強めのモブウマ娘になったのに、相手は全世代だった。   作:エビフライ定食980円

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第27話 クラシック級11月前半・障害未勝利(福島・障芝2750m)1戦目顛末

 ホームストレッチの最初のハードル障害。

 ハードルと言っても陸上競技のアレではなく、竹柵のことで高さは130cm。ウマ娘の脚力だからこそ飛び越えられるものだ。

 

 これを超えた後は、平地競走でのコースを逆走する形で第4コーナー、第3コーナーへと入っていく。ここの2つのコーナーでは障害物は存在しない。

 

「……第3コーナーに入り左にカーブを切って、先頭4番サイコーホーク。おっと、2番手まで上がってきましたサンデーライフ」

 

「純粋な速力勝負ですと、この子に軍配が上がりそうですね……まあ、未勝利クラスのレースにオープンウマ娘が紛れていると考えれば当然かもしれませんが」

 

 先団に付くイメージで走っているが、そこまで速度を上げているわけではない。それでも順位が上がるということは、展開が少々スローペースなのかもしれない。

 

 おっと、前のサイコーホークが曲がった。コースは頭に叩き込んでいるけれども、障害のコース取りは平地と比べると遥かに複雑だ。常に頭で考えていないと進路を間違えそうになる。

 

「ダートを横切って(たすき)のコースへ入っていきます」

 

「……おっと。僅かに2番手のサンデーライフが外に膨らみましたね。順位に変動はありませんが、一瞬反応が遅れたようにも見えました」

 

 そして襷コースに入っての障害はグリーンウォール――人工竹柵。高さ120cmでしかも普通の竹柵よりも掻き分けることが難しい……つまり当たると痛いので確実に避ける必要がある。

 

「各ウマ娘グリーンウォールへ挑みます……踏み切ってジャンプ! ……サンデーライフはやや飛越が高いですね」

 

「恐らく不慣れなうちに無理はさせない判断なのかもしれませんが……高いジャンプでは速度は損なわれますよ」

 

「グリーンウォールを通過して1番手は引き続きサイコーホーク。2番人気サンデーライフは3番手に後退。1番人気パンフレット、無理せず5番手に付け虎視眈々と上位を狙っております」

 

 

 次の障害はバンケット。高さ2.76mある坂のようなものだ。僅か80mそこそこの区間で登って下る強烈なアップダウンはスタミナへの負荷が高い。

 

「――バンケットの頂上から下っていきます」

 

 このバンケットで私はまたもう1つ順位を落として4位になったが、ここからは再び芝のコースへと戻り、今度は第1コーナーへと向かう。第1コーナーと第2コーナーの間に竹柵のハードル障害があるが、そこまではしばらく障害はない。

 

 すると、やはりペースを大きく上げているわけではなく、元のスピードに戻しているだけでも順位はまた1つ回復する。

 ……やっぱり障害物の無いところでは基礎走力のゴリ押しが出来るくらいには差があるね、これ。

 

 まさか私がステの暴力で技術と経験不足を補うときが来るとはなあ、今までとは逆の構図である。

 

 だからこそコーナーの障害を越えて、バックストレッチにある3つの竹柵障害を連続で越えていったとき、順位を大きく落としたのは手痛いが仕方のないことだったのかもしれない。

 

「――依然、トップはサイコーホーク。2番手とは2バ身ほどの差を付けております。……おっとパンフレットは3番手、この位置まで上がってきました。

 注目のサンデーライフはハードルで大きく順位を落とし現在7番手――」

 

 

 ここから最終直線まで障害物は無い。

 ハードル障害で失速することを踏まえれば、ロングスパートがベストか。スタミナは残っているが、『阿寒湖』のときの伸び脚を使うにはちょっと心もとないか。……じゃあ伸び脚をやめよう、どうせハードル後の直線は大した距離じゃないからそこで少し伸びても前に届かない。

 

「サンデーライフ、コーナーで加速します! 前に詰まっていた中団を外から1人、また1人と躱していきます!」

 

「地力が違いますね、これは。障害の無い区間でなるべく差を埋めようという作戦なのでしょう」

 

 最終コーナーが終わる頃に2番手の子を抜いて、再びサイコーホークの後方、2番手まで付けることが出来たが、パンフレットが私のスパートに追走してきてすぐ後ろに付けている。

 

「各ウマ娘、第4コーナーをカーブして最終直線へ! 先頭サイコーホーク、リードは僅かですが、そのまま最後のハードル障害へ入っていきます!」

 

 

 

 

 *

 

「――さあ、先頭を行くサイコーホークとそれを追う3人のウマ娘、勝負はこの4名で決まりでしょう! ……踏み切ってジャンプ! ハードルを飛び越えて、脚色が衰えないのはパンフレット! パンフレットがそのまま速度を維持して残り200m! 混戦状態ですが抜け出したのはパンフレット! サイコーホークは追走するも差は離れていくばかり! 後方の2人も差を詰めますが、これはもう無理! 1着、パンフレット! 2着はサイコーホーク! ゴールインしました!」

 

 

 ――確定。

 私は、最終ハードルでの失速分が取り戻せなくて4位。

 最後の1着争いの中で高い飛越による速度減衰は、ラスト200mではどうすることもできなかった。

 

 

 ――現在の獲得賞金、4661万円。

 

 

 

 *

 

「……平地競走なら絶対勝ってました」

 

「それはそうですよ、サンデーライフ。パンフレットさんもサイコーホークさんも、平地においても未勝利だったのですから」

 

 自分が格上であるという形で実力差を明確に感じたのは初めてのことだった。そのまま控え室に戻って、録画のレース映像を見返しながら問題点を葵ちゃんと話し合う。

 

 敗因は明確であった。飛越で失速しすぎ。道中であればカバーできたが最終直線最後のハードルでの失速は、平地能力で圧倒していても取り返しがつかない。そこから加速し直してトップスピードに至るよりも先にゴール板があるからだ。

 こうなると多分例の因子継承のときに障害因子貰えていないかもしれない、叩きつけられていたし。

 さらに言えば福島レース場の最終直線は僅かではあるが坂になっている。……前にアイネスフウジン戦でも利用したあの高低差1.2mの坂。

 

 

 そこから見える対策案は明瞭だ。だが。

 

「――もっと障害物ギリギリでジャンプをしてスピードを残しましょう! ……って私が言ったとして、サンデーライフ。貴方はそれを受け入れますか?」

 

「……いや。ちょっと厳しいですかね」

 

 一朝一夕でどうにかなるものでもないし、というか飛越を低くすることは怪我率に直結する。だから葵ちゃんとも相談して高めに跳んでいるし、それでも脚は少し掠っているくらいなのだから。

 

「実際ですね。サンデーライフの飛越が高いと解説にも言われておりましたが、あれはジャンプの高さ……もありますが、それ以上に踏み切りの位置が障害に近すぎるからなんですよね」

 

「遠くから踏み切ってもっと長い距離を跳ぶようなイメージにするのがベストなのは理解していますが……。遠いと跳び方の目算が取りにくいので……」

 

 障害のハードルは、人間の陸上競技におけるハードルのように統一規格ではない。だから高さが実はまちまちだ。今日の福島の場合だって人工竹柵と、第1、第2コーナーに設置された竹柵の高さが120cmなのに対して、他のものは130cmとなっている。

 

「この際、本当のジャンプの高さを調節することは諦めるというのはどうでしょう? むしろ今日よりももっと上を跳ぶイメージで……ですね。それで踏み切り位置をなるべく遠くにするのです」

 

 この葵ちゃんの進言のデメリットは滑空時間が伸びるので速度の面ではやはりマイナスになるということ。ただ、今のように踏み切り位置が近いままだと着地したときの運動エネルギーを再度走ることに持っていく際のコストが高すぎる。

 

 ……まあ踏み切り位置が近い、って言っているけどそもそも障害競走のハードルの構造上、全体幅は1.5~2mくらいはあるから、人間陸上競技用ハードルで想像できるような目の前でもたついている感じでは無いけどね。

 

「後はですね、全体的なペースはもう少し遅めで良いですよ。平地競走における長距離のスローペースイメージで走っていたのはこちらからでも分かりましたが――」

 

 そう言いながら、葵ちゃんはトレーナー白書・障害競走verを見せてくれる。練習中にも見たものであるが、ラップタイムについて。

 13秒を普通に超えるというか、ラストスパートを切り取っても未勝利戦だと13秒台の前半から中ほどという有様だ。

 1つ例を出せば、私の出走した例の阿寒湖特別のラップタイムが1ハロン辺り12秒5程度だった。しかもあれはレース中盤までは平均ペースで推移していたもので極端に早いタイムでもない。

 1ハロン辺り0.5秒から1秒近く違う……と言うとあまりその速度差が実感できないかもしれないが、1バ身差とは大雑把に言えば0.2秒程度の差なので、1ハロン1秒差とは、2ハロン……たった400mで大差がつくレベルの速度差がある。

 

 だから道中のペースはもっと遅くしても問題なかった。むしろ加減速が激しくなったせいでスタミナ消費が激しくなったともいえる。障害競走の距離が長いからといって、単純なステイヤータイプのレースセンスが求められるというわけでもないのだ。

 ただそれを分かっていても平地での超スローペースに感覚を合わせるのは難しかった。

 

 そしてスタミナの温存が出来るならば、末脚を使うことも出来るかもしれない。まあ、最終直線距離に大きな不安があるけどさ。

 

 ……となると、やっぱりアレか。

 

 

「逆に展開がスローペースと言えども、前残りするなら『大逃げ』というのもアリなのではないですか、葵ちゃん?」

 

「それも良いですよ! 今日はコースやレースペースの確認という意味の調整でもありましたから。来週は、レースを壊すというのならばそれもまた面白いでしょう!」

 

 

 同じレース場・同じ距離の連闘って、こういうことを色々試せるのか。

 狂気の沙汰だと思っていたけど、確かにハマれば結構強い盤外戦術なのかもしれない。

 

 

 

 *

 

 まあ連闘なのでトレセン学園に戻ってもしばらくは完全休養、移動日も踏まえると軽いトレーニングを2、3日出来ればいい方だから、話していた内容のほとんどはぶっつけ本番でやることになる。だからその軽い調整の中でやれることは踏み切り位置の練習くらいだろう。

 

 

 というかレースが終わってちょっと時間が経ったからこそ、こっそり思っていたことを言うけど、障害競走って未勝利戦4着でも120万円入るって結構美味しいよね!?

 障害未勝利1着賞金が790万円。マヤノトップガンに勝った時の賞金が500万円だったことを鑑みれば、普通に平地競走よりも稼げるという。

 

 まあ未勝利の上がすぐオープン戦で、オープン戦より格が高いレースだと賞金は平地競走のが大きくなるし、重賞レースとかも全然少ないから不遇ではあるけどさ。

 

 なおレースの本場たるイギリスでは、実は障害競走のレースの方が人気があったりする。通称・イギリスダービーと呼ばれる日本ダービーのイギリス版に相当する『ダービーステークス』があるが、実は活況さにおいてはそのダービーすらも障害の伝統的なレースの方が上回るらしい。

 そのレース名は『グランドナショナル』――障害芝の6900mレースである。なお格付けはGⅢ。

 

 恐らく世界で最も人気な障害競走レースがGⅢってどういうことなの……?

 

 賞金は100万ポンドだから日本円にしたら1億数千万円ってところだけど……いや、私は行く気はない。だってこのレース、フルゲート40名だし。というかそもそもあまりにも辛すぎて出走登録を行った一流の障害競走ウマ娘であっても完走できないことも多い。

 

 まあ結論としては、未勝利戦勝利後はやっぱり平地競走に戻ることになるだろうということ。障害オープンウマ娘相手に、先のレースのような平地ステのゴリ押し作戦が効くとはあんまり思えないしさ。

 

 

 そんなことを考えたりしながら連闘の福島2戦目のレース2日前。

 事件が起きた。

 

 

 何かと言えば、出走登録にあった名前一覧の中に――メジロパーマーと書かれていたのである。

 

 

 ……。

 確かに実装ウマ娘の中で障害経験者はパーマーだけだけどさっ! 史実メジロパーマー号の障害転向は古馬に入ってからじゃん!

 ジュニア級のときに未勝利戦でパーマーとはぶつかっている。だから彼女は私と同期でクラシック級なのに、既に障害に来ているとは丸々1年タイムスケジュールが早い。つまり非史実ローテなんだけど、一体何が……あ。

 

 メジロパーマー号は函館記念出走後に骨折していたはずだけれども、少女・メジロパーマーが今出てきているということは、怪我そのものを多分していない。それで長期療養に入らなかったから障害転向が早まったのかもしれない。

 

 いや、問題の本質はそこではない。

 ヤバいのは2つ。次走も平地ステでゴリ押そうと思っていたのに、パーマーに全く同じことをされかねないということ。

 

 そして、私が前走の経験を生かして選択しようとしていた戦術は『大逃げ』。

 

 

 ……えっ、下手したらパーマー相手に障害で爆逃げ対決するの!?

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