は無い。

 自己ベストを出したって相手が悪ければ負ける。極端なことを言えばセイウンスカイの菊花賞みたいにレコード勝ちなんてされたら誰だってお手上げだ。

 

 だからこそ『1着を取る』とか『何着以内に入る』といった目標は常に他者と比較が行われる相対的な目標だ。

 相対的であるからこそレースまでにどれだけ練習すれば良いというゴールが存在しない。しかし、レースで順位は明確に決定する。

 勝利を求める闘争心が己のパフォーマンスを全力以上に引き出すことがあるのは事実。……ただし、それは今までのコンディション安定性、故障率の低さ、レース出走頻度などとのトレードオフとなる。

 

 『絶対勝つ』と思って、自身の限界以上の力を引き出し『勝利』できれば、それはモチベーションアップに直結する。しかし、そこで負けた場合のメンタルのマネージメントは今までの比ではないレベルで厳しくなるだろう。否応なしにモチベーションの浮き沈みが激しくなるのだ。そんな不安定な精神性の中でトレーナーが核となって支えてくれるのだからトレーナーガチ恋勢のウマ娘が生まれるのも致し方のないことなのかもしれない。

 

 ただ……これは。強者の考え方だ。

 

「毎レース、毎レース『絶対勝つ』という意志でレースに臨んでいたとして……葵ちゃんは、私が今この場に残っていたと思いますか?」

 

 

 これに対しては葵ちゃんは、一切はぐらかそうとせずにちゃんと答えた。

 

「……おそらく。

 無理をして故障していたか……肉体よりも精神の方を先に壊していたことになるかと……」

 

 『勝利への渇望』は言わば、『競走寿命の前借り』だ。絶対に勝つというマインドセットで実力以上の実力を引き出して負けたとき、精神は確実に摩耗していく。

 負けたときのことを考えるな、ってことではあるが、本当に敗北する想定を一切しなければそれだけ精神への揺り戻しは大きい。

 

 そういう極限状態の中で競走寿命という名の『命』を削り、精神を追い込むことが、大きな飛躍へと繋がるのは確かだ。そして『命』を削っているからこそ、その過程も結果も全てが尊く――美しい。

 ウマ娘としての本質・本能としての在り方としては、正直それが正しい。

 

 

 ――けれども、それに私が耐えられるのかという問題は全く別の話だ。

 

 

 やってみなければ分からない。しかし、やって駄目だったら廃人だ。

 何より私自身の最終目標は『楽をして生きること』であって、『勝利』ではない。生き方や人生観、人としての在り方という私を形成する根本から捻じ曲げないと私が真に勝利のみを希求することは出来ないだろう。

 

 そして『楽をして生きるため』に必要なのが『賞金』であり。

 『賞金』を得るために必要なのは『入着』である。『勝利』は推奨条件であるが必須要件ではない。

 

 でも。その『賞金』だって別に今この瞬間のレースで絶対に手に入れなければいけない、というものでもない。

 私には絶対に勝たなければいけないレースなんて存在しないのだ。

 

 

 これは私の明確な弱点である。

 同時にあらゆるものが相対的に決定するレースの中で、自己形成をレースに依拠しないというのは強みにもなる。

 

 だからこそ私と葵ちゃんは決めた。弱点を克服するのではなく、それを強みとして活かすことに。

 ――私達は『順位』を目標にしてレースに出走することはしない、と。

 

 

 

 *

 

 それから2ヶ月が経過して、障害競走未勝利戦に登録する。

 選んだのは福島レース場の芝・2750m、アイネスフウジン戦以来1年ぶりの福島だ。

 久しぶりで忘れそうになったけれども未勝利戦だから出走人数はアプリ準拠の9名である。障害レースもアプリ準拠で良いのかな。

 

 福島を選んだ理由はいくつかあるものの、(たすき)コース以外の周回コースは、前にアイネスフウジンと走った芝のコースを共用で使っており、そこに設置型の障害物が置かれている。そして障害物の数が他のレース場よりは少なめで、走力勝負に持ち込むことが出来る。

 端的に言ってしまえば、障害競走初心者向けコースということだ。

 

 2750mのコースに設定されている障害は7つだが周回の都合上、1つの障害物だけ2度越える必要があるため、実質的には8個の障害だと考えて良い。

 

 それで障害競走においては、明らかに逃げ・先行が有利となる。理由は単純で障害物があるために速度が出せないから、前に居るウマ娘がそのまま残りやすいためだ。

 今回選択した福島レース場の例で言えば、前にアイネスフウジンと競った際、大逃げを選択した理由に最終直線の短さがあった。

 その短いはずの最終直線上に、実は障害物が設置されているわけで。だから、差しや追込で直線一気をしようと思っても、そこに障害物があるのだ。

 

 だから前の方につける先行策。ただ序盤から中盤は無理をせず先頭は譲っておく。初挑戦だし、そんな感じだろう。

 

 

 

 *

 

「1番人気は6枠6番、パンフレット。今年の6月より障害に転向してから実に9戦目のウマ娘です。そろそろ勝利が欲しいところですね」

 

「後方に付けてそのまま残ってしまうことが多い子です。しかし前走では素晴らしいロングスパートをみせるも惜しくも2着。今日もその末脚に期待が高まっておりますよ」

 

 流石にアプリ実装ウマ娘は居ないが、史実ネームド自体は居るよねえ。パンフレット号は、現行では障害のGⅠ格付けに相当するJ・GⅠの中山グランドジャンプの前身レースで勝利を勝ち取っているので、実質的には障害GⅠ馬相当の実力者。ただし少女・パンフレットは私と同期のクラシック級なので、それが為されるとしても2年後である。

 

 そして、もう1人。

 

「3番人気は、サイコーホーク。4枠4番からの出走となります」

 

「逃げウマ娘としては素晴らしい素質がありますね。序盤から先頭集団に付けていれば1着も充分にあり得ますよ」

 

 サイコーホーク号はJ・GⅡ京都ハイジャンプの前身レースでの勝鞍がある。ただこの子も私と同期なのでやっぱり本格化前。

 

 難敵ではあることに違いないが、ネームド相手に勝利した三条特別のときに感じたエルノヴァ&ダイサンゲンのときよりも勝てそうな気持ちは大きい。

 

「2番人気は、8枠8番サンデーライフ。夏季シーズンに平地競走でオープン戦に昇格しながらも障害転向を発表して話題となりました異端児です」

 

「平地で勝利を掴みながらも障害を志す、という子は極めて珍しいです。今日の対戦相手の中では平地競走成績で判断すれば隔絶しております。

 しかも彼女は芝・ダート、距離すら不問の適性自在のウマ娘。障害初挑戦ではありますが2番人気……というか1番人気であっても可笑しくないくらいです。

 しかも、この福島の平地では、あのダービーウマ娘・アイネスフウジンと熾烈な競り合いを見せたのですから、ファンの期待も一層でしょう」

 

 

 そんな実況と解説の言葉を聞き流しつつ、パドックでのお披露目後、すぐに葵ちゃんの下へ向かう。

 

「サンデーライフ、対戦相手をどう感じました?」

 

「……今日は勝てるかも、と」

 

 少し迷ったが正直に答える。2人だけの会話だし私の戦力評価を葵ちゃんに伝える意味でもこれは傲慢であっても必要なことだ。

 

「……うーん、ミークに対してならば絶対こんなことは言わないのですがサンデーライフですからね……。

 ええ。多分、貴方が求めている言葉は根拠なき激励では無くこちらでしょう。

 ――あくまで、今日の目的を忘れてはいけません」

 

「連闘に向けた調整レース、ということですね」

 

「はい。貴方は障害においては新参者です。

 勝てるならば勝ってしまっても良いですけれども、障害飛越はタイムが遅くなる覚悟で確実に避けていきましょう。福島には生垣障害は無いですからね」

 

 

 福島には生垣障害は無い。この言葉の意味は、障害物のうち生垣は多少身体にぶつかっても他の障害物と比べればまだあまり痛くない。けれども、他の障害物、ここ福島では竹柵と人工竹柵の2種でどちらも当たるとめちゃくちゃ痛い。というか、普通に突っ込んだら怪我をしかねないものだから極力確実に避けていく必要がある。

 

 勝利よりも完走。これが障害競走においての鉄則だ。まあ平地でも同じことは言える気もするけどさ。

 

 

「……でも、葵ちゃん。根拠なき激励も私、聞きたいです」

 

「もうっ! 緊張感が無いですね、サンデーライフは」

 

 そう言って、葵ちゃんは私に言葉は投げかけず、手を伸ばすように促してきた。観客席に居る葵ちゃんに届くように右手を伸ばせば、その私の手はそっと彼女の両手が添えられて、そのまま少し持ち上げられて、軽く頭を下げた葵ちゃんの額に当たる。

 ……祈りを捧げているみたいな感じ。

 

 ほんの数秒だったけれども、葵ちゃんは『これで、どうですか?』と目で訴えてきていたので、私は微笑み返してゲートへと向かった。

 

 

 この期に及んで、勝利を願う言葉を葵ちゃんが投げかけなかったのは、私の実力に不安があるとか、対戦相手が強敵だからとかではなく、私達の共通理解として『勝敗』を目標とすることを止めたからだ。

 

 

 そう。

 

 レースはあくまで相対的。絶対なんて無い。

 

 

「各ウマ娘ゲートイン完了しました……スタート! ちょっとバラっとしたスタートです。先行争いを制したのはサイコーホーク。彼女が先頭に立ちます」

 

「サイコーホークがレース展開を作りそうですが、これはほぼ予想通りといったところでしょう。戦術の予想が出来ないと言えば2番人気のサンデーライフですが……」

 

「そのサンデーライフ、4番手を追走。そのまま最初のハードル障害へ。踏み切ってジャンプ! ……各ウマ娘、無事飛越しました」

 

 

 少なくとも、このレースにおいて平地競走成績だけ見れば隔絶している私。そして様々な小手先の戦術をこれまで駆使してきた私は、この障害未勝利戦の場においてどう映るだろう。

 

 レースが相対的であるならば。絶対でないならば。

 その事実は。その事実だけは他のウマ娘に対しても、等しく降りかかるものではないだろうか。


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